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第二章
ダナイ、家を借りようとする
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グリーンウッドの森に現れたドラゴンは無事に討伐され、イーゴリの街に再び平和が訪れた。街を歩く人達の顔もとても明るい。それもそのはず。
自分達の街にはドラゴンも倒せる冒険者がいる
どうやらそのことが人々を明るくしているようであり、街の人達からは冒険者達の武勇を賞賛する声をよく聞くようになった。
宿の女将達からも、ゴードン夫妻からもお礼を言われた。そして自分がドラゴンスレイヤーになったことを話すと、諸手を挙げて喜んでくれた。
「いやいや、俺だけの力じゃないですよ。一緒に戦った仲間がいてこその勝利ですよ。それに、コイツも役に立ちました」
「ああ、ダナイが何やら作っていた魔道具か。確か「閃光玉」とか言っていたな。それをどうするつもりだ? 役に立ったのなら、売ればお金になるんじゃないのか?」
ゴードンは「役に立つ魔道具ならどんどん売りに出すべきだ」と進めた。師匠からの後押しもあって「閃光玉」と「拡声器」の魔道具の設計図を売りに魔道具ギルドへと向かった。魔道具ギルドはこの話にすぐに飛びついた。
「どちらも初めて目にする魔道具ですね。それにしても、冒険者の役に立つ魔道具とは実に面白い着眼点ですね。これは新たな需要を開拓することができそうです」
ギルド職員達も喜んでいる。閃光玉に至っては、消耗品というところがなお良いらしい。消耗品なだけに作りは簡単であり、お手頃な価格で作れるように設計していた。これなら十分に採算に合うと喜んでいた。
魔道具ギルドに販売した閃光玉と拡声器の魔道具の設計図は高く売れた。そして希望通りにすぐに生産される運びとなり、冒険者御用達の魔道具ショップに並ぶと、それを聞きつけた多くの冒険者達がこぞって買いにきたようであった。
「ダナイ、お前の作った魔道具のお陰で命拾いしたぜ」
という言葉を冒険者ギルド内で何度も聞いた。その度に「自分の作った物で人の命が救えるのなら、それに勝る喜びはねぇよ」と答えていた。
鍛冶屋ゴードンで武器を制作したり、新しい魔道具の研究をしたりして、充実な毎日を過ごしていたある日、以前からどうしても気になっていたことを始めてみることにした。そう、ポーション作りである。
「まさかこんな物があるとはな。さすがは異世界。まだまだ知らないものがたくさんあるみたいだな。いずれは世界中を回ってみたいものだ」
部屋で一人呟くと『ワールドマニュアル(門外不出)』に問いかけた。答えはすぐに出た。回復ポーションの素材は水と薬草と塩のみ。実にシンプルだ。
素材は何とかなりそうだが、ポーションを作るにはそれなりの設備がいるな。それにポーション以外にも便利な薬があるみたいだ。さてどうするか。思い切って設備を置く家でも買うか?
内心そう思うと、金庫からお金を取り出し、ひい、ふう、みい、と数え始めた。
手元にはドラゴン討伐の報酬と魔道具の設計図を売ったお金がある。ちょっとした家なら買えそうな金額になっていた。
「買えなくもなさそうだが、どうする? ええい、ここで考えても埒が明かねぇ。こんなときは師匠に相談だ」
思いつくと居ても立ってもいられなくなり、鉄砲玉のように駆け出すと鍛冶屋ゴードンへと向かった。
今日は鍛冶屋ゴードンの定休日だった。それにも関わらず、突然やって来たダナイをゴードン夫妻は温かく迎えてくれた。
「師匠、新しく錬金術を始めようと思いまして、家を買うか、借りるかしたいと思っているんですが、どう思いますか?」
ポーションなどを作る技術は錬金術と呼ばれているらしい。錬金術の技術は特に門外不出というわけではなく、ポーションのレシピなどは錬金術ギルドで販売しているとのことであった。ただ、それなりの設備がいるため、基本的に家を持たない冒険者は気軽に作ることができないようである。
「錬金術にまで手を出すつもりなのか。まあそれは構わないが、そうだな、まずは家を借りる方がいいだろうな。用途を言えば、工房にも改造できる家を紹介してもらえるだろう」
そこまで言うと、ゴードンは改めて向き直った。そのただならぬ様子に姿勢を正した。
「ダナイ、この工房を将来ダナイに譲ろうと思っている」
「師匠……」
次の言葉が口から出てこなかった。まさかそこまでゴードンが考えているとは思ってもみなかったからだ。
ゴードンの後を継ぐ者がいないことには薄々気がついていた。しかし、どこの馬の骨とも知れない男に後を継がせることも、思ってもみなかったのだ。
ダナイは目を閉じて一瞬だけ悩んだ。悩んだ末に、師匠の意志を尊重しようと決意した。
「分かりました。鍛冶屋ゴードンは俺がしっかりと守ります」
とは言ったものの、自分もゴードンとそれほど変わらない年齢。どっちが先に逝くか分からないのに安請け合いをしてしまったな、と内心苦笑いした。
