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6 でんせつの女
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いじめの現場で、いきなり3メートルほどの上から女性が降りてきたら、どうするのか。
さっと両腕を差し出して受け止める。
魔法で空中に浮遊させて助ける。
ぶつかったら痛いので逃げる。
強靭な体なので、蚊にさされたほどの衝撃など気にせずいじめを続ける。
とっさのことに体が動かず見守る。
さあ、どれだ?
なーんて馬鹿なことを考えてしまうくらい、落下中の私には彼らの姿が止まって見えた。
そう、
学生たち全員、瞬きすら忘れて微動だにせずこちらを向いて眺めている、
が正解。
「どいてったらあああああ!」
「うおっ!」
「やべえ!」
やっと男子生徒の何人かが反応したけれどもう遅い。私は、自由落下のまま床に落ちた。両足の底を地につけて。
「………………っ、ぃたああああああ!」
頭から落ちなくて良かったー。流石に、ピピとボボがそれは避けてくれたみたい。ただ、足の裏が、ビーンって。ビーンって(泣)
足の裏から、踵、踝、そして、膝に至るまでしびれと痛みのために動けずにいた。
「なんだ?」
「何が起こった?」
「殿下、ご無事ですか!」
私が必死に痛みと痺れと戦っている時に、目の前では無傷のいじめっ子に周囲の男子生徒が群がる。無傷なのに。
どっちかというと、後ろのいじめられっ子君のほうが、若干かかとと爪先がどこかが接触したから、痛いだろうし下手すれば骨折してるかも。
「皆、静まれ。俺は何ともない」
なんだか、いじめ主犯を中心に、トラブルが解決して良かったーみたいな雰囲気になった。そして、彼を危険に晒した私を睨みつけてくる。
「で、なんだ、この女は。暗殺者か?」
「まさか、この学園でそのような狼藉者などいるはずがありません」
とても偉そう。まさに、この場のTOPは自分だと言わんばかりの声。真っ赤な髪に金の瞳は、王者にふさわしくとても似合ってるが、痛みを訴えている女性に対する言葉かと思う。暗殺者なら、もっと早くに仕留めているだろう。
彼の正体は、キャブタ・CT・ケブル。御年17歳の、この国の王子様である。そして、自称この国一番の炎の使い手。一応、周囲も彼の前だけではそのように言っている。
ただ、炎の使い手のすぐ後には、(笑)が漏れなくついているという具合なのだが。王族相手に、彼が思っているほどの能力などないと、誰もが言えないので、そうなっていると聞いていた。彼を囲んでいる学生は、王子を嘲ったかのようなその呼び名の通り、王子よりも能力は高いのだろう。
それでも、絶縁の恥さらしである私よりも、魔法が使えるというだけでも素晴らしいと思うし、そんな風に馬鹿にしたかのように言わなくてもいいじゃないかと思う。
「黒いふたつのおさげ髪のビン底メガネ。この学園に、こんなダサい地味な女などいたか?」
私は、痺れた足のまま、頭だけ下げた。
「お騒がせして、申し訳ございません。私は、カキョウ・ポリエと申します」
国を捨てた亡霊には、苗字などない。だから、私はそう名乗っている。伯父が、ヘンアツと名乗っていいとは言ってくれているけれど、私には雷はもちろん、光魔法など使えないし、迷惑をかけてはいけないので身分や本当の出自などは隠していた。
「あ、聞いたことがあります。学園の職員に、でんせつの女がいると。ぶさいくないきおくれ年増で、学園長の知り合いの縁故で、お情けでここの雑用をしているとのこと。それが、この女でしょう」
ほうほう。本人を目の前にして言いたい放題。喧嘩売ってるのかな?
