悪役令嬢役を頼まれたので頑張ってはいるものの、何だか雲行きが怪しいですわ

えながゆうき

文字の大きさ
4 / 48

イザベラ、目覚める

しおりを挟む
 パチリ。
 目が覚めた。そこには知らない天井――があると思いきや、メチャクチャ豪華絢爛な天蓋があった。まるで夜空を模したかのような濃紺の布地に、星のようにキラキラと……多分、宝石や金の刺しゅうと思われるものが上品に縫い付けてある。高そう。

 そう言えばイザベラは公爵令嬢だったわね。しかも、超がつくほどわがままなご令嬢。
 そしてそのわがままで、公爵家の財政を破綻させるのが私の最初の仕事。
 
 腕の見せどころなのだけど、生前は両親に少しでも負担をかけないようにと質素倹約に努めていた。そんな私がお金持ちの生活に慣れることができるかしら?
 
 ああ、ダメよダメダメ。弱気になってはダメよ。ほら、熱い男が言っていたじゃない。できる、できる、絶対できる。気持ちの問題だって! って。私にもできるわ。きっと。

 頭の中のちょっとした混乱が落ち着いてきたところでまずは現状の確認。
 どうやら目は見える見たいね。頭は……多少動くわ。体は何とか動くけど、まるで油が切れたブリキ人形のようね。何だが動きがぎこちないわ。ギギギ……とか音がしそう。ブリキの人形とか持ってなかったけど。雰囲気よ、雰囲気。
 
 身につけているおべべは……どうやら高級品みたいね。触り心地が尋常じゃないわ。汚してしまったらどうしようかしら。着ているのが怖いわ。いっそ脱いでしまおうかしら?
 いやでも、誰か来たときに全裸だったら、それはそれでまずいのでは?
 全裸令嬢とか、多分アウトだわ。

 でも、どうやら無事に転生したようね。さっきお母様に会って、出会い頭に猫だまし的に回復魔法を使ったから実感がなかったけど、ようやく実感が湧いてきたわ。
 ……そう言えば、魔法はうまくいったのかしら? まさかお母様、死んでないわよね?

 そう思うと何だか背筋が寒くなってきた。それに下半身も冷たく――。ちょっと待って、お漏らし令嬢とか、シャレにならないからね?
 色々と確認したいが、うまく身動きがとれない。ええい、動け! なぜ動かんのだ! 

 私は必死に全身をモゾモゾと動かした。
 そんな私の様子に誰かが気がついたようである。人の気配が近づいてきた。

 私をのぞきこんだのは――お母様だ! 良かった、生きてた。それにさっきとはまるで別人のように元気そうだ。さすがパーフェクト・ヒール。効果がダンチだわ!
 お母様の元気な様子に安心して、私は笑った。

「あら、起きたのね。私の可愛いイザベラちゃん」

 お母様はそう言うと私を優しく抱きかかえた。あ、お母様、おむつが湿ってますので気をつけてね。悪気はなかったのよ。体の一部が勝手に動いただけなのよ。

「あらあら、お母様に会えてそんなにうれしいのかしら? でもね、イザベラ。魔法を無闇に使ってはいけませんよ。あなたに万が一のことがあったら……そのときは、お母様も一緒ですからね」

 お母様はニッコリとほほえんだ。どうやら早くも私が魔法を使ったことがバレてしまったらしい。なぜバレたし。
 しかしお母様のその宣言は、ちょっと重過ぎるような気がするのだが……。もしかしてだけど、もしかしてだけど、お母様にはヤンデレ成分が混じっているじゃないの~?

 そう言えばゲームの中のイザベラもヤンデレ成分を持っていたわね。アレはお母様からの遺伝だったのね。ガッテンがいったわ。合点、合点!

 いや、そんなことよりも。私はアレをやってない。これをやらないと私の新しい人生の幕開けを告げられないわ。

「お、オギャア、オギャア!」

 ヤバそうな話題をそらすのにはこの手に限る! 必殺、うそ泣きだ。

「あらあら、おなかがすいたのね。それにおむつも替えないといけないみたいね」
 
 お母様は私のまろい顔を優しくなでた。そしてすぐそばに付き添っていた使用人に私のおむつを替えさせた。
 サササッと素早くおむつを替えるその手際は、まさに忍者。早すぎて私の目じゃなくてもきっと見逃してたわね。アイェェエ!? って叫ばなくて良かったわ。
 
「さあ、おなかがすいたでしょう? しっかりと飲んで、大きくなりなさい」
 
 そう言うとお母様は胸元を崩した。そこには美しく整った豊満な胸があった。ママのおっぱいを見てどう思うかって? すごく……大きいです……。

 お母様の血を引いている私も、もちろん将来はこうなる。ビックリするぐらいのグラマラスな女性になる。何せ、私の立ち絵だけはすごかったからね。
 悪役令嬢でなければ抱ける、と露骨に世の男どもが言っていたわ。いやらしい。

 目の前いっぱいに広がるおっぱいの光景にどうしようかと思ったが、赤ちゃんの本能には逆らえなかった。
 私は無我夢中でママのおっぱいにかぶりついた。しかしこれ、吸いにくいな。立ってないからかしら? でも私が刺激するとお母様が「やんっ、ちょっと、そこは……っ!」ってあえぐのよね。複雑だわ。
 それでも何とか母乳を飲んだ私は偉いと思う。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...