3 / 22
2 リサイクルボックス以下
しおりを挟む
弟の成人式という、非常に大切な日に騒動を起こした私は、あのあとすぐに連れ戻された。20mくらいしか離れていない自分の部屋に。
私を取り押さえた人たちが言うには、
私が知らずに鳴らした、城全体に響き渡るようなけたたましい警告音は、誤作動だということにしたみたい。そして、両親も弟も、ここにくることなく、式典を最後までやりきった。
とのことだった。
「もう二度と、このような迷惑極まりない騒ぎは起こさないでください。あなたは、ここで一生を過ごすのです。いいですね?」
時間とともに、私が、両親が決めた禁忌を破って外にでようとしたことへの怒りの感情がおさまったのか、私の腕を掴んだ人がそう言った。
その顔には、年に一度、私に見せてくれる両親と同じ、優しそうな笑顔を浮かべて。
両親が、そのあとここに来たわけではない。弟に至っては、私という存在がいることを知っているかどうかも怪しい。
本当はわかっていたのだ。
両親が、私を疎ましいと、思っていることを。
はやくいなくなればいいと、思っていることを。
だというのに、彼らが私に年に一度やさしい笑顔を見せることができるのは、閉じ込めている私のことをどうでもいい、無関係な存在だと思っているということを。
私は、両親にとって、目障りだけど、怒ったり悲しんだり、ましてや楽しいといった気持ちをゆさぶるような、娘ではないのだ。そのへんにある、ペットボトルのリサイクルボックスと同じ。
誰が、リサイクルボックスが不潔な存在だからといって、憎いとおもうだろうか。排除しようとするだろうか。
そのリサイクルボックスと同じ、いてもいなくてもどうでもいい存在だから、適当に笑うことができるのだ。
まだ、リサイクルボックスなら、回収されたあと、新たな商品に生まれ変わるものを一時的に保管するという価値がある。
でも、私は?
雷の国で、絶縁という特異体質を持つ私には、彼らにとっては、1Aほどの利用価値すらないのだ。
私は、何を期待していたのだろうか。
両親からの笑顔か? ハグか? それとも、愛?
弟が、私に満面の笑顔で駆け寄って「お姉様」と呼んでくれて、それを微笑ましく見ている両親の姿か?
そんな光に満ちた未来、私には絶対に来ない。
それを痛感した私は、その日から言われた通り大人しく過ごすことにした。
廊下にもほとんど出なくなって1週間。
もしかしたら、罰としてひどい目に合わされるのかもしれないと恐れていたのだが、両親にとって、私は本当にリサイクルボックス以下の存在だったみたい。
私が外にさえでなければ、ここで何をしていようともなんとも思わないのだろう。もしかしたら、ひとしれず天に帰ったとしても、メイドが気づくまで誰も知らずに捨て置かれて、笑顔で喜ぶのかもしれない。
なんて、自分で考えてもバカバカしいことを考えていると、突然窓が開いた。そこそこ強い風が吹いていたのか、カーテンがはためき、私の髪を乱す。
「……っ!」
一瞬、息がつまるほどの風のせいで、びっくりしたけれど声が出なかった。
目を閉じて、開いた本で頭を保護していると、風が徐々にやんでいった。
「いまのは一体……」
こんなことは初めてだ。外部からも、私を見ることができなように、この窓には強力な電子ロックがされており、勝手に開いたことはない。
帽子のように頭に乗せた本を置き、顔を隠している髪を払いのける。目を開けると、目前に黄色い物体がこちらを興味深そうに覗き込んでいた。
「ナ?」
私を心配そうに見つめてくるのは、本で見たことのある雷の精霊だった。手のひらほどの大きさの精霊は、体全体がまばゆい黄色のような体毛に覆われている。耳は体毛に埋もれているのか見えない。小さな鼻に、きゅるんとしたつぶらな瞳。そして、笑っているかのようなキュートな口元。
ひものような長い尻尾の先に、もふっとしたぼんぼりのような毛先がついている。
「精霊、さん?」
「ナナッ!」
なんて言っているのかわからないけれど、こちらの言うことはわかっているようだ。
精霊は、人の前にはほとんど姿を現わさない。人間ぎらいの彼らは、基本的に精霊の世界にいる。ごくたまに、こちらの世界にやってきたとしても、姿を消しているからだ。
「ナッ!」
想像していた以上に愛らしい姿に、思わずかわいいなあと見つめていると、3ミリくらいの何かを小さな手で差し出してきた。それは、球体で、透明の内部には、光が閉じ込められている。
「とてもきれいね。私に?」
「ナーナッ!」
はやく受け取れと、ぐいぐいこちらにそれを近づける。いかんせん、精霊の腕が1センチもないから、こちらには全然届かなくて可愛すぎる。
指先をそっとそれに近づけると、精霊は私の指先にそれを乗せた。
すると、その玉から、壁に向かって光が放射状に広がった。
「これは、光魔法?」
「ナッ!」
私は、どうだ、すごいだろう!と、胸を張りドヤっている精霊を手のひらにのせて、壁に映し出された男性と見比べていると、男性が静かに話し出した。
