悪役令嬢役を頼まれたので頑張ってはいるものの、何だか雲行きが怪しいですわ

えながゆうき

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イザベラ爆誕!

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 まぶしい光が収まると、そこには二十歳前後の、儚くも美しい顔をした人物がこちらをまぶしそうに見ていた。その顔は、どこかゲームの中のイザベラに似ていたのだが、決定的に違うことがあった。
 
 生気がないのだ。
 
 その表情は、最後に鏡で見た、私の表情にそっくりだった。いや、そのときよりもずっとひどい。今にも命が終わりそうだ。おぎゃついてる場合じゃない!

 前世ではまったく親孝行ができなかった。だから今世では死ぬまでしっかりと親孝行するのだ。たとえそれが破滅へと向かっているとしてもだ。
 そんな私の野望のため、お母様には、元気になってもらわねばならんのだ!

 私は脳をフル回転させた。思い出せ、思い出せ。いつ知識チートを使うのか。今しかないでしょ!
 そうだ、思い出した! 確かヒロインが、どんなケガでも、病気でも、のろいでも、ハゲでも、たちどころに回復させることができる究極の回復魔法、『パーフェクト・ヒール』を使えたはずだ。
 
 それを覚える条件は、レベルをカンストさせた上で、特定のフラグを回収し、特定のレアモンスターを五千匹ほど狩るという、とても厳しい条件だった。だがそれを見事成し遂げたことがある私なら無問題モウマンタイ

 どうせ使われることはないからと、開発者の裏設定でヒロインをはるかにしのぐ能力と無限の魔力を与えられている悪役令嬢イザベラの私なら、難なく使えるはずだ。たとえこの姿が赤子であったとしてもだ。

「あーうー! (パーフェクト・ヒール!)」

 まあ! とお母様が大きく青い瞳を見開いた。ああ、素敵だわ。残念ながらイザベラの瞳はルビーのように真っ赤なのよね。お母様と同じ、美しいブロンドの髪は引き継いだのだけど、目だけは違ったのよね。
 私も青い瞳が良かったわ。だって、かっこいいじゃない。ブルーアイズ……! おっと、これ以上は叫びたくなるからやめておこう。

 その瞬間、私の体から何かがゴッソリと抜け落ちた。慌てて頭を触ったけど髪じゃない。フサフサの髪の毛がしっかりとあったわ。良かった、ハゲてナーイ。だとすれば……。

 ああ、もしかして、魔力が消費されたのかな? そうだとすれば、魔法は成功したはず。もしそうならば、きっとお母様は元気になっているはずだ。

 でもねママ、私、とっても眠たくなってきたのよ。もう、眠ってもいいよね?
 こうして私は安心して意識を失った。寝る子は育つ。これ、赤子の鉄則。


 ****


「ちょっとオズワート、どうなっているの! 私のイザベラはどうなったの!?」

 つい先ほどまで、今にも死にそうな顔をしていた女性は、ベッドの隣で驚きの表情を浮かべ、棒立ちしていたイケメン紳士につかみかかった。
 そして、その華奢な体から生み出されたとは思えないほどの剛力を発揮して、ガクガク、ガクガクと紳士を前後に揺さぶった。

「クリスティアナ、落ち着きたまえ! おそらくイザベラは眠っているだけだ」

 イザベラの母親であるクリスティアナは、先ほどまでの死にかけの様子とは打って変わって、信じられないほど元気になっていた。
 
 イザベラの父親で現公爵家当主であるオズワート・ランドールは、紳士らしからぬ情けない悲鳴をあげた。
 公爵家当主をこれほど激しくシェイクするとは。深窓の淑女であると思い込んでいたクリスティアナに、そんな力があったなんて。オズワートにとっては色々な意味で大誤算だった。

 一体何が起きたのか、オズワートの方が聞きたかった。しかし、公爵家当主としての威厳を保つために、あえて口にしなかった。そして努めて軽い口調で言った。

「産声もあげないで眠るだなんて、よっぽど眠たかったんだな」

 ハッハッハ、と笑うオズワートをクリスティアナは白いまなざしで見ていた。

「そんな訳ないでしょう……あなた、見ていなかったの? イザベラは魔法を使ったのよ。一体何の魔法なのか、サッパリ分からないけど……」
「な、何だってー!!」

 その言葉を聞きオズワートは青ざめた。それもそのはず。もし体中の魔力が完全に尽きるようなことがあれば命の危険もあるからだ。

 魔力量には上限があるものの、一般的には鍛えれば鍛えるほど増加していくことが判明していた。しかし、生まれたばかりの赤子では、魔力量はたかが知れている。そのため、魔力が枯渇した可能性も十分に考えられたのだった。

「フランツ、フラーンツ!!」

 オズワートは大声をあげ、公爵家専属筆頭魔法使いのフランツを呼んだ。フランツは先代当主の頃から、ランドール公爵家に仕えており、その実績は折り紙付きである。
 そしてありがたいことに、世間の常識にうとい傾向にある公爵家にとって、必要不可欠なまともな常識人だった。

「何事ですか旦那様!」

 普段聞いたこともない主人の声に、万が一に備えて扉の向こうで待機していたフランツが慌てて部屋に入ってきた。
 もしや、予想していた通り夫人に不幸が? フランツは最悪の結末を想像し、緊張の面持ちを隠せなかった。
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