【完結・R18】迷子になったあげく、いかがわしい場面に遭遇したら恋人が出来ました

にじくす まさしよ

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愛する人へ捧げるプロポーズは、義弟から聞いた彼女の望みのシチュエーションで

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※※※※



「マロウ様……本当に、先ほどの事は、本当の事なのでしょうか? うちの両親に会ったとか、わたくしとの婚約にすでに動いているとか……とても信じられなくて、まるで夢のようで……」

 そう言えば、これまでの手配や動きを伝えていなかった。特に、ご両親にお会いした事は、すぐにでもビオラに伝えるべきだったのに。俺と一緒に実家に行き、それから話をしたかったのかもしれない。
 ビオラには何も心配せずに穏やかに過ごしていて欲しいとは思っていたが、蚊帳の外のような状態にしてしまっていたから、悲しかったり、ひょっとして、怒っていたりするのだろうか?


「あ、ああ、君に相談もせず、勝手に動いてしまってすまなかった。ビオラ、俺は君を一日も早く妻にして幸せにしたくて……。俺たちの気持ちは同じだが、改めて、こう面と向かって言うと恥ずかしいな……。だが、解消してから動けば、それだけ日数がかかる。今のうちに出来る事はしておきたいと思ったんだ。その、実家に行くなどは、先走りすぎた。怒ったか?」

「いえ、怒ってなどはおりませんわ……なんだか、本当にわたくしの身に起きている現状の数々を思うと、……なんというか、言葉にできません」

 ビオラは言葉に出来ないほど喜んでくれているようだ。もしもビオラが俺のように動いてくれたら少々びっくりするが嬉しいからな。
 他人なら勝手に動いた事に怒るかもしれないというのに、なんと心の広い寛容な女性なのだ。こうして彼女の一面を知れば知るほど、俺の心は彼女に溺れていく。

 俺は、そんな感激のあまりにフリーズしてしまったビオラに近づいていった。ウスベニたちが適切な距離をとかなんとか言っていたが、俺たちの適切な距離は、かたく抱擁しあうほどの距離、つまり0なのだから、50センチほどなら近づいても問題なかろう。うん。


※※※※


 実家に行った時にお会いしたご両親は、ビオラをとても愛しているのがわかった。先祖のせいで、社交や経済面は恵まれていなかったようだが、こちらの心までほんわかするほどのあたたかい家がそこにあった。

 中に住む人次第で、家は単なる冷たい箱にも、幸せな家庭にもなるという見本そのものだ。この家で育ってきた彼女は幸せだったに違いないと安心した。

 俺という決まった相手が出来るまでは、ビオラは家のために、若くて美しいビオラを望む厭らしいおっさんに、身売りのように嫁ぐつもりだったようだ。俺の妻は、なんと健気で心根の優しい献身的な人なんだ。

 だが、ビオラの自己犠牲による幸せは、ご両親も弟君も望まれていなかったようで反対していたらしい。なんと、ビオラはそういう相手と見合いをする直前だったと聞いた時には、見合い相手全員に平和的に話し合いをせねばならないと思った。
 あくまでも平和的に、二度と俺のビオラや、ビオラだけではなく若くて罪もない女性を望むなどという邪な心を、みじんぎりよりも細かく砕くつもりだ。相手次第では一筋縄ではいかないかもしれない。念のため、剣では物騒だから、いつものように父上の素敵なコレクションを借りよう。

 とにかく、ビオラが別の男、しかもおっさんの妻になるなどあり得ない。寸でのところで間に合ってよかった。

 このタイミングは、これでも遅いが、やはり神々も俺たちの結婚を祝福してくれているからこその幸運なのだろう。まさしく運命の出会いというやつだ。

 俺にビオラをよろしく頼むと何度も頭を下げてくれた。頼まれなくとも、世界一幸せにしてみせるから安心して欲しいと言い切ると、涙を流して喜ばれた。

『マロウ義兄上はじめまして。義理の兄上が出来るなんて大変光栄です。ビオラ姉上に、まさかマロウ義兄上のようなカッコよくて頼りがいのある将来を約束した相手が出来ていたなんて。どうぞ、頼りないですが優しいビオラ姉上を幸せにしてください』

 弟君のフルーナ殿は、まだ8才だというのにしっかりしている。外見はビオラに似てちまっとしていて、目も大きくて笑顔が可愛らしい。成長すればきっと人気者になるだろう。素直で明るい、とてもいい子だった。
 この子が次期子爵になるのだ。それまでに、俺の力でもっと子爵家の事業などを成功させ大きくしておこうと決意した。