しかしその答えに、ゴードンは嬉しそうに「そうか、受けてくれるか」としきりに頷いていた。尻がムズムズする。この選択で良かったのだと安堵した。
自分達の街にはドラゴンも倒せる冒険者がいる
どうやらそのことが人々を明るくしているようであり、街の人達からは冒険者達の武勇を賞賛する声をよく聞くようになった。
宿の女将達からも、ゴードン夫妻からもお礼を言われた。そして自分がドラゴンスレイヤーになったことを話すと、諸手を挙げて喜んでくれた。
「いやいや、俺だけの力じゃないですよ。一緒に戦った仲間がいてこその勝利ですよ。それに、コイツも役に立ちました」
「ああ、ダナイが何やら作っていた魔道具か。確か「閃光玉」とか言っていたな。それをどうするつもりだ? 役に立ったのなら、売ればお金になるんじゃないのか?」
ゴードンは「役に立つ魔道具ならどんどん売りに出すべきだ」と進めた。師匠からの後押しもあって「閃光玉」と「拡声器」の魔道具の設計図を売りに魔道具ギルドへと向かった。魔道具ギルドはこの話にすぐに飛びついた。
「どちらも初めて目にする魔道具ですね。それにしても、冒険者の役に立つ魔道具とは実に面白い着眼点ですね。これは新たな需要を開拓することができそうです」
ギルド職員達も喜んでいる。閃光玉に至っては、消耗品というところがなお良いらしい。消耗品なだけに作りは簡単であり、お手頃な価格で作れるように設計していた。これなら十分に採算に合うと喜んでいた。
魔道具ギルドに販売した閃光玉と拡声器の魔道具の設計図は高く売れた。そして希望通りにすぐに生産される運びとなり、冒険者御用達の魔道具ショップに並ぶと、それを聞きつけた多くの冒険者達がこぞって買いにきたようであった。
「ダナイ、お前の作った魔道具のお陰で命拾いしたぜ」
という言葉を冒険者ギルド内で何度も聞いた。その度に「自分の作った物で人の命が救えるのなら、それに勝る喜びはねぇよ」と答えていた。
鍛冶屋ゴードンで武器を制作したり、新しい魔道具の研究をしたりして、充実な毎日を過ごしていたある日、以前からどうしても気になっていたことを始めてみることにした。そう、ポーション作りである。
「まさかこんな物があるとはな。さすがは異世界。まだまだ知らないものがたくさんあるみたいだな。いずれは世界中を回ってみたいものだ」
部屋で一人呟くと『ワールドマニュアル(門外不出)』に問いかけた。答えはすぐに出た。回復ポーションの素材は水と薬草と塩のみ。実にシンプルだ。
素材は何とかなりそうだが、ポーションを作るにはそれなりの設備がいるな。それにポーション以外にも便利な薬があるみたいだ。さてどうするか。思い切って設備を置く家でも買うか?
内心そう思うと、金庫からお金を取り出し、ひい、ふう、みい、と数え始めた。
手元にはドラゴン討伐の報酬と魔道具の設計図を売ったお金がある。ちょっとした家なら買えそうな金額になっていた。
「買えなくもなさそうだが、どうする? ええい、ここで考えても埒が明かねぇ。こんなときは師匠に相談だ」
思いつくと居ても立ってもいられなくなり、鉄砲玉のように駆け出すと鍛冶屋ゴードンへと向かった。
今日は鍛冶屋ゴードンの定休日だった。それにも関わらず、突然やって来たダナイをゴードン夫妻は温かく迎えてくれた。
「師匠、新しく錬金術を始めようと思いまして、家を買うか、借りるかしたいと思っているんですが、どう思いますか?」
ポーションなどを作る技術は錬金術と呼ばれているらしい。錬金術の技術は特に門外不出というわけではなく、ポーションのレシピなどは錬金術ギルドで販売しているとのことであった。ただ、それなりの設備がいるため、基本的に家を持たない冒険者は気軽に作ることができないようである。
「錬金術にまで手を出すつもりなのか。まあそれは構わないが、そうだな、まずは家を借りる方がいいだろうな。用途を言えば、工房にも改造できる家を紹介してもらえるだろう」
そこまで言うと、ゴードンは改めて向き直った。そのただならぬ様子に姿勢を正した。
「ダナイ、この工房を将来ダナイに譲ろうと思っている」
「師匠……」
次の言葉が口から出てこなかった。まさかそこまでゴードンが考えているとは思ってもみなかったからだ。
ゴードンの後を継ぐ者がいないことには薄々気がついていた。しかし、どこの馬の骨とも知れない男に後を継がせることも、思ってもみなかったのだ。
ダナイは目を閉じて一瞬だけ悩んだ。悩んだ末に、師匠の意志を尊重しようと決意した。
「分かりました。鍛冶屋ゴードンは俺がしっかりと守ります」
とは言ったものの、自分もゴードンとそれほど変わらない年齢。どっちが先に逝くか分からないのに安請け合いをしてしまったな、と内心苦笑いした。
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