私を取り押さえた人たちが言うには、
私が知らずに鳴らした、城全体に響き渡るようなけたたましい警告音は、誤作動だということにしたみたい。そして、両親も弟も、ここにくることなく、式典を最後までやりきった。
とのことだった。
「もう二度と、このような迷惑極まりない騒ぎは起こさないでください。あなたは、ここで一生を過ごすのです。いいですね?」
時間とともに、私が、両親が決めた禁忌を破って外にでようとしたことへの怒りの感情がおさまったのか、私の腕を掴んだ人がそう言った。
その顔には、年に一度、私に見せてくれる両親と同じ、優しそうな笑顔を浮かべて。
両親が、そのあとここに来たわけではない。弟に至っては、私という存在がいることを知っているかどうかも怪しい。
本当はわかっていたのだ。
両親が、私を疎ましいと、思っていることを。
はやくいなくなればいいと、思っていることを。
だというのに、彼らが私に年に一度やさしい笑顔を見せることができるのは、閉じ込めている私のことをどうでもいい、無関係な存在だと思っているということを。
私は、両親にとって、目障りだけど、怒ったり悲しんだり、ましてや楽しいといった気持ちをゆさぶるような、娘ではないのだ。そのへんにある、ペットボトルのリサイクルボックスと同じ。
誰が、リサイクルボックスが不潔な存在だからといって、憎いとおもうだろうか。排除しようとするだろうか。
そのリサイクルボックスと同じ、いてもいなくてもどうでもいい存在だから、適当に笑うことができるのだ。
まだ、リサイクルボックスなら、回収されたあと、新たな商品に生まれ変わるものを一時的に保管するという価値がある。
でも、私は?
雷の国で、絶縁という特異体質を持つ私には、彼らにとっては、1Aほどの利用価値すらないのだ。
私は、何を期待していたのだろうか。
両親からの笑顔か? ハグか? それとも、愛?
弟が、私に満面の笑顔で駆け寄って「お姉様」と呼んでくれて、それを微笑ましく見ている両親の姿か?
そんな光に満ちた未来、私には絶対に来ない。
それを痛感した私は、その日から言われた通り大人しく過ごすことにした。
廊下にもほとんど出なくなって1週間。
もしかしたら、罰としてひどい目に合わされるのかもしれないと恐れていたのだが、両親にとって、私は本当にリサイクルボックス以下の存在だったみたい。
私が外にさえでなければ、ここで何をしていようともなんとも思わないのだろう。もしかしたら、ひとしれず天に帰ったとしても、メイドが気づくまで誰も知らずに捨て置かれて、笑顔で喜ぶのかもしれない。
なんて、自分で考えてもバカバカしいことを考えていると、突然窓が開いた。そこそこ強い風が吹いていたのか、カーテンがはためき、私の髪を乱す。
「……っ!」
一瞬、息がつまるほどの風のせいで、びっくりしたけれど声が出なかった。
目を閉じて、開いた本で頭を保護していると、風が徐々にやんでいった。
「いまのは一体……」
こんなことは初めてだ。外部からも、私を見ることができなように、この窓には強力な電子ロックがされており、勝手に開いたことはない。
帽子のように頭に乗せた本を置き、顔を隠している髪を払いのける。目を開けると、目前に黄色い物体がこちらを興味深そうに覗き込んでいた。
「ナ?」
私を心配そうに見つめてくるのは、本で見たことのある雷の精霊だった。手のひらほどの大きさの精霊は、体全体がまばゆい黄色のような体毛に覆われている。耳は体毛に埋もれているのか見えない。小さな鼻に、きゅるんとしたつぶらな瞳。そして、笑っているかのようなキュートな口元。
ひものような長い尻尾の先に、もふっとしたぼんぼりのような毛先がついている。
「精霊、さん?」
「ナナッ!」
なんて言っているのかわからないけれど、こちらの言うことはわかっているようだ。
精霊は、人の前にはほとんど姿を現わさない。人間ぎらいの彼らは、基本的に精霊の世界にいる。ごくたまに、こちらの世界にやってきたとしても、姿を消しているからだ。
「ナッ!」
想像していた以上に愛らしい姿に、思わずかわいいなあと見つめていると、3ミリくらいの何かを小さな手で差し出してきた。それは、球体で、透明の内部には、光が閉じ込められている。
「とてもきれいね。私に?」
「ナーナッ!」
はやく受け取れと、ぐいぐいこちらにそれを近づける。いかんせん、精霊の腕が1センチもないから、こちらには全然届かなくて可愛すぎる。
指先をそっとそれに近づけると、精霊は私の指先にそれを乗せた。
すると、その玉から、壁に向かって光が放射状に広がった。
「これは、光魔法?」
「ナッ!」
私は、どうだ、すごいだろう!と、胸を張りドヤっている精霊を手のひらにのせて、壁に映し出された男性と見比べていると、男性が静かに話し出した。
44
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる