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第四章
いざ、エルフの国へ
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数日後、無事に冒険者専用馬車が完成した。
良い仕事をしたな、とプロフェッショナルたちと共に朝日の下で腕を組んで立っていると、リリアたちがやってきた。事前に、みんなに馬車が完成したことを伝えておいたからだ。
「ダナイ、これが俺たちの馬車なんだね。でも、普通の馬車だよね?」
「ほんとだ! どう見ても、普通の商人のおじさんが使うような馬車にしか見えないよ」
マリアにも普通の馬車に見えるようだ。重畳、重畳。そう思わせるのが目的である。目立つ馬車にしておいて、絡まれると厄介だからな。
確かに見た目は、ただのほろつきの荷馬車である。しかしその性能は、長旅をしても体への負担が最小限になるように特化してあるのだ。
まずは道中。尻が痛くならないように、衝撃吸収性能は完璧にしてある。全てのタイヤに独立したバネを組み込んであり、馬車本体にもいくつも板バネが組み込んである。タイヤはもちろん、クッション性に優れた沼ガエルの皮を使っている。これで悪路もバッチリ、リリアの柔らかい尻もそのままだぜ!
骨格は丈夫な魔鉱を惜しげもなく使い、屋根全体を覆っているほろは、ちまたで大人気の防水性のある布を使っている。何でもスライムを特殊加工して塗っているそうだ。そのお陰で、水も汚れもはじくという優れものだ。ただし、火には耐性がないので、布地にひそかに火耐性の付与をつけておいた。抜かりなし。
車体は耐久性のある木を使っている。本当はトレント木材にしたかったが、さすがに金額が跳ね上がるので断念せざるを得なかった。その分、耐久力向上の付与を仕込んである。我に抜かりない。ただし、付与については、申し訳ないがみんなにはナイショだ。どこでどのように飛び火するかも分からない。みんなの安全を確保するためにも、慎重にならざるを得ない。
「二人とも。ダナイが、いえ、違うわね。この人たちが普通の馬車を作っていると思う?」
一人リリアはけげんそうな顔をしていた。
う、俺たちって、そんなに信頼されてないのか? いや、これは別の意味で信頼されていると言っても良いのかも知れない。ちょっと傷つくけど。
「まぁまぁ。とりあえず、中に入って見てくれよ」
早速三人を馬車の中にご招待した。職人たちは得意げに馬車の機能を説明していた。そのたびに、「すごい! 信じられない!」と声が上がっていた。四人で移動するなら、この馬車で十分だろう。それだけ十分な設備がこの馬車には備わっていた。
「良くこんな馬車を思いつくわね。これ、うわさになると、大変なことになるんじゃないの?」
「そのための偽装さ」
笑顔でサムズアップをキメる俺に、リリアは深いため息で応えた。アベルとマリアはまだキャーキャー言って騒いでいる。元気だな。
「あとはこの馬車を引く馬が必要ね。手頃な馬があればいいんだけど……」
「フッフッフ、心配は要らないぞ、リリア。俺に良い考えがある」
ニヤリと笑って見せた。リリアの顔が明らかに引きつった。なんでや。
「私には、何だか良くない考えのように思えるのだけど、気のせいかしら?」
「気のせいだよ、気のせい。まあ、俺に任せて、そこで黙って見ているといい」
少し広めの空き地に移動すると、魔力を集中させた。イメージは、戦国武将の前田慶次の愛馬、松風だ。『ワールドマニュアル(門外不出)』で調べたところ、魔力を与えることで魔法生物を作り出すことができるらしい。
確かに、死ぬと魔石になる魔物がいるような世界だ。その逆に、魔石が魔物に、魔力が生き物になってもおかしくはないだろう。多分。
「ダナイ忍法、口寄せ、松風の術!」
相変わらずの適当な忍法だが、口寄せの術は普通に漫画で表現されていたはずだ。何の問題もない。名前を呼んだのは、その方が強くイメージできそうだったからだ。
それが良かったのか、悪かったのか、俺には分からない。目の前に、茶色の毛並みをした、堂々とした体軀の馬が出現した。
「や、やったか!?」
「ちょっと、ダナイ! あなた一体、何をしたか分かっているの!?」
ダメでした。
血相を変えたリリアが速攻でつかみかかってきた。今もガクガクと俺の体を前後に揺さぶっている。リリアにこんなパワーがあったなんて、驚きだ。
「ちょ、リリアが力強い。どこにそんなパワーが……!」
「驚いている場合じゃないわよ、あなた!」
俺たちが騒いでいることに気がついたのだろう。どうした? という声と同時に、何だこれは! と驚愕の声も上がった。どうやらみなさん、召喚魔法はご存じないらしい。
「ダナイ、この馬、どっから出てきたの? かわいい!」
マリアにとっては、このいかつい松風がかわいく見えるらしい。こりゃアベルは、マリアビジョンで見ると、いつも尻尾振ってついてくるチワワとして見られているな。残念。
「ダナイこれ、馬? だよね?」
なぜ疑問符がつくのか。アベルを小一時間問い詰めたい衝動に駆られたが、それはあとにしておこう。少々良く見る馬よりかは大きいが、れっきとした馬である。
