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第二章
辺境伯
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ここはイーゴリの街で最も格式の高い宿屋の一室。先ほど受け取った魔鉱の槍を見ながら、ライザーク辺境伯の息子であるクラースは微動だにしなかった。その様子に、お付きの者達もソワソワとし始めた。
「素晴らしい」
ようやくクラースが吐いた言葉はその一言だった。この素晴らしい槍を見ているだけでなく、使ってみたい。辺境伯の跡取りとしてではなく、一人の男としてこの槍を存分に振ってみたかった。
そのとき、クラースの頭に閃くものがあった。確か最近、グリーンウッドの森に異変があったと聞いた。その状況を確認することは、この辺りを治めているものの義務ではないか?
クラースはすぐに支度に入った。クラースの計画を聞くとお付きの者達は仰天した。必死になだめたが結局止めることはできなかった。
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから! 危なくなったらすぐに帰るから!」
という言葉に、絶対ですよ、と部隊長が念を押し森へと向かうことになった。
ドラゴン討伐から何日も過ぎていたため、森は落ち着きを取り戻していたが、それでもいつもよりか魔物達がピリピリしているような印象を部隊長は感じていた。
クラースは真面目に武芸に励んでおり、中でも槍の腕前はかなりのものであった。クラースが振るう槍は易々とゴブリン達を貫き、その切れ味が鈍ることも、曇ることもなかった。
部隊長もその槍の性能が凄まじい性能を持っていることに気がついていた。本当に素晴らしい槍だ。そう部隊長が評価したとき、クラースが声を上げた。
「止まれ! あちらの方角から何か不吉な気配を感じる」
槍で指したその方角はこの辺りと同じように黒々とした森が続いているだけだった。部隊長は何も感じなかったが、クラースにはそれをハッキリと感じているようで、明らかに顔色が悪い。
ただ事ではないと、部隊長は即座にその方角に腕利きの斥候を送り込んだ。しばらくしてもたらされた情報がとんでもないものだった。
体長五メートルほどのブラックベアがいる
普通のブラックベアは大きくても三メートルほどである。そのブラックベアがかなりの大物であることは、この場にいる全員が感じていた。しかも悪いことに、ブラックベアが向かっている方角は森の外縁部であった。確かその方角には近くに民家があるはずだ。
「放っておくわけにはいかない。今すぐ作戦を立てよう」
クラースの決断によって部隊はすぐに準備に入った。作戦は単純だ。こちらが先に相手を発見しているので、こちら側に誘導して、予め用意してある落とし穴にはめる作戦である。
この罠は見事に決まった。穴に嵌まったブラックベアはなおも必死の抵抗を示したが、どうにもならず討ち取られた。
「お見事です、クラース様。まさかここまで成長なさっているとは……!」
主の成長に涙を流す部隊長に、クラースは首を振った。
「いや、違うぞ。この槍が私に危険を知らせてくれたのだ」
大事そうに魔鉱の槍を見るクラース。原理は全く分からないが、そこには確たる自身があった。
この槍は我が辺境伯にとって、長きに渡り受け継がれるべき槍だ。クラースはそう信じて疑わなかった。
このダナイが作った魔鉱の槍は、ライザーク辺境伯の伝説の槍として代々継承されることになった。そしてライザーク辺境伯の伝記の中で度々登場することとなった。
「素晴らしい」
ようやくクラースが吐いた言葉はその一言だった。この素晴らしい槍を見ているだけでなく、使ってみたい。辺境伯の跡取りとしてではなく、一人の男としてこの槍を存分に振ってみたかった。
そのとき、クラースの頭に閃くものがあった。確か最近、グリーンウッドの森に異変があったと聞いた。その状況を確認することは、この辺りを治めているものの義務ではないか?
クラースはすぐに支度に入った。クラースの計画を聞くとお付きの者達は仰天した。必死になだめたが結局止めることはできなかった。
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから! 危なくなったらすぐに帰るから!」
という言葉に、絶対ですよ、と部隊長が念を押し森へと向かうことになった。
ドラゴン討伐から何日も過ぎていたため、森は落ち着きを取り戻していたが、それでもいつもよりか魔物達がピリピリしているような印象を部隊長は感じていた。
クラースは真面目に武芸に励んでおり、中でも槍の腕前はかなりのものであった。クラースが振るう槍は易々とゴブリン達を貫き、その切れ味が鈍ることも、曇ることもなかった。
部隊長もその槍の性能が凄まじい性能を持っていることに気がついていた。本当に素晴らしい槍だ。そう部隊長が評価したとき、クラースが声を上げた。
「止まれ! あちらの方角から何か不吉な気配を感じる」
槍で指したその方角はこの辺りと同じように黒々とした森が続いているだけだった。部隊長は何も感じなかったが、クラースにはそれをハッキリと感じているようで、明らかに顔色が悪い。
ただ事ではないと、部隊長は即座にその方角に腕利きの斥候を送り込んだ。しばらくしてもたらされた情報がとんでもないものだった。
体長五メートルほどのブラックベアがいる
普通のブラックベアは大きくても三メートルほどである。そのブラックベアがかなりの大物であることは、この場にいる全員が感じていた。しかも悪いことに、ブラックベアが向かっている方角は森の外縁部であった。確かその方角には近くに民家があるはずだ。
「放っておくわけにはいかない。今すぐ作戦を立てよう」
クラースの決断によって部隊はすぐに準備に入った。作戦は単純だ。こちらが先に相手を発見しているので、こちら側に誘導して、予め用意してある落とし穴にはめる作戦である。
この罠は見事に決まった。穴に嵌まったブラックベアはなおも必死の抵抗を示したが、どうにもならず討ち取られた。
「お見事です、クラース様。まさかここまで成長なさっているとは……!」
主の成長に涙を流す部隊長に、クラースは首を振った。
「いや、違うぞ。この槍が私に危険を知らせてくれたのだ」
大事そうに魔鉱の槍を見るクラース。原理は全く分からないが、そこには確たる自身があった。
この槍は我が辺境伯にとって、長きに渡り受け継がれるべき槍だ。クラースはそう信じて疑わなかった。
このダナイが作った魔鉱の槍は、ライザーク辺境伯の伝説の槍として代々継承されることになった。そしてライザーク辺境伯の伝記の中で度々登場することとなった。
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