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宣戦布告
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「助かりましたわ。お兄様」
「気にしないで。イザベラを見れば、みんなあんな風になるさ」
私の窮地を救ってくれたお兄様にお礼を言うと、さも当然、とばかりに兄のルークが言った。さすがにそれは盛りすぎだろう。
「も、申し訳ありませんわ。イザベラ様」
ユリウスがシュンとなっている。かわいい。私があげた、私とおそろいのドレスを着ていればもっとかわいかったと思うんだけどな。残念だわ。
「いいのよ、ユリウス。それよりもローレンツを何とかしてちょうだい」
「あー、このままだと邪魔ですよね。ほら、起きなさいローレンツ!」
バチン! と素晴らしいビンタの音が鳴り響いた。おお、バイオレンス。これも一種の愛情表現なのかしら?
正気に戻ったローレンツは何事かとキョロキョロとしている。うん、こっちは相変わらずのようだな。ある意味で安心した。……ローレンツってこんなアホの子じゃなかったはず何だけどな。おかしいなー。
「ほらみんな、目立つから早く教室の中に入ろう」
ルーク先生の指示に従って、私たちはAクラスの教室に入った。王立学園のダンスホールに行ったあとは、自由行動になる。その前に点呼を取ることになっているのだ。
Aクラスには既に多くのクラスメートが今や遅しとクリスマスダンスパーティーを待っている様子だった。あちこちでどこか興奮した様子の声がしている。
私たち四人が入ると一瞬ざわめきが小さくなった。すぐに元のにぎやかさに戻ったものの、私たちがガッツリと見られたことは間違いなかった。
「みんなイザベラ様を見てましたね」
「そうかしら? ユリウスを見ていたんじゃないの? ねえ、ローレンツ」
「ううう、うん」
うん、ってローレンツ……。これはダメだな。前言撤回。全然正気に戻ってないわ。もう一発ユリウスにビンタをしてもらって……いや、ここは私が直接手を下した方が良いかも知れないわね。
私がローレンツに制裁を加えようとしていると、後ろから声がかかった。
「みんなここに集まっていたんだね。通りで騒がしいと思ったよ」
振り返った先にはフィル王子がいた。うーん、さすが王族の礼服。ただでさえまぶしい王子がものすごい輝きを放っているぞ。だがこの場でまぶしさに両目を手で覆うわけにはいかない。ここは最高の淑女の礼をすることで失礼のない態度を取らねば。
腐ってもカビてもこの国の王子様だからね。王立学園が平等を掲げているとは言え、さすがに例外はあるのだ。
「これはフィル王子、ご機嫌よう」
って、あれ? フィル王子の反応がないんだけど。そろそろ頭を上げても大丈夫かなー? チラ。
……フィル王子、お前もか。
さすがにこの状況はよろしくないと思ったのか、すぐにお兄様が動きフィル王子をタップしていた。まだやれるか、王子? ファイティングポーズを取れるのか、王子?
