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どうしてこうなった②
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「と言うわけでして、シーズンオフの期間、シリウスを預かってもらいたいのでよろしくお願いします。クリスティアナ王女殿下の婚約者でもありますし、何も不都合はないでしょう?」
ここは王城。そして国王陛下の執務室。さらにお父様は国王陛下に俺を預かれと迫っていた。
そんなとんでもない願い、通るか!と思っていたのだが、
「貸し一つ、だったよな?」
とお父様が言ったら、渋々ではあったが了承した。
国王陛下はお父様に何の貸しがあったのか、その貸しをこんなことに使ってもいいのか、それよりも国王陛下を脅していいのかと色々な疑問があったが、尋ねられる雰囲気ではなかった。
睨む国王陛下、サラリと受け流すお父様。
間に挟まれた俺は、只々縮こまるしかなかった。
どうしてこうなった・・・
さすがのお母様も俺を王城に預けるとなれば、自分も王都に残るとは言えなかったようだ。
いや、この状況はお母様の想定範囲内なのかも知れない。
クリスティアナ様のお母様にもよろしく頼んでおいたから、と得意気に言っていた。
ひょっとしなくても、グルだったのかも知れない。
こうして俺はシーズンオフの期間、王城に滞在することになった。
「ここが私の部屋ですわ」
「それでは、僭越ながらお邪魔して」
「待ちたまえ」
「お父様?」
「こ、国王陛下、本日はお日柄もよく・・・」
「いや、そんなのはいいから」
「・・・はい」
胃が痛ーい。
勘弁して下さいよ!こうなったのは俺のせいじゃ無いでしょうが、多分。
「オッホン。レディの部屋に軽々しく入るものではないと思うがな」
「ですよね、私もそう思います。それでは私は失礼して」
「そんなことはありませんわ。シリウス様は私のだ、旦那様になるお方。私の部屋に入るのに、何の不都合もありませんわ!」
「しかしだな・・・」
正論を言っているはずの国王陛下が押されている。なぜだ。そんなに娘に嫌われるのが嫌なのか・・・。
「クリスティアナの部屋の前で何を騒いでいるのかしら?」
「お母様!」
そこにクリスティアナ様のお母様が登場した。
これぞ天の助け!俺をこの場から解放してくれ!
「ダーリン、クリスティアナが可愛いのは分かりますが、いつかはこの城を出る日が来ることでしょう。そのようにクリスティアナに執着していては、貴族に隙を突かれますわよ」
国王陛下をダーリン呼びするクリスティアナ様のお母様。プライベートな場所だから許されるのか?
ここは王城の最奥。王族の部屋しか存在しないプライベートゾーンだ。
そんな所に足を踏み入れることになった俺はキリキリと痛む胃を押さえていた。
「確かにそうかもしれんが、二人きりの時に何かあったら困るだろう?」
そう言うのはもう少し大きくなったときに心配することなのではなかろうか、と思っていると、
「では、私が二人についていますのでダーリンは安心して執務をこなして下さいませ」
そう言うとクリスティアナ様のお母様は国王陛下を追い立てた。
追い立てられた国王は戻り際に寂しそうな瞳でこちらを振り返り、とぼとぼと帰って行った。
その様子は、俺の中にあった威厳のある国王陛下のイメージを、揺れる荷馬車に乗せられ売られていく子牛のイメージにすり替えた。
そして沸き起こる罪悪感が俺の胃をさらにキリキリとさせた。
胃に穴が空くのも時間の問題なのかもしれない。
クリスティアナ様の部屋にはすでに三人分のお茶が用意されていた。
どうやら気が利くメイドが揉めてる間に用意してくれていたようだ。
メイドが国王が追い立てたてられることを予期していたところを見ると、この光景はいつものことなのかもしれない。ちょっと罪悪感が薄れ安心した。
部屋の中はクリーム色を基調とした暖かさを感じるとても落ち着いた雰囲気だった。
机や本棚などの台座の上には、小さな黄金色の調度品がセンスよく飾ってあり、その多くは黒の布地に黄金色の刺繍が施された布の上に鎮座していた。
うん。何となく察した。これってもしかしなくても俺の髪と目の色だよな。
部屋全体を金と黒にするわけにはいかないから、ワンポイントに絞った訳だ。ワンポイントにしては数が多いような気がするけども。
思った以上に愛されてるのかもしれない。
席につくとお義母様が深々と頭を下げた。
「シリウスさん、本当にありがとうございました」
婚約者になったことへのお礼なのか、娘を外に連れ出したことへのお礼なのか、痩せさせたことへのお礼なのかは分からなかったが、慌てて頭を上げさせた。
「顔を上げて下さい、お義母様。私は婚約者として、未来の夫として、当然の事をしたまでです。礼など必要ありません」
キッパリと言った俺と、顔を上げたお義母様の目が合った。
それを見て安心したのか、お義母様は微笑みを返した。
「ウフフ、いい旦那様ね。クリスティアナの公爵家での様子を聞かせて欲しいわ。クリスティアナったらあんまり話してくれないのよ」
「いいですとも。まずはティアナと手を繋いで散歩を始めた辺りから・・・」
