完結 R18 絶縁の恥さらし公女は、厄介者の王子様にまとわりつかれる。

にじくす まさしよ

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1 絶縁の恥さらし公女

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 現住所である寮から目的地までは徒歩25分。道中には、秋の訪れを伝えてくれる赤とんぼが飛び、自生のシロツメクサやマタタビなどが顔をのぞかせている。

 ここは、火の国、ケブル王国にある王立の学園。同じ敷地に建設されている学園の寮だ。同じ敷地なのに、ひとつひとつの建物が大きい上に離れているから、距離はおよそ2キロくらいだろうか。

 といっても、私は学生ではない。しがない電工設備課の平社員。といっても、この部署には私ひとりしかおらず、電設に関する工事や修繕のほかにも、雑務をこなしている。いわば、用務員のようなもの。
 用務員も複数名いるが、基本的には、王族や貴族の通うここでは、学生の付き人が彼らの準備をするので、雑務は少ない。

 用務員ですら複数名いるのに、私の課だけひとり。これには理由がある。

 この国の人々は、炎の魔法を使うことができる。彼らが扱えない電気も、魔法アイテムでコントロールしているが、その魔法アイテムの管理をすることが主な仕事だ。

 私は、雷の国ビニルシース公国の出身なのだが、雷の攻撃魔法はおろか、生活魔法や静電気に至るまで、何も使えない。たとえ、雷攻撃を仕掛けられても、私には無効。

 私は、生まれた時から、600Vの電圧や90度の熱すら、耐力、体積固有抵抗が高いため、どんな魔法も体質のせいで弱くなってしまう。普通は、一般家庭に使用される100~200Vくらいの電圧など、小さな子でも扱えるというのに。
 どれだけ訓練しようとも、どれほど体質改善のために人体実験のようなものをされても、私の絶縁体質は治らなかった。

 しかも、90度の熱量まで効かないので、90度の熱湯風呂も平気。

 そんな私は、ビニルシース公国唯一の公女。

 公国を代表すべき存在が、雷と相対する特異体質などありえない。歴代唯一無二の公国の恥さらし公女と呼ばれ、一定の勉強はさせられたものの、社交界に出されることなく、王宮の離れの一角で育てられた。

 両親は、一応は娘だからと気にかけてくれていた。だけど、それはを外部の目につかせないための監視目的だったようで、愛情を送られた記憶はない。
 両親がそんなだから、目立ったいじめなどはなかったけれど、使用人たちからも遠巻きにされた。
 私の侍女やメイドになる人は、本来なら一定以上の高位貴族となるはずが、大変な不名誉な職になるので、末端の教育もほとんどされていない令嬢が、短期バイトの募集でやってくる始末。
 その子たちは、仕事は時間がすぎればさぼってもいいという考えだったようで、必要最低限の世話しかしてもらえなかった。

 なので、一通りのことが自分でできるようになったのは、わりと幼少期だったような気がする。気がつけば、物さえあれば、生活に困ったことはなかったから。

 18歳の成人の日、そんな私に、両親が成人のお披露目をするわけがなく。
 その1年後に、いつのまにか出来ていた妹の成人のお披露目が盛大に開かれた。
 その賑やかな音で、私は、一歳年下の弟がいることを知った。そのくらい、私は外部との接触を遮断されていたし、跡取りの男子が産まれたなんて誰も教えてくれなかった。
 許可された行動範囲も狭いドッグランスペースくらいのものだけだったから、両親以外に弟という家族がいることに全く気づかなかったのである。

「ちょっとだけ、ちょっとだけ、見るだけだから……」

 私がいる周辺は、メイドたちが退勤すれば誰もいない。そっと部屋を出て、周囲を見渡すと、シーンと静まり返っている。幸い、外はもう太陽が沈み、廊下には雷魔法で作られたランプが、点々とあるのみで、周辺は薄暗い。

 初めて向かう場所に怖いような、でもわくわくするような期待で胸がドキドキした。

「弟を、ちょっと見たら帰って来るから」

 こっそり抜け出したことを知られたらどうしよう。
 見つかった時、両親は驚きつつも、年に一度、誕生日のときに見せてくれる、やんわりとした笑顔で名前を呼んでくれるだろうか。
 弟は、両親のどっちに似ているのだろう。父かな? 母かな? 両方に似ていても、きっと素敵な青年になっているに決まっている。

 いつもここまでと決められている地点から、足を一歩踏み出す。すると、いきなりビィービィーとけたたましい警告音が鳴り響いた。
 鼓膜が破けそうなほどの大音響に驚いて、しゃがんで両耳を慌てて手で抑える。すると、私の腕を、がっと掴まれて無理やり立たされた。

「この……、どうしてこいつがここにいる。メイドはどうした! ちゃんと見ておけと言っているだろうが!」
「も、申し訳ございません。一度もここから出たことがなかったから……お、お許しを……!」

 ほんの数分で、私は大勢の人々に囲まれた。怒号が飛んでいて、頭が真っ白になっているのに、私は一歩もあそこから出てはいけなかったんだと、大罪を犯した気持ちになる。

 怒鳴り声や皆の私に対する気持ちが怖い。音も恐ろしいし、何よりも、誰一人として私に手を差し伸べてくれる人がいないことが、とても悲しかった。
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