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MEMORIA STORY File 1 : Lefisia・Lezelt・Shelei
Filing2:凪ぐ想いが揺れ
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息は白く。
身体の中に熱が籠る。外気温こそ寒いとはいえ、連続で動き続けていれば真逆となるのは明らかだろう。
しかも登りだ。下りより楽じゃないのは分かり切っていたが、鈍った身体を本格的に叩き直すのにはうってつけなのに間違いはない。
ありとあらゆる魔物達の集団を、手当たり次第に殺す。どくどくと音を鳴らして鮮やかな赤の液を流して雪に染みる。それを百、二百と繰り返した。
所詮は魔物に過ぎず、対人と比べたら瞬きするのと同じくらいに簡単で当たり前に可能なもの。
金管楽器のように高鳴る鳴き声に鼓膜が裂けそうになって、両耳を手で塞ぐ。自分の背丈よりも五、六倍も誇る巨大に、二つの竜翼。
ワイバーン? 違う。
ドラゴンや竜種がこんなとこにいる訳はない。
「噂には聞いていたけど、まさかここで見る事になるとはね」
〝エレファリア〟。象に竜翼を取ってつけたような魔物。かつて竜種を飲み込んだ結果特別変異を起こしたと文献には残されている。
ひと踏みで雪崩を起こすほどの重量。覆われた茶の毛皮も硬そうに思える。これは普通なら削り取るのも骨が折れるだろう。
一気にエレファリアの懐まで入り込んで——丸太のように野太い四足に斬撃を撃ち込む。体勢を一気に崩しゆっくり横倒れになりそうなエレファリアに留めの十一連撃。
「(——やはり所詮魔物。アルフィルネが異常だっただけで、まあ、こんなものか)」
落ち着いた頃、剣にこびりついた赤の液を適当な布で拭ってから鞘に収める。
流石というべきなのか、北国の魔物の戦闘能力は平均的に高いような気がする。そう考えるとそれを駆逐している軍が中々に強く感じるのも無理はない。
そろそろ頂上ではないかと直感で感じて、少しだけ足取りを早める。
——頂上に着いた、瞬間、大きな吹雪が瞬間的に加速。相変わらず氷点下の酷寒だが、動き回っていた今ならそう大したものではない。視界が良好とはいえない中で降るか否かに暫く突っ立ったままでいると、自分ではない何かの音が吹雪に紛れて耳に届く。
誰かがアイスウルフの群れに襲われている……ような光景。残念ながら距離と吹雪であまりよく確認が取れないが、黒髪の人だというのだけは確信が持てた。
「こんな所に一人で登る、のかな」
普通ならあり得ないが、あり得ない事が目の前で繰り広げられているなら目の前の真実を信じるしかないのだろう。
再び冷たくなった剣の柄を握って、すらりと剣を抜く。
普通に行けば間に合わない。
魔力を両脚に纏って、一気に踏み出す。
一体が音を立てて足を踏み込み突撃をする構えを見せた瞬間——全てのアイスウルフの身体に剣撃を刻む。身体の中の赤の液を噴水のように吹き出して、どさどさと重苦しく倒れたのを確認。
周囲に他の魔物が居ないかを神経を張り詰めて確認してから、安堵の息を漏らす。無言で立ち去るのも悪いと思って、襲われていたであろう人物が立つ方向に顔と視線を向ける。
艶やかな黒の髪を肩より少し伸ばして、瞳はワインレッド。自分より歳下に見えるであろう少女だった。
「(……ん?)」
その外見に見覚えがあるような気がしたが、中央にいた頃は幾千幾万の人を見てきたのでいちいち覚えてはいない。
呑気にそう思いながらまた適当な布で剣身を拭うが、剣を鞘にしまった後に仰向けに倒れこんだ。
「ごめん、ちょっと無理しすぎた。病み上がりで登山は無理があったね」
「あの。目的地は何処ですか」
「ベルスノウルだよ」
「ベルスノウルですね。分かりました」
彼女はゆっくり立ち上がって荷物の白いショルダーバッグを肩にかけてまた戻ってきた。更に、仰向けになった俺をさぞ当たり前のように背に乗せて背負ったのだ。
「いや、待って」
「大丈夫です」
あまりにも涼しい顔で返答するものだから、大人しく肯定する事にした。
*
彼女の名は、リシェント・エルレンマイアーと言うらしい。更に東国の魔法士、ノエア・アーフェルファルタと西国の元貴族、ミエリーゼ・ウィデアルインとの出会いもあり——。
積もる話もあるだろうが、四人での旅が始まった。
そんな中で感じていた、リシェント・エルレンマイアーの人柄について。
一言で言えば大人しすぎる。もう少し言うとなれば、感情表現の乏しさを感じるが、決して彼女に感情が無いという訳では無い。
でも、彼女の心は折れる事なく。
俺とは違っていた。
だからこそ、なのだろうか。
もしかしたら、それ以前からかもしれないけれど。
——きっと俺は、彼女に恋をしている。
瞼を閉じて、眠りについた。
『ああ。愚かな』
——声。
『所詮、終わるというのに。またその感情を持つのか』
——その感情、とは。
『我には持たぬ』
『必要の無い』
『人だからこそ抱く感情』
「——ッ!」
息を詰まらせるかのように眼を見開いて、勢いよく上半身を飛び上がらせる。じんわりと汗をかいて、息も荒く乱れて切らす。
何か重要な夢を見ていたような気がする。
なのに、どうして。
