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20 厄介者の王子様は、抱きしめる
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この学園に来てから、一番感慨深い卒業式に参列させてもらったあと、なぜかトランス宮につれてこられた。
キャブタ殿下とジュシちゃんに、片腕ずつ取られて。
「あの、キャブタ殿下、これは一体?」
「いいから、黙ってついてきて欲しい」
「ジュシちゃん?」
「ふふふ、いいからいいから」
目の前に、見慣れたトランス宮の庭が見えてきた。
「ん? なんか、大勢いません? ご身内での卒業のお祝いなら、私お邪魔してはなんなので、お暇しますけど」
「身内、っちゃあ身内だな。だからこそ、カキョウ様にも来てもらいたいとのことだ」
「お祝いはお祝いなんですけどね! ほら、さっさと行こ!」
庭には、両陛下だけでなく、側室の皆様や、ここに来られるムキ君たちの兄弟姉妹、そして、ネオン様までいた。
「あ、ネオン様。ご無沙汰しております。いつ、こちらに?」
「やあ、カキョウちゃん。元気そうだね。ますます、きれいに……ちょっとごめんね」
ネオン様は、私のかつらとびん底眼鏡を、ぱっと取り払った。黄色の髪と、瑠璃色に輝く瞳があらわになる。
「カキョウさん、はいっ!」
すると、横から薄い布を被せられた。総レースで、ところどころに小さな光る石が編み込まれていて、まるでウェディングドレスのベールのよう。
「え?」
「カキョウさん、急なことだったから、取り敢えずはこれで勘弁してね? 後日、改めて盛大に式をあげましょう」
「あの、ムキ君のお母さま。これは一体?」
「ふふふ、ムキから聞いたわよ。やっと、頷いてくださったのですって? うちの息子を、末永くよろしくおねがいしますね」
「は? 頷く? 末永く?」
さっぱり意味がわからない。ただわかるのは、ここで変に否定すれば、周囲のニコニコ笑顔が凍りつくということだけ。
私は電気は通さないけど、空気が読める女。
曖昧に微笑みながら、正装して現れたムキ君にどういうことか小声で訊ねる。
「ムキ君、どういうこと?」
「どういうもこういうも、僕達の婚約発表会。キャブタ兄上と僕の卒業のお祝いは、あとで大広間でするんだけど、その前に、こじんまりとした場所でいいからって、皆がこうして集まってくれたんだ。カキョウさんは、派手なのはいやでしょ?」
「派手なのはいやだけど、婚約? 誰と誰のって?」
「僕とカキョウさんの。卒業式の時に、僕のプロポーズを正式に受けてくれたでしょ。気が早いかなって思ったけど、ちょうどみんな揃ってるし、ネオン様も来てくださるからサプライズ」
もしかして、いきなりすぎて迷惑だった?
って、しょんぼりする大きな熊さん。だがしかし。ちょっと待て待て。
一体、いつプロポーズされたんだ?
腕を組み、うーんうーんと考えてみたものの、これっぽっちも、まーったく記憶がなかった。でも、この状況で、「私は承諾してませぇん!」なんて言えるだろうか。言える勇者がいるのならば見てみたい。
とりあえず、この場は流されるがまま、ひきつった笑顔で、皆さまからの婚約祝いの祝辞を受けた。夕方からは、王子たちの卒業記念パーティと、キャブ♡ジュジュ&ムッ君♡キョウちゃんの婚約を発表してくれるそうな。陛下たちが嬉しそうに、会場に飾る予定の大横断幕を広げて見せてくれた。うん、ドン引きした。
ネオン様に、あとから何かの間違いだと訴えようとしたんだけど、ネオン様はネオン様で、私の婚約を涙がでるほど感激してくれているから言えなかった……。
さて、どうする? どうしたらいい?
