奴隷の少女がどうやら伯爵令嬢みたいです

えながゆうき

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お風呂場での攻防①

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 さて、夕食の後は風呂に入って寝るだけか。うん、ここからが勝負の時間帯だな。うまくパメラを誘導しなければ、とんでもない「若さ故の過ち」を犯しかねない。

 どうしよう。大衆浴場に連れて行くという手もあるのだが、それだとパメラが風呂に入っている間の守りが弱くなる。さすがに多くの人が利用する大浴場に、猫にしか見えないシロを送り込むわけにはいかない。あそこはペット禁止だもんね。

 さすがにパメラの身に何かあるのはまずい。なるべくだれかが側にいる体勢を作っておくに越したことはないだろう。
 そうなると、家にある風呂に入ることになるわけだが――。

「エル様、お風呂の準備をしてまいりますね」

 元気そうにパメラが言ったが、足下がおぼつかない様子。ヨロヨロと深窓のお嬢様のように立ち上がった。

「いや、俺が準備をするからいい。パメラ、今日は疲れているだろう? 少し休んでおくんだ。足下がふらついているぞ」

 パメラは思った以上に疲れていたようである。それもそうか。慣れない奴隷館で待っていた挙げ句に、買い物に、料理。生粋のお嬢様であるはずのパメラは疲れているはずだ。
 だがこのことによって家で風呂に入ることが決定してしまった。ここからはますます慎重に行動せねば。

 風呂場にたどり着くと、お湯が出る魔道具を起動させて湯船にお湯を入れはじめた。魔道具から勢いよく湯気が立ち上がり、湯船を満たしてゆく。

 魔法でも湯を張ることはできるが、温度調節が難しい。その点、魔道具なら安定したお湯を出すことができる。便利な時代になったものだ。

 ちなみにこの魔道具を所有しているのは、この大陸では高位貴族くらいなものだろう。少しずつ輸入されているようだが、まだまだ値段が高い。母国では一般庶民も普通に使っていたけどね。あらためて母国とこの大陸の技術力の差を感じた。
 ほどなくしてお風呂の準備が整った。まずはパメラを風呂に入れよう。

「パメラ、お風呂が沸いたから先に入りなさい」

 ちょっと強めの口調で、命令するように言った。これで素直に言うことを聞いてくれればいいのだが。

「で、ですが、奴隷がご主人様より先にお風呂に入るのはダメですわ」

 やっぱりそうきたか。主の命令としてごり押しすることもできるが、そんなことをすればパメラが傷つくかな? いやでも、パメラのためだ。俺が先にお風呂に入っていたら、間違いなく背中を流しにやってくる。
 そのときに、俺が野獣のように襲いかかる可能性は十分にある。

「パメラ、命令する。先に風呂に入るように」
「……!! はい」

 トボトボと足取りも重く、パメラが風呂場へと向かった。これで、良いんだよね? なんだろうこの胸のモヤモヤは。もしかして、これが恋……。不意に痛み出した胸に思わず左手を当てた。嫌な汗が背中をつたう。

「ご主人様」
「どうした、シロ?」
「パメラのこと、嫌いなの?」
「いや、そんなことはないけど……」

 俺は一体どうしたいんだ? 俺は自由気ままな冒険者を、できるのなら続けたい。でも、やっぱりそれは最初から無理だったのかも知れない。そんな我が儘をいつまでも言っていられない時がきたのかも知れない。パメラと添い遂げるということは、そういうことだろう。
 ……俺もそろそろ年貢の納め時か?

 俺の返事を聞いたシロは「ふぅん」と不満げな声を上げると、どこかへと去って行った。どうやらシロはすでにパメラの味方みたいだな。できればそのままパメラを励ましてきてもらえるとうれしいのだが。

 しばらくすると、ホカホカ状態のパメラが戻ってきた。機嫌は……どうやら直っているようである。上気した顔で風呂から上がったことと、いい湯だったことを告げた。
 それを確認すると俺は風呂へと向かった。さっさと服を脱ぎ捨てると、体を洗い、湯船につかった。

 やれやれ、これでようやく一息つけそうだ。今日は大変な一日だったな。まさかこんな日が来るとは思わなかった。
 このままシロと二人で根無し草のように生きて行くつもりだったのに。二人だけなら自由に旅をすることができる。それだけで何の問題もなかったはずだ。

 ……扉の向こうから、何やらガサゴソと、いや~な音がする。シロではこれほど大きな音を立てることはできないだろう。
 この音は間違いなく、パメラが風呂場に突入しようとしている音。俺は頭を抱えた。
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