「どうして、俺は、重要な事ばかり思い出せないんだよ……」
髪を毟るようにぐしゃりと自分の顔を掴み、己の愚かさを唇で噛みしめた。
身体の中に熱が籠る。外気温こそ寒いとはいえ、連続で動き続けていれば真逆となるのは明らかだろう。
しかも登りだ。下りより楽じゃないのは分かり切っていたが、鈍った身体を本格的に叩き直すのにはうってつけなのに間違いはない。
ありとあらゆる魔物達の集団を、手当たり次第に殺す。どくどくと音を鳴らして鮮やかな赤の液を流して雪に染みる。それを百、二百と繰り返した。
所詮は魔物に過ぎず、対人と比べたら瞬きするのと同じくらいに簡単で当たり前に可能なもの。
金管楽器のように高鳴る鳴き声に鼓膜が裂けそうになって、両耳を手で塞ぐ。自分の背丈よりも五、六倍も誇る巨大に、二つの竜翼。
ワイバーン? 違う。
ドラゴンや竜種がこんなとこにいる訳はない。
「噂には聞いていたけど、まさかここで見る事になるとはね」
〝エレファリア〟。象に竜翼を取ってつけたような魔物。かつて竜種を飲み込んだ結果特別変異を起こしたと文献には残されている。
ひと踏みで雪崩を起こすほどの重量。覆われた茶の毛皮も硬そうに思える。これは普通なら削り取るのも骨が折れるだろう。
一気にエレファリアの懐まで入り込んで——丸太のように野太い四足に斬撃を撃ち込む。体勢を一気に崩しゆっくり横倒れになりそうなエレファリアに留めの十一連撃。
「(——やはり所詮魔物。アルフィルネが異常だっただけで、まあ、こんなものか)」
落ち着いた頃、剣にこびりついた赤の液を適当な布で拭ってから鞘に収める。
流石というべきなのか、北国の魔物の戦闘能力は平均的に高いような気がする。そう考えるとそれを駆逐している軍が中々に強く感じるのも無理はない。
そろそろ頂上ではないかと直感で感じて、少しだけ足取りを早める。
——頂上に着いた、瞬間、大きな吹雪が瞬間的に加速。相変わらず氷点下の酷寒だが、動き回っていた今ならそう大したものではない。視界が良好とはいえない中で降るか否かに暫く突っ立ったままでいると、自分ではない何かの音が吹雪に紛れて耳に届く。
誰かがアイスウルフの群れに襲われている……ような光景。残念ながら距離と吹雪であまりよく確認が取れないが、黒髪の人だというのだけは確信が持てた。
「こんな所に一人で登る、のかな」
普通ならあり得ないが、あり得ない事が目の前で繰り広げられているなら目の前の真実を信じるしかないのだろう。
再び冷たくなった剣の柄を握って、すらりと剣を抜く。
普通に行けば間に合わない。
魔力を両脚に纏って、一気に踏み出す。
一体が音を立てて足を踏み込み突撃をする構えを見せた瞬間——全てのアイスウルフの身体に剣撃を刻む。身体の中の赤の液を噴水のように吹き出して、どさどさと重苦しく倒れたのを確認。
周囲に他の魔物が居ないかを神経を張り詰めて確認してから、安堵の息を漏らす。無言で立ち去るのも悪いと思って、襲われていたであろう人物が立つ方向に顔と視線を向ける。
艶やかな黒の髪を肩より少し伸ばして、瞳はワインレッド。自分より歳下に見えるであろう少女だった。
「(……ん?)」
その外見に見覚えがあるような気がしたが、中央にいた頃は幾千幾万の人を見てきたのでいちいち覚えてはいない。
呑気にそう思いながらまた適当な布で剣身を拭うが、剣を鞘にしまった後に仰向けに倒れこんだ。
「ごめん、ちょっと無理しすぎた。病み上がりで登山は無理があったね」
「あの。目的地は何処ですか」
「ベルスノウルだよ」
「ベルスノウルですね。分かりました」
彼女はゆっくり立ち上がって荷物の白いショルダーバッグを肩にかけてまた戻ってきた。更に、仰向けになった俺をさぞ当たり前のように背に乗せて背負ったのだ。
「いや、待って」
「大丈夫です」
あまりにも涼しい顔で返答するものだから、大人しく肯定する事にした。
*
彼女の名は、リシェント・エルレンマイアーと言うらしい。更に東国の魔法士、ノエア・アーフェルファルタと西国の元貴族、ミエリーゼ・ウィデアルインとの出会いもあり——。
積もる話もあるだろうが、四人での旅が始まった。
そんな中で感じていた、リシェント・エルレンマイアーの人柄について。
一言で言えば大人しすぎる。もう少し言うとなれば、感情表現の乏しさを感じるが、決して彼女に感情が無いという訳では無い。
でも、彼女の心は折れる事なく。
俺とは違っていた。
だからこそ、なのだろうか。
もしかしたら、それ以前からかもしれないけれど。
——きっと俺は、彼女に恋をしている。
瞼を閉じて、眠りについた。
『ああ。愚かな』
——声。
『所詮、終わるというのに。またその感情を持つのか』
——その感情、とは。
『我には持たぬ』
『必要の無い』
『人だからこそ抱く感情』
「——ッ!」
息を詰まらせるかのように眼を見開いて、勢いよく上半身を飛び上がらせる。じんわりと汗をかいて、息も荒く乱れて切らす。
何か重要な夢を見ていたような気がする。
なのに、どうして。
「どうして、俺は、重要な事ばかり思い出せないんだよ……」
髪を毟るようにぐしゃりと自分の顔を掴み、己の愚かさを唇で噛みしめた。
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