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大賢者イザベラ?
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フランツは部屋に入ると、一目散に夫人のいるベッドへと近づいた。心臓がものすごい勢いで動いているのを感じながら、とにかく急いだ。
「フランツ、私の可愛い、可愛いイザベラを見てくれ。この天使のような娘をどう思う?」
「は? す、すごく可愛い……お嬢様です?」
突然の娘自慢に思わず素の表情になったフランツ。その頭には疑問符がピヨピヨといくつも飛び回っていた。
「オズワート、それでは何も分からないわよ。フランツ、イザベラが私に何かの魔法を使ったみたいなの。最初にイザベラの魔力が枯渇してないかチェックをしてちょうだい。その後に、私に一体何の魔法を使ったのかを調べて。今すぐに」
まるで別人のように元気になり、テキパキと指示を飛ばす夫人。それに比べて、政治の世界ではスゴ腕だと言われている公爵家当主の頼りなさ。
見てはいけない、知ってはいけない。そんな事実から目をそらしつつも、フランツはイザベラの魔力鑑定を始めた。そしてすぐに、その異常さに気がついた。
「こ、これは……!」
フランツは驚きの声を上げた。ランドール夫妻はそろって不安げな表情をし、固唾を飲んで、フランツの続く言葉を待った。
「ご安心下さい。魔力の枯渇はありません。それどころか、イザベラお嬢様の魔力量が多過ぎて、魔力が減っているのかどうかさえも分かりません」
フランツは突きつけられた事実に頭を振った。だが、真実はいつも一つ。
「奥様、イザベラお嬢様が魔法を使った、とは、どういうことなのでしょうか?」
フランツは混乱の極みにあった。計り知れない魔力量、産まれたばかりの赤子が魔法を使う。どちらも常識的に考えてありえなかった。でも、真実はいつも一つ。
「フランツ、私を診てちょうだい。先ほどまで、私は死を覚悟していたわ。でも今は、そんなことは絶対にありえないと断言できる。それほどにまでに体力が回復しているわ。いいえ、違うわね。今までで一番、体の調子が良いのよ」
なるほど、とオズワートとフランツは合点がいった。
クリスティアナは昔から虚弱体質であり、外を出歩くこともほとんどなかった。イザベラの出産についても、直前までやめるように二人で説得していたのだ。
だがしかし、クリスティアナはそれを拒んだ。そして最後はオズワートが折れたのだ。
先ほどからクリスティアナがとびきり元気なのは、その体質が改善されたためだと推測した。
フランツは自分の目に備わっている魔眼に魔力を集中した。こうすることで、彼の魔眼は真価を発揮し、普段は誰も見ることができない魔力の流れを見ることができるのだ。
その状態でフランツは、クリスティアナとイザベラを見比べて魔力の流れを追った。
「奥様の体に、イザベラお嬢様のものと思われる、虹色の魔力の色がわずかに見えます。何かしらの魔力を使ったのは間違いないでしょう。しかし、ケガや病気を治す魔法はいくつか聞いたことがありますが、体質まで改善できる魔法は聞いたことがありません。しかも一時的ではなく永続的となると聖女様でも使うことができないでしょう。さらに言えば虹色の魔力など初めて見ました。普通は得意な属性の色が見えるはずです。それが虹色となると……全属性が得意ということになるでしょう。これは賢者を越えるレベル、大賢者ですよ!」
このことが外部に漏れるのはまずいと思ったのだろう。声の音量を抑えながら叫ぶ、という器用な芸当を見せたフランツが、興奮気味に早口で一気にしゃべった。
普段そんなにしゃべる方ではないフランツがここまでしゃべるのだ。尋常ではないことを夫妻は理解した。いやむしろ、その熱意にドン引きしていた。
トントン。
この場にそぐわぬのどかなノック音が、主にフランツによって異様な熱気に包まれそうになっているこの場の空気を破った。
「旦那様、ルーク様が大変心配しておられます。お連れしてもよろしいでしょうか?」
扉の外から使用人の声が聞こえてきた。
「おお、そうだった。ルーク、入っていいぞ」
両親の悲鳴の後に呼び出された筆頭魔法使いフランツ。その後の沈黙。間違いなく何か良くないことが起こったのだろう。
不安に押し潰されそうな表情で、一人の男の子がおずおずと室内に入ってきた。
男の子の名はルーク・ランドール。イザベラの五歳離れた兄で次期公爵家当主だ。
ルークはベッドの上で元気な様子の母親を見て、ホッと安心した表情を浮かべた。
出産すると母親の命も危ない
そのうわさは屋敷中に広まっており、それはルークの耳にも入っていた。
ルークがゆっくりとベッドに近づくと、クリスティアナが優しく声をかけた。
「こちらへいらっしゃい。ほら、あなたの妹のイザベラですよ。今は眠っているけれど、すぐにまた目を覚まして元気な顔を見せてくれるわ」
クリスティアナは、ルークと、そして自分自身に言い聞かせるように言った。それを聞いたオズワートは、にこやかにほほ笑んだ。
「ルーク、今日からお前は兄になるのだ。兄として妹をしっかりと守らなくてはならないぞ」
最愛の妻にそっくりなイザベラを見るオズワート。ルークもまた、母親にそっくりなイザベラを見つめていた。
