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芽生える
しおりを挟むリト視点
その夜、
エリザベスは珍しく、長く僕のそばにいた。
彼女は支配者としての仮面を脱ぎ捨てたかのように、
ただ静かに、私の隣で同じ夜の気配を吸い込んでいた。
何かを責めるでもなく、
慰めるでもなく。
ただそこに、絶対的な守護者として存在している。
「ねえ、リト」
柔らかい、けれど芯の通った声。
装わない、剥き出しの“私”の口調。
「あなた、ここにいていいのよ。
……理由なんて、後から付ければいいわ」
その言葉が鼓膜に触れた瞬間、胸の奥で固く結ばれていた何かが、音もなくほどけていった。
――ああ。
帰らなくていいんだ。
何者かになろうとしなくていいし、自分の居場所を選ばなくていいんだ。
ここにいる理由さえも、
この「女王」のせいにしてもいいのだと。
それは猛毒のように甘く、
そして取り返しのつかないほど危険な誘惑だった。
きっと正しくない。
僕は、彼女の世界に巻き込まれるべきではない一般人なのだから。
でも。
僕は生まれて初めて、自分を包み込む「誰かの体温」に、全身の重みを預けていた。
真っ暗な宇宙を漂っていた石ころが、巨大な恒星の重力に捕らえられたかのように。
そのことに気づいたとき、僕は震えていた。
エリザベスの気配が、
その甘い香りが、
僕の肺を満たしていなければ、
呼吸が浅くなってしまう。
僕はもう、
自分一人では、
満足に息をすることさえ忘れてしまいそうだった。
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