美醜の価値観が混沌とした異世界で三人の男たちに愛されて崇め奉られる。

flour7g

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プルプルとは予想外すぎるよ

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賑やかすぎる晩餐が一段落した頃、魔族の男がおもむろに、貢ぎ物の山の奥から一つの小さな黒真珠の箱を取り出した。


「……これを、我が番に。我が一族に伝わる、最も格式高い装飾品だ」


 差し出されたのは、
銀の鎖に大粒の紫の魔石があしらわれた、重厚なチョーカーだった。

だが、その意匠はあまりにも不穏。
細い首をぐるりと囲み、後ろで鍵をかけるような構造。

――どこからどう見ても首輪だ。


「……貴様、やはり彼を奴隷にするつもりか!」
 グラウスが椅子を蹴り飛ばさんばかりの勢いで立ち上がった。


「そんな屈辱的な鎖を嵌めるなど、俺たちが許すとでも思ったか!」
 ゼンジの金の瞳が容赦ない冷徹さを帯び、ディアロスは今にもその首飾りを粉砕せんばかりに指先に魔力を集めている。


 だが、魔族の男は動じず、どこか寂しげに目を伏せた。

「……屈辱? 違う。我が一族において、これは魂を分かつつがいへの、最大の愛の証明だ。
隷属させ、
己の支配下に置いて、
守り抜く。
それが、俺たちが知る唯一の愛の形なのだ……」

 その言葉には、悪意どころか、あまりにも不器用で純粋な「守護の願い」が込められていた。
 彼はただ、自分の知っている最高の愛を捧げようとしているだけなのだ。


「……あ、あの、えっと」

 険悪な空気を変えようと、僕は勇気を出して声をかけた。

「……まだ、お名前を伺っていませんでした。魔族の方……あなたの名前は?」

 魔族は僕をじっと見つめ、その薄紫の唇を開いた。

「……俺の名は、プルプール・ヌィイだ」

「……えっ?」

 僕は思わず聞き返した。

「プル……プ、プルプール……ヌィ、イ……?」

 それは、彼の屈強な体躯や威圧感からは想像もつかないほど、舌の上で転がるような奇妙な響きの名前だった。

人間である僕たちには発音が難しく、どう頑張っても、最後にはこうなってしまう。


「……プルプル、さん?」

 部屋が、一瞬で凍りついた。


 グラウスがグラスを落としそうになり、
ゼンジは「プル……」と呟いたまま硬直し、ディアロスは口元を抑えて腹を抱え顔を背けた。


「……プルプル、だと……?」

 魔族……プルプールは、大きな身体を震わせ、困惑したように僕を見た。

「あ、ごめんなさい! 呼びにくくて、つい……」

「……いや。つがいそう呼ぶのなら、俺はプルプルで構わん。
……むしろ、その響きにさえ、慈しみを感じる」

 あんなに恐ろしかった魔族の男が、
今では「プルプル」という可愛らしい愛称を甘んじて受け入れ、どこか嬉しそうにさえ見える。


(なんだ……この人、本当はすごく天然で、優しい人なのかもしれない)


 異世界に来て売られたときの恐怖が、その名前の響きと共に、さらさらと砂のように崩れていく。


「あ、ありがとう、プルプルさん。その首飾り、今はまだ付けられないけど
……いつか、あなたの『愛』が僕にもわかるようになったら、その時に」

 僕が微笑むと、
プルプールは……
いや、プルプルさんは、顔を真っ赤にして(薄紫肌なので少し分かりにくいが)、深々と頭を下げた。


「……我がつがいよ。俺は、お前に出会えてよかった」

 三人は、そんなプルプルを見て、
……新たな危機感に顔を引き攣らせている。


 異世界の夜。
三人の男たちと、
「隷属」以外の愛の形をまだ知らない魔族。


僕は少しずつ、
この奇妙で、
優しくて、
ちょっぴり狂った世界に、
馴染み始めている自分に気づいていた。


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