完結 R20 罪人(つみびと)の公爵令嬢と異形の辺境伯~呪われた絶品の契約結婚をお召し上がりくださいませ 改稿版

にじくす まさしよ

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「聞いてられないわね……」

 扇で口元を隠しながら、独り言ちる。王子の馬鹿な言動を止められなかったわたくしは、もう彼らの放つ音も声も聞きたくないと思った。

  彼らの不協和音を閉ざすための防御壁を、自分の身の周りに張る。

  今は口撃だけだが、彼らも高位貴族としてそこそこ魔法が使える。わたくしにとっては、蚊に刺されたほどの威力でしかないが、攻撃魔法をかけられ、埃が舞うなど、たまったものではない。

 嫌でも視界に入る、オリーブがたっぷりぬられたかのごとく、よく滑り動く唇を読んだ。これも視界に入れたくはないが、やられっぱなしでは不利になるばかりだから仕方がない。

「あの……! キャロラインちゃん! わ、わたし、気にしてないからっ! でも、やっぱりこういうのは良くないと思うのっ! だから、ひとこと謝ってくれたら、それだけでわたしは……。だから、ここで罪を認めて、謝罪をしてくださいっ!」

「おお、なんと。あのような悪魔よりも下劣で非道な悪女に対してそのような女神のごとく慈悲深い言葉を……。流石は、私の愛するチェツィーネ。心根は貴賎など関係ないのだな。平民として苦労ばかりして来た彼女と違い、贅沢三昧で育った公爵令嬢である貴様はなんだっ!」

 二人に、まるで舞台装置のようにスポットライトが当たる。

  彼らの背後を見れば、バイオリンを構えて体を揺り動かし、自己陶酔の世界に浸りつつ側近の一人が演奏をしている。

  ちなみに、キャロラインちゃんと呼ばれるほど、彼女とは仲良くもないし、そう呼ぶ事を許していない。

「だがな、キャロライン、謝罪をしたところで罪は罪だ! 牢に入れ明日にでも処罰を行う。私を騙したのだ。これは、王家への不敬罪だけでなく、詐欺罪も加わったのだ。牢で反省して過ごすがいい!」
「そんな……、仮にも公爵の令嬢であるキャロラインちゃんをそんな風にしたら、あなたの名に傷がつきますぅ。それに、キャロラインちゃんがかわいそうで…………私、そんなの耐えられないっ!」
「愛するお前を傷つけたのだ。牢に入れるだけでは生ぬるいほどだぞ?」
「だって……。大好きなヤーくんが、そんな……。キャロラインちゃんのせいで、泥を被っちゃダメです。寛大な心で許してあげてください……。だって、キャロラインちゃんは、王家を裏切ったのだから、もう誰とも結婚すら出来ないんですよ。それって、処刑よりもみじめで恥ずかしい事ですよね? そんなの、可哀想で、私……。グスッ……。そうだ、ヤーくん、どこかキャロラインちゃんが嫁げる所はないの?」

 チャツィーネは、王子に寄り掛かりながら、「お前なんかに嫁げる場所がないだろう」と言わんばかりに、目を輝かせて嬉しそうに話している。

  このまま、手をこまねいて冤罪に嵌められたままになれば、彼女の言う通りになるだろう。

「ふん。あのような女、誰も娶りたがらぬわ。……まてよ、そうだ。あいつがいた!」
「ヤーくん? どうしたの?」
「いや、キャロラインに夫を宛がってやろうと思ってな」
「え? は? キャロラインちゃんが結婚できる人がいるの? だ、誰と?」

 何気に、優しそうでいて容赦なくわたくしを貶める言動のチャツィーネ。
  口を開くのも馬鹿馬鹿しすぎて、しらーっとした表情で見守る。

  この国では結婚できない女性は、死ぬよりも恥ずかしい事とされている。このまま、例えば処刑されるよりも恥辱を味わう事になる。

  だから、彼女も処刑じゃなく、誰にも相手にされない女として永遠に未婚状態にしたいのだろう。だが、王子の言葉によって思惑が外れて狼狽えだしたのがありありとわかり苦笑する。

「ふ、お前も聞いた事があるだろう? 辺境のバケモノのあいつさ」
「……え……」

 ヤーリの言ったその人物はこの国のみならず、周辺諸国までその存在が知られている。

「ははは、あいつも嫁の来てがなくて困っておった。精々、呪われた異形の辺境伯に可愛がってもらうんだなっ! 王家の血脈を宿すヤーリ・トゥ・バジャーナリーが、キャロライン・バヨータージユに命じる。辺境伯キトグラムン・マーシルムの妻となり後継者を残せっ!」

 そう彼が宣言した時、ヤーリの王族だけが使用できる魔法が発動した。

  茶番に呆れ返っていたため、一瞬警戒が緩んでしまったようだ。

  しまった、と思ったがもう遅い。王子である彼の命に従うための従属の契約印がわたくしの首に浮き上がった。

「わあ、一生独身じゃなくなって良かったね、キャロラインちゃん? がんばって、辺境伯の可愛い赤ちゃんを産んでねぇ」

 そう無邪気に言ったチャツィーネの顔が、醜く歪んだ笑みを浮かべた。

  なるほど、彼女は王子を寝取っただけでなく、わたくしをとことん貶めたいらしい。

  彼女との接点は、それほどないはずだ。ここまで憎まれる理由がわからない。変に執着されて困った事態になったと考えた。

 だが、これで彼女は異形の化物の花嫁という、ある意味未婚の女性よりも不幸になったわたくしの状態に満足して、こちらへの興味が失せるかもしれない。

 父たちは国王陛下や王太子殿下とともに、他国との協議のために不在だ。

 今現在、最高権力者である第二王子の言質のみ、取り調べもなにもない、たったそれだけで、わたくしは辺境伯に嫁ぎ子を為せなければ死の世界に誘われる契約印が施され、罪人になったのである。

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