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尻が痛くならない馬車を作ろう
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翌日、早速馬車を改良すべくお義母様に話を持ちかけた。周りは昨日の片付けで忙しそうに動き回っている。なるべく邪魔にならないようにしないとな。
「まあまあまあ!シリウスちゃん、そんなことを考えてたのね。素晴らしいアイデアだわ。そうね、うちの傘下にある商会を案内してあげるわ。お義母様に任せてちょうだい」
そう言うと使用人に声をかけ、何やら指示を送ると、すぐに了承を得られた。
うん、手際が良すぎる。これは最初からそういう手筈になっていたのかもしれない。それならば遠慮はいらないかな。子爵家の爵位を上げる作戦はお義母様も了承済みのようだ。俺はウキウキとその商会へと向かった。
「どうしたのシリウス、そんなにウキウキした足取りでさ?」
「お、分かる?遠慮がいらないみたいだから楽しみでさ」
「え?」
「いや、遠慮はした方がいいかなぁ」
クリスティアナ様がギョッとした顔をし、フェオが困惑した引き吊った表情を浮かべた。これはある意味信頼されているのか。逆の意味で。
向かった商会は子爵領に古くからあり、子爵家とも長い付き合いのある老舗中の老舗だった。表の看板は木でできており、何度も修繕した跡が見られ、古くから大切にされていることが見て取れた。建物を見ると現代風にはなっているものの、どこか懐かしい古めかしい趣を残した造りをしていた。
お義母様の連絡があったからだろうか、店の前には何人かの人達が俺達を歓迎してくれた。
「このような所までお越しいただきありがとうございます。我ら一同、歓迎の極みでございます」
深々と頭を下げられた。あまりの尊大なお迎えにちょっとアワアワした。
「あ、頭を上げて下さい。今日は無理を言ってすいません。どうぞよろしくお願いします」
そう言って四人で頭を下げた。頭を下げるのは俺達の中で恒例行事のようになっており、何度も思わないのだが、当然慣れていない人達からは大変恐縮された。今後の地形もあるので早くにフレンドリーな関係になっておきたいところだ。
お互い紹介が終わったところで店の中や所有施設を案内してもらった。
この商会では馬車の他にも馬の売買も手掛けているようである。馬は子爵家の主力商品のようだが、争い事が無い昨今では馬車を引く馬の需要がメインであり、足の速い馬はあまり需要がなくかなりダブついているらしい。しかし、いつまた争い事が起きるかは分からない。そのため事業規模を縮小する訳にはいかないらしく、費用がかさんでいた。
これは馬も上手く使う必要があるな。子爵家の馬の素晴らしさをアピールし、ここの馬を所有することが貴族のステータスになればかなり儲かるはずだ。
馬のスピード自慢と言えば、そう、競馬だ。娯楽が少ないこの世界に競馬はいい娯楽になるのではなかろうか?
素晴らしいアイデアが浮かびニヤニヤする俺を不審そうに二人が見ていた。味方はやはりエクスだけのようだ。
場所さえ確保できれば競馬はすぐに開催できそうな気がする。馬車の改良は時間が掛かりそうだし、先に提案するだけ提案してみようと思う。
「せっかく名馬が揃っていることですし、こんな催し物をしてみてはどうですか?」
説明のため一緒についてきてもらっている商会の人に競馬のことを話した。
「なるほど。我々は入場料だけをもらい、掛け金を分配するわけですね。これなら損をする可能性も少なそうです。それに我が領の馬をアピールできるいい機会ですね!素晴らしいアイデアだ」
「面白そう!ねえねえ、馬に名前を付けても可愛いくていいんじゃない?自分の牧場で育てた子だって分かれば応援にも熱が入るよ、きっと」
商会の人も、フェオも気に入ったみたいだ。飛び跳ねながらあれやこれやと盛り上がっている。
「そうですわね。競馬大会に名前をつけるのも良いかも知れませんわ。大会が有名になればそれを目当てに人がやって来るでしょうしね」
「そうしましょう。主要な大会以外はお金を払えば誰でも大会名をつけられるようにしましょう。そうすれば貴族連中がこぞってお金を払ってくれるはずです」
相変わらず貴族からお金を取るのが好きねと二人から言われたが、持っている所から搾り取るのがモットーだ。自重はしない。
商会の人は今の話を商会長に伝えるべく指示を飛ばしている。その間にもうひとつの主力の馬車を見させてもらった。
