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ぽっちゃり系の婚約者
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魔法の先生はいまだに見つからず、お母様と一緒に魔法を練習する日々は続いていた。
そして少しだけ時が流れ、もうすぐ7歳の誕生日が近くなってきた。
6歳の誕生日には、数多くの魔法の呪文と、その魔法の効果が示された最新版の魔導書をもらった。
これが非常に有難いものであり、自分の使える魔法が一気に増えた。前世の知識と魔法によって起こる現象を置き換えてイメージすると、ほとんどの魔法を使うことができたのだ。勉強嫌いじゃなくてよかった。
もう魔法の先生はいらないんじゃないかな?と何度も言われたが、魔法の常識を知るためにも、頼れる先生もしくは師匠が必要だった。
きっと7歳の誕生日は魔法の先生だろう。聞きたいことは山ほどある。今から手帳にまとめておこう。
そう思っていた自分は、何と楽天的だったことか。
「シリウス、第二王女殿下を是非シリウスの婚約者に、との打診があった。7歳の誕生日パーティーでお披露目する予定だ」
まさに寝耳に水。晴天の霹靂だ。まさかの誕生日プレゼントが婚約者!?しかも王族!?
色々と頭を抱えたくなったが、まずはお父様に問いたださねば。
「第二王女殿下はどのような方なのですか?」
「・・・」
なぜ、黙るのか。とても悪い予感がする。
「お父様・・・?」
「いやぁ、ちょっとふくよかな王女殿下でな。性格はとてもいいらしいぞ?」
なぜ、疑問系なのか。なるほど、婚約者殿はポッチャリ系女子のようだ。
自分もポッチャリ系になっていたら並んでも違和感がないだろうが、残念なことに今の自分はスリムで大変引き締まった体をしていた。ハッキリ言って、カッコイイ。
スポーツ馬鹿だったのは転生しても変わらなかったらしく、スポーツの代わりに剣術、槍術、武術、弓術、馬術などの武芸を毎日やっていた。両親には魔法使いに必要無いのでは?と言われたが、それはそれ、これはこれである。趣味と実用は別である。まあ最近では魔法も趣味になりつつあるのだが。
「そうなのですね。早くお会いしてみたいです」
無邪気さを装って言ってはみたが、実際は早いとこ一度合って覚悟を決める必要があるのでは、と思ったからだ。
これは紛れもない政略結婚。公爵家の長子としては当然の義務だ。断ることは出来ないし、断る気もない。ならばお互いに覚悟を決めねばならないだろう。
「そうか。ではなるべく早く会うことができるように手配しよう」
お父様は深く頷いた。その目はどこか「済まない」と言っているかのようであった。
数日後、件の王女殿下が公爵家にやって来た。
自分が王城に赴くのではなく、公爵家に王女殿下がやって来たという時点で、何か曰く付きであるのではなかろうか、と考えてしまった。
王家の紋章の入った豪奢な馬車が屋敷の前に止まり、従者が頑丈な足場を馬車の前に用意した。
そして馬車の中からややポッチャリ系の王女殿下が静静と降り立った
あ、この王女殿下、見たことあるぞ。主に前世の妹のやっていた乙女ゲームの中で。
シリウス・ガーネットには婚約者がいた。その婚約は、公爵が自らの権力を高めるために結んだ政略結婚であったため、自分の思い通りにしたいシリウスはそれを拒み、父親に対する憎悪を募らせた。
数年後、積もり積もった憎悪が、魔法学校で同じ学年にいたヒロインに一目惚れしたことで爆発した。
そして、あの手この手を使って強引にヒロインを手に入れようとするのだ。
ゲームではシリウスの妨害を掻い潜りイケメン攻略対象を落とすのが目的である。
以上が、在りし日の妹が俺に熱く語ったゲームの内容である。多分合ってる、多分。こんなことならもっと真剣に耳を傾けておけば良かった。トホホ。攻略対象の名前?もちろん誰一人、覚えてないよ。
