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さびしい気持ちは、はんぶんこ_後半ゼンジ視点
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グラウスとの穏やかな朝食作りの時間は、キッチンの外にいた三人の「聞き耳」によって、筒抜けだったようだ。
リビングに戻ると、そこにはすでに賑やかな光景が広がっていた。
グラウスは山盛りの残り物を「僕が盛り付けてくれたから」と、
感極まった様子で平らげている。
ディアロスは細い指先でゆで卵を摘むと、涼しげな顔でそれを一口で頬張り。
(丸呑みしている口元を三度見した……)
魔族プルプルさんは巨体を器用に丸めて、小さな茶碗でお茶を啜っていた。
――あれ? ゼンジは?
一人足りないことに気づき、室内を見渡す。だが、姿はない。
ふと視線を落とすと、
閉ざされた玄関扉のわずかな隙間から、
冷たい外気が流れ込んでいることに気づいた。
扉を開けると、そこに彼はいた。
軽やかな黒装束に身を包み、
腰に短刀を差したゼンジが、
玄関脇の壁に寄りかかっている。
手元には乾いた小さなパンが一つと、
葡萄酒の瓶があるだけ。
「ゼンジ、ここにいたんだ。中で一緒に食べないの? それだけで足りるの?」
僕が声をかけると、
彼は金の瞳を微かに細め、静かに首を振った。
「俺はここでいい。
これだけ食べられれば、十分すぎる。
昨日は温かいものを腹一杯食べさせてもらったからな……」
淡々とした、
あまりに迷いのない口調。
けれど、
その背中には、自分を後回しにすることが当たり前になってしまった男の、
消えない孤独が張り付いているように見えた。
彼は空腹であることにも、
寒さの中にいることにも、
あまりに慣れすぎている。
(……そんなの、寂しすぎるよ)
胸がキュッと締め付けられるような、
切ない痛みが走る。
僕はリビングに戻り、
自分の食べかけの焼き菓子とお茶を手に取ると、
再び彼の元へ戻った。
「それなら、一緒に食べよう」
僕はゼンジの隣に並び、
冷たい石壁に背を預けた。
驚いたように目を見開くゼンジを横目に、
僕は焼き菓子を小さく割り、
彼の口元へ差し出した。
――ゼンジ視点
(……馬鹿だ。どうして、放っておいてくれない)
俺は「影」だ。
光り輝くあの君の傍らに立つ資格などない。
かつて、奴隷として売られ、
泥水を啜って生き延びてきた俺にとって、食事とは飢えを凌ぐための作業でしかなかった。
温かい飯も、
誰かと囲む食卓も、
俺にとっては分不相応な毒でしかないと自分に言い聞かせてきた。
だから、一人で外に出た。
君の温もりを、これ以上知ってしまうのが怖かったからだ。
なのに――。
あの君は、わざわざ俺を追って、
この寒空の下までやってきた。
「はい、半分こ」
差し出された、食べかけの焼き菓子。
そこには、微かな痕跡と、柔らかな体温が残っている。
震える指先でそれを受け取った時、
俺の喉の奥が、熱い塊を飲み込んだように焼けた。
(……甘い。甘すぎて、胸が抉れそうだ)
君は、俺がこれまで切り捨ててきた「情」という名の急所を、
いとも容易く突いてくる。
隣に並んで座る君の肩が、
俺の腕に触れる。
そのわずかな重みと熱が、
俺という冷え切った機械を、
一人の「男」へと作り変えていく。
(守る、と決めたはずだった。だが……)
本当は、守るだけでは足りない。
このまま、この小さな手を握りしめて、俺だけの暗闇の奥底へ連れ去ってしまいたい。
君に分け与えられたこの菓子の甘みは、俺の理性を狂わせる、
最高に質の悪い劇薬だった。
「……美味いな。」
俺は、君に悟られぬよう、低く掠れた声で呟いた。
もう、二度と君を独りにはしない。
そして、俺自身も二度と、
君のいない世界へは戻れないのだと、
絶望的なほどの幸福感の中で悟っていた。
リビングに戻ると、そこにはすでに賑やかな光景が広がっていた。
グラウスは山盛りの残り物を「僕が盛り付けてくれたから」と、
感極まった様子で平らげている。
ディアロスは細い指先でゆで卵を摘むと、涼しげな顔でそれを一口で頬張り。
(丸呑みしている口元を三度見した……)
魔族プルプルさんは巨体を器用に丸めて、小さな茶碗でお茶を啜っていた。
――あれ? ゼンジは?
