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第四章
檄おこのおこ
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パンイチでリリアに突撃したマリアは、見事にリリアにげんこつをもらっていた。
何でそんなはしたない格好をしているの、レディとして、もっと自覚を持ちなさい。
どう見てもマリアのオカンである。そして一緒にアベルも怒られていた。しょうがないよね。放置していたアベルも悪い。
だがせめて、マリアにちゃんと服を着せてから怒って欲しい。パンイチのまま正座させるのはどうかと思うぞ。
「ダナイ」
「な、何でしょうか?」
「さっきからチラチラとマリアの方を見ているみたいなんだけど?」
「え? いや、それは……」
「ケダモノ!」
ここぞとばかりにマリアが自分の両腕で体を隠した。
後で覚えておけよ。くすぐりの刑に処してやるからな。
こうして俺も二人に並んで怒られることになった。トホホのホ。
その後リリアは「私もやってみようかしら……」とボソッとつぶやいていた。
やめてくれ、リリア。そいつは俺に効きすぎる。だってリリア、紐パンしか持ってないじゃないですか、ヤダー。
「それで、それは一体何なの?」
解放されたアベルが例のポシェットを指差した。いや、それよりもだ。
「それで、リリア。どうだったんだ?」
リリアはしっかりと俺を見据えた。キリッとした表情も美しいな。俺の嫁は。
「性能は問題ないわ。でも、何が入っているのかが頭に浮かぶ機能は、私が使ったことがあるマジックバッグにはついていなかったわ」
「それじゃどうやって入っている物を探すんだ?」
「手探りで入れた辺りを探すのよ」
こうやって、と身振り手振りで教えてくれた。おいおい、何だそれは。他の人が取り出せなくなるかも知れないじゃないか。
俺の疑問が顔に出ていたのか、リリアが付け加えた。
「だから行方不明になるアイテムもたくさんあったわ。それで、貴重な物は入れてはいけないって言われていたわ。ある程度、この辺りに入れている情報は共有できるけど、このポシェットみたいに確実には取り出せないわね」
それを聞いたマリアの目が輝いた。
「じゃあ、それってマジックバッグなんだ! 使ってみたい!」
マリアがちょうだいのポーズでリリアに迫った。苦笑したリリアは、回復ポーションを異次元ポシェットに入れると、マリアにわたした。
待ちきれないとばかりに、恐れることもなくポシェットの中に手を突っ込んだ。
「おお、見える、私にも中身が見える! って言うか、頭に浮かんでくる!? 何これ、気持ち悪い」
気持ち悪いって言われた。それはそうか。そんな画面を見慣れているのは転生者の俺くらいだろう。初めて見る人には、「頭の中に浮かび上がる、奇妙な半透明の文字と枠」にしか見えないからな。
マリアからポシェットを受け取ったアベルは恐る恐る手を突っ込んでいた。そしてマリアと同じく微妙な表情をしていた。まぁ、慣れれば何とかなるだろう。最初だけさ。
「よし、それじゃ次はどのくらい入るかだな」
「よし、じゃないわよ! あなた、何を簡単に作り出したのか分かっているわよね?」
ヤバい。リリアが再び檄おこ状態になっている。ここは反省しているような雰囲気を出しておくしかない。俺は青菜に塩がかかったかのごとくシュンとした。
効果はバツグンだ。リリアはひるんだ。
「ああ、もういいわ。私の旦那様が普通じゃないことは分かっていたはずよ」
リリアは顔を左右に勢い良くブンブンと振った。
えっとこれは……あきれられたというよりかは、見捨てられたような気がする。それはそれでグサッとくるな。怒られた方が良かったのかも知れない。
そんなことを思っている俺のかたわらでは、アベルとマリアが異次元ポシェットに物を適当に突っ込んでその性能を試していた。
俺のことをまったく心配しないその様子。嫌いじゃないぜ。
「次はダナイのハンマーも入れてみよう。これ、結構重たいから何か変化があるかも知れない」
「お金もジャラジャラ~って入れてみようよ。数に限界があるかも知れないわ!」
実に楽しそうである。まるで新しいオモチャを与えられた子供である。勝手にあれこれと楽しんでいる。
「いくらでも入るみたいだね。これだけ硬貨を入れても問題ないみたい。って言うか、数字がどんどん増えてるだけだね。このバツ印の後の数字がこの中に入っている数みたいだね」
「アベル、何ですって?」
リリアが「え?」って顔をしている。そしてブリキのオモチャみたいに、ギギギと音が鳴りそうな感じでこちらを向いた。ヤダ何、怖い。
「ダナイ、一応言っておくけど、普通のマジックバッグにはそんな機能はないからね。普通のマジックバッグは全部バラバラに入るからね。分かってる?」
怖い怖い怖い! 怖い顔で迫ってくるリリアはマジで怖い!
