伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

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第三章

砦の防衛

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 ライザーク辺境伯に最新式の揺れの少ない馬車を献上してから数日が経った。イーゴリの街に戻ってきた俺達は「魔境が騒がしくなっている」という情報を冒険者ギルドのギルドマスターであるアランにも報告した。

「そうか。ライザーク辺境伯様も気にしていたか。実は他の街の冒険者ギルドからも同じような報告を受けていてな。どうやらこの辺りだけではなく、この大陸中の魔境が騒がしくなっているようだ」
「何か心当たりはあるのか? 以前にも同じようなことがあったとか?」

 アランは考え込んだが、特に思い当たったことはないようで、首を横に振った。そのとき、隣にいた副ギルドマスターのミランダが話に割って入った。

「エルフ族の昔話に「日の光が陰るときに魔物が闇から現れる」というお話があります。エルフ族の童話の中に登場する一節なのですが、もしかしたらその話に何かヒントが隠されているのかも知れません」
「ふむ、日の光が陰るねぇ。日食が近いのかも知れねぇな」
「日食?」
「そうだ。太陽の光が月の陰に隠れて一時的に暗くなる現象のことさ」

 そんな話は聞いたこともない、とばかりに顔を見合わせている。この世界では日食は起こらないのかな? 『ワールドマニュアル(門外不出)』で調べると、近々日食が起こることが判明した。ただし、部分日食であり、一時的にほんの少しだけ太陽が月に隠れるだけである。

 どうやら日食と魔物の増加には深い関係性があるようだ。ほんのちょっとの日食で魔物が増えている。これが皆既日食にでもなったら、大変なことになるだろう。

 日食が終わればこのちょっとした騒動も収まるだろうと高をくくっていたダナイだったが、事態は思わぬ方向に進んで行った。

 その日、朝早くから冒険者ギルドに依頼を探しに行っていた三人が血相を変えて家へと戻ってきた。そろそろ仕事場に行こうかと準備をしていたダナイは突然帰ってきた三人に驚いた。

「おい、一体どうしたんだ。何かあったのか?」
「大変だよ。西の砦に魔物が押し寄せているらしい。ギルドで砦の防衛任務が発令されたんだ。国の緊急事態だからCランク以上の冒険者は参加しないといけないんだよ」

 アベルが早口で言うと部屋に戻り出発の準備を始めた。
 これはどうやら西の魔境の森から魔物が溢れ出たみたいだな。定期的に討伐はしていたが、それでも抑えきれないほどの数に達したのだろう。

「リリア、師匠のところに挨拶に行ってくる。準備を頼んでも構わないか?」
「もちろんよ。気をつけて行ってらっしゃい」

 リリアの顔にも緊張の色が見られたが笑顔で見送ってくれた。師匠のゴードンに話すと随分と驚いた様子だったが「西の砦が突破されるとまずい。すまないがダナイ、頼んだぞ。何、心配はいらん。こっちはこっちで仕事を進めておくよ」と確かに請け負ってくれた。

 家に戻ると準備はすでに終わっているようだった。そろって冒険者ギルドに向かうと、そこにはすでに多くの冒険者でごった返していた。アランが拡声器を片手に指示を飛ばしていた。


 防衛任務が発令された砦は領都の西に位置していた。ここが突破されると、次は領都である。何としてでも守り抜かねばならない、と領都にたどり着いたイーゴリの街の冒険者達に領主のライザーク辺境伯は檄を飛ばした。
 領都の冒険者達はすでに西の砦に向かっていた。万が一に備えて領都の兵士を砦に向かわせることができない。よろしく頼む、とのことだった。

 グレードの低い揺れを抑えた馬車はすでに何台か作られており、それらを移動に使わせてくれた。そのお陰で体への負担は少ない状態で砦に着くことができた。

「冒険者の諸君、良く来てくれた。私がこの砦を任されているランナルだ。魔物の襲来がどれほど続くかは分からないが、必ず我々が勝つ。どうか力を貸してくれ」

 短いがランナルの言葉にはこの砦を何としてでも守り抜かねばならないという思いが込められていた。
 何故こちらに魔物が向かってくるのかは現在のところ分からなかった。しかし、魔境から流出した魔物は倒さねばならない。

 砦のすぐ近くにはイーゴリの街より一回り小さな町があったが、度重なる魔物の襲来に怯えた市民がすでに避難を始めているとのことだった。補給物資は領都から途切れることなく送られてくるだろうが、日用品などは手に入りにくくなるかも知れない。