とりあえずはシナリオ通りに進んでいるということだろうか。魔王にならないためには、ヒロインに一目惚れしないこと、もしくは婚約者の王女殿下と懇ろな関係になることが鍵となりそうだ。
そのためにも今日の出会いは大切にしなければならない。
俺は覚悟を決めた。王女殿下の覚悟は如何に。
馬車から降り立った王女殿下に向かい、最高礼をとった。
「お初にお目に掛かります。シリウス・ガーネットです。以後、お見知り置きを」
そう言って王女殿下の柔らかでふくよかな手を取り、その指先に口づけを落とし、笑顔を向けた。
その途端、王女殿下の頬が朱に染まった。
おやぁ?おやおやぁ?どうやらお相手は満更でもないご様子。これはいけるぞ。
「お会いできる日を、今か、今か、と待ち焦がれておりました」
手を握ったまま数歩近づき、一気に物理的距離を詰めた。その間わずかに拳ひとつ。今度は顔が真っ赤に染まる。
「オッホン!」
お父様がわざとらしく咳をしたので、詰めた距離から仕方なく一歩下がった。
「お、お初にお目に掛かります。クリスティアナ・ジュエルでしゅ!」
真っ赤な顔でうつむいた。うーん、初々しい。自分にもそんな時代があったなぁ。
「中庭にテーブルと椅子を用意してあります。ここで立ち話するのも何ですので、そちらへ行きましょう」
王女殿下をエスコートするべく手を差し伸べた。
そこに少し震える手が添えられた。
互いに初の邂逅。早く緊張が解れれば良いのだが。
青い空に白い雲。外でのお茶会には持ってこいな天気である。
テーブルの上には色とりどりの高級菓子が用意されている。しかし、王女殿下は一切手を付けなかった。
「どうされたのですか?お気に召されませんでしたか?」
王女殿下はじっとお菓子を見ていた状態から顔を上げ、こちらへと目を向けた。
「私のことはクリスティアナと呼んで下さい。美味しそうなお菓子を用意して下さりありがとうございます」
そういいながらも、手を付けるかどうか迷っている様子の王女殿下。やはり体型を気にしているのか。
貴族社会は足の引っ張り合い。王族と言っても例外ではない。美しい体型はそれだけで高評価の対象となるのだ。
「それじゃあ、俺のこともシリウスと呼んでくれ。様はつけなくていいよ。それでティアナ、食べないのかい?」
「い、いきなり敬称呼びですの!?」
微笑みを向けながら、今度は一気に精神的距離を詰めた。
今度は全身、手まで真っ赤に染まったクリスティアナ様。
ピュワピュワだな、お姫様は。思わず笑ってしまった。
お姫様はムッとして頬を膨らませた。
「私をからかっておりますわね・・・?」
やや怒りの混じった声色で聞いてきた。
「おや、バレてしまいましたか?でも緊張はほぐれたでしょう?お互いに初めて会ったばかりですが、いずれは正式に婚約者となる者同士。少しでも早く、気が置けない関係になっておいた方がいいと愚考しました」
ハッとした表情に変わったが、どうやら震えはなくなったご様子。取り敢えずは少しお近づきできたようでホッとした。嫌われなくて良かった。
「ありがとうございます、シリウス様。ご心配をおかけしました」
「シリウス様、じゃなくて、シリウスですよ。クリスティアナ様」
「そっちは本気でしたの!?」
うん、面白い反応をするなあ、この子。
「じっとお菓子を見てましたが、遠慮なく食べていただいてよろしいですよ。私もそんなに沢山は甘いものを食べられませんからね」
「で、でも・・・」
「ひょっとして外見を気になされていらっしゃいますか?」
タブーだとは分かっている。だが彼女を諌めることも婚約者としての役目ではないだろうか。
「う・・・シリウス様が格好い、じゃなくて痩せていらっしゃるので、今のままの自分で隣に立つのは恥ずかしいと思ってしまいました」
シュンと怒られた子犬のように小さくなってしまった。きっと彼女も分かっていたのだ。だが、彼女はそれを正すことができなかったのだろう。彼女を取り巻く環境、それが原因のように思われた。これは調査が必要だな。
「なるほど、私の為に痩せたい、と!いいでしょう。私と一緒にトレーニングしてスリムな体を手にいれましょう!」