「し、知りませんでしたすいません!」
俺はその場に全力で土下座した。
これ以上、リリアを怒らせてはならない。これ、旦那としての鉄則。
「ねえアベル、この中に入れそうなんだけど、中に入ってみてもいい?」
「え? そりゃダメだろう!?」
「ちょっとマリア、やめなさい! マジックバッグの中は時間が止まっているのよ。生き物が入ると死んでしまうわ。実証済みだから!」
慌ててリリアが止めた。そうなのか。生き物を入れると死んでしまうのか。気をつけておかなければならないな。
いや、だがちょっと待てよ。中で時間が止まらないマジックバッグを作れば、中に入ることができるのか?
もしそうならば、持ち運びできる簡易の家として使えるんじゃないか? いやいや、そんな物を作らずとも、そんな魔法を作れば良いんじゃないか? って言うか、そんな便利そうな魔法、すでにあるんじゃないのか?
俺はすぐに『ワールドマニュアル(門外不出)』で調べた。……あるな。家ではないが、部屋を作ることができる。その名もディメンション・ルーム。最初に部屋を形成するのに大量の魔力が必要だが、一度作れば、それ以降は少しの魔力で部屋に入れるようになるらしい。
しかも、ありがたいことにルームシェア可能。制作者が許可を出せば、誰でも自由に入れるようになるらしい。しかし、魔力はいる。
マリアをどうするかな~。そうだ、マリアはいつも魔法銃を持っているはずだ。それをマリア専用の鍵にしておこう。
これなら「カギなくした~」とか言わないはずだ。マリアならやりかねない。いや、絶対にマリアにカギをわたすとなくす。間違いない。
「ディメンション・ルーム」
目の前に光の扉が現れる。そして同時にゴソッと魔力が抜けたのが分かった。それほど大きな部屋をイメージしたわけではないのにこれなら、家とかイメージしたら干からびるかも知れんな。
「ダナイ、何これ?」
アベルがポカンと口を開けて聞いてきた。リリアも同じ顔をしているが、マリアだけは目を輝かせていた。
「私、分かっちゃったわ。私のために部屋を作ってくれたんでしょう?」
「残念! マリア専用の部屋じゃないんだよな~」
「えー! 何でよ! 今の話の流れなら、私専用の個室でしょう?」
マジックバッグの中に入りたい = 自分の個室が欲しい、になるのか? そんなバカな! 俺とマリアがじゃれ合っていると、リリアの怒り心頭に発する声が後ろから聞こえた。
「あなた。ちょっとそこに座りなさい。それから、これが何なのかを説明してちょうだい」
ヤバい。檄おこのおこだ。やらかした!
「ふーん、なるほどねぇ。持ち運べる家が欲しかったから、代わりに部屋を作ったねぇ。あなた?」
「浅慮だったと、今は海よりも深く反省しております」
俺は再び土下座でひれ伏した。さっきやったばかりなので、効果は今ひとつかも知れない。だが、誠意を示すにはこれしか浮かばなかった。
「まぁまぁ、リリア、ダナイを許してあげなよ。悪気があってやったわけじゃないし、俺たちが便利になれば、と思って用意したはずだからさ」
アベル、良い子! そんなアベルの助言もあって俺は許された。アベルには後でご褒美をあげないといけないな。例のスケスケメガネとかどうだろうか?
