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第一章
魔鉱の剣①
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魔鉱溶融炉に火が入る。ダナイが設計した魔方陣により魔石の消費は大分抑えられたが、それでも一回使用するにつき、ゴブリン十匹分ほどの魔石が必要だった。その魔石はもちろんダナイが魔鉱石を採掘に行くついでに取ってきた物だ。
つまり鍛冶屋ゴードンでは完全無料で魔鉱を手に入れることができるシステムが出来上がっていた。ゴードンはダナイに追加給金を支払うと言ったが「設備をお借りしている立場なので、頂けません」とつっぱねた。
こうして「第二回ダナイとゴードンのまるで駄々を言い合う子供のような低レベルの争い」が勃発したのだった。結果、イザベラがそのお金を預かっておく、と言うことで決着がついた。
魔鉱溶融炉に魔鉱石を投入してから数時間後、溶けた魔鉱が地面に作られた溝に流し込まれ、魔鉱のインゴットが出来上がった。それを手に取ったゴードンは感動の涙をこぼしていた。
「まさか、こんな日がくるとは。長生きはしてみるものだな」
ズシリと重いインゴットは見事な輝きを放っていた。もちろんすぐに使えるように、魔鉱板もいくつも用意してある。試作品を作ったり、技術を学んだりするにはひとまず十分な量が確保されていた。
ダナイはゴードン監修の元、自分用のナイフを作り上げた。以前にゴードンが作ったものとは違い、完成品は見事に均一な薄紅色の輝きを放っていた。
「うむ。見事だな」
ゴードンが納得の笑みを浮かべている。さすがの魔鉱もダナイの馬鹿力の前には膝を屈するしかなかったようである。
工房の設備も魔方陣によって強化された。ふいごで送っていた風は、風を送り出す魔方陣によってボタン一つで送られるようになった。火床への点火もボタン一つでできる。着々と仕事のみに集中できる環境が整いつつあった。
鍛冶屋ゴードンに魔鉱製の武器を依頼する冒険者は着々と増えていった。
そんなある日、いつものようにアベルが工房を訪れ、剣の研ぎ直しを頼んでいた。
「見て下さいよ、ダナイさん。俺達もDランク冒険者になったんですよ!」
嬉しそうに冒険者証明書を掲げて見せた。Dランク冒険者は一人前の冒険者としての証しなのだろう。いつもよりアベルが胸を張っている。
「おお、そいつはめでたいな。マリアはどうなんだ?」
「私も一緒にDランク冒険者になったわよ」
ほら、と冒険者証明書を見せた。そこにはDの文字がしっかりと刻まれている。ダナイが工房で打ち込んでいる間にも、アベルとマリアは地道に冒険者ギルドの依頼をこなし、信頼と実績を勝ち取っていたことをダナイは知った。
「それじゃ、何かお祝いをしないといけないな。そうだ、アベルの為に俺が魔鉱の剣を打ってやろう」
「え! いいんですか!」
すでにアベルは自分の孫、とは言わないが、甥っ子のように思うようになっていた。ついつい贔屓してしまう自分がいたが、ゴードン夫妻はすでにアベルのことを孫のように思っているようであり、何も言わなかった。
「それは良い考えだな。この剣もそろそろ買い換えの時期に差しかかっていることだしな」
アベルに研ぎ終わった剣を渡しながらゴードンが言った。新品のような輝きを取り戻したアベルの鉄剣だったが、相次ぐ研ぎによって細身になりつつあった。戦闘中に折れてしまってはどうしようもない。頼れる相棒は必須だった。
「アベルだけずるい! 私も何か欲しい!」
マリアが頬を膨らませてダナイに詰め寄ってきた。マリアの武器は弓矢が中心であり、金属製の武器をメインに扱っている鍛冶屋ゴードンでは鏃くらいしか作れる物はなかった。
「そうだな……そうだ、マリアにはこれをやろう」
ダナイは懐から小型ライターを取り出した。これは暇なときに趣味で作った品で、誰かにあげることは考えていなかったが、それでも技術向上の為に全力でダナイが作成したものである。表面には見事な彫金が施されている。
「きれい! 本当にこれをもらってもいいの?」
「ああ、もちろんだ。火起こしの道具があれば何かと便利だろう。あとはこれもやろう」
そう言って棚から魔鉱製のナイフを取り出した。固いパンや干し肉を切るには十分過ぎるほどの性能のナイフだった。
「ありがとうダナイさん! 大事にするわ」
「お大事にするのは結構だが、ちゃんと使ってくれよ。道具は使ってこそ価値があるからな」
分かりました! と二人は良い返事をした。ダナイが頷きながら見ていると、アベルが思い出したかのように言った。
「そう言えば、ダナイさんは冒険者を辞めたのですか? 最近顔を見ないってギルマスが心配してましたよ?」
「おっと、そう言えば最近は全くギルドに顔を出してないな。たまにはギルドの依頼もこなしておかないと、冒険者証明書を剥奪されるかも知れんな」