そう言って、すかさずクリスティアナ様の両手を取った。
「そ、そこまでは言っておりませんわ!」
再び顔を真っ赤にしてクリスティアナ様が抗議の声を上げたが、照れ隠しなのがバレバレだった。
「恥ずかしがらなくてもいいんだよ、ティアナ」
とびきり甘いスマイルをクリスティアナ様に向けた。
「ふぇっ!?」
これは不味い。彼女をからかうのが癖になりそうだ。
こうして「第二王女殿下クリスティアナ様、ダイエット大作戦」が決行することとなった。
まあ任せておくといい。私にいい考えがある。
次週、早くも公爵家にクリスティアナ様がやって来た。
「クリスティアナ様、どうぞこちらへ」
エスコートするべく手を差し伸べた。
「ありがとうございます。本日はどちらに?」
差し伸べられた手に自分の手を添えつつ、首を傾げて聞いてきた。
目と目が合ったとき、クリスティアナ様の青空の様に澄んだ瞳はとても美しかった。
「本日は公爵家自慢の庭を案内させていただきます」
ニッコリと微笑んでそう告げた。クリスティアナ様の顔色が若干曇り、歩くのは苦手だ、と暗に告げていた。もちろん、それも了承済みだ。
だが安心して欲しい。今の私には魔法がある。
この日のため、という訳ではないが、とある魔法を開発していた。
それは護身術と称した訓練を行っていた時の事。
5、6歳児ということもあり、訓練になかなかついていけなかった。
当然のことながら筋肉量はなく、スピードもパワーもスタミナもない。
前世の記憶がある分、モタモタとやっているのが大変もどかしく、一つの魔法を生み出した。
その魔法は電気信号を全身に送り、一時的に筋肉を刺激することで身体能力を高めることができるのだ。昔見たマンガにちなんで、オーラ、という名前の魔法にした。
魔導書には身体強化魔法は載ってなかった。風魔法で後ろから押すと早く移動できるとか、岩石を身に纏い、防御力を上げるとかはあったので、一応魔法を身体強化に使うという発想はあるようだ。。
ちなみに、オーラの魔法だけを使うと翌日の筋肉痛が半端なかったので、同時に治癒の魔法も併用している。
このオーラの魔法をクリスティアナ様に使えば、足腰が強化されるため、長い距離を歩くことができ、かつ、足腰への負担も軽減される。さらには電気信号で常に全身の筋肉を使うことになるので、かなりのカロリーを消費することができるはずだ。
談笑をしつつ、気付かれないようにそっと魔法を使った。何故ならばこの魔法は世の中に出回っておらず、世に知れた時の影響が計り知れなかったからだ。世界に変革をもたらすつもりなど毛頭ない。
オーラの魔法の効果が繋いだ手から徐々にクリスティアナ様に伝わっていくのが分かった。
どうやら上手く行きそうだ。大丈夫だとは思っていたが、強化魔法を他人に使うのは初めてだったので少し緊張した。
安堵しつつクリスティアナ様の方を見ると目が合った。どうやらあちらにも変化があったようで首を傾げていた。
だが魔法をかけた本人はポーカーフェイスを装い、何食わぬ顔で庭の散歩を続けた。
そして少しだけ時が流れ、もうすぐ7歳の誕生日が近くなってきた。
6歳の誕生日には、数多くの魔法の呪文と、その魔法の効果が示された最新版の魔導書をもらった。
これが非常に有難いものであり、自分の使える魔法が一気に増えた。前世の知識と魔法によって起こる現象を置き換えてイメージすると、ほとんどの魔法を使うことができたのだ。勉強嫌いじゃなくてよかった。
もう魔法の先生はいらないんじゃないかな?と何度も言われたが、魔法の常識を知るためにも、頼れる先生もしくは師匠が必要だった。
きっと7歳の誕生日は魔法の先生だろう。聞きたいことは山ほどある。今から手帳にまとめておこう。
そう思っていた自分は、何と楽天的だったことか。
「シリウス、第二王女殿下を是非シリウスの婚約者に、との打診があった。7歳の誕生日パーティーでお披露目する予定だ」
まさに寝耳に水。晴天の霹靂だ。まさかの誕生日プレゼントが婚約者!?しかも王族!?
