伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

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第五章

エルダートレントの討伐

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 準備が整うと、俺たちはすぐにイーゴリの街を出発した。常磐の森に接している街はかなり苦境に立たされているようである。一日でも早く解決する必要があったのだ。
 そこで問題になったのが進行ルートだ。

 常磐の森の正面から進めば多くの魔物に囲まれてしまう。そのため、街とは反対側の森から俺たちは進行することになっていた。
 そしてそのルートを進むためには、王都周辺にまで移動しなければならなかったのだ。

「私たちの馬車が他の馬車よりも速いとは言え、常磐の森に到着するまで少なくとも五日はかかるわ。それまで、街の被害は大丈夫かしら?」
「なるべく早くと言われているからな。かなり街の現状は厳しいんだと思う。それでだ。近くまで魔導船で行こうと思う」
「大丈夫なの?」

 リリアが心配するのはもっともだ。魔導船を使えば、おそらく一日で常磐の森に着くことができるだろう。そしてそのままエルダートレントを討伐して、王都の冒険者ギルドに報告すると、さすがに討伐までの日数の短さに気がつくだろう。そうなると、俺たちが魔導船を持っていることがバレるかも知れない。

「エルダートレントを首尾良く討伐できたら、そのまま安全な場所で数日間過ごすことにする。これなら大丈夫だろう? ついでにその辺のトレントでも狩って素材集めでもするか」

 納得の表情を見せたリリアだが、ついでに素材集めをしようかと提案すると、渋い顔つきになった。

「トレントの素材くらいならいつでも買えるでしょ。たまにはお金を使って経済を回さないとダメよ。ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)も大事な仕事だからね」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ」

 Bランク冒険者の嗜みってやつか? それとも金持ちの道楽ということかな。とりあえずは魔導船で行くことに反論はないようである。

 俺たちはイーゴリの街を出発するとすぐに開けた場所を探した。運良くそれほど離れていない場所にちょうど良い空き地を見つけたので、そこから魔導船に乗った。


 魔導船で空を飛ぶこと半日。早くも俺たちは常磐の森の上空に差し掛かっていた。

「あれが常磐の森。イーゴリの街の南にある森と見た目は変わらない……何アレ、本当に森が動いてるよ!」

 双眼鏡を片手に周囲を警戒していたアベルが驚きの声を上げた。脇見運転ができないため見ることはできないが、船室からはリリアの驚いた声も聞こえている。

「あの動いているのは全部トレントなの。多分、エルダートレントが悪いこと考えてるの」

 エルダートレントが悪いことを考える。植物がそんなに知性を持つのか? と疑問に思っていたが、目の前の世界樹も知性を持っているので何か納得した。しかし、どのくらいの知性を持っているのだろうか。

「どうしてエルダートレントはそんなことをするんだ?」
「自分が王様だ、もっと勢力を拡大するぜ! とか、考えていると思うの」

 まじか。人間もそうだが、植物もそうなのか。長く生きるとろくなことを考えないな。とりあえず、エルダートレントの後ろに魔族の影がないようで何よりだ。油断せずに警戒を続ける必要はあるがね。

「ダナイ、十一時の方向に降りられそうな空き地があるよ」
「了解した。誘導を頼む」

 アベルの指示によって、常磐の森から少し離れた場所に降り立った。すぐに魔導船をしまうと、代わりに馬車をマジックバッグから取り出した。
 ここから森までは馬車での移動だ。松風も出してあげないと怒るだろう。そうだ、今回は松風にも同行してもらおう。ジュラを背中に乗せてもらえれば、移動が楽になるはずだ。

 イーゴリの街を出発してからその日のうちに常磐の森までやって来ることができた。日も大分暮れているので今夜は外縁部で過ごし、明日から本格的に森の中を進むことにした。
 常磐の森にはリリアも来たことはないそうである。そのため、ある程度は手探りで進むことになるかと思っていたのだが、我らには頼もしき世界樹の子、ジュラがいる。

