伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

文字の大きさ
36 / 137
第二章

辺境伯

しおりを挟む
 ここはイーゴリの街で最も格式の高い宿屋の一室。先ほど受け取った魔鉱の槍を見ながら、ライザーク辺境伯の息子であるクラースは微動だにしなかった。その様子に、お付きの者達もソワソワとし始めた。

「素晴らしい」

 ようやくクラースが吐いた言葉はその一言だった。この素晴らしい槍を見ているだけでなく、使ってみたい。辺境伯の跡取りとしてではなく、一人の男としてこの槍を存分に振ってみたかった。

 そのとき、クラースの頭に閃くものがあった。確か最近、グリーンウッドの森に異変があったと聞いた。その状況を確認することは、この辺りを治めているものの義務ではないか?

 クラースはすぐに支度に入った。クラースの計画を聞くとお付きの者達は仰天した。必死になだめたが結局止めることはできなかった。

「ちょっとだけ、ちょっとだけだから! 危なくなったらすぐに帰るから!」

 という言葉に、絶対ですよ、と部隊長が念を押し森へと向かうことになった。

 ドラゴン討伐から何日も過ぎていたため、森は落ち着きを取り戻していたが、それでもいつもよりか魔物達がピリピリしているような印象を部隊長は感じていた。

 クラースは真面目に武芸に励んでおり、中でも槍の腕前はかなりのものであった。クラースが振るう槍は易々とゴブリン達を貫き、その切れ味が鈍ることも、曇ることもなかった。

 部隊長もその槍の性能が凄まじい性能を持っていることに気がついていた。本当に素晴らしい槍だ。そう部隊長が評価したとき、クラースが声を上げた。

「止まれ! あちらの方角から何か不吉な気配を感じる」

 槍で指したその方角はこの辺りと同じように黒々とした森が続いているだけだった。部隊長は何も感じなかったが、クラースにはそれをハッキリと感じているようで、明らかに顔色が悪い。

 ただ事ではないと、部隊長は即座にその方角に腕利きの斥候を送り込んだ。しばらくしてもたらされた情報がとんでもないものだった。

 体長五メートルほどのブラックベアがいる

 普通のブラックベアは大きくても三メートルほどである。そのブラックベアがかなりの大物であることは、この場にいる全員が感じていた。しかも悪いことに、ブラックベアが向かっている方角は森の外縁部であった。確かその方角には近くに民家があるはずだ。

「放っておくわけにはいかない。今すぐ作戦を立てよう」

 クラースの決断によって部隊はすぐに準備に入った。作戦は単純だ。こちらが先に相手を発見しているので、こちら側に誘導して、予め用意してある落とし穴にはめる作戦である。

 この罠は見事に決まった。穴に嵌まったブラックベアはなおも必死の抵抗を示したが、どうにもならず討ち取られた。

「お見事です、クラース様。まさかここまで成長なさっているとは……!」

 主の成長に涙を流す部隊長に、クラースは首を振った。

「いや、違うぞ。この槍が私に危険を知らせてくれたのだ」

 大事そうに魔鉱の槍を見るクラース。原理は全く分からないが、そこには確たる自身があった。
 この槍は我が辺境伯にとって、長きに渡り受け継がれるべき槍だ。クラースはそう信じて疑わなかった。

 このダナイが作った魔鉱の槍は、ライザーク辺境伯の伝説の槍として代々継承されることになった。そしてライザーク辺境伯の伝記の中で度々登場することとなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...