悪役令嬢役を頼まれたので頑張ってはいるものの、何だか雲行きが怪しいですわ

えながゆうき

文字の大きさ
48 / 48

フィナーレ

しおりを挟む
「と言うわけなんですよ。あなたにはとんだ迷惑をかけてしまいましたね」

 話によると、どうやら大地の精霊とフランツと天照大神様はつながっていたらしい。本来の予定では、大地の精霊を私にくっつけて、そこから直接助言をするつもりだったのだが、私がそれを断ったことで大誤算! となったらしい。

 正直スマンかった。まさかそんな取り決めになっているとはつゆ知らず。天照大神様は特に大地の精霊を操っていたというわけではなく、魔力の塊である精霊と対話がやりやすかったのでお願いしただけだそうである。

「でも、今の話だと、天照大神様もこの世界には干渉してはならないのではないですか?」
「普通ならそうなんですが、事が事ですからね。この世界に連れ去られた私の愛し子はあなただけではないのですよ」

 なるほど。だからここまで再現性の高いゲームの世界を作り上げていたのか。絵本も地球にあったものと同じような話のものが多かったし、改めて考えると、文明も西洋風だものね。

「それで、これから私はどうすればいいのですか?」

 今の話だと、私の役目は終わったのだろう。それならば、私はこのまま元の世界に帰ることになるのだろうか? でも、帰るって言っても、私が死んだのは確かなのよね。またおぎゃあって生まれるのかしら。今度は前世の記憶を持たずに……。

「そんなにおびえることはありませんよ。確かにあなたの魂は回収させてもらいます。ですが、今ではありません。あなたがこの世界での天寿をまっとうしたあとに、改めて回収させてもらいますよ」
「良かった。ありがとうございます」

 頭を下げた私を優しくなでてくれた。どうにも慈悲深い創造者のようである。

「これから先どのように生きるのかはあなたの自由です。あなたの望むままに、自由に生きなさい。私ともここでお別れです。フランツ君に体を返してあげなければなりませんからね」

 そう言うと、片目を閉じた。どうやらここで天照大神様とはお別れのようである。困ったときに助言をもらえたら心強かったのだけれど、そうも言ってはいられないわね。
 これ以上、心配をかけるわけにはいかないわ。

「何から何まで、ありがとうございます」

 こうして天照大神様は去って行った。ここから先はシナリオのない世界。どんな明日が待っていることやら。ちょっと楽しみね!


 ランドール公爵家の食卓に暗い顔が並んでいる。一体何事? わけが分からない私は、隣に座るソフィアに目配せをする。ソフィアも何が起きたか分からないようで、無言で首を左右に振った。

「あの……お母様?」
「イザベラ、これを見なさい」

 手渡されたのはテストの通知表。
 クリスマスダンスパーティーは中止になったが、その後にはキッチリと来年のクラス分けのテストがあったのだ。私には関係のないテストだと思っていたのだが、何か問題があるのだろうか。

「わあ、ひどい点数!」
「イザベラ」
「ごめんなさい」

 おおう、怖いわお母様。きれいな顔が台無しどころか般若のようになっているわ。これはイザベラ忍法、言わ猿を使わざるを得ないわね。

「はぁ。まったく、どうしたらいいのかしら。イザベラ、あなたは来年Fクラスだそうよ」
「え、Fクラス!? それって一番下のクラスじゃない! どうして!?」

 お母様はもう一度、大きなため息をついた。

「どうしてって、あなたの成績が悪いからに決まっているでしょう」
「え、でもだって、お父様の口利きでみんなと同じAクラスにしてもらえるんでしょう?」
「そんなことをするわけがないでしょうがー!!」

 雷が落ちた。それも本物の雷である。窓から見える空には、ハッキリと真っ黒な暗雲が立ちこめているのが見えた。そして私は思い出した。
 そうだ、ゲームのシナリオはお釈迦になったんだった。自分がギロチンにならないことが分かって浮かれ過ぎていたわ!

 その日から、お母様がつきっきりで勉強を教えてくれた。ついでにマナー講習もやらされた。何だかいつもやっているマナー講習よりも、まるで王族に求められるかのような上級者向けのマナー講習だったんだけど、気のせいかしら?

