伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

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第五章

ここから始まる聖剣伝説

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 十分に魔力を込めたハンマーを全力で剣にたたきつける。しかし、変化するのはほんのわずかだ。しかしそれでも打ち続けなければならない。

 エルダートレントの薪はほかにも使い道があった。青い炎を出し尽くしたあとも、木炭として利用するのだ。最初は本当にそんなことができるのかと疑っていたが、どうやら木炭として使うことで、エルダートレントが生前に蓄えていた魔力を絞り尽くすことができるようだ。容赦ないな。

 こうして火床を維持するために、高級備長炭のようになった木炭を使いながら剣を整えていった。毎日限界が来るまで魔力を絞り出して家に帰る。ヘロヘロになって帰ってくる俺をみんなが心配してくれたが、立ち止まるわけにはいかなかった。

 それから一週間ほどかけて何とか形が整った。大きさはアベルが使っている剣と同じサイズだ。そしてこの剣は持ち手の部分までがすべて一体化している。T字型になった持ち手の中央部分には緑の宝玉がはめ込んである。

 もちろん、ただ単に緑の宝玉をはめ込んであるわけではない。この緑の宝玉は三日三晩、世界樹の涙の中につけておいたものなのだ。元々は輝きのない、色あせた鈍い光を放っていたのだが、今はキラキラと生命が宿ったのかと思うほど輝いている。

 できあがりつつある剣を満足そうに見ていると、リリアとジュラがやってきた。
 二人は最近、頻繁にここにやって来るようになっている。多分、と言うか間違いなく俺を監視するためだろう。

 俺が休みをとっていないことを知った二人が、俺を休ませるためにここにやって来るのだ。そして必ず、二人と一緒にお茶の時間を過ごすのだ。二人を怒らせてはいけない。そのことは身に染みて分かっている。あれはヤバかった。

「キレイね。とても同じ物とは思えないわ」
「生命力に満ちあふれているの! どうやったの?」
「え? それは企業秘密だな」

 ジュラの涙につけておいた、何て言ったらジュラがどんな顔することか。あまりいい顔はしないだろう。いや、ジュラのことだ。他の液体も試してみる? とか言いかねない。ノーサンキューである。

 俺の答えにジュラがリスのようにほほを膨らませている。それを突くとプシュっと抜けた。ますます不機嫌になった。子供か。いや、子供だったか……。

「あとどのくらいで完成しそうなの?」

 元気そうな俺を見て安心したようである。リリアが穏やかな表情で聞いてきた。ジュラもこちらを向いた。

「少なくともあと一週間はかかるな」
「少なくなかったら?」

 ジュラがあごに手を当てて意味深な表情で聞いてきた。だが俺は分かっているぞ。そのポーズに特に意味はないことは。

「……あと二週間くらいかかるかも知れない」

 リリアが半眼でこちらを見た。どうやら俺の言葉を信じていないらしい。さすがに鋭いな。納得した顔でウンウンとうなずいてるジュラとは違う。
 正直に言って、俺もどのくらいの時間がかかるのかは分からん。何せ、手探りだからな。

「分かったわ。それじゃ今しばらくはダナイが無理しないように、頻繁に顔を出すしかないわね」
「お菓子をたくさん持ってくるの」

 ジュラはうれしそうだ。どうやら世界樹は太らないらしい。そう言えばリリアも太らないな。どうなってるんだ?

 休憩が終わると研ぎの作業に入った。これは師匠の砥石があるため問題ないだろう。この研ぎの作業に多分三日はかかるはず。問題はそのあとの付与をつける作業だ。
 どうやら聖剣専用の付与があるらしい。それも長くて複雑だ。これを刻むのにどれだけの時間がかかることやら。

 この聖剣専用の付与があることを知って、付与に対しての興味がますます湧いた。
 文字を彫り込むだけで発現する特殊な効果。魔石なんかの補助もいらない。魔力も必要としない。唯一の欠点が、文字が少しでも欠けると効果を発揮しないと言う点だろう。

