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大きくて、かわいいやつ_後半グラウス視点
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朝のキッチンは、
小さな温もりに包まれていた。
三人の男たちと一人の魔族男、
そして小さな僕。
男五人の雑魚寝という、
あまりに過密な夜を越え、
僕は朝食の準備をするために台所に立った。
石造りの小さなキッチンは、大人一人が立つのがやっとの狭さだ。
お茶を淹れるための湯を沸かし、
昨日の残り物のスープを温める。
……それだけの、なんてことのない作業。
けれど、ふと横を見れば、
そこには燃えるような赤髪の巨躯
――グラウスが肩を寄せ合うようにして立っていた。
「その小さな手では危ない。火の番は俺がやる。君はそこで見ていてくれ」
グラウスは大きな身体を窮屈そうに折り曲げ、クックストーブの前に蹲った。
薪を焚べ、乾燥させたモミの葉のような香草を差し入れる。
彼が真剣な眼差しで、
僕が火傷をしないか見守りながら熱を調節する姿は、
巨獣が暴れまわる荒れた戦場を駆ける大槍使いとは到底思えないほど、
静かで、優しい。
「……味見をしてもいいか?」
グラウスが木べらを持ち、慣れた手つきでスープを掬う。
この世界で「不器量、恐ろしい」とされる、筋肉の鎧を纏った分厚い手。
その手で持たれた大盛りラーメンの丼のような器は、
まるで子供用の小さな茶碗に見えてしまう。
「あ、美味しい……。グラウス、料理上手なんだね」
「……君の口に合うなら、何よりだ」
褒めると、彼は少しだけ照れくさそうに視線を逸らした。
強面で、岩のように頑強な大男。
けれど、狭いキッチンで僕に場所を譲るように身を縮め、
一生懸命に火加減を気にしている姿を見ていると
……なんだか、すごく。
(……やっぱり、グラウスは可愛らしいな)
異世界の恐ろしい戦士ではなく、
ひとりの不器用で誠実な男性。
そんなふうに彼を見つめていると、僕の視線に気づいたグラウスが、ゆっくりとこちらを振り返った。
――グラウスの視点
(……ああ、神よ。俺は今、夢を見ているのではないか)
肩が触れ合うほどの距離に、君がいる。
細い肩、透き通るような傷ひとつない肌。
その柔らかな存在が、
この狭く薄汚れたキッチンを、
まるでお伽話の聖域のように変えていた。
俺が鍋をかき混ぜるたび、
君が楽しそうにクスクスと笑い、
甘い香りが鼻をくすぐる。
戦うことしか知らず、
己の巨躯を呪い、
誰からも怪物のように、
恐れられてきたこの手が、
今、君のためにスープを作っている。
その事実だけで、
胸の奥が熱くなり、
破裂しそうなほどの幸福感に包まれる。
……可愛い、と言ってくれたのか
不意に向けられた、いたずらっぽく、けれど慈愛に満ちた眼差し。
俺のような、
野暮ったくて恐ろしげな大男を、
君は「可愛い」と笑ってくれた。
その一言で、
俺のこれまでの孤独な人生がすべて報われたような気がした。
俺のこの大きな手は、
君を傷つけるためにあるのではない。
美味しい飯を作り、
凍える夜には毛布を掛け、
その小さな身体を世界の理不尽から隠し通すためにあるのだ。
「……」
込み上げる愛おしさを抑えきれず、
俺はそっと君の影を覆うように一歩踏み出した。
一生、この時間が続けばいい。
この狭いキッチンで、
肩を寄せ合い、二人の鼓動が重なるこの時間が。
たとえ何が待ち受けていようと、
俺は死ぬまで、
この柔らかな温もりを離さないと誓った。
小さな温もりに包まれていた。
三人の男たちと一人の魔族男、
そして小さな僕。
男五人の雑魚寝という、
あまりに過密な夜を越え、
僕は朝食の準備をするために台所に立った。
石造りの小さなキッチンは、大人一人が立つのがやっとの狭さだ。
お茶を淹れるための湯を沸かし、
昨日の残り物のスープを温める。
……それだけの、なんてことのない作業。
けれど、ふと横を見れば、
そこには燃えるような赤髪の巨躯
――グラウスが肩を寄せ合うようにして立っていた。
「その小さな手では危ない。火の番は俺がやる。君はそこで見ていてくれ」
グラウスは大きな身体を窮屈そうに折り曲げ、クックストーブの前に蹲った。
薪を焚べ、乾燥させたモミの葉のような香草を差し入れる。
彼が真剣な眼差しで、
僕が火傷をしないか見守りながら熱を調節する姿は、
巨獣が暴れまわる荒れた戦場を駆ける大槍使いとは到底思えないほど、
静かで、優しい。
「……味見をしてもいいか?」
グラウスが木べらを持ち、慣れた手つきでスープを掬う。
この世界で「不器量、恐ろしい」とされる、筋肉の鎧を纏った分厚い手。
その手で持たれた大盛りラーメンの丼のような器は、
まるで子供用の小さな茶碗に見えてしまう。
「あ、美味しい……。グラウス、料理上手なんだね」
「……君の口に合うなら、何よりだ」
褒めると、彼は少しだけ照れくさそうに視線を逸らした。
強面で、岩のように頑強な大男。
けれど、狭いキッチンで僕に場所を譲るように身を縮め、
一生懸命に火加減を気にしている姿を見ていると
……なんだか、すごく。
(……やっぱり、グラウスは可愛らしいな)
異世界の恐ろしい戦士ではなく、
ひとりの不器用で誠実な男性。
そんなふうに彼を見つめていると、僕の視線に気づいたグラウスが、ゆっくりとこちらを振り返った。
――グラウスの視点
(……ああ、神よ。俺は今、夢を見ているのではないか)
肩が触れ合うほどの距離に、君がいる。
細い肩、透き通るような傷ひとつない肌。
その柔らかな存在が、
この狭く薄汚れたキッチンを、
まるでお伽話の聖域のように変えていた。
俺が鍋をかき混ぜるたび、
君が楽しそうにクスクスと笑い、
甘い香りが鼻をくすぐる。
戦うことしか知らず、
己の巨躯を呪い、
誰からも怪物のように、
恐れられてきたこの手が、
今、君のためにスープを作っている。
その事実だけで、
胸の奥が熱くなり、
破裂しそうなほどの幸福感に包まれる。
……可愛い、と言ってくれたのか
不意に向けられた、いたずらっぽく、けれど慈愛に満ちた眼差し。
俺のような、
野暮ったくて恐ろしげな大男を、
君は「可愛い」と笑ってくれた。
その一言で、
俺のこれまでの孤独な人生がすべて報われたような気がした。
俺のこの大きな手は、
君を傷つけるためにあるのではない。
美味しい飯を作り、
凍える夜には毛布を掛け、
その小さな身体を世界の理不尽から隠し通すためにあるのだ。
「……」
込み上げる愛おしさを抑えきれず、
俺はそっと君の影を覆うように一歩踏み出した。
一生、この時間が続けばいい。
この狭いキッチンで、
肩を寄せ合い、二人の鼓動が重なるこの時間が。
たとえ何が待ち受けていようと、
俺は死ぬまで、
この柔らかな温もりを離さないと誓った。
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