「分かりました。私の命に代えてもイザベラを守ります!」
「あらあら、ルークったら。それではまるで騎士の宣誓だわ」
両親は少しあきれた様子ではあったが、その頼もしさを感じさせる様子に和やかな空気が流れた。
その後ろでは「私もイザベラお嬢様を守りますぞ!」といった表情でフランツが熱い視線をイザベラに送っていた。
「フランツ、私の可愛い、可愛いイザベラを見てくれ。この天使のような娘をどう思う?」
「は? す、すごく可愛い……お嬢様です?」
突然の娘自慢に思わず素の表情になったフランツ。その頭には疑問符がピヨピヨといくつも飛び回っていた。
「オズワート、それでは何も分からないわよ。フランツ、イザベラが私に何かの魔法を使ったみたいなの。最初にイザベラの魔力が枯渇してないかチェックをしてちょうだい。その後に、私に一体何の魔法を使ったのかを調べて。今すぐに」
まるで別人のように元気になり、テキパキと指示を飛ばす夫人。それに比べて、政治の世界ではスゴ腕だと言われている公爵家当主の頼りなさ。
見てはいけない、知ってはいけない。そんな事実から目をそらしつつも、フランツはイザベラの魔力鑑定を始めた。そしてすぐに、その異常さに気がついた。
「こ、これは……!」
フランツは驚きの声を上げた。ランドール夫妻はそろって不安げな表情をし、固唾を飲んで、フランツの続く言葉を待った。
「ご安心下さい。魔力の枯渇はありません。それどころか、イザベラお嬢様の魔力量が多過ぎて、魔力が減っているのかどうかさえも分かりません」
フランツは突きつけられた事実に頭を振った。だが、真実はいつも一つ。
「奥様、イザベラお嬢様が魔法を使った、とは、どういうことなのでしょうか?」
フランツは混乱の極みにあった。計り知れない魔力量、産まれたばかりの赤子が魔法を使う。どちらも常識的に考えてありえなかった。でも、真実はいつも一つ。
「フランツ、私を診てちょうだい。先ほどまで、私は死を覚悟していたわ。でも今は、そんなことは絶対にありえないと断言できる。それほどにまでに体力が回復しているわ。いいえ、違うわね。今までで一番、体の調子が良いのよ」
なるほど、とオズワートとフランツは合点がいった。
クリスティアナは昔から虚弱体質であり、外を出歩くこともほとんどなかった。イザベラの出産についても、直前までやめるように二人で説得していたのだ。
だがしかし、クリスティアナはそれを拒んだ。そして最後はオズワートが折れたのだ。
先ほどからクリスティアナがとびきり元気なのは、その体質が改善されたためだと推測した。
フランツは自分の目に備わっている魔眼に魔力を集中した。こうすることで、彼の魔眼は真価を発揮し、普段は誰も見ることができない魔力の流れを見ることができるのだ。
その状態でフランツは、クリスティアナとイザベラを見比べて魔力の流れを追った。
「奥様の体に、イザベラお嬢様のものと思われる、虹色の魔力の色がわずかに見えます。何かしらの魔力を使ったのは間違いないでしょう。しかし、ケガや病気を治す魔法はいくつか聞いたことがありますが、体質まで改善できる魔法は聞いたことがありません。しかも一時的ではなく永続的となると聖女様でも使うことができないでしょう。さらに言えば虹色の魔力など初めて見ました。普通は得意な属性の色が見えるはずです。それが虹色となると……全属性が得意ということになるでしょう。これは賢者を越えるレベル、大賢者ですよ!」
このことが外部に漏れるのはまずいと思ったのだろう。声の音量を抑えながら叫ぶ、という器用な芸当を見せたフランツが、興奮気味に早口で一気にしゃべった。
普段そんなにしゃべる方ではないフランツがここまでしゃべるのだ。尋常ではないことを夫妻は理解した。いやむしろ、その熱意にドン引きしていた。
トントン。
この場にそぐわぬのどかなノック音が、主にフランツによって異様な熱気に包まれそうになっているこの場の空気を破った。
「旦那様、ルーク様が大変心配しておられます。お連れしてもよろしいでしょうか?」
扉の外から使用人の声が聞こえてきた。
「おお、そうだった。ルーク、入っていいぞ」
両親の悲鳴の後に呼び出された筆頭魔法使いフランツ。その後の沈黙。間違いなく何か良くないことが起こったのだろう。
不安に押し潰されそうな表情で、一人の男の子がおずおずと室内に入ってきた。
男の子の名はルーク・ランドール。イザベラの五歳離れた兄で次期公爵家当主だ。
ルークはベッドの上で元気な様子の母親を見て、ホッと安心した表情を浮かべた。
出産すると母親の命も危ない
そのうわさは屋敷中に広まっており、それはルークの耳にも入っていた。
ルークがゆっくりとベッドに近づくと、クリスティアナが優しく声をかけた。
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「分かりました。私の命に代えてもイザベラを守ります!」
「あらあら、ルークったら。それではまるで騎士の宣誓だわ」
両親は少しあきれた様子ではあったが、その頼もしさを感じさせる様子に和やかな空気が流れた。
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