悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい！

勇者じゃない

「木の枝葉を切り落とすくらいなら、我々でもできますよ。そのくらいであれば、女子供でもできますからね。ちょっと呼んできます！」
　村長息子はダッシュで去った。こんなことなら始めから村の人に頼めば良かった。
　俺達は再びピーちゃんの前で正座しながら思った。地面に直接正座しているので、小石やら何やらで足が痛い。
「それでは残りの邪魔な木も倒しておきましょうか。クリスティアナ様とフェオは『ムーブ』の魔法であそこの空き地まで気をつけて運んで下さい。エクスもクロも手伝ってあげてね」
　こうしてようやく畑の区画整理が始まった。
　木材置き場に木がどんどんと積み重なっていく。村の人達もかなりの人数で手伝いに来ているが、木を切り倒す方が断然早かった。だって魔法を使っているしね。そうなると、木の枝葉を刈り取る魔法も創った方がいいのかも知れない。
　枝を切り落とす作業が間に合わないと判断した俺は、そちらを手伝うことにした。
「鉈やノコギリで切り落とすのは大変だな。何とかならないかな。風魔法でスバッてやっちゃうか？」
　試しに『エアカッター』の魔法で切ってみると、以外とすんなりと枝を切ることができた。魔法をコントロールすれば、この魔法だけでも十分にやっていけそうだ。
「クロは『エアカッター』を使えないのかな？」
【使えるぞ。なるほど、『エアカッター』で切るのだな】
「うん。これなら猫でもできるでしょ。今は猫の手も借りたいくらいに忙しいからさ」
　お、おう、と苦笑したクロと手分けして枝葉を切っていく。
『エアカッター』の魔法に慣れてきた俺は、魔法でできた刃を自由自在にコントロールしてどんどん枝葉を切っていった。以外に楽しいな、これ。
【主は魔法の制御が素晴らしいな。これほどまで微細にコントロールできる者はそうはいないぞ】
　そうなのか？　とクロを見ていると、一本の木を丸裸にするのに何回も魔法を使っていた。かたや俺は一回の魔法で済ませていた。
「ねぇ、ずっと前から思っていたんだけど、どうしてそんなにシリウスは魔法が得意なの？」
「さあ？」
　何でだろうね？　公式設定に魔法が得意とかになっているんじゃないですかね？　今では知りようがないけど。
「やっぱり、精霊王の生まれ変わり･･･」
「いえ、聖王様の生まれ変わりですわ」
【魔王の生まれ変わりだろう】
「･･･」
　やっぱりそうなのかな、魔王設定のせいなのかな･･･？
「シリウス様？　ど、どうなされたのですか！？」
　クロの言葉に茫然自失になっていた俺をクリスティアナ様が少々乱暴に揺すった。普段の彼女からは考えられないほどの力強さだった。それだけ彼女も動揺したのだろう。
【何を言っているのですか、貴方達。生まれ変わりなど、この世界ではありえません。亡くなった者は等しく、その魂までも浄化しているのですから】
　ピーちゃんはキッパリと言った。
　そうだな、俺は俺だ。ゲームの中の魔王なんかじゃない。魔王フラグをへし折るために頑張っているのだろう？　絶対に魔王になんかなるものか。
【済まない、主よ。今まで仕えてきた者達はこう呼ぶと喜んでいたのだ。主も喜ぶものと思ったのだが、主は違ったのだな。ワシはな、これまでずっと魔王に仕えて、闇に生きてきた。そうしなければ、ワシはこの世界に存在することができなかったのだ。だからワシは、ワシを呼んだ主を魔王だと思ったのだ】
　申し訳なさそうにクロが言ってきた。
　そうなのか、クロはずっと闇に生きてきたのか。
「ちょっとビックリしたけど、もう気にしてないよ。それよりも、俺が間違ってクロを呼んじゃったみたいだね。ごめんね」
【そんなことはない！　主はワシに光を与えてくれたではないか。闇にしか存在できないと思っていたワシに、新しい世界を見せてくれているではないか。ああ、そうだ。ワシは今、初めて明るい光の下で存在しているのだ。主のお陰で光の下でも存在できることが証明されたのだ。もしや、主は光の者なのでは？　そうか！　よくよく主を見て見れば、聖剣を携え、世界の根源である妖精を従え、大国の姫君を婚約者に持つ。それはまさに、世界に光をもたらす勇者！　主は勇者様であられましたか！】
　平伏するクロ。これはこれで、あんまり嬉しくないな。その様子にフェオが笑いをこらえてプルプルしているのが見えた。そして、クリスティアナ様のお祖父様の先代国王が、クロと同じような目で自分を見ていたことを思い出した。すでに勇者認定されているのかも知れないな、これは。