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第二章
残念美人
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指輪を渡した後の夕食は何だか焦れったい空気の中で進んでいった。お互いにお互いがいつもよりも気にしている。その形容しがたい空気を変えようとダナイは口を開いた。
「リリア、エルフとドワーフが付き合うのは大丈夫なのか? ほら、俺は五十代とは言え、こんな身なりだし、リリアとは釣り合わないような気がするんだよ」
「そんなこと気にする必要はないわよ。あ、今、分かったわ。ダナイはそのことをずっと気にしてたのね。私が周りからどう見られるだろうかって」
ダナイはバツが悪そうに頭を掻いた。自分の見た目がビア樽体型の髭オヤジであることは誰よりも自覚しているつもりだ。前世の感覚で言えば、こんなオッサンと付き合うようなうら若き乙女など、物語の中の話だけだろう。
「まあ、そんなところだな」
リリアは嬉しいような、慈しむような、優しい瞳をダナイに向けた。
「バカな人。私は愛する人と一緒にいられるだけで十分よ。周りがどんな風に思っていようが、関係ないわ」
ダナイはまたしても頭を掻いた。今度は照れ隠しである。リリアのことを愛してると言ったが、逆に愛してると言われることが、こんなに嬉しくて、恥ずかしいことだとは思わなかった。
「そんなもんか?」
「そんなもんよ。それよりも、ダナイに指輪をつけて欲しいわ」
リリアは左手と一緒にダナイからもらった銀の指輪を差し出した。この世界には薬指に結婚指輪をはめるという習慣はなかったが、あえて薬指につけた。
まるで測ったかのようにスッポリとリリアの薬指に指輪が納まった。それをウットリと見ていたリリアがはたと気がついたかのように顔を上げた。
「ダナイ、この指輪、普通じゃあないわよね?」
「お、さすがはリリア。気がついたか?」
「ええ、ええ、もちろんよ。あなたが普通の代物を作るとは思ってないわ。それで、この指輪には一体どんな効果があるのかしら?」
リリアは半目で睨んだ。ダナイにもらったタクトが普通じゃなかったことを思い出したのだろう。その目は完全に猜疑心に満ちていた。
「その指輪にはな、守りの力が付与してある」
「守りの力?」
「ああ、そうだ。何でも危機的な状況になったときに身を守ってくれるらしいぞ」
そんなアクセサリーは聞いたことがなかったのか、しきりに頭を捻っていた。しかし、答えは出なかったようである。その代わりに別の疑問が湧き上がったようだ。
「これもお婆様が……?」
ダナイは自分のことについてリリアに話すことにした。これから二人はもっと親密になっていくことだろう。そんな彼女に隠し事をして裏切るような行為はしたくなかった。
「実はな、リリア……」
ダナイから全てのことを聞いたリリアは、驚きを隠すことができなかった。口元を手で覆うと、改めてダナイに問いただした。
「そんなことが……! その「来るべき戦い」がいつなのかは女神様は言わなかったのね?」
「ああ、そうだ。だから俺はそれなりに猶予があると思って引き受けたんだ」
リリアはそれを聞いて考え込んでいたが、頭を振って考えるのをやめたようだ。グイとワインを飲むと、ダナイに向き合った。その目には決意が滲んでいた。
「このことを知っているのは?」
「俺とリリアだけだ」
「その方がいいわ。広まったら大騒ぎになるでしょうからね」
そう言うと、またワインをグイッと飲み干した。酔いが回ってきたのか、先ほどよりも赤く色づいたリリア。その表情はどこか嬉しそうでもあった。
ダナイはリリアの目をジッと見つめた。それは自分の話が簡単に信じられないことを誰よりも自覚していたからであった。
「リリアは俺の話を信じるのか?」
「信じるに決まっているじゃない」
リリアは自信を持って言った。ダナイにはその言葉が何よりも嬉しかった。
「でなきゃ、きれい好きなドワーフなんているわけないじゃない!」
ドン! とワインのボトルをテーブルに置いたリリア。その声は確信に満ちあふれていた。その様子に思わずダナイが叫ぶ。
「台無しだよ!」
二人は笑い合いながらその後もお酒を飲んだ。そしてリリアの理性が残っているうちに飲むのをやめておけば良かったと後悔した。
「リリア、飲み過ぎだ」