少なくとも俺は、そのつもりで松風を呼んだ。
『こんにちは、みなさん。松風です』
その巨体からは似つかわしくない、トーンの高い声で挨拶をしてきた。今にも「はにゃ!」とか言いそうな声だ。
しかし、魔法生物はしゃべるのか。魔物はしゃべらなかったから、ちょっと意外だな。これはちょっとまずいかも知れない。
「し、しゃべったー!!」
大騒ぎになった。こればかりは、さすがに俺のせいかも知れない。
俺は今、リリアの前に正座させられている。しかも、地面の上だ。いくらドワーフの皮膚が厚いからと言っても、さすがに下に石があると痛い。
「それでダナイは、この松風に馬車を引いてもらうつもりなのね」
「左様でございます」
どうしたものかとリリアは頭を抱えている。その後ろでは、アベルとマリアが代わる代わる松風に乗って、風を切って走り回っている。俺もそっちに行きたい。
チラチラそれを見ているのに気がついた様子のリリア。半眼でにらみつけてきた。そんな顔をしていても魅力的だなんて、ちょっとズルイと思う。ドキドキするね。俺の中の違う扉が開きそうな気がする。
「ダナイ、反省してる?」
「反省してます」
なおもあきれた様子で見つめてくるリリア。視線が痛い。そのとき、助け船がやって来た。
「ダナイ、松風に馬車を引いてもらうんだよね? 松風もそのつもりだって言ってるよ」
「おお、そうか。ほらリリア、松風もオッケーって言ってるんだ。特に問題はないだろう?」
「問題だらけだけど、仕方がないわね。詳しい話はあとでゆっくりと聞かせてもらうわ」
やだ、リリアちゃんの声が冷たい。背筋が凍りそう! 師匠や他の職人たちも、もう気にしていないようである。今は松風に乗せてもらってご満悦である。
「ダナイ、この馬なら大丈夫だ。一頭立てでいけるぞ。二頭必要かと思っていたが、要らぬ心配だったな」
男たちは笑う。自分たちの浪漫を詰め込んだ馬車が、立派な馬に引かれて進んで行くその姿は、輝かしい光景に違いなかった。
こうして準備が整った俺たちは、一路、「青の森」へと向かうことにした。
「それじゃ、師匠、行ってきます」
「気をつけて行ってくるんだぞ。間違っても無理はするなよ」
「もちろんですよ。家族を危険な目に遭わせるようなことはしませんよ」
ウンウンとうなずく師匠にあとのことは任せて、馬を走らせた。まずはイーゴリの街の東門を出て、そのまま東進して大森林に入る。そこからはリリアの指示に従って、青の森へとまっすぐに向かう。
道中に何か問題があったら、そのときに考える。ある意味成り行き任せな旅だが、正直なところ、何が起こるのか分からない。その時々で最善の選択をするしかなかった。
馬車は無事に東門を抜け、大森林へと向かって快調に進んで行った。
「すごいね、この馬車。全然揺れないんだけど」
「ほんとほんと! 風が気持ちいい!」
馬車の後ろでアベルとマリアがはしゃいでいる。どうやら天窓から頭を出しているようである。この馬車の天井には、万が一魔物が襲ってきたときにマリアが狙撃できるように天窓が設けてあるのだ。
道中のどこかで、狙撃訓練をする必要があるかも知れない。動きながらの狙撃は難しいだろうからな。
「二人とも楽しそうね」
御者台には俺とリリアが座っている。リリアには乗馬や御者の経験があった。何でも、リリアの部族では馬に乗る能力は必要だったそうである。そのため、馬の世話や扱い方には非常に慣れていた。
しかし、松風は話せるし、人の言葉も分かる。特に馬を御する知識がなくとも、どうにでもなった。「おかしい、絶対におかしい」とリリアがブツブツと言っていたが、そういうものだと受け入れて欲しい。
「ああ、喜んでもらっているみたいでうれしいよ。あとで二人にも御者を教えないといけないからな。それまでは好きにするといいさ」
「まあ、そうね。でも、教えることなんて、ほとんどないけどね……」
リリアは遠い目をしている。やっぱり口寄せの術はまずかったか。だが、頼りになる馬が必要だったのはまぐれもない事実。俺は後悔も、反省もしていないぞ。
良い仕事をしたな、とプロフェッショナルたちと共に朝日の下で腕を組んで立っていると、リリアたちがやってきた。事前に、みんなに馬車が完成したことを伝えておいたからだ。
「ダナイ、これが俺たちの馬車なんだね。でも、普通の馬車だよね?」
「ほんとだ! どう見ても、普通の商人のおじさんが使うような馬車にしか見えないよ」
マリアにも普通の馬車に見えるようだ。重畳、重畳。そう思わせるのが目的である。目立つ馬車にしておいて、絡まれると厄介だからな。
確かに見た目は、ただのほろつきの荷馬車である。しかしその性能は、長旅をしても体への負担が最小限になるように特化してあるのだ。
まずは道中。尻が痛くならないように、衝撃吸収性能は完璧にしてある。全てのタイヤに独立したバネを組み込んであり、馬車本体にもいくつも板バネが組み込んである。タイヤはもちろん、クッション性に優れた沼ガエルの皮を使っている。これで悪路もバッチリ、リリアの柔らかい尻もそのままだぜ!
