奴隷の少女がどうやら伯爵令嬢みたいです

えながゆうき

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口約束

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「エル様、そろそろ起きて下さいませ。もうお昼ですわよ」

 だれかが顔を撫でている。パメラだな、間違いない。そして俺は、もう間違いを起こさない。
 俺は薄めを開けた。うん。ちゃんと服をきているな。確認は大事。朝から全裸の女の子に起こされたら心臓が持たない。

「おはようパメラ」
「おはようございます、エル様。今日は頭がハッキリとしているようですね」
「ああ。これだけ強い日の光に当たればな」

 窓から見える日はすでに頂点に達しようとしていた。完全に寝坊である。だれもそのことをとがめないのは昨晩の状況を察したからだろう。すでに朝食はあきらめて昼食の準備をしているらしい。着替えるとすぐにダイニングルームへと向かった。

「すまない、パメラ。今日の午前中の訓練をダメにしてしまって」
「気にしておりませんわ」

 パメラの機嫌は悪くはなさそうである。もしかして昨晩のことは夢だったのかな? 夢だとしても俺は疑わないぞ。首をかしげているとパメラが手紙を持ってきた。

「エル様、ポストに入っておりましたわ。午前中に配達されたみたいです」

 俺に来る手紙と言えば冒険者ギルドからの依頼だろう。パメラにお礼を言ってからそれを受け取ると、無節操にその封をペーパーナイフで切った。
 やはり冒険者ギルドからの指名依頼であった。どうやらドラゴンらしき魔物を討伐して欲しいとのことだった。

 ドラゴンらしいということは確定ではないということか。目撃者が少ないか、全滅したかのどちらかだろう。プラチナ級冒険者の俺にわざわざ依頼してくるくらいだ。なにかしらの化け物が存在していることは確かなのだろう。
 差出人は――ライネック伯爵。パメラの父親である。

 これは判断に困るな。本当にドラゴンっぽいなにかの魔物が領地内に現れたのかも知れないし、単に俺を呼び出したいだけなのかも知れない。まずはパメラに探りを入れてみるとしよう。

「パメラ、ライネック伯爵領にドラゴンはいるのか?」
「ドラゴン……ですか? 聞いたことがないですわ」

 小首をちょこんとかしげると、少し考えてからそう答えた。なるほど、パメラは知らないか。ここでパメラが知っていれば二人のつながりを疑ったんだけどね。
 もし俺を領地に呼び出したいのなら、パメラがドラゴンの話題を押してくるだろう。でもそれをしなかったということは、この件に関してはパメラは全く知らないことになる。

 そうなると、本当にドラゴンがライネック伯爵領に現れた可能性が考えられる。俺はパメラに手紙を見せた。驚きのためか、その美しい海のような青い瞳が大きく見開かれた。

「ドラゴンが、領地に」

 絶句している。この大陸でドラゴンが現れたとなれば、それは天災として取り扱われる。人の力ではどうしようもないと判断されているからである。できることはただ被害が少なくてすむように、早く自分の領地から去って行くように、祈ることだけである。

「もしかすると、すでにドラゴンを討伐するべく領軍が動いた可能性もある。そうなれば、ドラゴンも黙ってはいないだろう。急いでライネック伯爵領に向かった方がいいな」
「引き受けて下さるのですか!?」
「もちろん。プラチナ級冒険者がだてじゃないところをパメラにも見せてやるよ」

 俺が片方の口角を上げると、沈んでいたパメラの顔がほんの少しだけ柔らかくなった。ドラゴンの恐ろしさについては、どうやらよく知っているようである。学校で習ったりしたのかな? 俺が本当に倒せるのかどうか半信半疑の様子である。つい最近、アースドラゴンを退治したばっかりなのに。

「だが待てよ、一つ問題がある」
「問題? 何でしょうか?」
「パメラが奴隷のままだと非常にまずい。さすがに貴族のご令嬢が奴隷になっている話が社交界に流れるとまずい」

 ハッと息を飲むパメラ。それもそうかとうろたえ出した。

「それで、だ。今からパメラの奴隷契約を解除する」
「え」

 そう一言つぶやくと、パメラがカチンと音がするかのような勢いで固まった。そして大きな丸いサファイアのような瞳からボロボロと真珠のような雫がこぼれた。ナンデ!?

「エル様……私はもう要らないということでしょうか?」
「いやいやいや、違うから! 全然違うから!」
「あー、ついにご主人様がパメラを泣かせた~」
「ちょと待った、シロ。誤解だ! パメラは必要だから! 俺の大事な人だから! 一時的な処置だから! 仕事を終えてここに戻って来たらまた奴隷契約を結ぶから!」

 俺は必死だった。まさかパメラの涙にここまで動揺するとは正直言って思わなかった。そして気がついた。いつの間にか俺の中でパメラが「好きな人」から「大事な人」になっていたことに。これはもしかしなくても恋であり、愛である。

「……本当ですか?」

 パメラのほほに手を当てて親指で涙を拭っていると、パメラがおずおずと聞いてきた。その声色は疑っている様子だった。信じたい、でも不安。そんな印象を受けた。

「本当だ。約束する」
「でも口約束だけじゃ信じられないよね~、ここはあれでしょ、あれ」
「あれ?」

 シロが器用に片方の眉を上げて見上げてきた。その顔はニヤニヤしているように見えた。猫なのに、実に見事な表情筋の使い方だと思う。

「抱きしめて、熱い口づけを交わすところでしょ! あ、もしかして、そのまま押し倒して交尾までする? それならボクとオルトはあっちの部屋に行っておくよ」

 そう言ってシロは隣の部屋を腕で指し示した。
 確かにシロの言う通りかも知れない。交尾はしないが。シロの言葉を聞いたパメラは顔を真っ赤に染めた。まるで大輪の真っ赤なバラのようである。耳まで真っ赤。
 そして俺と目と目が合うとその目を閉じた。さすがにここでなあなあに終わらせると男の面子が立たないだろう。

 俺はそっとパメラの肩に手を置くと、そのまま自分の体を近づけてその艶やかで瑞々しい薄桃色をした唇に、自分の唇を重ねた。柔らかい感触が跳ね返ってくる。

「んっ」

 パメラの吐息が漏れた。おっと、ちょっと長く唇を重ね過ぎたかな? そっと俺が離れると、潤んだ目をしたパメラが物欲しそうにこちらを見つめていた。
 合計で三回の口づけを交わしたあと、俺たちは奴隷商へと向かった。
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