色々と頭を抱えたくなったが、まずはお父様に問いたださねば。
「第二王女殿下はどのような方なのですか?」
「・・・」
なぜ、黙るのか。とても悪い予感がする。
「お父様・・・?」
「いやぁ、ちょっとふくよかな王女殿下でな。性格はとてもいいらしいぞ?」
なぜ、疑問系なのか。なるほど、婚約者殿はポッチャリ系女子のようだ。
自分もポッチャリ系になっていたら並んでも違和感がないだろうが、残念なことに今の自分はスリムで大変引き締まった体をしていた。ハッキリ言って、カッコイイ。
スポーツ馬鹿だったのは転生しても変わらなかったらしく、スポーツの代わりに剣術、槍術、武術、弓術、馬術などの武芸を毎日やっていた。両親には魔法使いに必要無いのでは?と言われたが、それはそれ、これはこれである。趣味と実用は別である。まあ最近では魔法も趣味になりつつあるのだが。
「そうなのですね。早くお会いしてみたいです」
無邪気さを装って言ってはみたが、実際は早いとこ一度合って覚悟を決める必要があるのでは、と思ったからだ。
これは紛れもない政略結婚。公爵家の長子としては当然の義務だ。断ることは出来ないし、断る気もない。ならばお互いに覚悟を決めねばならないだろう。
「そうか。ではなるべく早く会うことができるように手配しよう」
お父様は深く頷いた。その目はどこか「済まない」と言っているかのようであった。
数日後、件の王女殿下が公爵家にやって来た。
自分が王城に赴くのではなく、公爵家に王女殿下がやって来たという時点で、何か曰く付きであるのではなかろうか、と考えてしまった。
王家の紋章の入った豪奢な馬車が屋敷の前に止まり、従者が頑丈な足場を馬車の前に用意した。
そして馬車の中からややポッチャリ系の王女殿下が静静と降り立った
あ、この王女殿下、見たことあるぞ。主に前世の妹のやっていた乙女ゲームの中で。
シリウス・ガーネットには婚約者がいた。その婚約は、公爵が自らの権力を高めるために結んだ政略結婚であったため、自分の思い通りにしたいシリウスはそれを拒み、父親に対する憎悪を募らせた。
数年後、積もり積もった憎悪が、魔法学校で同じ学年にいたヒロインに一目惚れしたことで爆発した。
そして、あの手この手を使って強引にヒロインを手に入れようとするのだ。
ゲームではシリウスの妨害を掻い潜りイケメン攻略対象を落とすのが目的である。
以上が、在りし日の妹が俺に熱く語ったゲームの内容である。多分合ってる、多分。こんなことならもっと真剣に耳を傾けておけば良かった。トホホ。攻略対象の名前?もちろん誰一人、覚えてないよ。
とりあえずはシナリオ通りに進んでいるということだろうか。魔王にならないためには、ヒロインに一目惚れしないこと、もしくは婚約者の王女殿下と懇ろな関係になることが鍵となりそうだ。
そのためにも今日の出会いは大切にしなければならない。
俺は覚悟を決めた。王女殿下の覚悟は如何に。
馬車から降り立った王女殿下に向かい、最高礼をとった。
「お初にお目に掛かります。シリウス・ガーネットです。以後、お見知り置きを」
そう言って王女殿下の柔らかでふくよかな手を取り、その指先に口づけを落とし、笑顔を向けた。
その途端、王女殿下の頬が朱に染まった。
おやぁ?おやおやぁ?どうやらお相手は満更でもないご様子。これはいけるぞ。
「お会いできる日を、今か、今か、と待ち焦がれておりました」
手を握ったまま数歩近づき、一気に物理的距離を詰めた。その間わずかに拳ひとつ。今度は顔が真っ赤に染まる。
「オッホン!」
お父様がわざとらしく咳をしたので、詰めた距離から仕方なく一歩下がった。
「お、お初にお目に掛かります。クリスティアナ・ジュエルでしゅ!」
真っ赤な顔でうつむいた。うーん、初々しい。自分にもそんな時代があったなぁ。
「中庭にテーブルと椅子を用意してあります。ここで立ち話するのも何ですので、そちらへ行きましょう」
王女殿下をエスコートするべく手を差し伸べた。
そこに少し震える手が添えられた。
互いに初の邂逅。早く緊張が解れれば良いのだが。
青い空に白い雲。外でのお茶会には持ってこいな天気である。
テーブルの上には色とりどりの高級菓子が用意されている。しかし、王女殿下は一切手を付けなかった。
「どうされたのですか?お気に召されませんでしたか?」
王女殿下はじっとお菓子を見ていた状態から顔を上げ、こちらへと目を向けた。
「私のことはクリスティアナと呼んで下さい。美味しそうなお菓子を用意して下さりありがとうございます」
そういいながらも、手を付けるかどうか迷っている様子の王女殿下。やはり体型を気にしているのか。
貴族社会は足の引っ張り合い。王族と言っても例外ではない。美しい体型はそれだけで高評価の対象となるのだ。
「それじゃあ、俺のこともシリウスと呼んでくれ。様はつけなくていいよ。それでティアナ、食べないのかい?」
「い、いきなり敬称呼びですの!?」
