完結 R20 罪人(つみびと)の公爵令嬢と異形の辺境伯~呪われた絶品の契約結婚をお召し上がりくださいませ 改稿版

にじくす まさしよ

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「辺境伯爵様のプライベートにも公務にも一切の不干渉を誓います。ただし、わたくしの行動についても、そちらは同じようにする事。あとの細かな事は、あなたを通してきちんとお互いに魔法での制約を取り交わす。これでいいでしょう?」

 わたくしが言い終えた瞬間、マーシムルが「こちらは自由気ままにさせてもらう」と言った事に腹を立てたようだ。わたくしに抗議しようと口を開けた時、ウールスタが声をあげる。

「いくらお嬢様の悪評がここまで届いているかもしれないからといって、望まぬ婚姻はこちらも同じ。であるにも拘らず、お嬢様は歩み寄ろうとここまで来られたのではありませんか。それなのに、あまりにもあっちの言い分は一方的すぎるのでは?」

 馬車の中でわたくしは、辺境伯に早く会いたかったし、これから彼と仲良くなりたいと散々言っていた。しかしながら、それはわたくしの独りよがりの願望だったに過ぎない。彼女はわたくしのそんな気持ちを踏みにじった彼や、あんな伝言を彼に託した辺境伯を許せないのだろう。

 これから生涯を共にする夫に、誠心誠意仕えようと来たものの、歓迎されていないのだから仕方がない。命の危険さえなければ、このまま距離を置いて暮らすのも悪くないだろう。いざとなれば、実家に帰らせて貰えばそれでいい。
 実家に帰った方が、辺境伯も喜ばれるくらい嫌われているのかと思うと、少し、いやかなり心にダメージを負った。だからというわけではないけれど、物理的に距離を置いて一切関わらずにいる事で、契約だけの夫婦ではるが無関係の他人になれると思ったのである。

 マシユムールは、私が離れでどんな行動をすると思っているのだろうか。ろくでもない悪女としての噂を鵜呑みにしている彼だ。恐らくは、仕事もせずに遊び惚けて贅沢三昧をし、男も引っ張り込むと思っているかもしれない。

 それって、どこのチャツィーネさんなの、と言いたい。彼女こそ、学園では勉強も実技もせずに王子や側近たちと遊んでいたのだ。ヤーリ王子は気付いていなかったようだけれど、彼女は彼の側近ともしていたのだから。

 ウールスタの気持ちが、急下降したわたくしの感情を包んでくれる。わたくしはひとりではない。彼女の行動を嗜めて止めたとはいえ、じぃんと感動で胸が熱くなった。

 すると、トーンカッソスが、マーシムルが勝ち誇った顔をしたのが相当気に入らないのか口を開いた。先ほどわたくしが、指一本動かしたら処罰だと言ったから、口なら動かしていいとでも思っているに違いない。ナンデヤネーンと、都市伝説異世界転生者が考案したとされるMANZAIのツッコミを入れたくなる。

「ウールスタさんの言う通りだと思います。直接話もせず、そこのマッシュルームとだけやり取りするなんて。そんな事、お嬢様を追い出そうとした彼が、嘘を伝えるかもしれないじゃないですか。それに、お嬢様の身の上の安全が心配です。俺は、反対ですね」
「まあ、トーンカッソス。この執事の名前はマシユムールと言うのよ? それに、嘘を言えばすぐにわかり本人に全て倍になって還って来るものなのだから、そんな愚かな事は流石にしないでしょう」

 マシユムールは、名前をわざと間違えて挑発したトーンカッソスを睨みつける。トーンカッソスは、馬車を引いてわたくしたちを連れてきたから、御者だと思われているのだろう。たかが御者に、あのように言われる筋合いはないと、怒り心頭のようだ。

「全くもう、あなたたちときたら……。はあ、重ね重ね、うちの者が失礼したわね。でも、よろしいですか? 先に、こちらを侮辱したのはそちらです。トーンカッソスがうっかり名前を間違えたくらいで、そのように目を吊り上げるだなんて……。酷いですわ?」

 部屋の雰囲気が若干和らいだ。彼らを狙っていた燭台などを元の位置に戻す。
 そして、大きな目をうるるんとさせて、可憐な乙女風にマシユムールに言ってみた。すると、彼はすっかり気がそがれたのか、わたくしには到底敵わないと思ったのか、恭しく頭を下げる。彼の心中は、わたくしに対する侮りと怒り、恐れが芽生えているのか、もうあのような失礼な言葉遣いは一切ない。本来の仕事中の彼の姿は、今の洗練された対応なのかもしれない。

「はぁ、こちらこそ遠路はるばるお越しくださったに対して失礼いたしました。ご令嬢が先ほど仰られた内容については、即答出来かねます。主に報告して参りますので、もう少々お待ちください」

 とにもかくにも、マーシムルは表面上だけ取り繕ったエアロゲルよりも軽すぎる謝罪をし退室した。

 ウールスタたちが、彼がいない扉に向かって「夜道を歩く時には背後に気をつけな」とはしたなく中指を立ててすごんでいる気がする。気のせいだと信じたい。初日なのだから、今日は穏便にすませたい。「では、初日じゃなかったらいいんでしょ?」と嬉々としてマーシムルを闇討ちに行きたがるふたりの姿が目に浮かんだ。

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