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愛する唯一の女の子の父親が、今日も今日とて俺の邪魔をしにやってくる。彼が本気になれば、俺は無傷ですまないどころか滅多打ちになるだろう。
だけど、俺を打ち据えると、彼の大切な娘であるエマが悲しむ。だからこうして可愛らしい悪戯レベルの事しかされたことはない。
腕を上げて、彼が投げてきたミルフィーユを受けると、まぶされていた粉砂糖が宙を舞う。べっとりとはりつく甘いそれが袖に生クリームとともにたくさんついた。甘ったるい匂いに眉をしかめる。
そこに、ちょうどエマがやってきた。彼が真っ青になって立ちすくんでいる。
エマが、失礼をした彼をしかりつけて俺のほうにやってきた。今のようにこういう事態を見聞きする前は、俺たちの不穏な雰囲気を察しても、絶対に彼に抱き着いていたというのに。
ちらっと彼を見てみると、俺と視線が合う。とても悔しそうに俺を見ているので内心溜飲がさがるが、未来の義父殿だ。申し訳なさそうにぺこりと頭をさげると、馬鹿ではない彼もまた頭を下げて謝罪の意を示すとその場を去って行った。
目の前で、俺の袖口を涙をいっぱいためて一生懸命綺麗にしようとしている彼女はとてもかわいい。
笑っても、怒っても、寝ていても、あくびをしても、そして、こうやって目に涙を流していてもかわいくて愛らしくて、この世のどんな言葉でも彼女の素晴らしさを余すことなく表す事などできやしない。
俺になつくように、小さな頃から好かれる王道『お兄様』ポジションを守りつつ、彼女に近づく害虫どもを滅多打ちにして近づけなかった。
機会があれば膝の上にのせて来たし、ベッドですやすや眠る彼女をわざと少し起こして一緒に寝てあげるといい何度もその横に滑り込んだ。
お風呂も入りたかったけれども、それは彼女の侍女が許してくれずに悔しい思いをしていたのである。
──ああ、かわいいなあ。
甘ったるい匂いよりも甘い彼女の香りにくらくらする。
「マシュー、お父様がごめんなさい」
「エマ、いいんだ。キリアン様のお気持ちもわかるから。でも、そろそろ認めてもらわないとな」
「何を?」
俺は、まだ涙で膜がはって潤んだ彼女の小さな唇に吸い寄せられるように近づいていった。
※※※※
キス、されていると気づいたのは彼が2度、3度啄むように下唇を彼の唇で軽く食みながら繰り返された後。少し離れた彼の目元が赤い。目を閉じるのも忘れて、彼の真剣な眼差しをぼうっと見つめる。
「エマ……」
目を閉じながら、うっとりした表情の彼がまた落ちて来る。わたくしは、思わず目を閉じてしまい、手に持っていた布巾を落とした。
「ん……、ん……」
唇の境目にぬるっと熱くて大きな何かがなぞるように押し付けられた。息が出来なくなり、口を開けると、すかさずそれが入り込んでしまう。
すがるように彼の服をきゅっと持つと、体を引き寄せられ、苦しいほど抱きしめられた。
「エマ、エマ……はぁ……」
「ましゅ、なんで……」
視界がぼやけてしまう。お互いの吐息が絡み合うほどの距離のそこがもう一度くっついた。何がなにやらわからないまま、彼のなすがまま好きなように沢山唇を奪われていく。
「エマ……、かわいい。好き」
マシューの口から信じられない言葉が紡がれた。
「うそ……」
「嘘? 何でそう思うの? ずっとエマだけしか見てこなかったし抱いていなかったのに」
「だって、兄だって……。わたくしの事は妹扱いしていて……」
「妹にこんな事しない。俺にはずっとエマだけだ」
好きだよ、エマ。君は──?
