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リボン

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 今日は本当にたくさんの収穫があった。
 パメラが無事に召喚獣を呼び出すことに成功した。そして、当初の予定通りにその背中に乗って移動するための算段もつけることができた。
 あとは明日、首輪ベルトを取りに行ってから乗る練習をすれば、俺も冒険者家業を再開することができる。

 パメラには言っていないが、いくつか依頼が来ていたのだ。どれも魔物退治の依頼だったので断っていた。俺じゃなくても倒せそうな依頼だったしね。楽勝とはいえ、それでもパメラを一緒に連れて行くのには多少不安があった。

 だがフェンリルに乗れるようになったことでその不安が解消される。パメラを一緒に連れて行くことができるのだ。
 フェンリルならば移動だけでなく攻撃もできる。そしてその攻撃力はとても強力である。さすがは上位種の召喚獣。だてじゃないな。

 フェンリルは移動系と攻撃系の両方に分類されている珍しい召喚獣なのだ。普通は一点特化なのだが、フェンリルは上位種なので二極。かなりおいしい召喚獣だ。それをパメラが選んでくれたので、本当に運が良かった。
 明日は早速その攻撃力を試してみたいと思う。それを確認すれば後顧の憂いはなくなる。

 家に帰るといつものように夕食の準備をして、風呂に入った。特に問題のない、いつもの日常。さすがに俺も慣れてきたし、パメラはしっかりとタオルを巻いてくれているし、言うことはなしだな。心にも余裕ができてきた。

 ……ってこれ、完全に新婚生活みたいになっているんですけど!? しかもお貴族様では絶対にできないほどのイチャイチャっぷり。貴族だと、二人っきりで風呂に入るとかほぼ無理だからね。絶対にお手伝い用の使用人が同行する。それじゃ落ち着いてイチャイチャできないだろう。

 風呂から上がるとあとは寝るだけである。これまでは召喚魔法の勉強を日付が変わるころまで行っていたのだが、無事にフェンリルを召喚することができたので、これ以上の勉強は必要ない。

 どうしよう。魔法の勉強でもするか? でも面白くないしな。
 ソファーに座ってそんなことを考えていると、隣に座っているパメラが体を寄せてきた。豊満な胸部が腕に当たる。多分、当てているんだろう。

「エル様、奴隷商でのお話の続きをしてもよろしいでしょうか?」

 すがるような目が、俺の目を下から見上げた。その瞳が静かな湖畔のように揺らめいている。俺はその目に見入ってしまった。

「エル様?」
「あ、ああ、ごめん。構わないよ」

 俺の言葉にホッと息を漏らすと、俺の胸に静かに顔を押しつけた。

「エル様、私は決して奴隷だからエル様に奉仕しているわけではありません。私が……」

 パメラの言葉が詰まった。でもそこまで聞けば、その先は十分に予想ができる。これ以上パメラを辱める必要はないだろう。
 俺はパメラをきつく抱きしめた。パメラも負けじときつく抱きしめてくる。

「ありがとう、パメラ。それ以上は言わなくてもいいよ。俺はバカだな。パメラを疑うなんて」

 腕の中でパメラがイヤイヤと首を振った。スンスンと鼻をすする音がする。ああ、パメラを泣かせてしまった。俺はパメラが泣きやむまでその頭を撫で続けた。


 パメラの涙が止まるころには、すでに寝る時間になっていた。パメラを連れて寝室へと向かった。俺が寝床の準備をしていると、その間にパメラとシロは部屋を出て行った。

 トイレかな? 寝る前にトイレに行くのは良い心がけだ。でも、シロまで一緒に行く必要はないと思うのだが。オルトがいることだし、そっちを連れて行けばいいのに。
 足下で横になっているオルトを見た。オルトは何か? と言った様子で首をかしげてこちらを見上げていた。……犬も良かったな。次は俺も犬系の召喚獣にしようかな。今度は従順な生き物に――。