馬車の構造をしっかりと見させてもらったが、どうやら板バネも付いていないシンプルな構造のようだ。これなら直接振動が伝わるし、あの乗り心地の悪さは仕方がないといえる。馬車の乗り心地の悪さはクッション性能で全てカバーしているらしい。
真剣に吟味している俺を見てフェオが聞いてきた。
「何か面白いこと思いついた?」
「うん。昨日のソファーを椅子として取り付けるだけでも随分と違いが出そうだよ。もちろんそれだけじゃなくて、車体にもバネを取り付けようと思うよ」
俺達の会話を聞き逃すまいと真剣な表情で見ていた商会の人が聞いてきた。
「失礼ですが、バネ、とは?」
「ああ、バネというのはですね・・・」
バネについて説明し、自分専用に作ったソファーをこれでもかと自慢したフェオの熱い語りもあって、すぐに試作してみようという運びになった。
工房にあった廃棄予定の金属をクラフトの魔法を使って次々とバネの形に変えていった。たくさん試作ができるように太さや固さの違う物も用意した。
「シリウス様が使われているクラフトの魔法は本当に素晴らしいですな」
手伝いをしてくれている工房の職人の一人が感嘆の声をあげた。確かに何の道具もなく金属加工できるのは便利かもしれない。しかも金属加工だけでなく、木工もできるとなればその価値は計り知れないかもしれない。
「教えてあげたいのは山々なのですが、さすがに特殊過ぎて簡単に教えられないのですよ。それに、もしこの魔法を多くの人が使えるようになったとしたら、金属加工を生業としている人達が失業してしまいますからね。路頭に迷う人を出すのは私の本意ではありませんよ」
そこまで言われると、さすがにそれでも教えて下さいとは言ってこなかった。
そもそも個人が開発した魔法は秘匿され、弟子にだけ伝えられることが多い。それを餌に弟子を集めて生計を経てている人もいるのだ。新しい魔法を開発したからといって人に教える義務はないのだ。
俺がクラフトの魔法を使っているのは時間短縮と楽するためであり、経済基盤を破壊するわけではない。
しかし、そうは問屋が卸さない人達がいる。そう、クリスティアナ様とフェオである。この二人はお前の物は俺の物、といったジャイアニズムを持っているようだ。
「ねえねえ、あたしにもその魔法教えてよ~」
包み隠さず自分の欲望をぶちまけるフェオ。一方のクリスティアナ様は俺の袖をギュッと掴んで、教えて欲しそうに上目遣いの潤んだ目でこちらを見ている。
今さら二人に隠し立てするつもりはないのでこっそりと周りに聞こえないように教えた。
俺のことを心から信頼してくれている二人は、前世の知識からなる、この世界ではまだ確立されていない理論もすんなりと受け入れてくれる。そのため、俺が開発した謎の原理を利用した魔法もすんなりと使えるようになった。覚えが早くなりましたね、と頭をナデナデすると恥じらいながらも喜んでくれた。可愛い。
ちなみにエクスは魔法が覚えられない。原因は不明だ。本人もそれが分かっているらしく、魔法のお勉強の時間は俺の腕にしっかりと巻き付いたままだ。それを恨めしげに見る二人。まあこれはエクスの特権だから仕方ないね。
ある程度の数のバネが完成したので、早速設計に入った。
「車体と足回り、それとソファーにも使いたいと思います」
テキパキと指示を飛ばし、材料をかき集め、クラフトで形成していく。クラフトの魔法を覚えた二人も手伝ってくれた。
職人さんと綿密な相談をしながら段々と馬車の形になってきた。やはり職人は必要だな。俺一人だと、こうはいかなかった。自分の能力にも限界がある。頼れるところはその道のプロに頼んだ方が、ずっといい物が作れるし、ずっと楽することができる。
職人の指示を受けながらクラフトで形成する作業を繰り返し、試作第一号が完成した。
「いやはや、クラフトの魔法はすごいですな。全てを手作業でやっていたら、こんなに早く試作機は完成しませんよ。本当にすごい魔法だ」
アクセサリーを作るために開発した魔法だったが、絶賛されてしまった。教えて欲しそうにこちらを見ている。だが、教えない。
試作第一号は左右の車輪を同じ車軸にしたお手軽タイプだ。これは作るのが簡単で手入れもし易い。量産するのに向いているだろう。試しに馬を繋げてその辺りを走ってみると、かなり揺れが軽減されていた。道が整備された街中を走るならこれでも十分だろう。一緒に乗ったクリスティアナ様も職人さんも大興奮だ。
「これなら長く馬車に乗ってもお尻が痛くなりませんわ。まるで別の乗り物に乗っているみたいです」
「素晴らしい!これ程の物が作り出せるとは思いもしませんでした。これは売れますよ。今すぐ量産するべきです」
