38 / 50
強くなる思い
しおりを挟む
伯爵家の奥の茂み。砦の城壁に近い場所から、だれかがこちらを観察しているようだ。伯爵家の人物か、それとも別か。確認することはできないが、魔法で印をつけて行方を追うことはできる。
俺は追跡の魔法を使い、印をつけると、相手の出方をまった。実はこの魔法、パメラにも使っている。万が一何かあれば問題になるからね。もちろん緊急時以外ではパメラの居場所を追跡するつもりはない。あくまでも見失ったときのためのものである。
「エル様、どうされました?」
「いや、いつ見てもパメラは美しいなと思ってな」
「い、嫌ですわ、そんなことを言って。からかわないで下さいませ」
ほほを膨らませて、耳を赤く染めて、プイとそっぽを向いた。俺がジッとパメラを見ていたことに気がついたようだった。動揺してつい本音が出てしまったが、どうやら冗談にとられたようだ。それにしては、チラチラと恥ずかしそうにこちらを見ている。
シロもオルトも不審者に気がついたようである。頭を上げてそちらの方を警戒していた。今のところは殺気も感じないし泳がせておくことにしよう。伯爵家で働いているならばそのうち顔を合わせることもあるだろう。問い詰めるのはそれからでもいい。
城壁を越えて逃げるようならすぐに捕まえて尋問する。ひとまずはこの方針で行く。パメラの前で手荒なことはしたくはないからね。
パメラも魔物相手の手荒いことにはずいぶんと慣れてきたと思うが、それでも時々目を背けることがある。
その様子が申し訳なくて何度も実戦訓練を辞めようかと思ったが、パメラの決意は固く「大丈夫です」の一点張りだった。俺が無理やり辞めさせようとすると潤んだ目をしてこちらを見上げながらイヤイヤと首を左右に振るのだ。
そこまでされて辞めさせることは、俺にはできなかった。なんだかんだ言っても俺はパメラに甘い。それは認める。
休憩が終わり庭の散歩を再開した。怪しい人物は先ほどの場所から動いていない。
散歩が終わる頃にはずいぶんと日が暮れており、うっすらと西の空が赤く染まりつつあった。夕食の時間までにはもうしばらく時間があるとのことだったので、用意されていた来客室へと戻った。
「うーん、来客室にしてはなかなか広い部屋だね。もしかして、来客用じゃなくてご主人様のためにわざわざ用意した部屋なんじゃないの?」
シロがそう言うのも無理はない。準備されていた部屋は当主の部屋だと案内されても納得のゆくものだった。
暗い赤紫色のソファーは柔らかさと弾力を兼ね備えた座り心地の良いものであり、シロはすぐにそれが気に入って丸くなっている。
ソファーのすぐ側には琥珀色の磨き上げられたテーブルがどっしりと鎮座している。壁にはいくつもの風景画が飾られており、まるでそこに窓があるかのようであった。
壁に備え付けてある棚には東方の白い陶器が飾られている。陶器を彩る瑠璃色の模様から、俺の国からの輸入品であることは間違いないだろう。しかも本物。まだこの国にはそれほど流通していないはずである。
「懐かしいな、この陶器の模様。もしかして、ライネック伯爵は俺の国との流通ルートを独自に持っているのかな? それとも、王都に買い付けに行っているのか……いずれにせよ、国交関係はずいぶんと深いものになりつつあるみたいだな」
「おや? おやおや~? もしかしてそろそろ家に帰りたくなってきちゃった? ホームシックかい?」
からかうようにシロが含み笑いをしている。シロの言うホームシックではないが、この辺りで一度、国に報告に帰るのも良いかも知れない。俺も自分の進むべき道をしっかりと考えるべきだろう。
パメラがいなければ、間違いなく冒険者家業を続けていた。冒険者ほど自由で気ままな生き方はないだろうからね。何にも束縛されない自由、実に素晴らしいと思う。
だが俺にはパメラという守るべき者ができた。パメラの俺に対する態度を見れば、嫌でも愛されていることが分かる。そうでなければ、あそこまでの危険な捨て身タックルを食らわせては来ないだろう。
どうしてパメラはすぐに服を脱ぎたがるんだ。ライネック伯爵夫妻は一体どんな教育をパメラに施しているんだ。
ソファーに座り考え込んだ俺のそばにシロがやってきた。
「もしかして、本気で家に帰ろうか考えてるの?」
「まあな。パメラのことがある。パメラは伯爵令嬢だ。ご令嬢を冒険者の嫁にするわけにはいかない」
「フフッ。ご主人様がパメラのことを本気で好きみたいで安心したよ。これでパメラを捨てたら、ママに言いつけてたところだよ」
「それはどうも」
母上に言いつけるとか、なかなかの脅し文句じゃないか。シロには自由な言動を許しているが、それでも俺の召喚獣。主のことを一番に思う気持ちは間違いないようだ。俺の心をしっかりと読んでいる節がある。
俺がパメラを欲しいと思っていることを理解しているのだろう。それを「パメラのためだから」と無理やり自分に言い聞かせて、パメラを諦めることを許さないというわけだ。
目を閉じるとパメラの笑顔が浮かんでくる。最近は四六時中一緒にいたのだ。この時間に隣にぬくもりがないことに違和感を覚えた。
俺は追跡の魔法を使い、印をつけると、相手の出方をまった。実はこの魔法、パメラにも使っている。万が一何かあれば問題になるからね。もちろん緊急時以外ではパメラの居場所を追跡するつもりはない。あくまでも見失ったときのためのものである。
「エル様、どうされました?」
「いや、いつ見てもパメラは美しいなと思ってな」
「い、嫌ですわ、そんなことを言って。からかわないで下さいませ」
ほほを膨らませて、耳を赤く染めて、プイとそっぽを向いた。俺がジッとパメラを見ていたことに気がついたようだった。動揺してつい本音が出てしまったが、どうやら冗談にとられたようだ。それにしては、チラチラと恥ずかしそうにこちらを見ている。
シロもオルトも不審者に気がついたようである。頭を上げてそちらの方を警戒していた。今のところは殺気も感じないし泳がせておくことにしよう。伯爵家で働いているならばそのうち顔を合わせることもあるだろう。問い詰めるのはそれからでもいい。
城壁を越えて逃げるようならすぐに捕まえて尋問する。ひとまずはこの方針で行く。パメラの前で手荒なことはしたくはないからね。
パメラも魔物相手の手荒いことにはずいぶんと慣れてきたと思うが、それでも時々目を背けることがある。
その様子が申し訳なくて何度も実戦訓練を辞めようかと思ったが、パメラの決意は固く「大丈夫です」の一点張りだった。俺が無理やり辞めさせようとすると潤んだ目をしてこちらを見上げながらイヤイヤと首を左右に振るのだ。
そこまでされて辞めさせることは、俺にはできなかった。なんだかんだ言っても俺はパメラに甘い。それは認める。
休憩が終わり庭の散歩を再開した。怪しい人物は先ほどの場所から動いていない。
散歩が終わる頃にはずいぶんと日が暮れており、うっすらと西の空が赤く染まりつつあった。夕食の時間までにはもうしばらく時間があるとのことだったので、用意されていた来客室へと戻った。
「うーん、来客室にしてはなかなか広い部屋だね。もしかして、来客用じゃなくてご主人様のためにわざわざ用意した部屋なんじゃないの?」
シロがそう言うのも無理はない。準備されていた部屋は当主の部屋だと案内されても納得のゆくものだった。
暗い赤紫色のソファーは柔らかさと弾力を兼ね備えた座り心地の良いものであり、シロはすぐにそれが気に入って丸くなっている。
ソファーのすぐ側には琥珀色の磨き上げられたテーブルがどっしりと鎮座している。壁にはいくつもの風景画が飾られており、まるでそこに窓があるかのようであった。
壁に備え付けてある棚には東方の白い陶器が飾られている。陶器を彩る瑠璃色の模様から、俺の国からの輸入品であることは間違いないだろう。しかも本物。まだこの国にはそれほど流通していないはずである。
「懐かしいな、この陶器の模様。もしかして、ライネック伯爵は俺の国との流通ルートを独自に持っているのかな? それとも、王都に買い付けに行っているのか……いずれにせよ、国交関係はずいぶんと深いものになりつつあるみたいだな」
「おや? おやおや~? もしかしてそろそろ家に帰りたくなってきちゃった? ホームシックかい?」
からかうようにシロが含み笑いをしている。シロの言うホームシックではないが、この辺りで一度、国に報告に帰るのも良いかも知れない。俺も自分の進むべき道をしっかりと考えるべきだろう。
パメラがいなければ、間違いなく冒険者家業を続けていた。冒険者ほど自由で気ままな生き方はないだろうからね。何にも束縛されない自由、実に素晴らしいと思う。
だが俺にはパメラという守るべき者ができた。パメラの俺に対する態度を見れば、嫌でも愛されていることが分かる。そうでなければ、あそこまでの危険な捨て身タックルを食らわせては来ないだろう。
どうしてパメラはすぐに服を脱ぎたがるんだ。ライネック伯爵夫妻は一体どんな教育をパメラに施しているんだ。
ソファーに座り考え込んだ俺のそばにシロがやってきた。
「もしかして、本気で家に帰ろうか考えてるの?」
「まあな。パメラのことがある。パメラは伯爵令嬢だ。ご令嬢を冒険者の嫁にするわけにはいかない」
「フフッ。ご主人様がパメラのことを本気で好きみたいで安心したよ。これでパメラを捨てたら、ママに言いつけてたところだよ」
「それはどうも」
母上に言いつけるとか、なかなかの脅し文句じゃないか。シロには自由な言動を許しているが、それでも俺の召喚獣。主のことを一番に思う気持ちは間違いないようだ。俺の心をしっかりと読んでいる節がある。
俺がパメラを欲しいと思っていることを理解しているのだろう。それを「パメラのためだから」と無理やり自分に言い聞かせて、パメラを諦めることを許さないというわけだ。
目を閉じるとパメラの笑顔が浮かんでくる。最近は四六時中一緒にいたのだ。この時間に隣にぬくもりがないことに違和感を覚えた。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる