完結 R18 絶縁の恥さらし公女は、厄介者の王子様にまとわりつかれる。

にじくす まさしよ

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4 恥さらしの亡霊

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 ナナが、力の入らない私の手を、小さな体でぐいぐい押して、私を動かそうとしてくる。でも、どうしても力が入らなかった。
 このままだと、一生ここから出られないってネオン様は言っていた。だから、頭ではナナと一緒に今すぐここから逃げた方が良い。時が経てば経つほど、困難になるのもわかっていた。だけど、体を動かすための心が、全く働いてくれないのだ。

「っふ……。どうして、いつまでも……なんどでも……」

 そう、あの時に諦めたはずだった。家族からの愛も、心からの笑顔も、腕の温もりも。なのに、こうして心が砕けそうになるのは、まだ期待しているから。

 ひっそりと、ここで生きていれば。そうすれば、年に一度、に会いに来てくれる。心のどこかでは、そう思っていた。いつか、私の事を認めてくれるって。

「はは……まさか、だいぶ前に、だったんだ……。私は、子供でも、娘でもなかったのね……」

 そりゃ、両親もお墓相手には何とも思わない。リサイクルボックス以下どころか、この世に存在してはいけなかったなんて。

「ふ、ふふ……」

 絶望が絶望を呼び、一周回って、なんだか笑えて来た。ここでは、私はもういなかった。ならば、私を待つと言ってくれた人のところでなら、亡霊なんかにならずに済む。やっと、のろのろと心が動きだした。でも、まだ体が動かない。

「ナ……ナ、ナ……」

 ナナが、少しも動かずに、ぶつぶつつぶやく私を心配している。困り果てている様子が伺えるし、精霊を困らせてはいけないと思う。

「ナナさま、私……ネオン様のもとに、行きたい。行って、私も生きてみたい。連れて行ってくださいますか?」

 しっかり声を出したつもりの私の声は、か細くて今にも消えそうなくらい震えていたと思う。でも、ナナはその言葉をしっかり聞いて、私に向き合うと両手両足をぴーんと大の字に広げた。

「ナー!」

 ナナが、大きな声を張り上げると、ナナの体が光だし、私の目の前に、ナナと同じような輝くまるっこいものが現れた。

「ピ」

 ナナは、柔らかい光のように明るくて、新たに現れたのは、まばゆい閃光のような、夜空を切り裂く雷のようだった。間違いない、「ピ」と話す存在は、雷の精霊だろう。

 見事な輝きに、涙も出せない乾ききった瞳が、悲しい色すら忘れた心ごと全部奪われた。

「ナ」
「ピ?」
「ナーナ、ナ?」
「ピー……ピ。ピ!」

 小さなまるっこいものが、目の前で小さな手を組んで話し合いをしている。内容はわからないけれど、十中八九私のことだろう。

 なぜ、雷の精霊が、今のタイミングで現れたのか。ううん、考えなくてもわかる。私がいつまでも動けないから、ナナが無理をして雷の精霊を喚び出したのだ。でも、雷の精霊が来たところで、私がいるかぎり、いくら精霊の力が強くても、ほとんど働かないかもしれない。

 色々考えを巡らせていると、彼らは小さな手を取り合った。そして、ゆっくりダンスを踊るようにくるくる回り出すと、私の体がその動きに合わせて宙に浮きだす。

「え? え?」

 私には、雷どころか静電気ほどの魔法すら使えない。電気を使う攻撃魔法すら、特異体質のせいで無効になるのに、どうして宙に浮くためのエネルギーが私に効いているのだろう。質量のない光が光速になることで宙に浮かぶ物体が動く条件があるのかもしれない。そこに、雷のエネルギーが加わることで、なんらかの力が作用しているのか。

 魔法や力学などといった専門的な勉強はしていないので、詳しいことはわからないけれど、とてつもないパワーを持つ精霊の、奇跡のような瞬間だったと思う。

「ピ、ピ……!」
「ナー!」

 ナナよりも、雷の精霊のほうが苦しそう。でも、精霊に私が出来る事なんてない。固唾を飲んで、精霊たちの姿を見守り、何をしようとしているのかわからないまま、彼らの成功を祈った。

『ナナと一緒にそこからこちらに逃げておいで』

 ネオン様の言葉が、ふとよぎる。本当に、そちらに行っていいのか、一抹の不安と迷いも生まれた。でも、私にはネオン様のその言葉や精霊たちにすがるしか未来がない。

 体が宙に完全に浮いた。そして、解き放たれた窓に向かってふわふわ移動する。

 バタン!

 あと少しで、ここから出られる。そう思った時、扉が乱暴に開いた。ふと見ると、そこには今の私の世話をするメイドと、あの時に私にここにいるように命令した騎士だった。

「これは一体……。おかしな波動を感じてきてみれば。カキョウ様、早くこちらへお戻りください!」
「カキョウ様、二度とここから出ないと仰ったじゃないですか! また騒動を繰り返したら、! はやく、戻ってくださいよっ!」

 異変に気付いたふたりが、必死に自分の保身のために私を引き留める。私は亡霊だというのに。

「嫌よ、戻らないわ」

「何を……! お前ごときが、そんなことを言っていいと……!」

 なんと滑稽な。これでも私は、この国の公女。これが、この国の騎士の態度なのだろうか。いや、私はただの公女じゃなかった。単なる、恥さらしの公女ぼうれいでしかないのだから、住むところおはか食べるものおそなえものがあるだけでも十分なのだろう。

 でも、それはいつまで? ずっと? そんなのは、いや。だって、私は生きているから。そして、私を待ってくれている人がいるから。

「黙りなさい。お前こそ、どういうつもり? 父と母には、いえ、死んだ私には、両親などもういなかったわね。亡霊は天に戻ります。もう、カキョウ・ポリエ・CV・ビニルシースの、お墓参りも、お供えもいらないと伝えなさい」

 私は、彼らにそう言い捨てると、ナナたちと共に窓の外に出た。

 その後に残った彼らが見た光景は、一瞬のまばゆい光の軌跡だけだっただろう。

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