「ちょっと、おま」
「あらあら」
こうしてクリスティアナ様のお義母様との交流を深める会が始まったのだった。
ここは王城。そして国王陛下の執務室。さらにお父様は国王陛下に俺を預かれと迫っていた。
そんなとんでもない願い、通るか!と思っていたのだが、
「貸し一つ、だったよな?」
とお父様が言ったら、渋々ではあったが了承した。
国王陛下はお父様に何の貸しがあったのか、その貸しをこんなことに使ってもいいのか、それよりも国王陛下を脅していいのかと色々な疑問があったが、尋ねられる雰囲気ではなかった。
睨む国王陛下、サラリと受け流すお父様。
間に挟まれた俺は、只々縮こまるしかなかった。
どうしてこうなった・・・
さすがのお母様も俺を王城に預けるとなれば、自分も王都に残るとは言えなかったようだ。
いや、この状況はお母様の想定範囲内なのかも知れない。
クリスティアナ様のお母様にもよろしく頼んでおいたから、と得意気に言っていた。
ひょっとしなくても、グルだったのかも知れない。
こうして俺はシーズンオフの期間、王城に滞在することになった。
「ここが私の部屋ですわ」
「それでは、僭越ながらお邪魔して」
「待ちたまえ」
「お父様?」
「こ、国王陛下、本日はお日柄もよく・・・」
「いや、そんなのはいいから」
「・・・はい」
胃が痛ーい。
勘弁して下さいよ!こうなったのは俺のせいじゃ無いでしょうが、多分。
「オッホン。レディの部屋に軽々しく入るものではないと思うがな」
「ですよね、私もそう思います。それでは私は失礼して」
「そんなことはありませんわ。シリウス様は私のだ、旦那様になるお方。私の部屋に入るのに、何の不都合もありませんわ!」
「しかしだな・・・」
正論を言っているはずの国王陛下が押されている。なぜだ。そんなに娘に嫌われるのが嫌なのか・・・。
「クリスティアナの部屋の前で何を騒いでいるのかしら?」
「お母様!」
そこにクリスティアナ様のお母様が登場した。
これぞ天の助け!俺をこの場から解放してくれ!
「ダーリン、クリスティアナが可愛いのは分かりますが、いつかはこの城を出る日が来ることでしょう。そのようにクリスティアナに執着していては、貴族に隙を突かれますわよ」
国王陛下をダーリン呼びするクリスティアナ様のお母様。プライベートな場所だから許されるのか?
ここは王城の最奥。王族の部屋しか存在しないプライベートゾーンだ。
そんな所に足を踏み入れることになった俺はキリキリと痛む胃を押さえていた。
「確かにそうかもしれんが、二人きりの時に何かあったら困るだろう?」
そう言うのはもう少し大きくなったときに心配することなのではなかろうか、と思っていると、
「では、私が二人についていますのでダーリンは安心して執務をこなして下さいませ」
そう言うとクリスティアナ様のお母様は国王陛下を追い立てた。
追い立てられた国王は戻り際に寂しそうな瞳でこちらを振り返り、とぼとぼと帰って行った。
その様子は、俺の中にあった威厳のある国王陛下のイメージを、揺れる荷馬車に乗せられ売られていく子牛のイメージにすり替えた。
そして沸き起こる罪悪感が俺の胃をさらにキリキリとさせた。
胃に穴が空くのも時間の問題なのかもしれない。
クリスティアナ様の部屋にはすでに三人分のお茶が用意されていた。
どうやら気が利くメイドが揉めてる間に用意してくれていたようだ。
メイドが国王が追い立てたてられることを予期していたところを見ると、この光景はいつものことなのかもしれない。ちょっと罪悪感が薄れ安心した。
部屋の中はクリーム色を基調とした暖かさを感じるとても落ち着いた雰囲気だった。
机や本棚などの台座の上には、小さな黄金色の調度品がセンスよく飾ってあり、その多くは黒の布地に黄金色の刺繍が施された布の上に鎮座していた。
うん。何となく察した。これってもしかしなくても俺の髪と目の色だよな。
部屋全体を金と黒にするわけにはいかないから、ワンポイントに絞った訳だ。ワンポイントにしては数が多いような気がするけども。
思った以上に愛されてるのかもしれない。
席につくとお義母様が深々と頭を下げた。
「シリウスさん、本当にありがとうございました」
婚約者になったことへのお礼なのか、娘を外に連れ出したことへのお礼なのか、痩せさせたことへのお礼なのかは分からなかったが、慌てて頭を上げさせた。
「顔を上げて下さい、お義母様。私は婚約者として、未来の夫として、当然の事をしたまでです。礼など必要ありません」
キッパリと言った俺と、顔を上げたお義母様の目が合った。
それを見て安心したのか、お義母様は微笑みを返した。
「ウフフ、いい旦那様ね。クリスティアナの公爵家での様子を聞かせて欲しいわ。クリスティアナったらあんまり話してくれないのよ」
「いいですとも。まずはティアナと手を繋いで散歩を始めた辺りから・・・」
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「あらあら」
こうしてクリスティアナ様のお義母様との交流を深める会が始まったのだった。
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