「そんなことはないと思いますけど……たまには元気な顔を見せて上げて下さいね」
「ああ、分かったぜ」
ダナイは鍛冶仕事が楽しくて冒険者ギルドがそっちのけになっていたことに、このとき初めて気がついた。申し訳なく思い、アベルの魔鉱の剣が出来上がったら一度冒険者ギルドに顔を出すことに決めた。
つまり鍛冶屋ゴードンでは完全無料で魔鉱を手に入れることができるシステムが出来上がっていた。ゴードンはダナイに追加給金を支払うと言ったが「設備をお借りしている立場なので、頂けません」とつっぱねた。
こうして「第二回ダナイとゴードンのまるで駄々を言い合う子供のような低レベルの争い」が勃発したのだった。結果、イザベラがそのお金を預かっておく、と言うことで決着がついた。
魔鉱溶融炉に魔鉱石を投入してから数時間後、溶けた魔鉱が地面に作られた溝に流し込まれ、魔鉱のインゴットが出来上がった。それを手に取ったゴードンは感動の涙をこぼしていた。
「まさか、こんな日がくるとは。長生きはしてみるものだな」
ズシリと重いインゴットは見事な輝きを放っていた。もちろんすぐに使えるように、魔鉱板もいくつも用意してある。試作品を作ったり、技術を学んだりするにはひとまず十分な量が確保されていた。
ダナイはゴードン監修の元、自分用のナイフを作り上げた。以前にゴードンが作ったものとは違い、完成品は見事に均一な薄紅色の輝きを放っていた。
「うむ。見事だな」
ゴードンが納得の笑みを浮かべている。さすがの魔鉱もダナイの馬鹿力の前には膝を屈するしかなかったようである。
工房の設備も魔方陣によって強化された。ふいごで送っていた風は、風を送り出す魔方陣によってボタン一つで送られるようになった。火床への点火もボタン一つでできる。着々と仕事のみに集中できる環境が整いつつあった。
鍛冶屋ゴードンに魔鉱製の武器を依頼する冒険者は着々と増えていった。
そんなある日、いつものようにアベルが工房を訪れ、剣の研ぎ直しを頼んでいた。
「見て下さいよ、ダナイさん。俺達もDランク冒険者になったんですよ!」
嬉しそうに冒険者証明書を掲げて見せた。Dランク冒険者は一人前の冒険者としての証しなのだろう。いつもよりアベルが胸を張っている。
「おお、そいつはめでたいな。マリアはどうなんだ?」
「私も一緒にDランク冒険者になったわよ」
ほら、と冒険者証明書を見せた。そこにはDの文字がしっかりと刻まれている。ダナイが工房で打ち込んでいる間にも、アベルとマリアは地道に冒険者ギルドの依頼をこなし、信頼と実績を勝ち取っていたことをダナイは知った。
「それじゃ、何かお祝いをしないといけないな。そうだ、アベルの為に俺が魔鉱の剣を打ってやろう」
「え! いいんですか!」
すでにアベルは自分の孫、とは言わないが、甥っ子のように思うようになっていた。ついつい贔屓してしまう自分がいたが、ゴードン夫妻はすでにアベルのことを孫のように思っているようであり、何も言わなかった。
「それは良い考えだな。この剣もそろそろ買い換えの時期に差しかかっていることだしな」
アベルに研ぎ終わった剣を渡しながらゴードンが言った。新品のような輝きを取り戻したアベルの鉄剣だったが、相次ぐ研ぎによって細身になりつつあった。戦闘中に折れてしまってはどうしようもない。頼れる相棒は必須だった。
「アベルだけずるい! 私も何か欲しい!」
マリアが頬を膨らませてダナイに詰め寄ってきた。マリアの武器は弓矢が中心であり、金属製の武器をメインに扱っている鍛冶屋ゴードンでは鏃くらいしか作れる物はなかった。
「そうだな……そうだ、マリアにはこれをやろう」
ダナイは懐から小型ライターを取り出した。これは暇なときに趣味で作った品で、誰かにあげることは考えていなかったが、それでも技術向上の為に全力でダナイが作成したものである。表面には見事な彫金が施されている。
「きれい! 本当にこれをもらってもいいの?」
「ああ、もちろんだ。火起こしの道具があれば何かと便利だろう。あとはこれもやろう」
そう言って棚から魔鉱製のナイフを取り出した。固いパンや干し肉を切るには十分過ぎるほどの性能のナイフだった。
「ありがとうダナイさん! 大事にするわ」
「お大事にするのは結構だが、ちゃんと使ってくれよ。道具は使ってこそ価値があるからな」
分かりました! と二人は良い返事をした。ダナイが頷きながら見ていると、アベルが思い出したかのように言った。
「そう言えば、ダナイさんは冒険者を辞めたのですか? 最近顔を見ないってギルマスが心配してましたよ?」
「おっと、そう言えば最近は全くギルドに顔を出してないな。たまにはギルドの依頼もこなしておかないと、冒険者証明書を剥奪されるかも知れんな」
「そんなことはないと思いますけど……たまには元気な顔を見せて上げて下さいね」
「ああ、分かったぜ」
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