微笑みを向けながら、今度は一気に精神的距離を詰めた。
今度は全身、手まで真っ赤に染まったクリスティアナ様。
ピュワピュワだな、お姫様は。思わず笑ってしまった。
お姫様はムッとして頬を膨らませた。
「私をからかっておりますわね・・・?」
やや怒りの混じった声色で聞いてきた。
「おや、バレてしまいましたか?でも緊張はほぐれたでしょう?お互いに初めて会ったばかりですが、いずれは正式に婚約者となる者同士。少しでも早く、気が置けない関係になっておいた方がいいと愚考しました」
ハッとした表情に変わったが、どうやら震えはなくなったご様子。取り敢えずは少しお近づきできたようでホッとした。嫌われなくて良かった。
「ありがとうございます、シリウス様。ご心配をおかけしました」
「シリウス様、じゃなくて、シリウスですよ。クリスティアナ様」
「そっちは本気でしたの!?」
うん、面白い反応をするなあ、この子。
「じっとお菓子を見てましたが、遠慮なく食べていただいてよろしいですよ。私もそんなに沢山は甘いものを食べられませんからね」
「で、でも・・・」
「ひょっとして外見を気になされていらっしゃいますか?」
タブーだとは分かっている。だが彼女を諌めることも婚約者としての役目ではないだろうか。
「う・・・シリウス様が格好い、じゃなくて痩せていらっしゃるので、今のままの自分で隣に立つのは恥ずかしいと思ってしまいました」
シュンと怒られた子犬のように小さくなってしまった。きっと彼女も分かっていたのだ。だが、彼女はそれを正すことができなかったのだろう。彼女を取り巻く環境、それが原因のように思われた。これは調査が必要だな。
「なるほど、私の為に痩せたい、と!いいでしょう。私と一緒にトレーニングしてスリムな体を手にいれましょう!」
そう言って、すかさずクリスティアナ様の両手を取った。
「そ、そこまでは言っておりませんわ!」
再び顔を真っ赤にしてクリスティアナ様が抗議の声を上げたが、照れ隠しなのがバレバレだった。
「恥ずかしがらなくてもいいんだよ、ティアナ」
とびきり甘いスマイルをクリスティアナ様に向けた。
「ふぇっ!?」
これは不味い。彼女をからかうのが癖になりそうだ。
こうして「第二王女殿下クリスティアナ様、ダイエット大作戦」が決行することとなった。
まあ任せておくといい。私にいい考えがある。
次週、早くも公爵家にクリスティアナ様がやって来た。
「クリスティアナ様、どうぞこちらへ」
エスコートするべく手を差し伸べた。
「ありがとうございます。本日はどちらに?」
差し伸べられた手に自分の手を添えつつ、首を傾げて聞いてきた。
目と目が合ったとき、クリスティアナ様の青空の様に澄んだ瞳はとても美しかった。
「本日は公爵家自慢の庭を案内させていただきます」
ニッコリと微笑んでそう告げた。クリスティアナ様の顔色が若干曇り、歩くのは苦手だ、と暗に告げていた。もちろん、それも了承済みだ。
だが安心して欲しい。今の私には魔法がある。
この日のため、という訳ではないが、とある魔法を開発していた。
それは護身術と称した訓練を行っていた時の事。
5、6歳児ということもあり、訓練になかなかついていけなかった。
当然のことながら筋肉量はなく、スピードもパワーもスタミナもない。
前世の記憶がある分、モタモタとやっているのが大変もどかしく、一つの魔法を生み出した。
その魔法は電気信号を全身に送り、一時的に筋肉を刺激することで身体能力を高めることができるのだ。昔見たマンガにちなんで、オーラ、という名前の魔法にした。
魔導書には身体強化魔法は載ってなかった。風魔法で後ろから押すと早く移動できるとか、岩石を身に纏い、防御力を上げるとかはあったので、一応魔法を身体強化に使うという発想はあるようだ。。
ちなみに、オーラの魔法だけを使うと翌日の筋肉痛が半端なかったので、同時に治癒の魔法も併用している。
このオーラの魔法をクリスティアナ様に使えば、足腰が強化されるため、長い距離を歩くことができ、かつ、足腰への負担も軽減される。さらには電気信号で常に全身の筋肉を使うことになるので、かなりのカロリーを消費することができるはずだ。
談笑をしつつ、気付かれないようにそっと魔法を使った。何故ならばこの魔法は世の中に出回っておらず、世に知れた時の影響が計り知れなかったからだ。世界に変革をもたらすつもりなど毛頭ない。
オーラの魔法の効果が繋いだ手から徐々にクリスティアナ様に伝わっていくのが分かった。
どうやら上手く行きそうだ。大丈夫だとは思っていたが、強化魔法を他人に使うのは初めてだったので少し緊張した。
安堵しつつクリスティアナ様の方を見ると目が合った。どうやらあちらにも変化があったようで首を傾げていた。
だが魔法をかけた本人はポーカーフェイスを装い、何食わぬ顔で庭の散歩を続けた。
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