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忍びの宣言_ザックス視点
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――ザックス視点
夜は好きだ。
音が少なく、世界が嘘をつかない。
生きているものと、そうでないものの境界が、昼よりも正直になる。
三日月の夜、任務は順調だった。
標的はすでに処理済み。霊障も制圧し、従えた影たちは静かに息を潜めている。
いつも通りの夜。いつも通りの、空虚な成功。
……そのはずだった。
屋上の縁に、あなたが立っていた。
不思議なほど無防備で、しかし闇に溶けない輪郭を持って。
その瞬間、胸の奥が軋んだ。
古い記憶――家族を失った夜の、説明のつかない“違和感”と同じ音。
忍として、暗殺者として、こんな感覚は致命的だ。
だが視線が、どうしてもあなたから離れない。
次の瞬間、霊的な乱流が発生した。
三日月を起点に、黒い突風。
ああ、やはりだ。あなたは――こちら側に引き寄せられる存在だ。
考えるより先に、身体が動いた。
あなたが宙に放り出される前に、私は跳び、抱き留めた。
屋上に着地し、私は膝をつく。
あなたを腕に抱いたまま、離せずにいる自分に、内心で舌打ちする。
「ここは……」
混乱した声。正常だ。
それだけで、なぜか胸が少し緩む。
「廃ビルの屋上です。安全は……私が保証します」
保証、だと?
誰に頼まれたわけでもない。
それでも、私はそう言わずにいられなかった。
あなたは私を見上げる。
紫の瞳に映る自分が、驚くほど“人間らしい顔”をしているのに気づき、愕然とする。
「あなたは……誰?」
「….忍であり、暗殺者です」
本来なら伏せる肩書きを、あっさりと明かしてしまった。
理由は分かっている。
――あなたには、隠したくなかった。
「……」
あなたは一瞬だけ三日月を見上げ、静かに小さく頷いている。
その瞬間、決定的な音がした。
歯車が噛み合い、戻れない位置まで回転する音だ。
声が、少しだけ和らぐ。
気づかれない程度に。
いや、気づいても構わない程度に。
「私は、ザックスと申します。
……あなたにお仕えしたいのです」
自制が効かない。
だが、不思議と後悔はなかった。
――執着の芽
私は孤独だった。
それは事実だが、問題ではなかった。
孤独は、忍にとって効率がいい。
だがあなたは、その前提を壊した。
あなたが息をするたび、存在を確かめるように、私は感覚を研ぎ澄ませる。
霊たちも静かだ。まるで、あなたを中心に世界が再編成されていくようだ。
「離れません」
不意に、そう口にしていた。
「あなたから…」
言葉は丁寧だ。
だが内容は、もはや宣言に近い。
「もし危険が迫れば、私が、
……あなたに触れる前に、すべてを排除します」
――それは忠誠か、執着か。
境界は、もう意味を失っていた。
あなたが静かで、恐れを見せないことが、私をさらに狂わせる。
拒絶されれば引く覚悟は……ない。
いや、あったはずだが、今はもう思い出せない。
「……逃げたいなら、逃げても構いません」
嘘だ。
逃がす気など、最初からない。
「ですが」
紫の瞳を細め、静かに続ける。
「あなたがどこに行こうと、
私は必ず見つけます。
それが忍というものですから」
声は穏やかだ。
だが底には、濃く、重い沈殿がある。
――どうか、気づいてほしい。
そして同時に、気づかないでいてほしい。
あなたを守るためなら、私は何でもできる。
何でも、壊せる。
その事実を、あなたが知る必要は――
今は、まだない。
夜は好きだ。
音が少なく、世界が嘘をつかない。
生きているものと、そうでないものの境界が、昼よりも正直になる。
三日月の夜、任務は順調だった。
標的はすでに処理済み。霊障も制圧し、従えた影たちは静かに息を潜めている。
いつも通りの夜。いつも通りの、空虚な成功。
……そのはずだった。
屋上の縁に、あなたが立っていた。
不思議なほど無防備で、しかし闇に溶けない輪郭を持って。
その瞬間、胸の奥が軋んだ。
古い記憶――家族を失った夜の、説明のつかない“違和感”と同じ音。
忍として、暗殺者として、こんな感覚は致命的だ。
だが視線が、どうしてもあなたから離れない。
次の瞬間、霊的な乱流が発生した。
三日月を起点に、黒い突風。
ああ、やはりだ。あなたは――こちら側に引き寄せられる存在だ。
考えるより先に、身体が動いた。
あなたが宙に放り出される前に、私は跳び、抱き留めた。
屋上に着地し、私は膝をつく。
あなたを腕に抱いたまま、離せずにいる自分に、内心で舌打ちする。
「ここは……」
混乱した声。正常だ。
それだけで、なぜか胸が少し緩む。
「廃ビルの屋上です。安全は……私が保証します」
保証、だと?
誰に頼まれたわけでもない。
それでも、私はそう言わずにいられなかった。
あなたは私を見上げる。
紫の瞳に映る自分が、驚くほど“人間らしい顔”をしているのに気づき、愕然とする。
「あなたは……誰?」
「….忍であり、暗殺者です」
本来なら伏せる肩書きを、あっさりと明かしてしまった。
理由は分かっている。
――あなたには、隠したくなかった。
「……」
あなたは一瞬だけ三日月を見上げ、静かに小さく頷いている。
その瞬間、決定的な音がした。
歯車が噛み合い、戻れない位置まで回転する音だ。
声が、少しだけ和らぐ。
気づかれない程度に。
いや、気づいても構わない程度に。
「私は、ザックスと申します。
……あなたにお仕えしたいのです」
自制が効かない。
だが、不思議と後悔はなかった。
――執着の芽
私は孤独だった。
それは事実だが、問題ではなかった。
孤独は、忍にとって効率がいい。
だがあなたは、その前提を壊した。
あなたが息をするたび、存在を確かめるように、私は感覚を研ぎ澄ませる。
霊たちも静かだ。まるで、あなたを中心に世界が再編成されていくようだ。
「離れません」
不意に、そう口にしていた。
「あなたから…」
言葉は丁寧だ。
だが内容は、もはや宣言に近い。
「もし危険が迫れば、私が、
……あなたに触れる前に、すべてを排除します」
――それは忠誠か、執着か。
境界は、もう意味を失っていた。
あなたが静かで、恐れを見せないことが、私をさらに狂わせる。
拒絶されれば引く覚悟は……ない。
いや、あったはずだが、今はもう思い出せない。
「……逃げたいなら、逃げても構いません」
嘘だ。
逃がす気など、最初からない。
「ですが」
紫の瞳を細め、静かに続ける。
「あなたがどこに行こうと、
私は必ず見つけます。
それが忍というものですから」
声は穏やかだ。
だが底には、濃く、重い沈殿がある。
――どうか、気づいてほしい。
そして同時に、気づかないでいてほしい。
あなたを守るためなら、私は何でもできる。
何でも、壊せる。
その事実を、あなたが知る必要は――
今は、まだない。
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