骨格は丈夫な魔鉱を惜しげもなく使い、屋根全体を覆っているほろは、ちまたで大人気の防水性のある布を使っている。何でもスライムを特殊加工して塗っているそうだ。そのお陰で、水も汚れもはじくという優れものだ。ただし、火には耐性がないので、布地にひそかに火耐性の付与をつけておいた。抜かりなし。
車体は耐久性のある木を使っている。本当はトレント木材にしたかったが、さすがに金額が跳ね上がるので断念せざるを得なかった。その分、耐久力向上の付与を仕込んである。我に抜かりない。ただし、付与については、申し訳ないがみんなにはナイショだ。どこでどのように飛び火するかも分からない。みんなの安全を確保するためにも、慎重にならざるを得ない。
「二人とも。ダナイが、いえ、違うわね。この人たちが普通の馬車を作っていると思う?」
一人リリアはけげんそうな顔をしていた。
う、俺たちって、そんなに信頼されてないのか? いや、これは別の意味で信頼されていると言っても良いのかも知れない。ちょっと傷つくけど。
「まぁまぁ。とりあえず、中に入って見てくれよ」
早速三人を馬車の中にご招待した。職人たちは得意げに馬車の機能を説明していた。そのたびに、「すごい! 信じられない!」と声が上がっていた。四人で移動するなら、この馬車で十分だろう。それだけ十分な設備がこの馬車には備わっていた。
「良くこんな馬車を思いつくわね。これ、うわさになると、大変なことになるんじゃないの?」
「そのための偽装さ」
笑顔でサムズアップをキメる俺に、リリアは深いため息で応えた。アベルとマリアはまだキャーキャー言って騒いでいる。元気だな。
「あとはこの馬車を引く馬が必要ね。手頃な馬があればいいんだけど……」
「フッフッフ、心配は要らないぞ、リリア。俺に良い考えがある」
ニヤリと笑って見せた。リリアの顔が明らかに引きつった。なんでや。
「私には、何だか良くない考えのように思えるのだけど、気のせいかしら?」
「気のせいだよ、気のせい。まあ、俺に任せて、そこで黙って見ているといい」
少し広めの空き地に移動すると、魔力を集中させた。イメージは、戦国武将の前田慶次の愛馬、松風だ。『ワールドマニュアル(門外不出)』で調べたところ、魔力を与えることで魔法生物を作り出すことができるらしい。
確かに、死ぬと魔石になる魔物がいるような世界だ。その逆に、魔石が魔物に、魔力が生き物になってもおかしくはないだろう。多分。
「ダナイ忍法、口寄せ、松風の術!」
相変わらずの適当な忍法だが、口寄せの術は普通に漫画で表現されていたはずだ。何の問題もない。名前を呼んだのは、その方が強くイメージできそうだったからだ。
それが良かったのか、悪かったのか、俺には分からない。目の前に、茶色の毛並みをした、堂々とした体軀の馬が出現した。
「や、やったか!?」
「ちょっと、ダナイ! あなた一体、何をしたか分かっているの!?」
ダメでした。
血相を変えたリリアが速攻でつかみかかってきた。今もガクガクと俺の体を前後に揺さぶっている。リリアにこんなパワーがあったなんて、驚きだ。
「ちょ、リリアが力強い。どこにそんなパワーが……!」
「驚いている場合じゃないわよ、あなた!」
俺たちが騒いでいることに気がついたのだろう。どうした? という声と同時に、何だこれは! と驚愕の声も上がった。どうやらみなさん、召喚魔法はご存じないらしい。
「ダナイ、この馬、どっから出てきたの? かわいい!」
マリアにとっては、このいかつい松風がかわいく見えるらしい。こりゃアベルは、マリアビジョンで見ると、いつも尻尾振ってついてくるチワワとして見られているな。残念。
「ダナイこれ、馬? だよね?」
なぜ疑問符がつくのか。アベルを小一時間問い詰めたい衝動に駆られたが、それはあとにしておこう。少々良く見る馬よりかは大きいが、れっきとした馬である。
少なくとも俺は、そのつもりで松風を呼んだ。
『こんにちは、みなさん。松風です』