「それじゃ、入ってみてもいい?」
ワクワクを抑えきれない様子のマリアが、待ちきれないとばかりに言った。いや、逆に考えるんだ。よくここまで「待て」ができたと考えるんだ。
それだけ俺のとばっちりを食らうのが嫌だっただけかも知れないが。
「待った、マリア。まずは俺が入ろう。何が起こるか分からないからな。その魔法の責任者は俺だからな」
そう言って光の扉へと向かった。
何でそんなはしたない格好をしているの、レディとして、もっと自覚を持ちなさい。
どう見てもマリアのオカンである。そして一緒にアベルも怒られていた。しょうがないよね。放置していたアベルも悪い。
だがせめて、マリアにちゃんと服を着せてから怒って欲しい。パンイチのまま正座させるのはどうかと思うぞ。
「ダナイ」
「な、何でしょうか?」
「さっきからチラチラとマリアの方を見ているみたいなんだけど?」
「え? いや、それは……」
「ケダモノ!」
ここぞとばかりにマリアが自分の両腕で体を隠した。
後で覚えておけよ。くすぐりの刑に処してやるからな。
こうして俺も二人に並んで怒られることになった。トホホのホ。
その後リリアは「私もやってみようかしら……」とボソッとつぶやいていた。
やめてくれ、リリア。そいつは俺に効きすぎる。だってリリア、紐パンしか持ってないじゃないですか、ヤダー。
「それで、それは一体何なの?」
解放されたアベルが例のポシェットを指差した。いや、それよりもだ。
「それで、リリア。どうだったんだ?」
リリアはしっかりと俺を見据えた。キリッとした表情も美しいな。俺の嫁は。
「性能は問題ないわ。でも、何が入っているのかが頭に浮かぶ機能は、私が使ったことがあるマジックバッグにはついていなかったわ」
「それじゃどうやって入っている物を探すんだ?」
「手探りで入れた辺りを探すのよ」
こうやって、と身振り手振りで教えてくれた。おいおい、何だそれは。他の人が取り出せなくなるかも知れないじゃないか。
俺の疑問が顔に出ていたのか、リリアが付け加えた。
「だから行方不明になるアイテムもたくさんあったわ。それで、貴重な物は入れてはいけないって言われていたわ。ある程度、この辺りに入れている情報は共有できるけど、このポシェットみたいに確実には取り出せないわね」
それを聞いたマリアの目が輝いた。
「じゃあ、それってマジックバッグなんだ! 使ってみたい!」
マリアがちょうだいのポーズでリリアに迫った。苦笑したリリアは、回復ポーションを異次元ポシェットに入れると、マリアにわたした。
待ちきれないとばかりに、恐れることもなくポシェットの中に手を突っ込んだ。
「おお、見える、私にも中身が見える! って言うか、頭に浮かんでくる!? 何これ、気持ち悪い」
気持ち悪いって言われた。それはそうか。そんな画面を見慣れているのは転生者の俺くらいだろう。初めて見る人には、「頭の中に浮かび上がる、奇妙な半透明の文字と枠」にしか見えないからな。
マリアからポシェットを受け取ったアベルは恐る恐る手を突っ込んでいた。そしてマリアと同じく微妙な表情をしていた。まぁ、慣れれば何とかなるだろう。最初だけさ。
「よし、それじゃ次はどのくらい入るかだな」
「よし、じゃないわよ! あなた、何を簡単に作り出したのか分かっているわよね?」
ヤバい。リリアが再び檄おこ状態になっている。ここは反省しているような雰囲気を出しておくしかない。俺は青菜に塩がかかったかのごとくシュンとした。
効果はバツグンだ。リリアはひるんだ。
「ああ、もういいわ。私の旦那様が普通じゃないことは分かっていたはずよ」
リリアは顔を左右に勢い良くブンブンと振った。
えっとこれは……あきれられたというよりかは、見捨てられたような気がする。それはそれでグサッとくるな。怒られた方が良かったのかも知れない。
そんなことを思っている俺のかたわらでは、アベルとマリアが異次元ポシェットに物を適当に突っ込んでその性能を試していた。
俺のことをまったく心配しないその様子。嫌いじゃないぜ。
「次はダナイのハンマーも入れてみよう。これ、結構重たいから何か変化があるかも知れない」
「お金もジャラジャラ~って入れてみようよ。数に限界があるかも知れないわ!」
実に楽しそうである。まるで新しいオモチャを与えられた子供である。勝手にあれこれと楽しんでいる。
「いくらでも入るみたいだね。これだけ硬貨を入れても問題ないみたい。って言うか、数字がどんどん増えてるだけだね。このバツ印の後の数字がこの中に入っている数みたいだね」
「アベル、何ですって?」
リリアが「え?」って顔をしている。そしてブリキのオモチャみたいに、ギギギと音が鳴りそうな感じでこちらを向いた。ヤダ何、怖い。
「ダナイ、一応言っておくけど、普通のマジックバッグにはそんな機能はないからね。普通のマジックバッグは全部バラバラに入るからね。分かってる?」
怖い怖い怖い! 怖い顔で迫ってくるリリアはマジで怖い!
