伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

文字の大きさ
77 / 137
第四章

新馬車の旅

しおりを挟む
 目の前に、見渡す限りの森が見えて来た。これがうわさに聞く大森林のようである。まだ入り口にも入っていないが、これまでの森とは何かが違う雰囲気だった。

「リリア、大森林はイーゴリ南の森と全然違うな」

 馬車を運転しながら、御者台の後ろでマリアと戯れているリリアに話かけた。
 
「そうね、全然違うわね。イーゴリ南の森は魔物がたくさん生息しているけど、大森林は最深部近くにまで行かないと、それほど魔物がいないのよ」

 そう言うとリリアは俺の隣へと移動してきた。その手は早くも俺をモフり始めている。
 
「それほど、と言うことは、この辺りでも魔物が出ることがあるんだな」
「そう言うことよ。油断はしないで」

 リリアの言葉にうなずいた。大森林を見て、何だが森林浴をしているようなすがすがしい気持ちになっているのは、魔物が少ないせいのようだ。どうやら魔物は、姿が見えなくてもその辺りに存在するだけで、嫌な空気を出すようだ。

 それを聞いたマリアは、のんきに寝ていたアベルをたたき起こしていた。

「アベル、そろそろ大森林に着くわよ! 起きなさい! 起きないとイタズラしちゃうわよ」

 マリアのイタズラ、興味があります。振り返ろうとした俺を、リリアが止めた。

「ちょっとダナイ。脇見運転は良くないわ。たとえ松風に運転を任せられると言ってもね。それともダナイ、私にイタズラされたい?」
「されたいです!」

 そう答えたが運の尽きだった。それからしばらく、俺はリリアに散々モフられた。そうだよね、そうなるよね。

「ここが大森林か。今まで行ったことがある森とは全然違うね。ここからどうするの?」

 アベルがこれからの道順をリリアに聞いている。今、御者台に座っているのはリリアとアベルだ。

「この道をまっすぐ進むのよ。そうしたら、小さな湖に突き当たるわ。まずはそこまで行きましょう」

 大森林はとても広いそうだが、どうやらこの辺りはリリアが良く知っているようである。王都のギルドマスターが俺たちを頼ったのは、そう言うことも考慮していたからのようである。

 湖までの途中、マリアの狙撃訓練も行った。これは食料調達もかねている。野生動物を狩って、新鮮なお肉をゲットしようという算段である。
 ここに来るまでには、すでに何泊か車中泊をしている。今でこそみんな慣れたが、最初は「こんな快適な旅はありえない」と言われた。そう言われると、みんなで知恵を出して馬車を作った価値があったと言うものだ。帰ったらみんなに聞かせてやろう。
 
 マリアの狙撃の腕前はかなり上がっているようであり、動きながらの命中精度も問題なかった。あっという間に、遠くに見えていたシカを仕留めた。

「良くやったぞ、マリア。それじゃちょっとシカを引っ張ってくるぜ」
「俺も行くよ、ダナイ」

 首尾良くシカをゲットした俺たちは、日が傾く前にリリアが言っていた湖までたどり着いた。

「うん、おかしいわ」
「何がだ、リリア?」
「馬車の進む速さよ! 一日で湖までたどり着くとは思わなかったわ」

 むう! と口をとがらせる。いや、俺のせいじゃないのでは? ……いや、俺のせいか?

「まぁ、良いじゃないか。速いことに超したことはないだろう?」
「それはそうだけどね……」

 なおもリリアは納得していない様子だったが、夕食の支度ができたようである。もちろん、さっき捕ったシカがメインである。

「ここからはどう進むんだ?」

 隣でシカ肉をモグモグしているリリアに尋ねる。話しかけるタイミングを間違えた気がしたが、気にせずに答えてくれた。

「今は日が暮れたから見えないけど、この場所から山が見えるわ。そこが目的地の青の森よ。明日の朝見れば、きっと青の森と呼ばれる意味が分かるはずよ」

 リリアはニッコリとほほ笑んだ。しばらくぶりに大森林に帰ってきたとは言え、やはり故郷に帰って来たことで、気分も良くなっているのだろう。何となくテンションが上がっている気がする。

「明日の朝が楽しみね。ねぇ、魔物が襲ってこないんだから、夜警は要らないんじゃないの?」

 マリアが首をかしげて聞いてきた。その問いに、苦笑いをしながらアベルが答えた。

「ダナイの退魔の付与は魔物にしか通用しないんだよ。野盗とかがきたらどうするんだよ」
「それもそうね。ねぇ、ダナイ。野盗も寄りつかなくなるような付与はないの?」
「おいおい、そんな都合の良いもの……」