唇がゆっくりそう動いた。わたくしは涙を流しながら答える。
「わたくしもマシューが好き……。ずっと、好き。好きなの。妹扱いされていたから諦めようって思ってたの……。これは夢?」
「そうだったのか。兄というポジションが一番結婚に早いと耳にしたからそうしてただけだよ。悲しい思いをさせてごめんね。エマ、愛しているよ」
もう一度、ぎゅっと抱きしめらて舌を絡めとられた。息が苦しくて、ぷはっと息継ぎをする。
「エマ、落ち着いて鼻でするんだよ。ほら」
優しく唇を合わせられるとすりすり左右に動かされた。
ふわふわした感覚が体中をかけめぐり、まるで宙を浮いているかのようだ。彼に抱きしめられながら、本当に宙に浮いている事に気付いたのは、横抱きにされて馬車に押し込められた時。
「マシュー……?」
「とろんとしちゃって。かわいすぎて、食べられそうだね」
「食べられちゃうの?」
「うん。誰かに食べられちゃう前に」
──お・れ・が
そう口が動いているのを現実味のない思考で見つめる。
「食べていい?」
何をだろうと思いながら、彼が食べたいならいっぱい食べたらいいと思ってコクリと頷いた。すると、膝の上に抱っこされているから彼の首にしがみ付いているので、ごくりと、彼の咽が鳴ったのがわかった。
だけど、俺を打ち据えると、彼の大切な娘であるエマが悲しむ。だからこうして可愛らしい悪戯レベルの事しかされたことはない。
腕を上げて、彼が投げてきたミルフィーユを受けると、まぶされていた粉砂糖が宙を舞う。べっとりとはりつく甘いそれが袖に生クリームとともにたくさんついた。甘ったるい匂いに眉をしかめる。
そこに、ちょうどエマがやってきた。彼が真っ青になって立ちすくんでいる。
エマが、失礼をした彼をしかりつけて俺のほうにやってきた。今のようにこういう事態を見聞きする前は、俺たちの不穏な雰囲気を察しても、絶対に彼に抱き着いていたというのに。
ちらっと彼を見てみると、俺と視線が合う。とても悔しそうに俺を見ているので内心溜飲がさがるが、未来の義父殿だ。申し訳なさそうにぺこりと頭をさげると、馬鹿ではない彼もまた頭を下げて謝罪の意を示すとその場を去って行った。
目の前で、俺の袖口を涙をいっぱいためて一生懸命綺麗にしようとしている彼女はとてもかわいい。
笑っても、怒っても、寝ていても、あくびをしても、そして、こうやって目に涙を流していてもかわいくて愛らしくて、この世のどんな言葉でも彼女の素晴らしさを余すことなく表す事などできやしない。
俺になつくように、小さな頃から好かれる王道『お兄様』ポジションを守りつつ、彼女に近づく害虫どもを滅多打ちにして近づけなかった。
機会があれば膝の上にのせて来たし、ベッドですやすや眠る彼女をわざと少し起こして一緒に寝てあげるといい何度もその横に滑り込んだ。
お風呂も入りたかったけれども、それは彼女の侍女が許してくれずに悔しい思いをしていたのである。
──ああ、かわいいなあ。
甘ったるい匂いよりも甘い彼女の香りにくらくらする。
「マシュー、お父様がごめんなさい」
「エマ、いいんだ。キリアン様のお気持ちもわかるから。でも、そろそろ認めてもらわないとな」
「何を?」
俺は、まだ涙で膜がはって潤んだ彼女の小さな唇に吸い寄せられるように近づいていった。
※※※※
キス、されていると気づいたのは彼が2度、3度啄むように下唇を彼の唇で軽く食みながら繰り返された後。少し離れた彼の目元が赤い。目を閉じるのも忘れて、彼の真剣な眼差しをぼうっと見つめる。
「エマ……」
目を閉じながら、うっとりした表情の彼がまた落ちて来る。わたくしは、思わず目を閉じてしまい、手に持っていた布巾を落とした。
「ん……、ん……」
唇の境目にぬるっと熱くて大きな何かがなぞるように押し付けられた。息が出来なくなり、口を開けると、すかさずそれが入り込んでしまう。
すがるように彼の服をきゅっと持つと、体を引き寄せられ、苦しいほど抱きしめられた。
「エマ、エマ……はぁ……」
「ましゅ、なんで……」
視界がぼやけてしまう。お互いの吐息が絡み合うほどの距離のそこがもう一度くっついた。何がなにやらわからないまま、彼のなすがまま好きなように沢山唇を奪われていく。
「エマ……、かわいい。好き」
マシューの口から信じられない言葉が紡がれた。
「うそ……」
「嘘? 何でそう思うの? ずっとエマだけしか見てこなかったし抱いていなかったのに」
「だって、兄だって……。わたくしの事は妹扱いしていて……」
「妹にこんな事しない。俺にはずっとエマだけだ」
好きだよ、エマ。君は──?
唇がゆっくりそう動いた。わたくしは涙を流しながら答える。
「わたくしもマシューが好き……。ずっと、好き。好きなの。妹扱いされていたから諦めようって思ってたの……。これは夢?」
「そうだったのか。兄というポジションが一番結婚に早いと耳にしたからそうしてただけだよ。悲しい思いをさせてごめんね。エマ、愛しているよ」
もう一度、ぎゅっと抱きしめらて舌を絡めとられた。息が苦しくて、ぷはっと息継ぎをする。
「エマ、落ち着いて鼻でするんだよ。ほら」
優しく唇を合わせられるとすりすり左右に動かされた。
ふわふわした感覚が体中をかけめぐり、まるで宙を浮いているかのようだ。彼に抱きしめられながら、本当に宙に浮いている事に気付いたのは、横抱きにされて馬車に押し込められた時。
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「とろんとしちゃって。かわいすぎて、食べられそうだね」
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「うん。誰かに食べられちゃう前に」
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