職人さんも太鼓判を押してくれた。だが、四輪を独立したタイプも作ってみたい。
「じつはもうひとつ馬車の改良案がありまして・・・」
しかし、そこそこいい時間になってきたので、また明日、ということになり帰路に着いた。
「まあまあまあ!シリウスちゃん、そんなことを考えてたのね。素晴らしいアイデアだわ。そうね、うちの傘下にある商会を案内してあげるわ。お義母様に任せてちょうだい」
そう言うと使用人に声をかけ、何やら指示を送ると、すぐに了承を得られた。
うん、手際が良すぎる。これは最初からそういう手筈になっていたのかもしれない。それならば遠慮はいらないかな。子爵家の爵位を上げる作戦はお義母様も了承済みのようだ。俺はウキウキとその商会へと向かった。
「どうしたのシリウス、そんなにウキウキした足取りでさ?」
「お、分かる?遠慮がいらないみたいだから楽しみでさ」
「え?」
「いや、遠慮はした方がいいかなぁ」
クリスティアナ様がギョッとした顔をし、フェオが困惑した引き吊った表情を浮かべた。これはある意味信頼されているのか。逆の意味で。
向かった商会は子爵領に古くからあり、子爵家とも長い付き合いのある老舗中の老舗だった。表の看板は木でできており、何度も修繕した跡が見られ、古くから大切にされていることが見て取れた。建物を見ると現代風にはなっているものの、どこか懐かしい古めかしい趣を残した造りをしていた。
お義母様の連絡があったからだろうか、店の前には何人かの人達が俺達を歓迎してくれた。
「このような所までお越しいただきありがとうございます。我ら一同、歓迎の極みでございます」
深々と頭を下げられた。あまりの尊大なお迎えにちょっとアワアワした。
「あ、頭を上げて下さい。今日は無理を言ってすいません。どうぞよろしくお願いします」
そう言って四人で頭を下げた。頭を下げるのは俺達の中で恒例行事のようになっており、何度も思わないのだが、当然慣れていない人達からは大変恐縮された。今後の地形もあるので早くにフレンドリーな関係になっておきたいところだ。
お互い紹介が終わったところで店の中や所有施設を案内してもらった。
この商会では馬車の他にも馬の売買も手掛けているようである。馬は子爵家の主力商品のようだが、争い事が無い昨今では馬車を引く馬の需要がメインであり、足の速い馬はあまり需要がなくかなりダブついているらしい。しかし、いつまた争い事が起きるかは分からない。そのため事業規模を縮小する訳にはいかないらしく、費用がかさんでいた。
これは馬も上手く使う必要があるな。子爵家の馬の素晴らしさをアピールし、ここの馬を所有することが貴族のステータスになればかなり儲かるはずだ。
馬のスピード自慢と言えば、そう、競馬だ。娯楽が少ないこの世界に競馬はいい娯楽になるのではなかろうか?
素晴らしいアイデアが浮かびニヤニヤする俺を不審そうに二人が見ていた。味方はやはりエクスだけのようだ。
場所さえ確保できれば競馬はすぐに開催できそうな気がする。馬車の改良は時間が掛かりそうだし、先に提案するだけ提案してみようと思う。
「せっかく名馬が揃っていることですし、こんな催し物をしてみてはどうですか?」
説明のため一緒についてきてもらっている商会の人に競馬のことを話した。
「なるほど。我々は入場料だけをもらい、掛け金を分配するわけですね。これなら損をする可能性も少なそうです。それに我が領の馬をアピールできるいい機会ですね!素晴らしいアイデアだ」
「面白そう!ねえねえ、馬に名前を付けても可愛いくていいんじゃない?自分の牧場で育てた子だって分かれば応援にも熱が入るよ、きっと」
商会の人も、フェオも気に入ったみたいだ。飛び跳ねながらあれやこれやと盛り上がっている。
「そうですわね。競馬大会に名前をつけるのも良いかも知れませんわ。大会が有名になればそれを目当てに人がやって来るでしょうしね」
「そうしましょう。主要な大会以外はお金を払えば誰でも大会名をつけられるようにしましょう。そうすれば貴族連中がこぞってお金を払ってくれるはずです」
相変わらず貴族からお金を取るのが好きねと二人から言われたが、持っている所から搾り取るのがモットーだ。自重はしない。
商会の人は今の話を商会長に伝えるべく指示を飛ばしている。その間にもうひとつの主力の馬車を見させてもらった。
馬車の構造をしっかりと見させてもらったが、どうやら板バネも付いていないシンプルな構造のようだ。これなら直接振動が伝わるし、あの乗り心地の悪さは仕方がないといえる。馬車の乗り心地の悪さはクッション性能で全てカバーしているらしい。