夕方の式典のためのドレスへの着替えを強制的にさせられて、ぐったりソファに座っていると、ムキ君が現れた。
「カキョウさん! きれいだ……!」
今の私は、黒のおさげのかつらもビン底メガネもつけていない。ナチュラルメイクのほうがいいからと、ふだんとあまり変わり映えのしない顔なんだけど、ドレスはとても美しいと思う。ヘアスタイルもきれいにアップされていて、おくれ毛をわざと残している。
「あの、ムキ君」
「ん?」
ああ、ダメだ。どういう勘違いなのかわからないけど、純真無垢そのものの熊さんが、本当に幸せそうに私を見てくる。うう、今の彼に、あなたの勘違いだから婚約なんてしないって言えない。
「雷の国の奴が来た時に、カキョウさんの想いがわかったけど、思い切ってプロポーズしてよかった。これからは、ずっと僕の側にいてね?」
「ずっとそばに?」
確かに、卒業してからは電設の仕事の手伝いはできないけど、ずっと一緒にいて欲しいやら何やら言われたー。そうだ、そう言ってた!
まさか、あれってばプロポーズだったの?
私が驚いて目と口をOの形にしていると、ムキ君が私を軽く抱き占めてきた。ひえっ!
「うん。僕はまだ卒業したてだから頼りないけど、一日も早く、カキョウさんが僕に失望しないようにがんばるから」
本来なら、炎の国で氷魔法を使うムキ君は、大勢の人から煙たがられている。私の想像以上に、厄介者扱いで、初めて会った時のようにつまはじきにされていたのは、このトランス宮に通うようになってすぐに知った。
その彼が、学園で私という心が休まる場所を見つけたんだ。自分でいうのもあれだけど、地味で電設のスタッフでしかない私から離れたがらない気持ちはちょっとわかる気がした。
うーん、これは。責任とって一生面倒みるしかないかなー。
感激で肩を震わしている大きな熊さん。この熊さんを放逐するには、ちょっと情が沸きすぎてしまった。まあ、若いからそのうち若くてかわいい子とも巡り合うだろう。そうしたら、気持ちもかわるかもしれない。
私は、感動のあまり泣きそうになっているムキ君の大きな肩をポンポン叩いて、よーしよしよしと彼をなだめたのであった。
あと1話で終了です
キャブタ殿下とジュシちゃんに、片腕ずつ取られて。
「あの、キャブタ殿下、これは一体?」
「いいから、黙ってついてきて欲しい」
「ジュシちゃん?」
「ふふふ、いいからいいから」
目の前に、見慣れたトランス宮の庭が見えてきた。
「ん? なんか、大勢いません? ご身内での卒業のお祝いなら、私お邪魔してはなんなので、お暇しますけど」
「身内、っちゃあ身内だな。だからこそ、カキョウ様にも来てもらいたいとのことだ」
「お祝いはお祝いなんですけどね! ほら、さっさと行こ!」
庭には、両陛下だけでなく、側室の皆様や、ここに来られるムキ君たちの兄弟姉妹、そして、ネオン様までいた。
「あ、ネオン様。ご無沙汰しております。いつ、こちらに?」
「やあ、カキョウちゃん。元気そうだね。ますます、きれいに……ちょっとごめんね」
ネオン様は、私のかつらとびん底眼鏡を、ぱっと取り払った。黄色の髪と、瑠璃色に輝く瞳があらわになる。
「カキョウさん、はいっ!」
すると、横から薄い布を被せられた。総レースで、ところどころに小さな光る石が編み込まれていて、まるでウェディングドレスのベールのよう。
「え?」
「カキョウさん、急なことだったから、取り敢えずはこれで勘弁してね? 後日、改めて盛大に式をあげましょう」
「あの、ムキ君のお母さま。これは一体?」
「ふふふ、ムキから聞いたわよ。やっと、頷いてくださったのですって? うちの息子を、末永くよろしくおねがいしますね」
「は? 頷く? 末永く?」
さっぱり意味がわからない。ただわかるのは、ここで変に否定すれば、周囲のニコニコ笑顔が凍りつくということだけ。
私は電気は通さないけど、空気が読める女。
曖昧に微笑みながら、正装して現れたムキ君にどういうことか小声で訊ねる。
「ムキ君、どういうこと?」
「どういうもこういうも、僕達の婚約発表会。キャブタ兄上と僕の卒業のお祝いは、あとで大広間でするんだけど、その前に、こじんまりとした場所でいいからって、皆がこうして集まってくれたんだ。カキョウさんは、派手なのはいやでしょ?」
「派手なのはいやだけど、婚約? 誰と誰のって?」
「僕とカキョウさんの。卒業式の時に、僕のプロポーズを正式に受けてくれたでしょ。気が早いかなって思ったけど、ちょうどみんな揃ってるし、ネオン様も来てくださるからサプライズ」
もしかして、いきなりすぎて迷惑だった?