その巨体からは似つかわしくない、トーンの高い声で挨拶をしてきた。今にも「はにゃ!」とか言いそうな声だ。
しかし、魔法生物はしゃべるのか。魔物はしゃべらなかったから、ちょっと意外だな。これはちょっとまずいかも知れない。
「し、しゃべったー!!」
大騒ぎになった。こればかりは、さすがに俺のせいかも知れない。
俺は今、リリアの前に正座させられている。しかも、地面の上だ。いくらドワーフの皮膚が厚いからと言っても、さすがに下に石があると痛い。
「それでダナイは、この松風に馬車を引いてもらうつもりなのね」
「左様でございます」
どうしたものかとリリアは頭を抱えている。その後ろでは、アベルとマリアが代わる代わる松風に乗って、風を切って走り回っている。俺もそっちに行きたい。
チラチラそれを見ているのに気がついた様子のリリア。半眼でにらみつけてきた。そんな顔をしていても魅力的だなんて、ちょっとズルイと思う。ドキドキするね。俺の中の違う扉が開きそうな気がする。
「ダナイ、反省してる?」
「反省してます」
なおもあきれた様子で見つめてくるリリア。視線が痛い。そのとき、助け船がやって来た。
「ダナイ、松風に馬車を引いてもらうんだよね? 松風もそのつもりだって言ってるよ」
「おお、そうか。ほらリリア、松風もオッケーって言ってるんだ。特に問題はないだろう?」
「問題だらけだけど、仕方がないわね。詳しい話はあとでゆっくりと聞かせてもらうわ」
やだ、リリアちゃんの声が冷たい。背筋が凍りそう! 師匠や他の職人たちも、もう気にしていないようである。今は松風に乗せてもらってご満悦である。
「ダナイ、この馬なら大丈夫だ。一頭立てでいけるぞ。二頭必要かと思っていたが、要らぬ心配だったな」
男たちは笑う。自分たちの浪漫を詰め込んだ馬車が、立派な馬に引かれて進んで行くその姿は、輝かしい光景に違いなかった。
こうして準備が整った俺たちは、一路、「青の森」へと向かうことにした。
「それじゃ、師匠、行ってきます」
「気をつけて行ってくるんだぞ。間違っても無理はするなよ」
「もちろんですよ。家族を危険な目に遭わせるようなことはしませんよ」
ウンウンとうなずく師匠にあとのことは任せて、馬を走らせた。まずはイーゴリの街の東門を出て、そのまま東進して大森林に入る。そこからはリリアの指示に従って、青の森へとまっすぐに向かう。
道中に何か問題があったら、そのときに考える。ある意味成り行き任せな旅だが、正直なところ、何が起こるのか分からない。その時々で最善の選択をするしかなかった。
馬車は無事に東門を抜け、大森林へと向かって快調に進んで行った。
「すごいね、この馬車。全然揺れないんだけど」
「ほんとほんと! 風が気持ちいい!」
馬車の後ろでアベルとマリアがはしゃいでいる。どうやら天窓から頭を出しているようである。この馬車の天井には、万が一魔物が襲ってきたときにマリアが狙撃できるように天窓が設けてあるのだ。
道中のどこかで、狙撃訓練をする必要があるかも知れない。動きながらの狙撃は難しいだろうからな。
「二人とも楽しそうね」
御者台には俺とリリアが座っている。リリアには乗馬や御者の経験があった。何でも、リリアの部族では馬に乗る能力は必要だったそうである。そのため、馬の世話や扱い方には非常に慣れていた。
しかし、松風は話せるし、人の言葉も分かる。特に馬を御する知識がなくとも、どうにでもなった。「おかしい、絶対におかしい」とリリアがブツブツと言っていたが、そういうものだと受け入れて欲しい。
「ああ、喜んでもらっているみたいでうれしいよ。あとで二人にも御者を教えないといけないからな。それまでは好きにするといいさ」
「まあ、そうね。でも、教えることなんて、ほとんどないけどね……」
リリアは遠い目をしている。やっぱり口寄せの術はまずかったか。だが、頼りになる馬が必要だったのはまぐれもない事実。俺は後悔も、反省もしていないぞ。
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