 どうやらジュラは植物と話すことができるらしい。何というメルヘン少女。そのおかげで道に迷うことはなさそうである。

「ジュラがいてくれて助かったよ。これでエルダートレントのいる場所までは問題なく進めそうだな」

 夕食の席でジュラの頭をなでてあげた。まんざらでもなかったらしく、うれしそうな顔をしていた。それを見て、ほっこりとした表情になる我ら。

「それじゃダナイ、今日あたり、する?」
「しねぇよ!」

 せっかくの空気が台無しである。これから魔境を進むことになると言うのに、随分とお気楽なようである。まあ、場の空気が暗いよりかは断然いいか。口をとがらせたジュラを置いといて、明日に備えて早めに寝ることにした。

 風呂に入って、リリアとジュラと三人で川の字になって寝るのがいつものお決まりのパターンだ。ジュラは見た目だけでなく、精神も子供になっているのか、非常に寝付きが良かった。そしてちょっとやそっとでは起きることはなかった。

 森に入ってからはジュラの案内もあって、順調に進んでいった。馬車に取り付けてあった退魔の付与を施してある木の板を松風にくくりつけているので、魔物と遭遇することもほとんどなかった。

 それでもゼロというわけにはいかず、魔物よけがあっても寄ってくるレベルの魔物と何度か戦った。しかし、今の俺たちの相手ではない。アベルの剣とリリアの魔法でほとんどが片づいてしまっていた。

「ねえ、ダナイ。私の出番がないんだけど?」
「奇遇だな、マリア。俺もだよ」

 ちなみにジュラは戦闘をサポートする役目なので、魔物の動きを封じ込めたり、攻撃を防いだりしてかなり役に立っていた。どうやら役立たずは俺たち二人だけのようである。
 事前にある程度戦闘訓練をしていたが、ジュラがこれほどまでの力をつけてくれたのは良い誤算だった。おかげで安全に魔境を進むことができた。

 魔境を進むこと三日。ようやくエルダートレントと対面することができた。事前に冒険者ギルドから聞いていた場所からは多少離れていたため、ジュラがいなければ見つけるまでにもっと時間がかかっていたかも知れない。ジュラには本当に助かっている。

「あれがエルダートレントで間違いはないよね?」

 念のため、アベルがジュラに確認をとっている。

「間違いないの。あそこに顔がついているの」

 よく見ると、幹の中間付近に目と口のような凹凸が見える。今はどちらも閉じていて分かりにくいが、戦闘状態になると、多分開くのだろう。今は眠っているのかな?

「攻撃方法は刃物のような葉っぱを飛ばしてくることと、枝を腕のようにたたきつけてくること。枝はたくさんあるから、一つ回避しても気を抜いたらダメね」

 リリアが冒険者ギルドで説明を受けた「エルダートレントの攻撃方法」について確認をとっている。枝は切り落としていけば、相手の攻撃回数を減らすことができる。しかし、葉っぱカッターはまずい。あの大量にフサフサ生えている葉っぱを全部なくすのは至難の業だろう。

「アベル以外の全員で、アベルを葉っぱから守るぞ。アベルは本体と枝に集中しろ」
「分かった」

 最後に全員で顔を見合わせた。ジュラでさえも、緊張した表情をしている。
 葉っぱカッターの威力がどのくらいあるのかは分からないのがネックだ。最初に飛んできた攻撃は、過剰気味に防御した方が良いだろう。

 前のパーティーは不意打ちして剣が折れたらしい。その後は逃げるので必死だったらしいので、どのくらいの威力だったのかは分からない。しかし、魔鉱製の大きな盾は貫通してこなかったそうなので、それ以上の強度にすれば大丈夫というわけだ。

 ジュラ曰く、木の盾の堅さは魔鉱と同じくらい、ということだったので、多分防ぐことができるはずだ。こんなことなら、木の盾の強度を調べておけば良かったぜ。
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