14 / 21
赤の悪夢_グラウス視点
しおりを挟む――グラウスの悪夢
――グラウスの過去
深夜。
狭い部屋にひしめく男たちの寝息に混じり、
グラウスは浅い眠りの中で、
かつての自分を縛り付けていた記憶に引き戻されていた。
夢の中の彼は、今よりもずっと孤独だった。
生まれ持った岩のように分厚い胸板、
丸太のような腕。
赤髪の下に宿る真面目すぎる瞳は、
この世界では「威圧」と「暴力」の象徴でしかなかった。
(……ああ。また、あの顔だ)
夢の中で、若き日のグラウスが声をかける。
街中で、あるいは酒場で。
精一杯の誠実さを込めて放つ言葉は、
その低く響く声のせいで「脅迫」へと変換された。
「……近寄らないで! 怪物!」
向けられるのは、恐怖に歪んだ顔、
あるいは忌まわしいものを見る蔑みの視線。
責任感が強く、規律を重んじれば重んじるほど、
周囲からは「融通の利かない、傲慢な巨漢」として浮いていった。
人並みの愛が欲しかった。
だが、恋人ができるはずもなかった。
勇気を出して叩いた娼館の門。
だが、出てきた接客の女性はグラウスの筋骨隆々の体躯を見た瞬間、
喉を詰まらせ、その場で泣き崩れた。
『ごめんなさい、こんな……こんな恐ろしい……っ』
接客の女性が求めたのは、
この世界で魅力的な男とされる、
角のある魔族や精悍な獣人であり、
岩のような人間の自分ではなかった。
グラウスの唯一の経験は、雨の夜、路地裏の片隅。
外套を深く被り、顔や肌を隠したまま。
相手はうまく話せないほど泥酔した、しがない出稼ぎの踊り子男性。
ただ、欲情を処理するためだけの、
言葉も温度もない行きずりの接触。
相手が誰かもわからず、相手も自分を見てはいない。
ただの熱くて硬い肉の塊として受け入れられただけの、虚しい初体験。
愛のある繋がりなど、この岩のような肉体には許されない贅沢なのだと、
俺はあの日、自ら心に冷たい鍵をかけた。
「……っ、……!」
うなされるようにして、グラウスの意識が現実へと浮上した。
目を開けると、
すぐ目の前に、あの「奇跡」のような白く、儚い横顔があった。
「…………」
グラウスは、震える大きな手を、そっと僕の頬の数センチ手前で止めた。
夢の中の自分は、怪物だった。
だが、目の前の彼は、俺を怪物とは呼ばなかった。
この不格好な自分を受け入れ、恐れずに側にいてくれた。
(俺のこの忌まわしい肉体は、君を守るためだけの盾なのだ。
……だけど、もし許されるのなら……)
グラウスの瞳に、切ないほどの熱情が宿る。
愛を知らず、恐怖されることに慣れきった男にとって、
目の前に眠る細い身体は、
あまりにも無防備で、
残酷なほどに愛おしかった。
俺は大きな腕を、君を傷つけぬよう細心の注意を払って回り込ませる。
「……お守りします。……俺の唯一……」
暗闇の中、
独り言のように紡がれた誓い、
かつての絶望を塗りつぶすように、
深く、重く、君だけを包み込む。
4
あなたにおすすめの小説
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
親友のお願いを聞いたら異世界から来た騎士様に求婚されました
藤吉めぐみ
BL
いつも通りに家に帰っていた大学生の心都(こと)。そんな心都を家の前で待っていたのは3ヶ月前から行方不明になっていた親友・悠隆と、銀の鎧を着た背の高い見知らぬ男。
動揺する心都に悠隆は、「ちょっと異世界に行っててさー。で、向こうの騎士様が付いてきちゃって、心都のところで預かってくれない?」とお願いしてくる。隣の騎士も「あなたに会いたくてここまで来てしまいました」と言い出して……!?
1DKの部屋から始まる、イケメン騎士とお人好し大学生の世界を越えた同居ラブ。
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる