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第四章
作戦会議
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作戦会議室には十五人程度のエルフが集まっていた。その中には武装している人たちの姿も見ることができた。おそらく彼らが捜索部隊のメンバーなのだろう。それにしても、随分と人数が少ないような気がする。
そんな風に思いながら周囲を見渡していると、ベンジャミンが今回の問題について話を始めた。
「ここにいる全員にまずは言っておきたい。今回の事件は、下手をするとエルフの国の存亡に関わってくる。ここで得た情報は極力外へと漏らさないように」
ベンジャミンの言葉にその場がざわつき始めた。
「そんなに深刻な問題なのか? 絶滅したと思っていたエンシェント・エルフの生き残りがまだいた。それだけじゃなかったのか?」
「それだけじゃないんだよ。エルフの国以外で恐ろしい流行病が起きたということはもう聞いているだろう?」
その場にいたエルフたちはうなずきを返した。
「幸いなことにエルフ族には感染者は出ていないみたいだけどな」
エルフの一人が言った。なるほど。流行病がどのような類いのものであったのかを、どうやら詳しくは知らないようである。
エルフ族は基本的に大森林から出て来ない。冒険者として外に出るエルフは例外である。そのため、外の情報が集まりにくいのかも知れない。
もちろん、外の情報をまったく集めないと言うことはないだろう。それでも、人族の国に比べると、のんびりとしているような印象を受ける。
それもそのはず。エルフの国に攻め込むとしたら、大森林を通らなければならない。そしてその大森林は自然との親和性が高い種族でないと、正しい道を示さない。
つまり、エルフ族以外の種族では道に迷ってまともに侵攻できないのだ。
この天然の要塞が、エルフの国の危機感を鈍らせている一つの要因だろう。そしてもう一つは、部族統治によって、それぞれの部族が半ば独立国家のようになっていること。
お互いの部族の牽制やら、支配地争いなどもあるだろう。みんな仲良し、ではないところもあるだろう。そうなれば、エルフ国内での情報伝達は、どんどん遅くなってゆくことだろう。
そんな事情があって、おそらくここにいるエルフたちも、流行病についての詳しい話をつかめていないのかも知れない。
ベンジャミンもそれには気がついていたようで、俺たちにもう一度、現状の説明を頼んできた。
どうやら俺たちを呼んだのは、このためでもあったようである。俺たちは代わる代わるこれまでの出来事を話した。
マリアが流行病に感染したことから、流行病に対する特効薬を作ったこと。その流行病が同時に別の国でも起きていたこと。
そして、その流行病の病原体を作ったのがエルフの国ではないかと疑われていることなどを話した。
さすがに最後の方になると、全員が深刻な顔になっていた。ある程度は知っていただろうが、どこか楽観視していたところがあったみたいである。
しかし、エルフの国の外からやってきた者に事実を聞かされて、ようやく危機感を持ったようである。
「そう言うわけなんだ。この話がエルフの国全体に広がると、どのような混乱を引き起こすか分からない。できることなら、この場にいる我々で対処したいと思っている」
「そうね。でも、いつかは真実をみんなにも話す必要があるわ」
リリアの母親が意見した。あれかな? 族長の代理としてこの場に来ているのかな? 思ったよりも権力が強そうな感じである。
「もちろんそのつもりだ。だが今じゃない。全てが明るみに出てから正しい情報を伝えることで、混乱を最小限に抑えたいんだ」
「一理あるな。少なくとも、すでに存在しないと思われていたエンシェント・エルフの遺跡がいくつも見つかっているんだ。そこに何が眠っているか分からない。勝手に漁られて、とんでもない兵器でも見つかれば、変な気を起こすヤツがいるかも知れん」
エルフ族にしてはやたらといかつい顔をしたエルフが言った。どうも、エルフ族の中にも、妙なことを起こそうとするヤツがいるらしい。どこにでもいるな、そんなヤツ。
「その通りだ。古代遺跡の調査も先に終わらせておかなければならない。それまでは慎重に行動しなければならないんだ」
ベンジャミンの訴えに、集まったエルフたちはそれぞれ首を縦に振っていた。
「事情は分かった。それじゃ、今後のことを話そう。まずは捜索部隊の話を聞くとしよう」
メガネをかけたエルフがそう言いながら、捜索隊の隊長と思われる人物を見た。隊長は小さくうなずきを返すと、捜索したときの様子を細かく語り始めた。