って、しょんぼりする大きな熊さん。だがしかし。ちょっと待て待て。
一体、いつプロポーズされたんだ?
腕を組み、うーんうーんと考えてみたものの、これっぽっちも、まーったく記憶がなかった。でも、この状況で、「私は承諾してませぇん!」なんて言えるだろうか。言える勇者がいるのならば見てみたい。
とりあえず、この場は流されるがまま、ひきつった笑顔で、皆さまからの婚約祝いの祝辞を受けた。夕方からは、王子たちの卒業記念パーティと、キャブ♡ジュジュ&ムッ君♡キョウちゃんの婚約を発表してくれるそうな。陛下たちが嬉しそうに、会場に飾る予定の大横断幕を広げて見せてくれた。うん、ドン引きした。
ネオン様に、あとから何かの間違いだと訴えようとしたんだけど、ネオン様はネオン様で、私の婚約を涙がでるほど感激してくれているから言えなかった……。
さて、どうする? どうしたらいい?
夕方の式典のためのドレスへの着替えを強制的にさせられて、ぐったりソファに座っていると、ムキ君が現れた。
「カキョウさん! きれいだ……!」
今の私は、黒のおさげのかつらもビン底メガネもつけていない。ナチュラルメイクのほうがいいからと、ふだんとあまり変わり映えのしない顔なんだけど、ドレスはとても美しいと思う。ヘアスタイルもきれいにアップされていて、おくれ毛をわざと残している。
「あの、ムキ君」
「ん?」
ああ、ダメだ。どういう勘違いなのかわからないけど、純真無垢そのものの熊さんが、本当に幸せそうに私を見てくる。うう、今の彼に、あなたの勘違いだから婚約なんてしないって言えない。
「雷の国の奴が来た時に、カキョウさんの想いがわかったけど、思い切ってプロポーズしてよかった。これからは、ずっと僕の側にいてね?」
「ずっとそばに?」
確かに、卒業してからは電設の仕事の手伝いはできないけど、ずっと一緒にいて欲しいやら何やら言われたー。そうだ、そう言ってた!
まさか、あれってばプロポーズだったの?
私が驚いて目と口をOの形にしていると、ムキ君が私を軽く抱き占めてきた。ひえっ!
「うん。僕はまだ卒業したてだから頼りないけど、一日も早く、カキョウさんが僕に失望しないようにがんばるから」
本来なら、炎の国で氷魔法を使うムキ君は、大勢の人から煙たがられている。私の想像以上に、厄介者扱いで、初めて会った時のようにつまはじきにされていたのは、このトランス宮に通うようになってすぐに知った。
その彼が、学園で私という心が休まる場所を見つけたんだ。自分でいうのもあれだけど、地味で電設のスタッフでしかない私から離れたがらない気持ちはちょっとわかる気がした。
うーん、これは。責任とって一生面倒みるしかないかなー。
感激で肩を震わしている大きな熊さん。この熊さんを放逐するには、ちょっと情が沸きすぎてしまった。まあ、若いからそのうち若くてかわいい子とも巡り合うだろう。そうしたら、気持ちもかわるかもしれない。
私は、感動のあまり泣きそうになっているムキ君の大きな肩をポンポン叩いて、よーしよしよしと彼をなだめたのであった。
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