伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき

文字の大きさ
46 / 48

ダンスパーティー

しおりを挟む
 ダンスパーティー本番の日がやってきた。俺は自宅から王立学園ダンスパーティー会場に向かう組なので、ただいまこの日のために用意した紳士服に袖を通しているところである。

「やっぱり似合うわ~、さすがは旦那様の息子ね」
「ああ、そうだな。私の若い頃にそっくりだ」

 ウフフ、アハハと両親が楽しそうにこちらを見ていた。鏡で見る自分の姿は、お世辞でもなく、確かにイケメン貴公子そのものだった。
 うん、これは間違いなく、モテる。ついに俺にもモテ期がきたか。まあ、大事な婚約者がすでにいるんですけどね。

「さあ、これで準備が整いましたわ。完璧ですわ」

 俺の準備を手伝っていた使用人がやり遂げたといったかのような声を上げた。左胸にはジョナサンにもらったブローチをつけている。これから行く場所は魔法を使うことはできないが、お守りとして十分に頼りになる。

「それではお父様、お母様、愛しの婚約者殿を迎えに行って参ります」

 俺は大仰に胸に手を当てて深々とお辞儀をすると、両親もそれに応えてくれた。

「未来の妻に粗相のないようにな」
「まだ手を出しちゃダメよ?」

 ちょっとお母様、その返しはなしですぞ。俺が未遂事件を起こしたことがあるみたいじゃないですか、ヤダー。

「……善処します」

 そう答えて馬車に乗り込んだ。目指すはリアが待つトバル公爵家。あっという間に馬車は到着し、心の準備を整える時間はなかった。

「リア嬢、お迎えに……」

 美しいドレスに身を包んだリアを見た瞬間、言葉が出なくなった。花の妖精のように幾重にも重なった濃紺のスカートはとても豪奢で、ところどころに宝石がきらめき、まるで星空のようである。

 胸元までは青色のグラデーションになっており、まるで夜明けの前の空のようである。惜しげもなく強調された胸元には、夜を照らす月のようなネックレスが輝いており、思わず目が留まってしまった。

 動きが止まっていたのは俺だけではなかったようである。トバル公爵夫人がリアを揺さぶって正気に戻そうとしていた。

「リア嬢、お迎えに参りました。美しい。地上に降り立った夜の女神に違いない」

 先に正気の戻った俺はリアに近づいた。ようやく正気に戻ったリアの顔が夕日を浴びたかのように赤くなった。たぶん俺の顔も夕日を浴びていると思う。うお、まぶしっ!

「フェル様も、とてもお似合いですわ。隣に立つ私が霞んでしまいそう……」
「それは絶対にないです。絶対にありません」

 キッパリと言い切った。それは絶対にない。あり得ないので二回言った。
 その場でお互いに見つめ合ったところで声がかかった。

「ほら、二人とも、早く行かないと時間に間に合いませんことよ」
「リア嬢と一緒にいれるなら、私はそれでも構いませんけど――」
「つべこべ言わずに早く行きなさい」

 お義母様に怒られた。もうこの場で十分に満足したので、ダンスパーティーに行く必要はないと思うんだが。ダンスならトバル公爵家でもできるでしょ?

 だがしかし、リアはダンスパーティーに行きたそうである。先ほどから目を輝かせて上目遣いで俺を見ている。どうやら俺のエスコート待ちのようである。
 その熱いまなざしに負けた俺はリアに手を差し出し、ニッコリとほほ笑んだ。

「それでは参りましょうか、お姫様」
「お、お姫様はやめて下さいませ。……恥ずかしいですわ」

 本当に恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして眉が垂れ下がっている。普段はきつい目つきが心なしか柔らかくなっているように見えた。
 う、リアのこんな表情が見られるなら、何度でもお姫様呼びしたい。

 俺はときめく胸を押さえながら馬車へとリアを導いた。うしろから続いた使用人が乗ると、バタンと扉が閉まる。すでに晩秋に差し掛かっているため、馬車には温かくする魔法がかけられていた。

 リアの姿を眺めているとあっという間に王立学園に到着した。お互いに無言で眺めるというどちらにもWin-Winな関係のまま馬車が停車する。いつものように外からノックされて扉が開く。

 辺りを警戒して外に出ると、ワアッ、と黄色い声が上がった。よく見ると、女性陣が俺の方をガン見している。それをどこか居心地悪く思いながらリアをエスコートする。外の女性陣の声が中まで聞こえていたのか、ちょっとムッとなっているリア。分かりやす!
 リアが外に出ると、今度は男性陣がザワザワとしだした。なに見てんだよ! ギリッ。

「フェル様、そのような顔をしてはいけませんわ。落ち着いて、いつものように振る舞って下さいませ。私はどこにも行きませんから」

 どうやら俺も顔に出ていたようである。おかしいな。ポーカーフェイスには自信があったんだけど。
 腕を差し出すと、すぐにリアが腕を絡めてきた。周りの視線は相変わらずジロジロと見られているようで居心地が悪いが、左腕が幸せだからまあ良しとしよう。

 俺たちはまず生徒会室に顔を出した。始まるまでには少し時間がある。俺たち生徒会役員はダンスパーティーの参加者であり、主催者でもあるのだ。思ったよりも忙しくなるだろうし、それぞれの動きの最終確認が必要だろう。

「来たか、フェルナンド。どうだ、俺のマリーナの……」

 殿下が固まった。俺も固まった。この二人、お似合い過ぎる。ビックリするくらいベストマッチしている。まさに光と光が合わさって最強に見える。対してこちらは闇と闇である。何か悪役っぽいな。

「殿下、マリーナ様、とてもよくお似合いですよ。ええもう、言葉を失うくらいに……」
「それはこっちのセリフだぞ。正直、驚いた。俺たちが一番だと思ったが、どうやらそう簡単に一番は取れなさそうだな……」

 お互いに男の友情を確かめ合っている間に、女性陣二人はキャッキャ言ってお互いのドレスを自慢していた。そのあとはお互いに婚約者の自慢を始めた。仲がよろしいことで。

 ダンスパーティー会場は異様な熱気に包まれていた。予行練習とは全く違う。色とりどりの蝶々が花を求めてあちらこちらへと舞っていた。
 これが夜だったら、シャンデリアに照らされて幻想的だったことだろう。来年からは夜の開催に……は難しいかな。安全面の確保が難しいだろう。

 ビラリーニョ嬢も注目を集めているようだった。特に男性陣からは熱い視線を浴びていた。それもそうか。有力な対抗馬がいなくなったのだ。自分たちにも可能性があると感じているのだろう。

 そんな男性陣を見る、女性陣の値踏みをするような視線は冷たかった。まあ、婚約者のいる俺には関係ないですけどね。

 ワルツの曲が流れ始めた。どうやら早くもダンスの時間が始まったようである。広さがあるとは言え、一度に全員が踊ることができるスペースはない。そのため、ある程度の踊る順番を決めさせてもらっていた。

 まずは当然、王立学園内で最高の身分である殿下たちだ。それに続いて、高位貴族から順に選ばれている。もちろん俺たちも選ばれている。

「リア嬢、私と踊っていただけませんか?」
「もちろんですわ。フェル様」

 俺たちは手を繋ぐと、ダンスフロアへと流れるように移動した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。 転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚! 魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

処理中です...