 うん、あるな。一定範囲内に許可なく立ち入ったモノを黒焦げにする「炎の壁」の付与が。これだと、敵意のない相手も無差別に攻撃することになるから、使うのは難しいだろうな。
 近づいただけで問答無用で灰にするとか、どんだけだよ。触るモノみな傷つけたってレベルじゃねぇぞ。全てを灰にしてくれるわ! って感じだな。

「あるにはあるが、使い所が難しいな」

 一応、正直に話す。リリアの耳に入れておけば、何かの弾みで作る必要が出たときに、怒られるまでの敷居が低くなるはずだ。
 チラリとリリアを見ると、ジットリとした目でこちらを見ていた。そうとも知らず。

「えええ! あるなら使おうよ! 楽しようよ~!」

 マリアがおねだりをしてきた。しかしここで折れると非常にまずいので、キッパリと「この話はまた今度な」と言っておいた。そんなに残念そうな顔をするな。こちらはまた土の上で正座させられるかも知れないんだぞ。

 夜警の当番は、俺とアベルが交代で行っている。女性陣にはなるべく負担をかけないようなシステムを採用している。大森林のことを良く知るリリアは、移動のときは常に起きていてもらった方が良い。マリアは一人では夜警ができない。

 そのため、夜警は二人で行っている。え? 何でマリアができないのかって? 初日に試しにやったときに、すぐに眠りについてしまったからだ。これではちょっと任せられない。

 本当は練習させた方がいいのだろうが、アベル曰く、「マリアは寝つきが良すぎるので多分無理」とのことだった。これを聞いたマリアはもちろん黙っていなかったが、「昼間の移動中の方が危険なので、そっちに力を貸して欲しい」と言って何とかおさめた。
 まぁ、今のところこの体制で何の問題もないので、このままで行きたいと思う。

 今夜の番はアベルから。どちらが先になるかは、その日の疲れ具合による。基本的にドワーフの俺は疲れないので、アベルの都合を優先している。
 そんなわけで、俺たちはアベルに任せて、馬車へと乗り込んだ。

「うーん! この背もたれを倒すと平らになるソファーは最高ね。ベッドで寝るのと遜色ないわ」

 うれしそうにマリアは横になった。この馬車は二人なら十分に寝られるスペースが確保されていた。三人同時に眠ることもできなくはないが、横幅のある俺が寝ると、非常に狭くなる。そのため、俺は自分専用に寝袋を作っていた。

 最初こそ、寝袋を装着したミノムシ状態を笑われたものだが、今では見慣れた景色になっていた。俺は寝袋を手に持つと、いつものように御者台へと向かった。

「ねぇ、ダナイのその寝袋、本当に寒くないの?」
「何だリリア、興味があるのか? 試しに入ってみるか?」

 こんなオッサンが愛用している寝袋だ。自分で言うのも何だが、若い子が使うのは微妙だと思う。しかし、リリアはやはりリリアだった。

「そうね。ちょっと試してみようかしら?」

 思わずギョッとしてリリアを見た。それを気にすることもなく、寝袋に入るリリア。そして何か……匂いを嗅いでる?

「うん。中々良いわね。今度借りようかしら?」
「いや、待った。俺の寝床はどうするの?」

 それもそうね、と寝袋に入ったまま考え込むリリア。まさかそんなに気に入るとは……。念のため、今度みんなの分も作ろうと思う。折りたためばかなり小さくなるし、それほど荷物もかさばらないだろう。

「それじゃ、青の森の集落に泊まるときに貸してちょうだい」
「ああ、それなら構わないが……」

 俺の返事に納得したのか、名残惜しそうにリリアがゴソゴソと寝袋からはい出してきた。


 夜が明け、空がだんだんと赤みを帯びてきた。雲はいくつか浮かんでいるが、黒い雨雲はなさそうである。昨晩は特にトラブルが発生することはなかった。
 朝食の準備をしていると、リリアが起きてこちらへとやって来た。

「おはよう、リリア」
「おはよう。朝食は私たちがするからいいって、いつも言ってるのに」
「いいんだよ。俺が好きでやっているだけだからな」

 まったく、と言いながらもリリアが隣に寄り添ってきた。できたてのハーブティーをリリアに渡す。それをウットリとした様子で飲んだ。

「ありがとう。おいしいわ。そう言えば、そろそろ見えるかしら?」

 リリアは湖の方向を指差した。それを目で追おうと、その先に青い山脈が見えた。比喩ではない。本当にその山に生えている木々が青い葉を茂らせているのだ。

「あれが青の森……何であんな色をしてるんだ?」
「詳しくは分からないけど、地中のミスリルが原因の一つじゃないかって言われているわ」
「それじゃ、あの山にミスリル鉱山があるのか」

 リリアは静かにうなずいた。
 その後しばらく、俺とリリアは無言でその景色を見つめていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...