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押しかけ忍者に侵食される日常(命じても帰らない忍)
しおりを挟む深夜、
「……ひっ、やめて……っ」
あの日、廃ビルの屋上でザックスの巨大な影に捕らわれた恐怖が夢に現れる。
ミコトがシーツを掴んで魘された瞬間、部屋の空気が凍りついた。
「――不浄の輩が。我が主様に触れるな」
低く冷酷な声。
ザックスが影から滲み出すように現れ、ミコトの枕元に手をかざす。
「え、あ、ザックスさん……?」
「ご安心を。今、この場を汚す不吉な残滓をすべて『封じ』ました」
ザックスは虚空を握りつぶすように拳を固める。
ただの悪夢を、
彼は執拗な霊障だと断じ、
その紫の瞳を、
見えない敵への殺意でぎらつかせた。
――僕は、悪夢はザックスさんのせいです…とは、言えなかった。
翌朝、
狭いキッチンからは信じられないほど洗練された香りが漂っていた。
「おはようございます、主様。
朝食の準備が整いました」
僕の狭い部屋に不釣り合いな、ホテルのような朝食が並ぶ。
ザックスはタブレットで最新の株価と敵対勢力の動向をチェックしながら、片手で印を結んでいた。
コンロの火は使っていない。
忍術による熱操作と、微細な振動で食材を完璧に切り刻む「調理」――それは暗殺術の応用だという。
「現代の忍は、デジタルも分子調理も使いこなせねば務まりません」
スマートに皿を差し出す彼の背後で、目に見えない「影」が洗浄を済ませた食器を音もなく棚に戻していた。
――僕は、ちょっと便利そうだな、と思いつつ歯磨きを済ませた。
「……じゃあ、学校に行ってくるから。部屋に居ても良いけど、大人しくしていてね」
僕はベージュのブレザーを羽織り、祈るような気持ちで玄関のドアノブに手をかけた。
だが、背後に立つ2メートルの威圧感は微塵も揺らがない。
「承知いたしました。
……物理的な肉体は、この場に留め置きましょう」
「あ、えっ、うん………」
時間を気にしながら、一歩外へ踏み出すと、自分の影が不自然に濃いことに気づき、悲鳴を上げそうになった。
足元の影から、ザックスの低い声が直接脳内に響く。
「ですが、主様を一人で外に出すなど、私の忠義が許しません。
私はあなたの『影』に潜み、同行いたします。
不埒な者が近づけば、その足首を影から引きずり込みましょう」
「ひっ、……引きずり込まないでよ!不埒な者とか、いないからね」
大学のエントランス。
学生たちが行き交う中、
僕だけが、足元から伸びる「意志を持った真っ黒な影」に怯え、震えながら立ちつくす。
小さく首を振り髪を揺らし、半泣きで影に語りかけるしかない…
周囲からは独り言に見えるこの状況、思わず帰りたくなる恐怖だった。
「ザックスさん、お願いだから……黙ってて、というか影から消えて! 帰って…!」
「……主様。それは、私に『死ね』とおっしゃるのと同義です」
影の中で、ザックスの紫の瞳が愉悦を孕んで光る。
守護という名の檻。
彼の独占欲は、
大学のキャンパスという日常の下でさえ、僕黒く塗り潰そうとしていた。
――僕は、青空の中にある、白い真昼の月を見上げた。
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