買ってもいい。魔法は使えないけど、90度の炎くらいならキャンセルできる体質だ。この学園の学生程度なら、私の体質と、私を攻撃から守ってくれるいたずら精霊たちのヘルプがあれば、工具も腰にぶら下げてるし、負ける気はしなかったから。
カッターよりも切れ味が弱いけれど電工ナイフもあるし、大きな圧着ペンチで威嚇するだけでも逃げていきそうだわ。
彼らが、私に対する無礼な発言が続く中、我ながら物騒なことを考えていた。
「でんせつの女? ああ、この女か」
おや? いじめっ子殿下は、彼らの悪口大会にはあまり参加しないみたい。冷静に今の状況と、周囲の反応、そして、私と後ろの男子生徒について、これからどうするか考えているようだ。
もしかしたら、王子はそれとなく私の正体を聞いているかもしれない。この学園の関係者は、私のことは秘密にするように伯父から頼まれているけれど、王族相手に隠し事はしていないだろうから。
「おい、ばばあ。殿下になにかがあればただではすまんぞ!」
悪口大会主催者のひとりが、私に大声をあげた。今すぐにも、私に握って振り上げた拳を叩きこんできそうなほどの怒声だったけれど、あまり怖いとは思わない。
それにしても、ばばあとはなんだ、ばばあとは。失礼にもほどがある。
王子の前で、電工用とはいえナイフはダメよね。なら、怯えたあまり、身につけていたインパクトドライバーで思わず応戦したってことにしようかな。
私は、怖がるふりをして、腰にぶら下げたインパクトドライバーを握った。すぐに手に取れるように、金具にひっかけているだけだから、彼の遅い拳が飛んでくるまでにそれを拳に当てることができる。
魔法が使えないのなら、体を鍛えるといいよ、と、ネオン様がアドバイスをしてくれたおかげで、そこら辺の騎士並みにはトレーニングをしていた。電設の仕事をするにあたって、体力も筋力も必要だったし、毎日の基礎トレーニングは欠かしていない。
「ばばあは言いすぎだ。口を慎め。仕事中に転落事故を起こしたのだろう。失礼した、レディ。どうぞ手を」
応戦する気満々だったのに、殿下が優しく微笑んで手を差し伸べる。いじめの現場を見て居なければ、地味なおばさん相手にも、なんて優しい王子様なんだろうと見ほれたに違いない。
私は、さっき彼に、偉そうにってムッとした気持ちがすっかり消えてしまっていた。
「あの、大変失礼しました。慣れた作業で油断していたようです。ただ、無傷ですし埃などで汚れておりますので、おかまいなく」
彼がそういう態度なら、私もそのように返すだけ。丁寧に謝罪をすると、王子はやや強引に私の汚れた手を取って立たせてくれたのである。
さっと両腕を差し出して受け止める。
魔法で空中に浮遊させて助ける。
ぶつかったら痛いので逃げる。
強靭な体なので、蚊にさされたほどの衝撃など気にせずいじめを続ける。
とっさのことに体が動かず見守る。
さあ、どれだ?
なーんて馬鹿なことを考えてしまうくらい、落下中の私には彼らの姿が止まって見えた。
そう、
学生たち全員、瞬きすら忘れて微動だにせずこちらを向いて眺めている、
が正解。
「どいてったらあああああ!」
「うおっ!」
「やべえ!」
やっと男子生徒の何人かが反応したけれどもう遅い。私は、自由落下のまま床に落ちた。両足の底を地につけて。
「………………っ、ぃたああああああ!」
頭から落ちなくて良かったー。流石に、ピピとボボがそれは避けてくれたみたい。ただ、足の裏が、ビーンって。ビーンって(泣)
足の裏から、踵、踝、そして、膝に至るまでしびれと痛みのために動けずにいた。
「なんだ?」
「何が起こった?」
「殿下、ご無事ですか!」
私が必死に痛みと痺れと戦っている時に、目の前では無傷のいじめっ子に周囲の男子生徒が群がる。無傷なのに。
どっちかというと、後ろのいじめられっ子君のほうが、若干かかとと爪先がどこかが接触したから、痛いだろうし下手すれば骨折してるかも。
「皆、静まれ。俺は何ともない」
なんだか、いじめ主犯を中心に、トラブルが解決して良かったーみたいな雰囲気になった。そして、彼を危険に晒した私を睨みつけてくる。
「で、なんだ、この女は。暗殺者か?」
「まさか、この学園でそのような狼藉者などいるはずがありません」
とても偉そう。まさに、この場のTOPは自分だと言わんばかりの声。真っ赤な髪に金の瞳は、王者にふさわしくとても似合ってるが、痛みを訴えている女性に対する言葉かと思う。暗殺者なら、もっと早くに仕留めているだろう。