「ああ、ごめんごめん、私としたことが。天に召されたかと思ったよ」
奇遇ですね王子。私もそう思いましたよ。王族の前で大変失礼な態度ではあると思うが、今の私の顔は引きつっていることは間違いない。やっぱり制服で来れば良かったわ。
「イザベラ、良く似合っているよ、そのドレス。地上に舞い降りた天使、という言葉では言い表せないくらいだよ」
フィル王子がほほを赤くして私のドレスを褒めてくれた。どうやら本気でそう思っているようである。何だかこっちまで恥ずかしくなってきた。
そんな男性陣がソワソワした状態で、王立学園主催のクリスマスダンスパーティーが始まった。そして私たちがダンスホールへ移動したときになって、ようやくユリウスがなぜ騎士団の礼服を着ているのかが判明した。
「この服ならイザベラ様と一緒に踊れるだろうと思って……」
確かに今のユリウスは髪を後ろで結んだ美男子にしか見えない。それならありなのか? なしでしょ! 多分。
私が考え込んでいると、人混みをかき分けてこちらに向かってくる人物がいた。
「イザベラ様! ご機嫌よ……」
「あら、レオじゃない。ご機嫌よう。あなたは制服できたのね。私も制服にすれば良かったわ。レオー? 私の話、聞こえてるかしらー?」
真っ赤な顔でレオナールが美しい石像のように固まった。返事がない。どうやらただの石像になったようである。この整った顔の造形美ならデッサンするのに良さそうね。
ああ、どうしてこうなるのよ。固まらなかったお兄様は、さすが、だったのね。顔はやばかったけど。
私が頭を抱えている間にダンスの曲の演奏が始まった。この曲はダンスの授業で最初に習ったものなので、おそらくこの国ではスタンダードな曲なのだろう。先輩と思われる人たちがあちこちで女性にダンスを申し込んでいる姿が見えた。
遠慮し合う後輩たちを見越して、率先して先導してくれるようである。さすがは先輩。良く気が利きますなぁ。
でもどうやら、だれも踊り出さない様子である。何で? と思っていると一人合点がいった。国の最高身分である王子が最初である必要があるのだ。そのため、みんな王子がパートナーを連れて出てくるのを待っているのだ。
そんな王子は――私の目の前にスッと立った。ですよね。そんな気がヒシヒシとしていたし、私に断る勇気がないことも分かっているわ。だからこそ、気合いを入れてこのドレスを着てきたのだから。
私のことはどうでもいい。でも、フィル王子に恥をかかせるわけにはいかないわ。
「イザベラ、私と踊って――」
「ちょっと待ったー!」
おっと、ちょっと待ったコールだぞ。初めて聞く声だが、私はその声がだれだか想像がついた。だってすぐ近くにいるレオが、その声に反応して我に返ると、ものすごく複雑そうな顔をしてるんだもん。これ絶対ヒロインのソフィアよね。
私たちが声の方向に振り向くと、そこにはピンクのドレスをきたヒロインソフィアの姿があった。あなた、どこでそのドレスを手に入れたの? かなり高そうなドレスなんだけど。
私と違って宝石もジャラジャラつけてるし。一体どうなっているのよ。まさか魔法で作り出したとか――魔法? まさか!
「気にしないで。イザベラを見れば、みんなあんな風になるさ」
私の窮地を救ってくれたお兄様にお礼を言うと、さも当然、とばかりに兄のルークが言った。さすがにそれは盛りすぎだろう。
「も、申し訳ありませんわ。イザベラ様」
ユリウスがシュンとなっている。かわいい。私があげた、私とおそろいのドレスを着ていればもっとかわいかったと思うんだけどな。残念だわ。
「いいのよ、ユリウス。それよりもローレンツを何とかしてちょうだい」
「あー、このままだと邪魔ですよね。ほら、起きなさいローレンツ!」
バチン! と素晴らしいビンタの音が鳴り響いた。おお、バイオレンス。これも一種の愛情表現なのかしら?
正気に戻ったローレンツは何事かとキョロキョロとしている。うん、こっちは相変わらずのようだな。ある意味で安心した。……ローレンツってこんなアホの子じゃなかったはず何だけどな。おかしいなー。
「ほらみんな、目立つから早く教室の中に入ろう」
ルーク先生の指示に従って、私たちはAクラスの教室に入った。王立学園のダンスホールに行ったあとは、自由行動になる。その前に点呼を取ることになっているのだ。
Aクラスには既に多くのクラスメートが今や遅しとクリスマスダンスパーティーを待っている様子だった。あちこちでどこか興奮した様子の声がしている。
私たち四人が入ると一瞬ざわめきが小さくなった。すぐに元のにぎやかさに戻ったものの、私たちがガッツリと見られたことは間違いなかった。
「みんなイザベラ様を見てましたね」
「そうかしら? ユリウスを見ていたんじゃないの? ねえ、ローレンツ」
「ううう、うん」
うん、ってローレンツ……。これはダメだな。前言撤回。全然正気に戻ってないわ。もう一発ユリウスにビンタをしてもらって……いや、ここは私が直接手を下した方が良いかも知れないわね。
私がローレンツに制裁を加えようとしていると、後ろから声がかかった。
「みんなここに集まっていたんだね。通りで騒がしいと思ったよ」
振り返った先にはフィル王子がいた。うーん、さすが王族の礼服。ただでさえまぶしい王子がものすごい輝きを放っているぞ。だがこの場でまぶしさに両目を手で覆うわけにはいかない。ここは最高の淑女の礼をすることで失礼のない態度を取らねば。
腐ってもカビてもこの国の王子様だからね。王立学園が平等を掲げているとは言え、さすがに例外はあるのだ。
「これはフィル王子、ご機嫌よう」
って、あれ? フィル王子の反応がないんだけど。そろそろ頭を上げても大丈夫かなー? チラ。
……フィル王子、お前もか。
さすがにこの状況はよろしくないと思ったのか、すぐにお兄様が動きフィル王子をタップしていた。まだやれるか、王子? ファイティングポーズを取れるのか、王子?
