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最終話 鏡花水月
13-1
しおりを挟む妊娠が発覚して五週目。
古くから付き合いがあるという和仁さんが産まれた産院に通うことが決まり、予定日は三月だと言われた。
時期によっては桜が咲き始める頃に産まれるかもしれない。
エコー写真で胎嚢を見た時は感動で泣きそうになった。
赤ちゃんは確かに私の中で生きているんだ。
和仁さんはほぼ毎回病院に付き添ってくれる。
帰りもなるべく早く帰宅してくれるようになった。
「ジェシカ、体調はどうだ?」
「大丈夫です。まだつわりの症状もあまりないので平気です」
「無理はするなよ」
「はい」
フォト婚は安定期に入ってからマタニティ姿で撮ることになった。
こんな機会なかなかないもの、せっかくなら赤ちゃんも一緒に写真を撮りたい。
ドレスは雅さんが提携しているマタニティドレスを扱っているお店に連絡してくれることに。
「ジェシカさーん」
「蘭さん!」
そして今日は蘭さんとお茶会だ。
蘭さんは女の子を出産したばかり。ベビーベッドですやすやと眠る姿がとても愛くるしい。
流石は満咲家というべきか、とても大きく広々としたベビーベッドでなんと天蓋付き。
まるでお姫様が寝かされているようだ。
「八重ちゃん、かわい~~」
「うちの人が既に親バカ全開なのよ。育休取ってくれたのは有難いけどね」
満咲家は男系家系らしく、女の子だとわかった時は衝撃が走ったらしい。
親バカ全開の信士さん、想像できるわ。
「ジェシカさん、予定日三月だっけ? 予定通りなら八重と同い年ね」
「あ、そうですね」
「そうなったら楽しみだわ」
「本当に!」
蘭さんは妊娠中のことを色々教えてくれた。
つわりが酷い時でも食べられるものとか、運動方法とか。身近に先輩ママがいるというのはとても心強い。
「そういえば美咲さんも最近お子さんが産まれたそうよ」
「美咲さんって……」
「染井一家の。美咲さんは義徳さんと結婚したの。義徳さんが婿入りしてね」
「そうだったんですか」
美咲さんは、今でも和仁さんのこと許せないのかな……。
一度お会いしてみたいなぁという気持ちはあるけど、美咲さんは多分そんな風に思ってないわよね。
二組の溝はきっと深い。私なんかが想像できないような根深いものがあるのだと思う。
それでもいつかは仲直りできる日がきたらいいな。
美桜さんが望んだように。
「そういえば、蘭さんと信士さんの馴れ初め聞きたいです」
「えー、私たちの?」
「どちらから告白というかプロポーズされたんですか?」
「私よ」
「そうなんですか!?」
蘭さんからなんて、すごく意外!
「実はうちの華道会で事件が起きたことがあってね」
事件というのは、盗難だったそうだ。
花を生けるための花瓶がなくなっていたのだ。これはただの花瓶ではなく、展覧会のために特別に用意された一千万はくだらないという大変高価なものだった。
すぐに警察に届出をして捜査を依頼した結果、花瓶は蘭さんのロッカーから発見された。
蘭さんにとっては全く身に覚えのないことだった。
だけど犯人と疑われ、警察に連行されそうになった時に一人の人物が声をあげた。
「私が犯人ではあり得ない、ってはっきり言ってくれたの。論理的な推理と捜査で犯人を特定してくれて、私の疑いは晴れたわ」
「その人が信士さんだったんですか?」
「そうよ」
信士さんは既に警部階級というエリート刑事だった。その冴えた頭脳で見事に真犯人を特定したという。
ちなみに犯人は展覧会に出展予定で、そこそこ人気の華道家だったらしい。
メインとなる生け花を蘭さんに奪われた逆恨みだったとのこと。
「だけどそんなことがどうでも良くなるくらい、鮮やかに私を助けてくれた彼を好きになってしまって、その場でプロポーズしたの」
「その場で!? 初対面ですよね!?」
「私、華道もだけど直感を信じるタイプだから」
それにしてもすごいわ、蘭さん……。
「だけど仕事を優先したいから今は結婚する気はないって断られちゃって。だから言ったの、絶対私と結婚したいって言わせてみせるって」
「蘭さん、カッコいい……!」
「面白いこと言うなって笑われたけどね。全く本気にされてなくて悔しかったなぁ」
「でも、振り向かせられたんですね?」
「そうよ」
お茶目にウインクする蘭さんがとっても魅力的だった。
カッコいいなぁ、蘭さん。
私はそんな風に積極的になれる自信がないから、憧れちゃう。
「私はジェシカさんもすごいと思うけど。うちの人もよく言ってるの、和仁はジェシカさんと結婚して変わったって」
「あ……それ峰さんにも言われました」
「和仁さんも色々あったけど、ジェシカさんと出会って今は幸せなんでしょうね」
「そうだったら、嬉しいです」
「絶対そうよ」
そう言って微笑む蘭さんに、私も微笑み返した。
その後も女子会は続き、これからのマタニティライフのアドバイスも沢山もらって、とても充実した時間をすごせた。
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