 そうしてやって来た新学期初日。
 私は通知されていたようにFクラスへと向かった。やはり結果は覆らなかったようでる。まあいいか、ソフィアも一緒だし。

 八年間のブランクがあるソフィアは私と同じFクラスになった。一人じゃないってすばらしいと思いながらも、そこまで飛び級できるほどの知識をこの短期間で身につけたソフィアに戦慄した。
 もしかしなくても、超優秀なんじゃ……。さすがはヒロインね。

「イザベラお姉様、おはようございます」
「師匠、おはようございます!」
「えええ! どうして二人がFクラスにいるの!? 二人ともAクラスのはずよね」

 そこにはいないはずのユリウスとローレンツの姿があった。えっと、確か二人は優秀な頭脳を持っていたはず。こんな下っ端のクラスには、逆立ちでもしなければ入れないはずである。

「フッフッフ、イザベラお姉様の実力ならFクラスになるだろうと思ってましたわ。 ですからテストの点数を操作してFクラスに入りましたのよ!」

 勝ち誇ったように高らかと宣言するユリウス。ここに逆立ちしたやつがおった。でもちょっと傷ついたぞ。それならローレンツは……そう言えばコイツ、脳筋だった! 勉強ができるはずがないわ!

 ごめんなローレンツ、脳筋にしてしまって、と一人で心の中で謝っていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ソフィア、イザベラ様!」

 振り返るとそこにはレオナールの顔が。どうやらレオナールも手抜きして、ソフィアのいるFクラスになったようである。うーん、これが愛の力か。ソフィアと同じクラスになれるのなら、どのクラスであろうと関係ない。

 レオナールを見てうれしそうな顔をするソフィアを見ながら、一人ニヤニヤしていた。
 そのとき、周囲がにわかに騒がしくなった。今度は何事?

「おはよう、イザベラ。今日も元気そうだね」
「え? フィル王子!? なぜここに!?」

 何でAクラスにいるはずのみんながここに集まって来ているのか。まさか王子……。

「イザベラ、フィルと呼んでくれといつも言っているだろう? なぜって、そりゃあテストの点数が悪かったからに決まっているだろう?」

 そんなわけない。そんなわけがあるものか。あるとしたら……さてはFクラスにするように口利きをしたな、王子ー!
 何で王子が悪役王子みたいなことをやっているのよ。大丈夫なの、それ? 変なフラグを立ててないわよね?

「そろっているみたいだな。ほら、全員席につけ。私が今日からこのクラスを担当するルーク・ランドールだ。厳しく鍛えるつもりなので、そのつもりでいるように」

 お兄様、お前もか!

 こうして私の新しい生活が始まった。この先、私たちがどうなるのかは、神様でも分からない。

 Fin
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

ドミトリー
2022.03.15 ドミトリー

楽しく読ませていただきました。
(^ω^)
他の作品も楽しみです。

解除
伊弉冉(紫兎)

女神が憑依してわがまま放題って、女神様良い子演じてよ!わがまま令嬢みたいな子になったら自分の思い通りのコトに進まないじゃんw(って叫びたくなりますね)
イザベラは攻略対象達の救世主になっているから、もうツーアウトスリーアウト通り越えててしまった(^∇^)

2021.03.29 えながゆうき

コメントありがとうございます!
この女神様は、我が儘放題、贅沢し放題に楽しみたいという、一風変わったタイプの女神となっております。
まさに女神様の方が悪役令嬢なのでは? そうかも知れませんね……。

イザベラはすでにスリーアウトどころか、三回の裏くらいまでに試合は進んでいるものと思われますw

解除
tago
2021.03.16 tago

悪役令嬢向きの性格の女神だな😥
元の人格のヒロインが不憫だ…

2021.03.16 えながゆうき

コメントありがとうございます。
大丈夫です。ちゃんとキッチリ落とし前はつけさせますから。
元の人格のヒロインも無事ですので、安心して読んで下さいね。
ただ、ちょっと長い眠りについているだけですので。八年ですが……。
女神へのざまぁを二度ほど用意していますのでお楽しみに。
フフフ……。

解除

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。