伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

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第五章

それぞれの道

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 シン、という静けさがダイニングルームを包み込んだ。Bランク冒険者ならまだ良かった。Bランク冒険者ならばCランクの依頼も受けることができるからだ。しかし、Aランク冒険者になれば話は別だ。さすがにCランクの依頼を受けることはできない。

 イーゴリの街の冒険者ギルドに持ち込まれる依頼の中に、Bランクの依頼はそれほど多くない。Bランクの依頼が張り出されるのを待つのは愚策だろう。
 それならば、イーゴリの街よりも依頼が集まる領都ライザークや王都に行った方がいいだろう。

「そうね。確かにアベルの言う通りかも知れないわね。私たちはちょっと有名になりすぎたわ。領都ライザークに活動拠点を移せば、きっとライザーク辺境伯も喜んでくれるはずよ」

 笑顔でそう言ったものの、リリアも思うところがあるのか、どこか曇ったものがあった。

「もしそうなったら、リリアはどうするつもりなの?」

 リリアがどんな風に答えるのか分かっているのだろう。マリアは暗い顔をしてそう尋ねた。

「ジュラのことがあるわ。ジュラは冒険者じゃないし、まだ子供。放っておくわけには行かないわ。私はダナイとジュラと一緒にここに残るつもりよ」

 リリアはハッキリと言った。ジュラも特に否定することはなかった。それもそうか。ジュラは子孫を残すためにこの場にいるのだ。冒険者になるつもりなどないだろう。

 それでいいのか? とリリアに聞こうかと思ったがやめた。リリアの気持ちを無下にするわけには行かない。リリアがそう決めたんだ。俺はそれを尊重するだけだ。

 場の空気は悪くなってしまったが、この問題はいつまでも先延ばしにするわけには行かない。俺たちは寿命が長いが、アベルとマリアは違うのだ。いつまでもノンビリしてはいられないだろう。

 食事が終わり、腹がこなれてから三人で風呂に入った。秘密基地の風呂は少し広すぎて落ち着かない。俺にはこのくらいの、二人が入れるくらいのサイズのお風呂で十分だ。

「ダナイ、あれで良かったのかしら?」
「俺はあれで良かったと思う。いつまでも俺に頼ってばかりじゃ名を残せない。良くも悪くも、俺の名前が大きくなってしまった。今のままじゃ、アベルは本当に「ダナイと愉快な仲間たち」の一員でしかない。アベルは一旗揚げたいみたいだしな」
「確かにそうかも知れないわね」
「二人とも寂しそうなの」

 ジュラが心配そうにこっちを見ている。何か言わねば。

「そりゃあな。子供が親から離れるとなれば寂しくもなるさ。リリア、俺を選んでくれてありがとう」
「……何言ってるのよ」
「ねえ、私は?」
「ジュラも、ありがとうな」

 出会いがあれば別れもある。今生の別れと言うわけではない。そのときがきたと言うだけさ。今頃アベルたちも話し合っていることだろう。それぞれの道を歩むことになっても、親子の絆は切れないはずさ。


 翌日俺は鍛冶屋ゴードンへと向かった。アベルたちは新しい剣ができあがるまではイーゴリの街にとどまるらしい。その後は領都ライザークに向かい、ライザークの冒険者ギルドの依頼を確認しながら、場合によっては王都を目指すらしい。

 間違いなく、その間に新しい仲間を探すことになるだろう。領都や王都にはBランク冒険者もたくさんいるはずだ。Aランク冒険者は少ないかも知れないが、ここにとどまるよりかはずっと可能性がある。

「師匠、ただいま帰りました」
「お帰りダナイ。どうだった? ゴンさんは元気にしていたかね」
「ええ、元気にしていましたよ」

 世間話をしつつ、師匠には王都の北で起こったできごとを話した。師匠は信頼できるし、俺はここの設備を必要としている。隠し事はなしだ。

 俺は折れたオリハルコンの剣をゴトリと作業台の上においた。師匠の目は一瞬だけ驚きで見開かれたが、すぐに眉間にしわを寄せた。

「オリハルコンの剣が折れるとは、穏やかではないな」
「俺もそう思います。オリハルコンの剣を折る何かがいたはずです」

 俺の言葉に師匠がうなった。そんなことが起こるような事態について、考えたくないようである。俺も同じだ。できれば考えたくはない。だが、考えなければならない。向き合わなければならない。