 ガチャリ。部屋の扉が開く。おかしい。いつもならノックをしてから入ってくるのに。俺は不審に思いながら扉の方を振り向いた。

「ぱ、パメラ、なんて格好をしてるんだ!」

 思わず動揺して叫んでしまった。パメラはビクッっと小さく震えた。その小さな衝撃で結んでいる細い紐が肩からずり落ちそうになる。慌ててそれを押さえた。
 なんとパメラは昼間に買った「シロの首に巻くためのリボン」を自分に巻いてきたのだ。

 状況からすると、おそらくシロも手伝ったのだろう。しかし所詮は猫の手。あまり役には立たなかったようであり、ところどころゆるい。いや、ハッキリ言わせてもらおう。雑! もう大事な部分が半分見えている状態である。「君たち、わざとやってるよね?」とでも言いたくなるような出来である。そりゃ、ちょっと震えただけで崩れそうになるわ。

「あの、エル様が喜んで下さるかなって……」

 パメラがションボリとうつむいた。違うんだ、違うんだよパメラ。そうじゃないんだ。

「パメラ、君の気持ちはとってもうれしいよ。でもちょっと、刺激的過ぎるんじゃないかな?」

 じっくり見るわけにもいかず、かと言ってさっきの会話もあるため、パメラの好意を無駄にするわけにもいかない。どうしてこうなった。

「シロちゃんがこうする方がエル様が喜ぶって……」

 俺はシロを見た、がシロがいない。すでに逃げたあとのようである、そりゃないぜ、シロ。足下にいたオルトは鋭い目つきでこちらを見ている。

「確かに間違ってはないけど……」

 俺の言葉に安心したのか、パメラが春の木漏れ日のような柔らかい笑顔を見せた。それを見て思わず抱き寄せてしまった。ほぼ全裸の女の子を。

「エル様……」

 パメラが俺の背中に両手を回した。その動きがまずかったのだろう。胸の突起部分をギリギリ隠していた紐が完全にずれた。パメラは気がついていないのか、そのままスリスリと俺の胸に顔をすり寄せている。

 ええい、ままよ。このまま抱きかかえてベッドに運んでしまおう。パメラの太ももを後ろから抱きかかえた。が、どうやら太ももとお尻を覆っていた紐の位置が悪かったようだ。紐が食い込んだようである。

「ひゃあん!」

 パメラが嬌声を発した。耳を赤くしてこちらを見上げる。俺はそれを聞かなかったことにしてベッドにパメラを放り込むと、目にもとまらぬ早技で毛布をかけた。そして明かりを消した。

 まずはパメラの身の安全の確保だ。これはまずい。今までにないくらいにまずい。あの見えそうで見えないパメラの裸体。真っ暗闇だというのにハッキリと目の前に浮かんでいる。
 さすがはシロというところか。俺の性癖が完全にバレている。

 どうしよう、どうしようと身悶えているとパメラが体を寄せてきた。それはまずいですよ!

「パメラ、なんていうか、凄かったよ」

 語彙力! 自分でも語彙力がなくなっているのがハッキリと分かった。しかし、頭が全然回らない。頭の中がパメラで埋め尽くされている。明かりを消したのも、どんな顔をしてパメラを見ればいいのか分からなかったからだ。

「うれしいですわ」

 顔のすぐ隣から聞こえてきた。小さな声だったが、その声はかすかに震えていた。パメラの早くなった吐息が顔にかかる。その瞬間――俺はパメラに【眠り姫】の魔法をかけていた。これはもう条件反射と言っていいだろう。これ以上は俺の理性が持たない。

「ごめん、パメラ……」

 すうすうと心地よさそうに寝息を立てているパメラに静かに謝った。ヘタレでごめん。でも、こういうのはちゃんと婚約を結んでからするべきことだと思うんだ。たとえだれにもバレなかったとしてもだ。
 明け方まで俺は眠ることができなかった。
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