奴隷の少女がどうやら伯爵令嬢みたいです

えながゆうき

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受け継がれる伝統

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 トントン、と扉をたたく音が聞こえた。
 夕食の準備ができたのかな? 部屋に戻ってからそれほど時間は経過していないのだが、随分と手際がいいな。感心しながら扉を開けると、そこにはパメラが立っていた。パメラに会えたうれしさから、思わずそのほほに手が伸びる。

「え、エル様? どうかなさいましたか?」
「……いや、なんでもない。夕食の準備ができたのかな?」
「いえ、その、寂しかったのでこちらの部屋に……」

 パメラが言葉を言い終わる前にその手を取った。そして部屋の中へと招き入れた。その後ろからはピッタリとオルトがついてきており、こちらににらみを利かせながら入ってきた。
 嫁入り前の主に手を出すことは許さない。そんな決意に満ちた目をしていた。舅か。

 大丈夫。そんなことはしないさ。正式に円満な婚約したいからね。俺は夕食の知らせがくるまでの間、パメラを膝の上に載せて待った。ほほを薄紅色に染めたパメラが可愛い。

 夕食の準備ができたと知らせにきた使用人は一瞬だけ目を見開いた。しかしそこはさすがの伯爵家の使用人。すぐに表情を戻すと、何事もなかったかのように俺たちをダイニングルームまで案内した。その間もパメラとは手をつないだままだった。シロはやれやれといった感じでため息をついていた。

 ダイニングルームに到着すると、豪華な晩餐が待ち構えていた。
 準備された食器類を見た感じでは、どうやら伯爵一家と一緒のようである。一介の冒険者に過ぎない俺がその場に混じって良いのかとも思ったが、娘の旦那候補ならそれもありなのかも知れないと思い直した。

 案内された席に座る。隣はもちろんパメラだ。パメラの隣には伯爵夫婦が続くのだろう。
 それほど時間を待たずに伯爵夫妻とパメラの兄の次期伯爵が席についた。それを見計らったかのように食事が運ばれてきた。伯爵が乾杯の音頭をとり晩餐が始まった。

 晩餐の席では俺がこれまで戦ってきた魔物の話を、伯爵は最近の貴族界隈の話をした。パメラが新しい魔法を使えるようになっていることに兄は大いに驚いていたし、とても喜んでいた。
 さすがに食事をしているときに魔法を見せるわけにはいかなかったので、日を改めて披露することになった。

 俺の冒険者としての話ではかなり盛り上がった。貴族ではそうそうに味わうことのできない刺激的で生々しい現実に大いに関心を持った様子だった。もちろん、何重にも表現を優しくして話をしてる。そのまま話すと、食事がまずくなることは間違いない。

 こんな話は面白くないだろうと思ってパメラと二人きりのときは話したことはなかったのだが、パメラも興味津々といった感じで目を輝かせて聞いていた。

 思ったよりも楽しく晩餐を終えることができた。テーブルマナーを気にしながら食べる食事は精神的に疲労するからね。特にここ最近、それと無縁だったこともありちょっと心配だった。
 しかし、体はしっかりと覚えているものである。場の空気を敏感に察知したのか、正しく機能してくれた。

 夕食が終われば後は風呂に入って寝るだけだ。この時間帯に、何とかパメラの兄と話をしておきたい。明日から始まる調査を少しでも有利に進むようにしなければならない。
 場合によっては、何日もパメラと離れ離れになるかも知れない。まあ、空間移動の魔法で毎回ここに戻って来るようにはしようと思っているけどね。

 部屋で風呂の順番が回ってくるのを待っているとノックする音が聞こえた。
 思ったよりも早かったな、と思いつつ扉を開けると、そこに立っていたのはパメラだった。服装もゆったりとしたものに変わっており、すぐにでも寝間着に着替えることができるような服装だ。
 お風呂から上がったばかりなのかな? それにしては髪の毛が濡れていないような気がするんだけど。

「エル様、お風呂の準備ができましたよ。さあ行きましょう」

 そう言って俺の手をグイグイと引っ張り始めた。おいおい、これってまさか……俺はパメラの後ろに控えている使用人たちに目配せした。するとすぐに目礼を返してきた。
 ……なるほど、止めたけど、止まらなかったので何とかして下さいということか。どうしよう。さすがにパメラの実家で一緒に風呂に入るのはまずいのではないだろうか。

 手を引くパメラを何とかして説得しようと抵抗していると、廊下の向こうから伯爵夫人がやってきた。これぞ天の助け、いや違うな、使用人が呼んできてくれたようである。パメラ付きの使用人たちの表情がホッとしたものへと変わった。

「何を廊下で騒いでいるのですか? パメラ、また何かエルネストさんに我が儘を言っているのではありませんか?」
「お母様! そんなことはありませんわ。いつもと同じように一緒にお風呂に入って、お背中をお流ししようとしてるだけですわ」

 まあ! とパメラそっくりな目を大きく見開いた。サッと持っていた扇子を広げて口元を隠した。伯爵夫人のほほが薄紅色に染まっている。おそらくそのときの光景を頭に思い描いたのだろう。
 なんだろう。すごく恥ずかしくなってきた。それよりも、もしかしてこれは怒られる案件なのでは?

「……パメラ、そのようなことを簡単にするものではありませんよ」

 伯爵夫人は伏し目がちに話した。どうやらパメラに遠慮している様子。ガツンと言うのははばかられたらしい。
 なぜしっかりと言い聞かせないのかと思っていると、パメラが反論した。

「なぜです! お母様はいつもお父様と一緒にお風呂に入っているではないですか。お母様たちは良くて、私たちはダメなのですか!?」

 あ、これは良くない状況だぞ。伯爵夫人がパメラの圧に押されて半歩ほど後ろに下がった。扇で顔を隠しているが耳まで真っ赤になっている。どうやらよそ様には知られて欲しくない情報だったようである。

 だが納得した。パメラが裸で突撃してくるのは伯爵夫人の影響か。小さい頃からその光景を目にしていたため、旦那にはそうするものだと思っているようだ。このままではまずい。俺が何とかしなければ。

「パメラ、久しぶりに実家に帰ってきたんだ。伯爵夫人と一緒にお風呂に入ってはどうかな。女性だけのときにしかできない話もあるだろう?」
「え?」
「それは良い考えです。パメラ、一緒にお風呂に入りましょう」

 不満そうなパメラの声。それをかき消すかのように伯爵夫人が言った。そして困惑するパメラの手を引っ張って去って行った。
 どうかそのままお風呂の中でパメラによく言い聞かせて欲しい。こちらも色々とお風呂で我慢するのにも限界があるのだぞっていうことを。

 タオルを巻いているにもかかわらず、湯船から上がるときに丸いお尻がプリンと見えるのは、あれは仕様なのか。ほんの一瞬だが、大事なところが丸出しになるんだけど、分かっているのだろうか。しっかりと問い詰めてもらいたい。
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