「ああ、ごめんごめん、私としたことが。天に召されたかと思ったよ」
奇遇ですね王子。私もそう思いましたよ。王族の前で大変失礼な態度ではあると思うが、今の私の顔は引きつっていることは間違いない。やっぱり制服で来れば良かったわ。
「イザベラ、良く似合っているよ、そのドレス。地上に舞い降りた天使、という言葉では言い表せないくらいだよ」
フィル王子がほほを赤くして私のドレスを褒めてくれた。どうやら本気でそう思っているようである。何だかこっちまで恥ずかしくなってきた。
そんな男性陣がソワソワした状態で、王立学園主催のクリスマスダンスパーティーが始まった。そして私たちがダンスホールへ移動したときになって、ようやくユリウスがなぜ騎士団の礼服を着ているのかが判明した。
「この服ならイザベラ様と一緒に踊れるだろうと思って……」
確かに今のユリウスは髪を後ろで結んだ美男子にしか見えない。それならありなのか? なしでしょ! 多分。
私が考え込んでいると、人混みをかき分けてこちらに向かってくる人物がいた。
「イザベラ様! ご機嫌よ……」
「あら、レオじゃない。ご機嫌よう。あなたは制服できたのね。私も制服にすれば良かったわ。レオー? 私の話、聞こえてるかしらー?」
真っ赤な顔でレオナールが美しい石像のように固まった。返事がない。どうやらただの石像になったようである。この整った顔の造形美ならデッサンするのに良さそうね。
ああ、どうしてこうなるのよ。固まらなかったお兄様は、さすが、だったのね。顔はやばかったけど。
私が頭を抱えている間にダンスの曲の演奏が始まった。この曲はダンスの授業で最初に習ったものなので、おそらくこの国ではスタンダードな曲なのだろう。先輩と思われる人たちがあちこちで女性にダンスを申し込んでいる姿が見えた。
遠慮し合う後輩たちを見越して、率先して先導してくれるようである。さすがは先輩。良く気が利きますなぁ。
でもどうやら、だれも踊り出さない様子である。何で? と思っていると一人合点がいった。国の最高身分である王子が最初である必要があるのだ。そのため、みんな王子がパートナーを連れて出てくるのを待っているのだ。
そんな王子は――私の目の前にスッと立った。ですよね。そんな気がヒシヒシとしていたし、私に断る勇気がないことも分かっているわ。だからこそ、気合いを入れてこのドレスを着てきたのだから。
私のことはどうでもいい。でも、フィル王子に恥をかかせるわけにはいかないわ。
「イザベラ、私と踊って――」
「ちょっと待ったー!」
おっと、ちょっと待ったコールだぞ。初めて聞く声だが、私はその声がだれだか想像がついた。だってすぐ近くにいるレオが、その声に反応して我に返ると、ものすごく複雑そうな顔をしてるんだもん。これ絶対ヒロインのソフィアよね。
私たちが声の方向に振り向くと、そこにはピンクのドレスをきたヒロインソフィアの姿があった。あなた、どこでそのドレスを手に入れたの? かなり高そうなドレスなんだけど。
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