 そしてその欠点も、硬さに定評がある「オリハルコン」をベースにしてある聖剣なら何の問題もない。実に良くできていると思う。

 それに付与について調べている時に、実に興味深い付与を見つけてしまった。どうして神様はこんな付与を作ったのだろうか。どこかで使う可能性があったのかな? 聖剣を作り終わったら各地の伝承を集めてみるのも面白いかも知れない。

 シャコシャコ、と小気味好い音を立てながら剣を砥石で研いでゆく。この工程は切れ味を左右するとても重要な工程である。バランスを見ながら慎重に作業を進める。アベルの剣の癖は俺が良く知っている。それを考慮しながら研いでいった。

 結局研ぎの作業は五日間もかかってしまった。聖剣をなめていた。研ぐだけでも一苦労だ。貴重な砥石も大幅なダイエットに成功したようである。師匠は笑って許してくれたが、どうにも気が重い。代わりの砥石を何としても見つけ出さないとな。

 そしてついに最終工程に入った。あとは聖剣の付与を彫り進めるだけである。
 先端を針のように尖らせた鉛を青い炎にかざすと、しばらくして先端部分が青色に変わった。鉛は非常に魔力を通しにくい金属である。その金属が大量の魔力に当てられたことで、魔力を帯びたようである。

 慎重にその針を使って剣に付与を彫った。三センチくらい彫り進めたところで色が元に戻った。どうやら再び魔力をチャージする必要があるみたいだ。これは思った以上に時間がかかる作業になりそうだ。

 そんな地道な作業を続けること一週間。ようやく最後の文字が彫り終わりそうだ。これでようやく完成か、と思いながら最後の文字を刻んだ瞬間、聖剣は一際大きな光を放った。それに気がついたみんなが工房に集まってきた。

 今日で完成するだろうと言うことをアベルたちにも伝えていた。そのため、全員がこの工房に集合していたのだ。
 光が収まると、先ほど彫り込んだ文字はその形を幾何学模様に変化していた。なるほど、偽造防止か。良くできているな。

「完成したのね」
「ああ、完成だ。間違いないだろう」

 俺の手元には白い刀身に、黄金に輝く紋様が刻まれた美しい剣があった。その場にいた全員がうっとりとそれに見とれているようだった。だがまだすることが残されている。

「アベル、この宝石に血を一滴垂らしてくれ。そしたらその剣はお前のものだ」

 アベルはうなずくと、俺が言った通りに聖剣に血を捧げた。次の瞬間、聖剣はグルンと曲がったかと思うと、腕輪の形状になってアベルの左腕に巻き付いた。
 うん、どうやら間違いなく完成したようだ。

「ダナイ、これは?」
「聖剣が主としてアベルを認めたと言うことだ。アベルが願えばすぐに剣の形に戻るはずだ。さあ、試してみてくれ」

 アベルがゴクリと生唾を飲み込むのが分かった。ほかのみんなも固唾をのんで見守っている。アベルが左腕に手を伸ばすと、音も立てずに腕輪が剣の形になった。

 しかし、先ほどまでとは明らかに様子が違う。聖剣はほのかな輝きを放ちながら、力強い鼓動を発していた。
 アベルは何も言わずにジッとその剣を見ていた。成長したな。てっきりいつもの様に、はしゃぎ出すかと思ったわ。


 俺の役目は終わった。そう思うとドッと疲れが襲ってきた。思わず座り込んだところ、リリアが飛んできた。

「ダナイ、大丈夫!?」
「大丈夫だ。ちょっと力が抜けただけだよ。これでようやく一息ついたってな」

 リリアの表情が柔らかくなった。リリアも俺の事情を知っているだけに、一息ついたことだろう。心配をかけてしまったな。

「ねえ、聖剣って私にも使えるの?」

 マリアが興味津々と言った様子で聞いてきた。どうなんだろうな? 多分無理だと思うが。アベルも気になったのか、マリアに聖剣を渡そうとした。その瞬間、聖剣はアベルの腕に巻き付いた。断固拒否、らしい。あ、マリアが膨らんだ。もしかしてだけど、聖剣に嫉妬しているのか!? すごい目で聖剣をにらんでいる。どうしてこうなった。
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