「し、知りませんでしたすいません!」
俺はその場に全力で土下座した。
これ以上、リリアを怒らせてはならない。これ、旦那としての鉄則。
「ねえアベル、この中に入れそうなんだけど、中に入ってみてもいい?」
「え? そりゃダメだろう!?」
「ちょっとマリア、やめなさい! マジックバッグの中は時間が止まっているのよ。生き物が入ると死んでしまうわ。実証済みだから!」
慌ててリリアが止めた。そうなのか。生き物を入れると死んでしまうのか。気をつけておかなければならないな。
いや、だがちょっと待てよ。中で時間が止まらないマジックバッグを作れば、中に入ることができるのか?
もしそうならば、持ち運びできる簡易の家として使えるんじゃないか? いやいや、そんな物を作らずとも、そんな魔法を作れば良いんじゃないか? って言うか、そんな便利そうな魔法、すでにあるんじゃないのか?
俺はすぐに『ワールドマニュアル(門外不出)』で調べた。……あるな。家ではないが、部屋を作ることができる。その名もディメンション・ルーム。最初に部屋を形成するのに大量の魔力が必要だが、一度作れば、それ以降は少しの魔力で部屋に入れるようになるらしい。
しかも、ありがたいことにルームシェア可能。制作者が許可を出せば、誰でも自由に入れるようになるらしい。しかし、魔力はいる。
マリアをどうするかな~。そうだ、マリアはいつも魔法銃を持っているはずだ。それをマリア専用の鍵にしておこう。
これなら「カギなくした~」とか言わないはずだ。マリアならやりかねない。いや、絶対にマリアにカギをわたすとなくす。間違いない。
「ディメンション・ルーム」
目の前に光の扉が現れる。そして同時にゴソッと魔力が抜けたのが分かった。それほど大きな部屋をイメージしたわけではないのにこれなら、家とかイメージしたら干からびるかも知れんな。
「ダナイ、何これ?」
アベルがポカンと口を開けて聞いてきた。リリアも同じ顔をしているが、マリアだけは目を輝かせていた。
「私、分かっちゃったわ。私のために部屋を作ってくれたんでしょう?」
「残念! マリア専用の部屋じゃないんだよな~」
「えー! 何でよ! 今の話の流れなら、私専用の個室でしょう?」
マジックバッグの中に入りたい = 自分の個室が欲しい、になるのか? そんなバカな! 俺とマリアがじゃれ合っていると、リリアの怒り心頭に発する声が後ろから聞こえた。
「あなた。ちょっとそこに座りなさい。それから、これが何なのかを説明してちょうだい」
ヤバい。檄おこのおこだ。やらかした!
「ふーん、なるほどねぇ。持ち運べる家が欲しかったから、代わりに部屋を作ったねぇ。あなた?」
「浅慮だったと、今は海よりも深く反省しております」
俺は再び土下座でひれ伏した。さっきやったばかりなので、効果は今ひとつかも知れない。だが、誠意を示すにはこれしか浮かばなかった。
「まぁまぁ、リリア、ダナイを許してあげなよ。悪気があってやったわけじゃないし、俺たちが便利になれば、と思って用意したはずだからさ」
アベル、良い子! そんなアベルの助言もあって俺は許された。アベルには後でご褒美をあげないといけないな。例のスケスケメガネとかどうだろうか?
「それじゃ、入ってみてもいい?」
ワクワクを抑えきれない様子のマリアが、待ちきれないとばかりに言った。いや、逆に考えるんだ。よくここまで「待て」ができたと考えるんだ。
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