彼の正体は、キャブタ・CT・ケブル。御年17歳の、この国の王子様である。そして、自称この国一番の炎の使い手。一応、周囲も彼の前だけではそのように言っている。
ただ、炎の使い手のすぐ後には、(笑)が漏れなくついているという具合なのだが。王族相手に、彼が思っているほどの能力などないと、誰もが言えないので、そうなっていると聞いていた。彼を囲んでいる学生は、王子を嘲ったかのようなその呼び名の通り、王子よりも能力は高いのだろう。
それでも、絶縁の恥さらしである私よりも、魔法が使えるというだけでも素晴らしいと思うし、そんな風に馬鹿にしたかのように言わなくてもいいじゃないかと思う。
「黒いふたつのおさげ髪のビン底メガネ。この学園に、こんなダサい地味な女などいたか?」
私は、痺れた足のまま、頭だけ下げた。
「お騒がせして、申し訳ございません。私は、カキョウ・ポリエと申します」
国を捨てた亡霊には、苗字などない。だから、私はそう名乗っている。伯父が、ヘンアツと名乗っていいとは言ってくれているけれど、私には雷はもちろん、光魔法など使えないし、迷惑をかけてはいけないので身分や本当の出自などは隠していた。
「あ、聞いたことがあります。学園の職員に、でんせつの女がいると。ぶさいくないきおくれ年増で、学園長の知り合いの縁故で、お情けでここの雑用をしているとのこと。それが、この女でしょう」
ほうほう。本人を目の前にして言いたい放題。喧嘩売ってるのかな?
買ってもいい。魔法は使えないけど、90度の炎くらいならキャンセルできる体質だ。この学園の学生程度なら、私の体質と、私を攻撃から守ってくれるいたずら精霊たちのヘルプがあれば、工具も腰にぶら下げてるし、負ける気はしなかったから。
カッターよりも切れ味が弱いけれど電工ナイフもあるし、大きな圧着ペンチで威嚇するだけでも逃げていきそうだわ。
彼らが、私に対する無礼な発言が続く中、我ながら物騒なことを考えていた。
「でんせつの女? ああ、この女か」
おや? いじめっ子殿下は、彼らの悪口大会にはあまり参加しないみたい。冷静に今の状況と、周囲の反応、そして、私と後ろの男子生徒について、これからどうするか考えているようだ。
もしかしたら、王子はそれとなく私の正体を聞いているかもしれない。この学園の関係者は、私のことは秘密にするように伯父から頼まれているけれど、王族相手に隠し事はしていないだろうから。
「おい、ばばあ。殿下になにかがあればただではすまんぞ!」
悪口大会主催者のひとりが、私に大声をあげた。今すぐにも、私に握って振り上げた拳を叩きこんできそうなほどの怒声だったけれど、あまり怖いとは思わない。
それにしても、ばばあとはなんだ、ばばあとは。失礼にもほどがある。
王子の前で、電工用とはいえナイフはダメよね。なら、怯えたあまり、身につけていたインパクトドライバーで思わず応戦したってことにしようかな。
私は、怖がるふりをして、腰にぶら下げたインパクトドライバーを握った。すぐに手に取れるように、金具にひっかけているだけだから、彼の遅い拳が飛んでくるまでにそれを拳に当てることができる。
魔法が使えないのなら、体を鍛えるといいよ、と、ネオン様がアドバイスをしてくれたおかげで、そこら辺の騎士並みにはトレーニングをしていた。電設の仕事をするにあたって、体力も筋力も必要だったし、毎日の基礎トレーニングは欠かしていない。
「ばばあは言いすぎだ。口を慎め。仕事中に転落事故を起こしたのだろう。失礼した、レディ。どうぞ手を」
応戦する気満々だったのに、殿下が優しく微笑んで手を差し伸べる。いじめの現場を見て居なければ、地味なおばさん相手にも、なんて優しい王子様なんだろうと見ほれたに違いない。
私は、さっき彼に、偉そうにってムッとした気持ちがすっかり消えてしまっていた。
「あの、大変失礼しました。慣れた作業で油断していたようです。ただ、無傷ですし埃などで汚れておりますので、おかまいなく」
彼がそういう態度なら、私もそのように返すだけ。丁寧に謝罪をすると、王子はやや強引に私の汚れた手を取って立たせてくれたのである。
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