真剣に吟味している俺を見てフェオが聞いてきた。
「何か面白いこと思いついた?」
「うん。昨日のソファーを椅子として取り付けるだけでも随分と違いが出そうだよ。もちろんそれだけじゃなくて、車体にもバネを取り付けようと思うよ」
俺達の会話を聞き逃すまいと真剣な表情で見ていた商会の人が聞いてきた。
「失礼ですが、バネ、とは?」
「ああ、バネというのはですね・・・」
バネについて説明し、自分専用に作ったソファーをこれでもかと自慢したフェオの熱い語りもあって、すぐに試作してみようという運びになった。
工房にあった廃棄予定の金属をクラフトの魔法を使って次々とバネの形に変えていった。たくさん試作ができるように太さや固さの違う物も用意した。
「シリウス様が使われているクラフトの魔法は本当に素晴らしいですな」
手伝いをしてくれている工房の職人の一人が感嘆の声をあげた。確かに何の道具もなく金属加工できるのは便利かもしれない。しかも金属加工だけでなく、木工もできるとなればその価値は計り知れないかもしれない。
「教えてあげたいのは山々なのですが、さすがに特殊過ぎて簡単に教えられないのですよ。それに、もしこの魔法を多くの人が使えるようになったとしたら、金属加工を生業としている人達が失業してしまいますからね。路頭に迷う人を出すのは私の本意ではありませんよ」
そこまで言われると、さすがにそれでも教えて下さいとは言ってこなかった。
そもそも個人が開発した魔法は秘匿され、弟子にだけ伝えられることが多い。それを餌に弟子を集めて生計を経てている人もいるのだ。新しい魔法を開発したからといって人に教える義務はないのだ。
俺がクラフトの魔法を使っているのは時間短縮と楽するためであり、経済基盤を破壊するわけではない。
しかし、そうは問屋が卸さない人達がいる。そう、クリスティアナ様とフェオである。この二人はお前の物は俺の物、といったジャイアニズムを持っているようだ。
「ねえねえ、あたしにもその魔法教えてよ~」
包み隠さず自分の欲望をぶちまけるフェオ。一方のクリスティアナ様は俺の袖をギュッと掴んで、教えて欲しそうに上目遣いの潤んだ目でこちらを見ている。
今さら二人に隠し立てするつもりはないのでこっそりと周りに聞こえないように教えた。
俺のことを心から信頼してくれている二人は、前世の知識からなる、この世界ではまだ確立されていない理論もすんなりと受け入れてくれる。そのため、俺が開発した謎の原理を利用した魔法もすんなりと使えるようになった。覚えが早くなりましたね、と頭をナデナデすると恥じらいながらも喜んでくれた。可愛い。
ちなみにエクスは魔法が覚えられない。原因は不明だ。本人もそれが分かっているらしく、魔法のお勉強の時間は俺の腕にしっかりと巻き付いたままだ。それを恨めしげに見る二人。まあこれはエクスの特権だから仕方ないね。
ある程度の数のバネが完成したので、早速設計に入った。
「車体と足回り、それとソファーにも使いたいと思います」
テキパキと指示を飛ばし、材料をかき集め、クラフトで形成していく。クラフトの魔法を覚えた二人も手伝ってくれた。
職人さんと綿密な相談をしながら段々と馬車の形になってきた。やはり職人は必要だな。俺一人だと、こうはいかなかった。自分の能力にも限界がある。頼れるところはその道のプロに頼んだ方が、ずっといい物が作れるし、ずっと楽することができる。
職人の指示を受けながらクラフトで形成する作業を繰り返し、試作第一号が完成した。
「いやはや、クラフトの魔法はすごいですな。全てを手作業でやっていたら、こんなに早く試作機は完成しませんよ。本当にすごい魔法だ」
アクセサリーを作るために開発した魔法だったが、絶賛されてしまった。教えて欲しそうにこちらを見ている。だが、教えない。
試作第一号は左右の車輪を同じ車軸にしたお手軽タイプだ。これは作るのが簡単で手入れもし易い。量産するのに向いているだろう。試しに馬を繋げてその辺りを走ってみると、かなり揺れが軽減されていた。道が整備された街中を走るならこれでも十分だろう。一緒に乗ったクリスティアナ様も職人さんも大興奮だ。
「これなら長く馬車に乗ってもお尻が痛くなりませんわ。まるで別の乗り物に乗っているみたいです」
「素晴らしい!これ程の物が作り出せるとは思いもしませんでした。これは売れますよ。今すぐ量産するべきです」
職人さんも太鼓判を押してくれた。だが、四輪を独立したタイプも作ってみたい。
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