「古い古文書から、エンシェント・エルフがかつて暮らしていたと言われる遺跡を見つけることができた。そこから探知の魔法を使って、わずかに残っていた道をたどり、大森林の奥へと調査に入った」
その調査は非常に大変だったようである。大森林の奥地は手つかずの自然と手つかずの魔物が徘徊していた。里の近くではめったに見られない魔物も生息していて、それらの魔物を討伐しながら少しずつ進んで行ったらしい。
そうしてようやく、大森林の奥地にある岩山付近でエンシェント・エルフを発見したらしい。そのエンシェント・エルフはどうやらその岩山に住み着いているようであり、周りには粗末な建物がいくつかあるだけだったらしい。
近場に湧き水が出ている湖があったので、そこを水源として利用しているのだろうとの見解だった。
そして、その付近に何かの結界が張られているような感じがしたらしい。
「岩山にある洞穴までは見えたが、中の様子は分からなかった。俺たちが結界のようなものに触れた瞬間に、穴からエンシェント・エルフたちが這い出して来たんだ」
その様子を思い出したのか、やや青白い表情となった隊長。その光景は異様だったらしい。
「手に何か筒のようなものを持っていた。体つきは全員痩せていたよ。これが私たちの祖先なのかと疑うほど、醜い姿に変貌していた」
そこで隊長の言葉が詰まった。そのことにより、この場にいたエルフたちは明らかな動揺を見せた。醜い姿をした祖先。そんなことを認めたくはなかったのかも知れない。
「動揺はしたが、俺たちは対話を求めた。こちらに敵意はないとな。両手も上げた。武器も捨てた。だが彼らは、その筒をこちらに向けて、矢のようなものを飛ばしてきた。慌てて武器を拾って応戦しようとしたが……なぜか魔法が使えなくなっていた」
それを聞いたエルフたちは絶句した。その顔は「想像しただけでも恐ろしい」とハッキリと書いてあった。
「魔法が使えない……何か魔道具とかはなかったのかい?」
捜索部隊のメンバーはそれぞれ首を振った。
「そのようなものは一切見つからなかった。だが、岩場から離れれば魔法を使えるようになっていたので、何かしらの魔道具がどこかに設置されているのかも知れない」
「ふむ。しかし、それがどこにあるかは分からないというわけだな。これは困ったな」
フロストはあごに手を当ててうつむいた。
「その矢のようなものは一体何だったんだい? 実際に矢ではなかったのか?」
「そうだ。矢ではなかった。飛んできたものが当たった場所には何も残っていなかった。青白い塊のようなものだったよ」
「青白い塊……」
ベンジャミンが口を閉じる。そして俺たちの方を向いた。
「ダナイ、確か君たちも似たような武器を持っているそうだね? その武器も青白い塊を飛ばすことができるのかい?」
「もちろんよ。青白い塊も、炎の塊も、氷の塊も、色々な魔法を打ち出すことができるわ」
マリアが得意気に言った。それを聞いたエルフたちはみんな一様に驚いた表情をしていた。
「魔法を打ち出せる武器があるのか」
「火をまとった剣の話は聞いたことがあるが……」
どうやら魔法効果を持ち合わせた剣は存在するようである。それならば、アベルの剣に魔法効果を持たせても良かったな。基本的な魔法が使えるようにしておけば、きっと何かの役に立つだろう。
「マリア、後で実際に見せてもらっても良いかな?」
「別に構わないけど、これは絶対にあげないからね」
「分かってるよ」
ベンジャミンは苦笑しながら答えた。
うーん、マリアの魔法銃も目立ち始めてきたな。何か安全対策をとっておいた方が良いかも知れない。当然、マリアはアベルがしっかりと守るだろうが、万が一のことを想定しておいた方が良いだろう。
そうだな、俺が定期的にメンテナンスしないと使えないようにしよう。魔方陣に細工をしておけば大丈夫だろう。あの複雑な魔方陣を描けるのは俺の知識チートあってのことだし、他の人では再現できないだろうからな。
「エンシェント・エルフの武器は、おそらくダナイたちが持っている魔道具の武器と似たようなものなのだろう。未知の兵器ではない。それほど恐れる必要はないだろう」
ベンジャミンは結論づけた。
「残る問題は魔法が使えないと言うことだな。これをどうにかしなければ、エンシェント・エルフと対話もできないだろう」
フロストがそう言うと、捜索部隊のメンバーが口を開いた。
「おいおい、またあそこに行くつもりなのかよ。あんたは魔法が使えない恐怖を味わったことがないからそんなことが言えるんだよ」
どうやら捜索部隊は恐ろしい体験をしたようであり、再びあの地に行くことに否定的だった。