「ダナイ、聖剣ならその何かに勝てるのかな?」
「分かりません。でもやらなければ、絶対に勝つことはできないでしょう。もし負ければ、古代文明のようにあっという間に忘れ去られてしまうことになると思います」

 師匠は大きくうなずいた。その通りだと言った。

「ダナイ、ここで使えるものがあれば、何でも好きに使ってくれ。聖剣が完成するまでの間、店は休業にするよ」
「ありがとうございます、師匠。何とお礼を言えばいいのか……」
「礼など不要だ。……頼んだぞ、ダナイ」
「任せて下さい」

 俺は力強く請け負った。

 まずはオリハルコンを溶かすところから始めなくてはいけない。俺は『ワールドマニュアル(門外不出)』に書いてあった通り、溶鉱炉の燃料としてエルダートレントの木材に火をつけると、オリハルコンの刃をその中に入れた。

 オリハルコンでできているのは刃の部分だけだった。残念ながら柄の部分は別の素材でできていた。多分ミスリルだろう。不純物が混じるのを避けるために取り外してある。
 このミスリルでリリアとジュラに指輪でも作るとしよう。これもあとで相談だな。

 青い炎が揺らめいている。しかし不思議と熱くはなかった。炎のように見えるが、実際は違うのかも知れない。もしかすると、魔力が炎のように放出されているのかも知れないな。
 その様子を師匠は無言で見つめていた。

 すでに八時間以上経過しているだろう。途中でリリアとジュラが昼食を持ってくるついでに様子を見に来たが、まだまだ時間がかかりそうだった。溶けたのは三分の一ほどだろうか。溶かすだけでも相当量のエルダートレントの薪が必要のようである。

「これは一晩かかりそうだな」
「ええ、そうみたいですね。ですが確実に溶けています。何も問題はありませんよ」

 師匠は一つうなずくと戻って行った。なるべく早く聖剣を完成させたい気持ちはあるが、焦ってはいけない。少しずつ前進して行けばいいのだ。まずは溶かしてから板状にする必要がある。

 次の日の明け方、完全に溶けたオリハルコンに逆鱗を投入した。二つはすぐに混じり合い反発することはなかった。それを確認すると型の中へそれを流し込んだ。
 これで第一段階は終了だ。剣の土台が完成した。あとはこれを、魔力を込めながらたたき出せば良いだけである。
 安堵のため息をついていると、師匠がやってきた。

「おはようございます、師匠」
「おはようダナイ。うまく行ったようだな」
「ええ、お陰様で何とかなりました」

 できあがったオリハルコンの板はすでに元のオリハルコンとは違う色をしていた。
 元々のオリハルコンの色は金色と銀色の中間色のような色だった。しかし今はどうだ。その色は驚くほど白かった。

 それを見た師匠も驚きを隠せない様子だった。もちろん俺もである。とてもではないが、金属には見えなかった。

「これが本当にオリハルコンなのか……」
「もしかしたら、もうオリハルコンではないのかも知れません」
「そうか……」

 一体どうやったのか。師匠は聞かなかった。俺も言わなかった。おそらくそれを言ったとしても、再現できないだろう。オリハルコンに竜の逆鱗、それにエルダートレントの薪。どれも手に入れるには困難な代物ばかりだ。

「ダナイ、今日はもう帰って休んだ方がいい。徹夜だったのだろう? これ以上ここにいれば、私がリリアに怒られてしまう」

 ハッハッハ、と師匠が冗談めかして言った。師匠にも随分と気を遣わせてしまった。みんなが心配しているのも事実だろう。

「分かりました。そうさせてもらいます」

 俺は頭を下げて家へと帰った。家ではリリアとジュラが食事を用意して待っていた。ジュラも料理を作るのを手伝ってくれたらしい。ちょっと形が崩れた目玉焼きがやけに美味しく感じた。
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