伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

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第二章

ダナイ、家を借りる

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 家を借りることに決めると、さっそく賃貸住宅を探した。ちょっとした工房にも改良できるような家はなかなか見つからなかったが、街の郊外にようやく見つけることができた。

 家庭菜園ができるほどの立派な庭がついている石造りの家は、店舗としても使えるようになっていた。生活するスペースは全て二階にあり、一階はカウンターを取り付ければすぐに商売ができるようになっていた。
 そこで自作のポーションを売っても面白いかも知れないな、とこれからのことを思い描いてニンマリとすると、スキップしながら家具などの必要な物を買いに行った。

 家具屋で荷台を借り受け、詰められるだけの生活必需品を乗せ、意気揚々と大通りを進んでいると、リリアに遭遇した。どうやら一人のようであり、いつもの三人娘の姿が見えない。どうしたのかと首を傾げていると、リリアが先に声をかけてきた。

「ダナイ、その荷物は一体どうしたの?」
「ドラゴン討伐や、何やらかんやらで、まとまったお金が手に入ってな。それで自分の家を借りることにしたのさ」

 突如、目の前で美しい笑みを浮かべていたリリアの顔がサッと青くなった。それを見て思わずギョッとした。何かまずいことを俺は言ったのか。

「……もしかして、誰かと一緒に住むの?」
「んなわけねぇだろ。俺一人だよ。俺にそんな奴がいると思うか?」

 その言葉を聞いたリリアはパアッと明るい表情になった。そのあまりの変貌ぶりに目を見開いた。どうしてそんなに嬉しそうなんだ。それに、何だかその顔を見ていると胸がドキドキする。

「それなら一緒に住んであげようか? 一人じゃ寂しいでしょ」

 体を少し曲げて、ダナイと同じ視線にすると、上目遣いでそう言った。たゆんと豊かな胸が目の前で揺れる。
 一体リリアは何を言っているんだ。頭を抱えそうになるのを必死にこらえた。
 こんなことを言うのには、きっと何か理由があるはずだ。それを聞く前に結論づけるわけにはいかない。動揺を押し殺し、腕を組んだ。

「どういう風の吹き回しだ? 何かあったのか?」

 リリアは姿勢を戻すと下を向いて押し黙った。これは間違いなく何かあったな。リリアとは魔法を教えてもらう師弟関係でもある。力になれることがあるならば力になるのが義理だろう。

「リリア?」
「解散したの」
「へ?」

 思わず素っ頓狂な声が出た。解散?
 
「私達のパーティー、解散したの」
「な、何だってー!」

 リリアから話を聞いたところ、ドラゴン討伐でそれなりのお金を稼ぐことができた三人娘は、かねてからの念願だった自分達の店を持ったそうである。そして、危険と隣り合わせの冒険者を辞めた。

 冒険者をする理由は人それぞれである。続けるのも、引退するのも自由だ。リリアにそれを止める権利はなく、パーティーは解散となったらしい。
 それはそれで仕方がないこととして。

「リリア、まさかお前一人で魔物と戦っていないだろうな?」

 ギロリとリリアを批難するように睨みつけた。それを見たリリアは一瞬怯んだが、すぐに持ち直した。

「何よ、ダナイだって一人で冒険者をやってるじゃない!」

 負けじとリリアもダナイを睨み返した。美人が目を吊り上げるとこんなにも恐ろしい顔になるのか、とダナイは怯んだ。

「お、俺は男だし」
「男も女も関係ないわ。それに私はCランク冒険者だし、この辺りの魔物には後れをとらないわ。……でも確かに、それもそうねぇ」

 突然リリアの声色が変わり、その目が怪しく光ったのをダナイは見逃さなかった。何だか凄く悪い予感がする。

「それじゃ、ダナイ、私とパーティーを組みましょう。それなら何も問題がないわ!」

 さも良いことを思いついたとばかりに、リリアがとても嬉しそうな顔で両手をパチンと叩いた。
 ダナイは絶句するしかなかった。
 そう来たか。ここまで言っておいて「嫌です」とは言えないだろう。もしかして、リリアはここまで計算していたのか?
 そんな考えがグルグルと頭の中を回っていたところに、さらなる追い打ちがかかった。

「同じパーティーメンバーなら、同じ家に住むのも問題ないわよね?」

 このとき、自分はリリアには勝てないと正しく悟ったのであった。渋々であったがリリアの提案を受け入れる他なかった。リリアを一人で行かせる気持ちにはどうしてもならなかったし「あの尻に敷かれるのならそれも良いか」と思ったからである。
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