「君たちが言いたいことは良く理解しているつもりだ。しかし、放っておくわけには行かない。無実ならその証拠をつかまなければならない。事実なら……何としてでも問題を片付けなければならない」
フロストは沈痛な面持ちでそう言った。
そんな風に思いながら周囲を見渡していると、ベンジャミンが今回の問題について話を始めた。
「ここにいる全員にまずは言っておきたい。今回の事件は、下手をするとエルフの国の存亡に関わってくる。ここで得た情報は極力外へと漏らさないように」
ベンジャミンの言葉にその場がざわつき始めた。
「そんなに深刻な問題なのか? 絶滅したと思っていたエンシェント・エルフの生き残りがまだいた。それだけじゃなかったのか?」
「それだけじゃないんだよ。エルフの国以外で恐ろしい流行病が起きたということはもう聞いているだろう?」
その場にいたエルフたちはうなずきを返した。
「幸いなことにエルフ族には感染者は出ていないみたいだけどな」
エルフの一人が言った。なるほど。流行病がどのような類いのものであったのかを、どうやら詳しくは知らないようである。
エルフ族は基本的に大森林から出て来ない。冒険者として外に出るエルフは例外である。そのため、外の情報が集まりにくいのかも知れない。
もちろん、外の情報をまったく集めないと言うことはないだろう。それでも、人族の国に比べると、のんびりとしているような印象を受ける。
それもそのはず。エルフの国に攻め込むとしたら、大森林を通らなければならない。そしてその大森林は自然との親和性が高い種族でないと、正しい道を示さない。
つまり、エルフ族以外の種族では道に迷ってまともに侵攻できないのだ。
この天然の要塞が、エルフの国の危機感を鈍らせている一つの要因だろう。そしてもう一つは、部族統治によって、それぞれの部族が半ば独立国家のようになっていること。
お互いの部族の牽制やら、支配地争いなどもあるだろう。みんな仲良し、ではないところもあるだろう。そうなれば、エルフ国内での情報伝達は、どんどん遅くなってゆくことだろう。
そんな事情があって、おそらくここにいるエルフたちも、流行病についての詳しい話をつかめていないのかも知れない。
ベンジャミンもそれには気がついていたようで、俺たちにもう一度、現状の説明を頼んできた。
どうやら俺たちを呼んだのは、このためでもあったようである。俺たちは代わる代わるこれまでの出来事を話した。
マリアが流行病に感染したことから、流行病に対する特効薬を作ったこと。その流行病が同時に別の国でも起きていたこと。
そして、その流行病の病原体を作ったのがエルフの国ではないかと疑われていることなどを話した。
さすがに最後の方になると、全員が深刻な顔になっていた。ある程度は知っていただろうが、どこか楽観視していたところがあったみたいである。
しかし、エルフの国の外からやってきた者に事実を聞かされて、ようやく危機感を持ったようである。
「そう言うわけなんだ。この話がエルフの国全体に広がると、どのような混乱を引き起こすか分からない。できることなら、この場にいる我々で対処したいと思っている」
「そうね。でも、いつかは真実をみんなにも話す必要があるわ」
リリアの母親が意見した。あれかな? 族長の代理としてこの場に来ているのかな? 思ったよりも権力が強そうな感じである。
「もちろんそのつもりだ。だが今じゃない。全てが明るみに出てから正しい情報を伝えることで、混乱を最小限に抑えたいんだ」
「一理あるな。少なくとも、すでに存在しないと思われていたエンシェント・エルフの遺跡がいくつも見つかっているんだ。そこに何が眠っているか分からない。勝手に漁られて、とんでもない兵器でも見つかれば、変な気を起こすヤツがいるかも知れん」
エルフ族にしてはやたらといかつい顔をしたエルフが言った。どうも、エルフ族の中にも、妙なことを起こそうとするヤツがいるらしい。どこにでもいるな、そんなヤツ。
「その通りだ。古代遺跡の調査も先に終わらせておかなければならない。それまでは慎重に行動しなければならないんだ」
ベンジャミンの訴えに、集まったエルフたちはそれぞれ首を縦に振っていた。
「事情は分かった。それじゃ、今後のことを話そう。まずは捜索部隊の話を聞くとしよう」
メガネをかけたエルフがそう言いながら、捜索隊の隊長と思われる人物を見た。隊長は小さくうなずきを返すと、捜索したときの様子を細かく語り始めた。
「古い古文書から、エンシェント・エルフがかつて暮らしていたと言われる遺跡を見つけることができた。そこから探知の魔法を使って、わずかに残っていた道をたどり、大森林の奥へと調査に入った」