一人足りないことに気づき、室内を見渡す。だが、姿はない。
ふと視線を落とすと、
閉ざされた玄関扉のわずかな隙間から、
冷たい外気が流れ込んでいることに気づいた。
扉を開けると、そこに彼はいた。
軽やかな黒装束に身を包み、
腰に短刀を差したゼンジが、
玄関脇の壁に寄りかかっている。
手元には乾いた小さなパンが一つと、
葡萄酒の瓶があるだけ。
「ゼンジ、ここにいたんだ。中で一緒に食べないの? それだけで足りるの?」
僕が声をかけると、
彼は金の瞳を微かに細め、静かに首を振った。
「俺はここでいい。
これだけ食べられれば、十分すぎる。
昨日は温かいものを腹一杯食べさせてもらったからな……」
淡々とした、
あまりに迷いのない口調。
けれど、
その背中には、自分を後回しにすることが当たり前になってしまった男の、
消えない孤独が張り付いているように見えた。
彼は空腹であることにも、
寒さの中にいることにも、
あまりに慣れすぎている。
(……そんなの、寂しすぎるよ)
胸がキュッと締め付けられるような、
切ない痛みが走る。
僕はリビングに戻り、
自分の食べかけの焼き菓子とお茶を手に取ると、
再び彼の元へ戻った。
「それなら、一緒に食べよう」
僕はゼンジの隣に並び、
冷たい石壁に背を預けた。
驚いたように目を見開くゼンジを横目に、
僕は焼き菓子を小さく割り、
彼の口元へ差し出した。
――ゼンジ視点
(……馬鹿だ。どうして、放っておいてくれない)
俺は「影」だ。
光り輝くあの君の傍らに立つ資格などない。
かつて、奴隷として売られ、
泥水を啜って生き延びてきた俺にとって、食事とは飢えを凌ぐための作業でしかなかった。
温かい飯も、
誰かと囲む食卓も、
俺にとっては分不相応な毒でしかないと自分に言い聞かせてきた。
だから、一人で外に出た。
君の温もりを、これ以上知ってしまうのが怖かったからだ。
なのに――。
あの君は、わざわざ俺を追って、
この寒空の下までやってきた。
「はい、半分こ」
差し出された、食べかけの焼き菓子。
そこには、微かな痕跡と、柔らかな体温が残っている。
震える指先でそれを受け取った時、
俺の喉の奥が、熱い塊を飲み込んだように焼けた。
(……甘い。甘すぎて、胸が抉れそうだ)
君は、俺がこれまで切り捨ててきた「情」という名の急所を、
いとも容易く突いてくる。
隣に並んで座る君の肩が、
俺の腕に触れる。
そのわずかな重みと熱が、
俺という冷え切った機械を、
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(守る、と決めたはずだった。だが……)
本当は、守るだけでは足りない。
このまま、この小さな手を握りしめて、俺だけの暗闇の奥底へ連れ去ってしまいたい。
君に分け与えられたこの菓子の甘みは、俺の理性を狂わせる、
最高に質の悪い劇薬だった。
「……美味いな。」
俺は、君に悟られぬよう、低く掠れた声で呟いた。
もう、二度と君を独りにはしない。
そして、俺自身も二度と、
君のいない世界へは戻れないのだと、
絶望的なほどの幸福感の中で悟っていた。
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