 砦に到着した冒険者達には近くの宿が準備されていた。その宿から交代で見張りや討伐に向かうことになるらしい。

「四人部屋だが悪くはないな」
「そうね。お風呂はないみたいだけど、私達には浄化の魔法や、浄化の魔道具があるから何とかなるわね。さて、いつになったら家に帰れるかしらね」

 リリアは長期戦を覚悟しているようだった。挨拶を交わしただけではあったが、砦の兵士達には疲れの色が見えた。どうやらすでに彼らは長期戦になっているようであり、それは終わりが見えないことを意味していた。

「何か原因があるのかな?」

 アベルが疑問を投げかけた。部分日食はすでに終わっている。もし日食と魔物の増加に関係性があるのなら、そろそろ鎮まってもいいはずである。

「そうだな、こんな仮説はどうだ? 定期的に魔物を討伐していたと言っても、それは外縁の魔物がほとんどだった。しかし、魔境の森の奥地ではたくさんの魔物が増え続けていた。その奥地にいた魔物が何かの刺激によって砦へと引っ切りなしに襲いかかってきている」
「ありえそうで嫌な話ね。奥地の魔物をこちらへと駆り立てているのは、奥地にすむドラゴンだった、とかね」

 リリアが意見に賛同して不吉なことを言った。アベルとマリアもこわばった表情になっている。

「それで、西の森にはドラゴンがいるのか?」
「聞いたことはないわね。ドラゴンじゃない別の何かがいるのかしら?」
「ますます嫌な話だな」

 ドラゴンに近しい何か。そんなものがいるのかは分からないが、もしそんなものが現れたらと思うとゾッとした。

 
 砦の防衛に着いた初日、さっそく森の中から大量の魔物が押し寄せた。
 
「おうおう、来なすった来なすった。中々の数じゃねぇか」

 眼下には緑色のゴブリンの大群が森の中から這い出てきていた。砦の兵士や冒険者達は見慣れているとばかりに弓矢での攻撃を始めた。

「ゴブリンばっかりね。良くもまぁ、あれだけ増えたわね。弱いからいいけど、さすがにあの数だと囲まれるとまずいわよ。気をつけて」

 腰のホルダーから魔法銃を引き抜きながらマリアが言った。そう言いながらも、その目は爛々と輝いていた。獲物を見つけた狩人のような瞳である。
 
「分かってるよ。でも俺だけ遠隔武器が無いんだよね」

 アベルが悲しそうな顔でこちらを見ている。とりあえず目は逸らしておいた。あの捨てられた子犬のような目で見つめられると、新しく魔法銃を作ることになりかねない。

「まあまあ。もっと砦まで奴らが近づいてくればきっと出番もあるわよ」

 そう言いながらマリアは魔法銃を連射し、次々とゴブリンを魔石に変えていた。ハッキリ言ってメチャクチャ目立っていた。弓矢勢も頑張ってはいたが、明らかにマリアの方が殲滅力が高かった。方々から「さすが魔弾のマリア」と声が上がっていた。

 それを聞いてマリアは上機嫌になっていたが、一方のアベルは口を尖らせていた。俺もアレが欲しい、と言い出すのは時間の問題かも知れない。

「ダナイ、私達もやるわよ」

 マリアの活躍に口を尖らせたのはアベルだけではなかったようだ。何故かリリアまでマリアをライバル視し始めたようだ。正直、俺にはどうでもいいのだが……。

 リリアは小さなタクトを握っている。大人げなく本気でやるようである。子供か。そう思いながらも、これ以上、砦の防衛隊に負担をかけるわけにはいかず、参戦することにした。

「アイシクル・ブリザード!」

 砦と森の間に一面氷の世界が広がった。氷ついたゴブリンは次々と光の粒に変わっていった。それでも森の奥からはその氷の上をツルツルと滑りながらゴブリン達が進んできた。

「凍った地面を溶かすのは俺の役目だな。任せとけ。ダナイ忍法、火遁、火の鳥!」

 前回は辺り一面を灼熱地獄に変えてしまったので、今回は自重することにした。これならこの辺りは熱くはならない。とても安全でクリーンな魔法になっているはずだ。

 魔法によって生み出した巨大な火の鳥は縦横無尽に飛び回り、次々とゴブリンを光の粒へと変えていった。その様子を砦の上から多くの人達が口を開けて見ていた。

「ちょっとダナイ、何よアレ!?」
「どうだ、可愛いだろ?」
「え? いや、確かに可愛い気もする……じゃなくて!」
「ダナイ、わたしの出番が無くなったじゃない! どうしてくれるのよ」

 理不尽なことにリリアとマリアに怒られた。こうして俺達の砦の防衛戦が始まったのであった。
 初日から多くの注目を集めながら。
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