その調査は非常に大変だったようである。大森林の奥地は手つかずの自然と手つかずの魔物が徘徊していた。里の近くではめったに見られない魔物も生息していて、それらの魔物を討伐しながら少しずつ進んで行ったらしい。
そうしてようやく、大森林の奥地にある岩山付近でエンシェント・エルフを発見したらしい。そのエンシェント・エルフはどうやらその岩山に住み着いているようであり、周りには粗末な建物がいくつかあるだけだったらしい。
近場に湧き水が出ている湖があったので、そこを水源として利用しているのだろうとの見解だった。
そして、その付近に何かの結界が張られているような感じがしたらしい。
「岩山にある洞穴までは見えたが、中の様子は分からなかった。俺たちが結界のようなものに触れた瞬間に、穴からエンシェント・エルフたちが這い出して来たんだ」
その様子を思い出したのか、やや青白い表情となった隊長。その光景は異様だったらしい。
「手に何か筒のようなものを持っていた。体つきは全員痩せていたよ。これが私たちの祖先なのかと疑うほど、醜い姿に変貌していた」
そこで隊長の言葉が詰まった。そのことにより、この場にいたエルフたちは明らかな動揺を見せた。醜い姿をした祖先。そんなことを認めたくはなかったのかも知れない。
「動揺はしたが、俺たちは対話を求めた。こちらに敵意はないとな。両手も上げた。武器も捨てた。だが彼らは、その筒をこちらに向けて、矢のようなものを飛ばしてきた。慌てて武器を拾って応戦しようとしたが……なぜか魔法が使えなくなっていた」
それを聞いたエルフたちは絶句した。その顔は「想像しただけでも恐ろしい」とハッキリと書いてあった。
「魔法が使えない……何か魔道具とかはなかったのかい?」
捜索部隊のメンバーはそれぞれ首を振った。
「そのようなものは一切見つからなかった。だが、岩場から離れれば魔法を使えるようになっていたので、何かしらの魔道具がどこかに設置されているのかも知れない」
「ふむ。しかし、それがどこにあるかは分からないというわけだな。これは困ったな」
フロストはあごに手を当ててうつむいた。
「その矢のようなものは一体何だったんだい? 実際に矢ではなかったのか?」
「そうだ。矢ではなかった。飛んできたものが当たった場所には何も残っていなかった。青白い塊のようなものだったよ」
「青白い塊……」
ベンジャミンが口を閉じる。そして俺たちの方を向いた。
「ダナイ、確か君たちも似たような武器を持っているそうだね? その武器も青白い塊を飛ばすことができるのかい?」
「もちろんよ。青白い塊も、炎の塊も、氷の塊も、色々な魔法を打ち出すことができるわ」
マリアが得意気に言った。それを聞いたエルフたちはみんな一様に驚いた表情をしていた。
「魔法を打ち出せる武器があるのか」
「火をまとった剣の話は聞いたことがあるが……」
どうやら魔法効果を持ち合わせた剣は存在するようである。それならば、アベルの剣に魔法効果を持たせても良かったな。基本的な魔法が使えるようにしておけば、きっと何かの役に立つだろう。
「マリア、後で実際に見せてもらっても良いかな?」
「別に構わないけど、これは絶対にあげないからね」
「分かってるよ」
ベンジャミンは苦笑しながら答えた。
うーん、マリアの魔法銃も目立ち始めてきたな。何か安全対策をとっておいた方が良いかも知れない。当然、マリアはアベルがしっかりと守るだろうが、万が一のことを想定しておいた方が良いだろう。
そうだな、俺が定期的にメンテナンスしないと使えないようにしよう。魔方陣に細工をしておけば大丈夫だろう。あの複雑な魔方陣を描けるのは俺の知識チートあってのことだし、他の人では再現できないだろうからな。
「エンシェント・エルフの武器は、おそらくダナイたちが持っている魔道具の武器と似たようなものなのだろう。未知の兵器ではない。それほど恐れる必要はないだろう」
ベンジャミンは結論づけた。
「残る問題は魔法が使えないと言うことだな。これをどうにかしなければ、エンシェント・エルフと対話もできないだろう」
フロストがそう言うと、捜索部隊のメンバーが口を開いた。
「おいおい、またあそこに行くつもりなのかよ。あんたは魔法が使えない恐怖を味わったことがないからそんなことが言えるんだよ」
どうやら捜索部隊は恐ろしい体験をしたようであり、再びあの地に行くことに否定的だった。
「君たちが言いたいことは良く理解しているつもりだ。しかし、放っておくわけには行かない。無実ならその証拠をつかまなければならない。事実なら……何としてでも問題を片付けなければならない」
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