 そんなビオラの家族とのやり取りを彼女に伝えると、ぽかんとしつつも、瞳を潤ませた。

 か、かわいい! かわいくて堪らない。俺のビオラをぎゅっと抱きしめたい……が、バレたらウスベニがうるさいから我慢だ。

「そうですか……お父様、お母様、そしてフルーナまで……まさか、そんな風に言ってくれているだなんて……」

「ああ、俺たちの気持ちは十二分に届いたようだ。俺の婚約解消まで、日陰のような立場にしてしまって申し訳ないが、その分、いや、それ以上に愛する君を幸せにしたい」

「マロウ様……わたくし、美人でもないし、身分も随分離れていて……」

「何を言うんだ。ビオラは世界一可愛いし美しい。それに、身分なんて、些細な事だ。たとえ、君が平民だったとしても、父達を説き伏せて見せるし、すでに、両親は君を待ち望んでくれている。実はうちは男爵令嬢とかでも嫁に来ている。貴族年鑑や社交、立ち振る舞いなどを覚えるのに苦労したようだが、時間をかけて立派にうちの家を守ってくれた。ビオラは、その点は問題ない。だから、安心してうちにおいで」

「ふわぁ⁈ 侯爵様や、侯爵夫人まですでに……ああ、もうわたくしの未来はひとつなのですね」

「ああ、ビオラは俺の妻になるんだ。仲人は、実は王妃殿下の御実家であられるズッキーニ公爵が、秘密裏に動いていたのを聞きつけて、非公式ではあるがしていただける約束に……ビオラ、どうした?」

「ずっきーに、こう、しゃ、くか……っか……わたくしの覚え違いでなければ先代王の弟君なのに王位継承争いをさけるために継承権を放棄されたという……?」

「ああ。とても快活で豪快な方だ。チェリー嬢との事で頭を悩ませているのを、父から聞いたようで心配してくれていたらしい。相手が君だと知ると、希代の悪女が起こしたあの事件の随分後の世代にまで悪影響があるのを気に病んでいていたらしくてね。あの当時、もう少し慎重に動けば君の家のように、罪もない家が長年苦境に立たされるような事にならなかったと仰られていた。そうそう、ズッキーニ閣下が、俺たちの結婚祝いに、ビオラにプレゼントをしてくれるそうだ。その、フルーナ殿から聞いたのだが、君は有名なテーマパークにあるお城のバルコニーで、俺にプロポーズして欲しいみたいだね。晴れた夜空には輝く満点の星。降り注ぐ流星群の下がいいだなんて、かわいい夢だね。そこへの旅行とかをお願いしようか? その日は俺たちの貸し切りなんてどうだろう。ビオラ、どうした?」

「そんな、雲の上の人と繋がりが……? 世界中から観光客がくるあのテーパマークをかしきり……やっぱり、わたくし、には、む、むりですぅ……」

 俺が、ビオラに心配かけまいと動いていた内容を、丁寧に伝えていたところ、ビオラが顔を可愛らしい両手で覆い、泣き出してしまったのである。
 心が大海のように広い彼女でも、繊細な17才の少女なのだ。もう少し、そのあたりを配慮すべきだった。

「ビオラ、泣くな……! 泣かないでくれ!」

「マロ、マロウさま……わたくし、おそれおおくて……カッコよくて素敵なマロウ様にこうして好きだと言われるだけでも幸せなのに、家の事まで……感謝してもしたりません。でも、やっぱり、マロウ様はわたくしのような貧乏子爵令嬢ではなく、もっとお似合いの方のほうが……」

「何を言うんだ! 心のない結婚などごめんだ。父だって、祖父だって、うちの一家は全員愛する人を妻にしてきたんだ。政略であっても、次第に心を通わせるような素晴らしい相手ばかりだった。俺にはビオラだけなんだ。そんな事は言わないでくれ!」

「マロウさま……だって、だって、わたくしは……」

「ビオラ……!」

 確かに、身分違いの弊害がある。不安でいっぱいだろうし、いらぬ苦労をさせてしまう事だってある。

 ここで、彼女の幸せを思えば、手を離してやるのも男なのかもしれない。だけど、俺はビオラこのまま離すなんて考えられない。


 小言を言うウスベニがなんだ! ローズ嬢にはきつく叱られるだろうが甘んじて受けよう。


 俺は、不安で泣き続けているビオラを抱きしめた。言葉に出して愛を伝えあったのだ。俺たちの気持ちは最高潮に高ぶっている。

 俺の胸の中に埋めて隠された顔をそっと上に向かせる。

  赤くなった目元も頬も涙でいっぱいになっている。

  そして、可愛らしくも、俺から離れようなどと憎いことを言う唇をキスで塞いだのであった。



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