完結 R18 絶縁の恥さらし公女は、厄介者の王子様にまとわりつかれる。

にじくす まさしよ

文字の大きさ
6 / 22

5 黒文字の木

しおりを挟む
 精霊たちに連れられて、後ろなど振り向く暇もなかった。といっても、一瞬ではるか後方になった、私の墓場など、振り返ろうとは思わなかったけれど。

「ナー♪」
「ピー♪」

 自分の部屋はかばから出て、一度光になって走り出すと、ナナと雷の精霊はとても元気よく高らかに歌う。目の前に広がる、果てしない青空と限りない地平線のかなたには、私の生きる場所があるのかと思うと、胸がはちきれそうにドキドキした。

 やがて、精霊たちの力が弱まり、地上に降り立つ。そこは、なんとなく寂しい場所だった。ちらほら、屋根や、窓やドアのない小さな家だけがあり、誰も住んでなさそうな、忘れ去られた土地のようだ。建造物は、本で見た半世紀以上昔の様式で作られており、ここが、人口減少によって長年国からも見放された場所だということがわかる。

「ここは、国境付近?」

 ぽつりとつぶやく。

 家の他に、たくさんの農作物が収納されていただろう倉庫やサイレージの跡も見える。ナナの導きでここまで来たのだし、おそらくは、光の国との境目だろう。

「ナー!」

 ナナが、私の顔の前で、全身で光の国を指し示す。雷の精霊も、目を><のような形にして、尻尾の先をナナと同じ方向に向けている。

「あれは……!」

 ここから遠く離れた場所に、小さな集団が見えた。土煙を上げて馬を走らせている。その集団の少し上に、本で見たことのあるヘンアツ国の国旗が掲げられており、ネオン様の言っていた迎えだということがわかった。

「公女様ー! どちらにおられますか? 聞こえたら、どうかお返事を!」
「ナナ様、ネオン様の命により、カキョウ公女様をお迎えに参りました。どうか、我らをお導きください」

 風に乗って、たくさんの人の声が耳に届く。思った通り、光の国の騎士団だった。

 私は、力いっぱい腕を挙げて、手を振った。

「私はここです!……ダメだわ。気づいてもらえない。どうしたら……」

 だけど、私一人の声では届かない。何か、ここに自分たちがいることを知らせる方法がないか考えていると、文字のような黒い斑点のある木を見つけた。

「これは、黒文字の木だわ。そうだ、これで……!」

 私は、黒文字の木の葉を一枚手に取り、両手の指で中央よりやや上をしっかり持つ。つるつるのほうを唇に当てて、上唇で上のほうを軽く食んで息を吹きかけた。

ピー!

 やった。久しぶりだけど、ちゃんと音を出せた。

 草笛の音が鳴っても、彼らの周囲には装備や馬のひづめの音が鳴っているからか、まだ聞こえないみたい。

 私は、まだ自分が完全に絶縁の恥さらし公女となる日までの、雷魔法を試されていた期間に、大人が戯れで教えて貰った音楽を奏でた。うまく、葉っぱの振動がめちゃくちゃで、音をしっかり作れないけれど、かまわなかった。
 あの頃はまだ、私はかわいがってもらえていたと思う。特に、草笛を教えてくれたおじいちゃんには、父や母とは違って、頭を撫でてもらえたりしたことがあった。あのおじいちゃんは、いつの間にか私の前から消えてしまったけれど、今頃はどこで何をしているのだろう。

 やわらかな笑顔、目じりにしわの刻まれた優しい眼差しを思い出して、この国の誰もが知る童歌を拭く。すると、そのメロディを、ちょうど背後から吹いた風が運んでくれた。

 ひとつ、ふたつと、馬とそれに乗った人の頭の位置が変わる。私は、もっと気づけとばかりに、短い旋律を何度も繰り返したのだった。

 騎士たちに無事に保護されたあと、私は丁重にヘンアツ国に連れて行って貰えた。これまでとは打って変わった、レディ扱いに戸惑いつつも、騎士たちが嫌々義務感だけでしていないことがわかったので、彼らの厚意を素直に受けた。

 ネオン様やヘンアツ国の両陛下とも対談し、このままそこで引き取るから、これからは公女ではなく、ヘンアツ国の姫として過ごさないかと言われた。

 嬉しかった。姪といとこであっても、血の繋がりを大切にして、しかも私個人を守ってくれようとしてくれる彼らの気持ちが、とても有難くて。そのまま、彼らの子供となって、ネオン様の妹になれたら、どれほど幸せだろう。

 でも、大々的に、私を匿ったことを公国に知られたら、流石に困るのではないか。

 私は、自分の気持ちを素直に打ち明け、どこかでひっそり身分を隠して過ごせる場所はないかとたずねた。

 最初は反対されたけれど、私の意思が固いので根負けしたネオン様の伝手で、炎の国の王立学園に勤めることになったのである。

 私の、いわば絶縁体としての特異体質は、ちょっとやそっとじゃ感電しないしやけどもしない。特別な装具もなにもいらないのだ。雷の魔法や電気設備の管理を苦手とする炎の国の学園で、その特性を気に入られ、そこで働くことを許されたのだった。

 それから3年。もうすぐ22歳になるある日、学園のメイン講堂の中央のシャンデリアを修繕していると、その下でとある男子生徒が、複数人の男女に囲まれているところに偶然居合わせたのである。

「あちゃー、いじめ現場か。若いねえ。でも、いじめは良くないわ。って、えー? いきなりボコボコにしちゃう?」

 私は、慌ててシャンデリアから地上に降りた。3メートルくらいあるけれど、あの日から私と契約してお友達になった雷の精霊と、この学園に来てから知り合った炎の精霊の力のおかげで、羽のようにゆっくりと。と言えれば良かったんだけどね!

「ピピー!」
「ボボッ!」
「きゃーーーー! そこの子たち、どいてえええええええ!」

 いかんせん、雷の精霊ピピ炎の精霊ボボはクセが強い。ピピはいたずら好き、お祭り騒ぎ好きだし、ボボは怒りんぼのツンデレさん。

 面白がったふたりに、マッハとは言わないけれど、ボコボコに殴っているコたちの中心に、ズドンっと床が重く大きな音がするくらいの勢いで落とされたのだった。



しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

処理中です...