「まだ飲んでないよ~?」
駄目だこれは。早く何とかしないと。リリアを抱えてリリアの部屋へと運び込もうとしたがそれが行けなかった。
「おいリリア、俺の髪を離せ! 髭を触るのをやめろ!」
「へっちゃら~、へっちゃら~。怖くないよ~?」
完全に残念なリリアになっていた。そして、タコのようにへばりつくリリアを引き剥がすのにかなりの労力を強いられたのであった。その過程でリリアの胸はダナイに押しつけられ、完全な不可抗力でそれを触ってしまったこともあったが「あれはヤバい」とダナイは明け方まで一人で悶々としていた。
注文されていた槍の納品も無事に終わり、しばらく休暇をもらっていた。そして今は、その間にかまってあげることができなかったリリアと共にグリーンウッドの森で適当に魔物を狩っていた。
「順調順調。魔石もたくさん回収できたな。これで新しい魔道具を試せるぞ」
「ダナイはほんとに物を作るのが好きね」
「もちろんさ。物作りは俺の生きがいだからな」
「ふーん」
リリアが不満の声を上げたのをダナイは聞き逃さなかった。
「まぁ、今は他にも生きがいができたけどな」
照れながらリリアに言うと、その意味を察知したのか、リリアもほんのりと赤くなっていた。
「魔物狩りに行けなくて、随分とストレスを溜めたんじゃないのか?」
「そうね。でも一人で行ってダナイに心配をかけるよりはマシよ」
その言葉に、ダナイは考え込んだ。自分が制作の仕事をすると、その間リリアはすることがなくなってしまう。どうしたものか。良い案は浮かばなかった。
「本当に済まなかった」
落ち込むダナイの髪をモフモフと撫でた。気持ちよさそうな様子のリリアを見て、これで許してもらえるのなら易い物だと好きなだけモフらせていた。
「ギルドに顔を出していない間に何か新しい問題が起きてないよな?」
「私が集めた情報では、ドラゴンを討伐して以降、徐々にブラックベアの目撃情報は減っているわ。でもまだ元の場所に戻っていないのもいるみたいね」
つまり、まだ森の中は危険だと言うことだった。リリアを一人で森に行かせなかったダナイの判断は間違ってはいなかったと言えるだろう。
少し気が楽になったダナイだったが、ブラックベアが未だに徘徊していることが気になった。もし、何かの拍子に森の外縁部にまで出てきたら? 街の人達に被害が出ないことを願うばかりであった。
「リリア、エルフとドワーフが付き合うのは大丈夫なのか? ほら、俺は五十代とは言え、こんな身なりだし、リリアとは釣り合わないような気がするんだよ」
「そんなこと気にする必要はないわよ。あ、今、分かったわ。ダナイはそのことをずっと気にしてたのね。私が周りからどう見られるだろうかって」
ダナイはバツが悪そうに頭を掻いた。自分の見た目がビア樽体型の髭オヤジであることは誰よりも自覚しているつもりだ。前世の感覚で言えば、こんなオッサンと付き合うようなうら若き乙女など、物語の中の話だけだろう。
「まあ、そんなところだな」
リリアは嬉しいような、慈しむような、優しい瞳をダナイに向けた。
「バカな人。私は愛する人と一緒にいられるだけで十分よ。周りがどんな風に思っていようが、関係ないわ」
ダナイはまたしても頭を掻いた。今度は照れ隠しである。リリアのことを愛してると言ったが、逆に愛してると言われることが、こんなに嬉しくて、恥ずかしいことだとは思わなかった。
「そんなもんか?」
「そんなもんよ。それよりも、ダナイに指輪をつけて欲しいわ」
リリアは左手と一緒にダナイからもらった銀の指輪を差し出した。この世界には薬指に結婚指輪をはめるという習慣はなかったが、あえて薬指につけた。
まるで測ったかのようにスッポリとリリアの薬指に指輪が納まった。それをウットリと見ていたリリアがはたと気がついたかのように顔を上げた。
「ダナイ、この指輪、普通じゃあないわよね?」
「お、さすがはリリア。気がついたか?」
「ええ、ええ、もちろんよ。あなたが普通の代物を作るとは思ってないわ。それで、この指輪には一体どんな効果があるのかしら?」
リリアは半目で睨んだ。ダナイにもらったタクトが普通じゃなかったことを思い出したのだろう。その目は完全に猜疑心に満ちていた。
「その指輪にはな、守りの力が付与してある」
「守りの力?」
「ああ、そうだ。何でも危機的な状況になったときに身を守ってくれるらしいぞ」
そんなアクセサリーは聞いたことがなかったのか、しきりに頭を捻っていた。しかし、答えは出なかったようである。その代わりに別の疑問が湧き上がったようだ。
「これもお婆様が……?」
ダナイは自分のことについてリリアに話すことにした。これから二人はもっと親密になっていくことだろう。そんな彼女に隠し事をして裏切るような行為はしたくなかった。
「実はな、リリア……」
ダナイから全てのことを聞いたリリアは、驚きを隠すことができなかった。口元を手で覆うと、改めてダナイに問いただした。
「そんなことが……! その「来るべき戦い」がいつなのかは女神様は言わなかったのね?」
「ああ、そうだ。だから俺はそれなりに猶予があると思って引き受けたんだ」
リリアはそれを聞いて考え込んでいたが、頭を振って考えるのをやめたようだ。グイとワインを飲むと、ダナイに向き合った。その目には決意が滲んでいた。
「このことを知っているのは?」
「俺とリリアだけだ」
「その方がいいわ。広まったら大騒ぎになるでしょうからね」
そう言うと、またワインをグイッと飲み干した。酔いが回ってきたのか、先ほどよりも赤く色づいたリリア。その表情はどこか嬉しそうでもあった。
ダナイはリリアの目をジッと見つめた。それは自分の話が簡単に信じられないことを誰よりも自覚していたからであった。
「リリアは俺の話を信じるのか?」
「信じるに決まっているじゃない」
リリアは自信を持って言った。ダナイにはその言葉が何よりも嬉しかった。
「でなきゃ、きれい好きなドワーフなんているわけないじゃない!」
ドン! とワインのボトルをテーブルに置いたリリア。その声は確信に満ちあふれていた。その様子に思わずダナイが叫ぶ。
「台無しだよ!」
二人は笑い合いながらその後もお酒を飲んだ。そしてリリアの理性が残っているうちに飲むのをやめておけば良かったと後悔した。
「リリア、飲み過ぎだ」
「まだ飲んでないよ~?」
駄目だこれは。早く何とかしないと。リリアを抱えてリリアの部屋へと運び込もうとしたがそれが行けなかった。
「おいリリア、俺の髪を離せ! 髭を触るのをやめろ!」
「へっちゃら~、へっちゃら~。怖くないよ~?」
完全に残念なリリアになっていた。そして、タコのようにへばりつくリリアを引き剥がすのにかなりの労力を強いられたのであった。その過程でリリアの胸はダナイに押しつけられ、完全な不可抗力でそれを触ってしまったこともあったが「あれはヤバい」とダナイは明け方まで一人で悶々としていた。
注文されていた槍の納品も無事に終わり、しばらく休暇をもらっていた。そして今は、その間にかまってあげることができなかったリリアと共にグリーンウッドの森で適当に魔物を狩っていた。
「順調順調。魔石もたくさん回収できたな。これで新しい魔道具を試せるぞ」
「ダナイはほんとに物を作るのが好きね」
「もちろんさ。物作りは俺の生きがいだからな」
「ふーん」
リリアが不満の声を上げたのをダナイは聞き逃さなかった。
「まぁ、今は他にも生きがいができたけどな」
照れながらリリアに言うと、その意味を察知したのか、リリアもほんのりと赤くなっていた。
「魔物狩りに行けなくて、随分とストレスを溜めたんじゃないのか?」
「そうね。でも一人で行ってダナイに心配をかけるよりはマシよ」
その言葉に、ダナイは考え込んだ。自分が制作の仕事をすると、その間リリアはすることがなくなってしまう。どうしたものか。良い案は浮かばなかった。
「本当に済まなかった」
落ち込むダナイの髪をモフモフと撫でた。気持ちよさそうな様子のリリアを見て、これで許してもらえるのなら易い物だと好きなだけモフらせていた。
「ギルドに顔を出していない間に何か新しい問題が起きてないよな?」
「私が集めた情報では、ドラゴンを討伐して以降、徐々にブラックベアの目撃情報は減っているわ。でもまだ元の場所に戻っていないのもいるみたいね」
つまり、まだ森の中は危険だと言うことだった。リリアを一人で森に行かせなかったダナイの判断は間違ってはいなかったと言えるだろう。
少し気が楽になったダナイだったが、ブラックベアが未だに徘徊していることが気になった。もし、何かの拍子に森の外縁部にまで出てきたら? 街の人達に被害が出ないことを願うばかりであった。
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