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「キャロル……。僕も、いや、僕のほうが好きだ。初めて、君の絵姿を貰った時から、かわいいって思っていた」
「ん……ほんと……?」
「嘘は、言わない。キャロル、好きだよ」
弾力のある縦に筋の入った唇が、わたくしのそれを食べ尽くしてしまいそうなほど激しくぶつけられる。わたくしは、息が出来ないほど苦しいのに、もっともっとと強請るように啄んだ。
彼の腕は、わたくしを押しつぶさないように体を浮かせて、挟むように肘をついて左右に置かれている。右手は、わたくしの顔の上半分、両眼をしっかり隠すように当てられており、目を開けて彼の顔を見たいのにできなかった。
「はぁ……。いきなり、ごめん。ずっとこうして抱きしめたかったし、触れたいのを我慢していたから。君が、僕に厚意を示してくれていたのはわかった。だけど、男女のそれではなかったって思っていたんだ」
「厚意、じゃな……」
「時々、そうかなって思いもした。だけど、こんな僕が女性に好かれるはずがないから、うぬぼれていただけだといいきかせていたんだ」
言葉の合間に、互いの唇が触れ合う。吐息が熱くて頭がくらくらした。初めてのキスは、強いお酒の仄かな味と香りがして、キスとアルコールで酔いしれそう。
「とーら、手……」
「手はどけられない。まだ、顔を見られる勇気が持てないんだ。ダメかい?」
「ざんね……ど、ダメ、じゃ……です」
「ありがとう」
「手……、つなぎ……」
「キャロル、なんてかわいい事を言うんだ。でも、参ったな……」
腕を動かせないわたくしと手を繋ごうとすると、彼の大きな体がどっしりと乗っかって来る。そうなると、ベッドのスプリングがあるとはいえ、物理的に押しつぶされる。
それに、右手はわたくしの顔の上。結局、彼がかなり体をずらして、わたくしの右手と彼の左手が絡み合った。
「……キャロル、これだと、手で君に触れられないね」
「ふ、ふふ、あ……ひゃぁ」
手で触れられないからと、彼が耳のすぐ下の首を軽く食んだ。痛くもなんともないそれは、首がすぼまるほどくすぐったくい。
笑うわたくしを見て、彼も楽しそうに、小さく笑い声をあげた。
”楽しい”を共有しあうように笑いあったことで、すっかり、色づいた雰囲気が吹き飛んだ。
ゆっくり、わたくしの体を横に向かせると、彼が背後から抱え込むように寝そべる。
やっと顔から彼の手が離れ、腕枕をしてくれた。
すぐ後ろにいる彼の顔を、今なら見れそうだ。けれど、彼が望まないのなら強引に見ようとは思わなかった。
(いつか、彼の方から、わたくしにそのありのままの姿を見せてくれる日が来るまで待とう……)
「ああ、夢みたいだ。こんなにも可愛くて愛しい女性が、僕の妻になってくれるなんて。僕はね、君が噂のような人でもいいと思っていたんだ。だって、王都や公爵領で過ごさず、わざわざ、こんな辺鄙で不便な閉ざされた田舎に来てくれたのだから」
「トーラに、会いた……、来……」
「僕も会いたかった。でも、嫌われたらと思うと怖くてね……。僕が君に会わずにいたせいで、小さい離れなんかに閉じ込めてしまった。一生、謝っても許されないと思ってる。でも、君って人は、小さな離れでも楽しそうにしていて、あっという間に、誤解したまま反感を持つ人々を魅了した。キャロルは、本当に素晴らしい人だね」
「そん……なこ……、ただ、ばーべ、キューを」
「他の女性だったら、離れそのものに文句をいい、使用人たちと一緒に料理を楽しむ事なんてなかったはずだよ。逆境すら前に進むためのステップにした君だからこそ、皆が受け入れて慕うようになったんだ。それにね、頭がかたいマシユムールが考えを改めて王都に行き再調査を申し出たんだのも、君のそんな姿を見たからだよ」
「え? 彼は、罰で……」
人の信用や好意は、たとえトーラが命令したとしても得る事が出来ない。前評判の悪いわたくしなら尚更。
多少計算ずくで、昼食会を開き、一緒の窯の飯を食うという経験が思いの外、効果があったようだった。
それにしても、決別の宣言をしてからの、あのマシユムールの心の変化まであったとは、正直びっくりだ。てっきり、責任を取る形で王都に行かされたとばかり思っていた。
「いや、自ら再調査をするために王都に行きたいと志願したんだ。僕としては、マシユムールがいなければ不便な事が多いから、他人に任せようと思っていたんだけれど決意も固くてね。表向きには、君を不当に傷つけた罰として王都に行ったんだ。マシユムールが直接行く事で、事前の君の調査は、王子と側近に買収された調査員による虚偽の報告だった事がわかったんだよ」
「……」
「マシユムールがね、改めて謝罪したいそうだよ。キャロルが落ち着いて気が向いたらでいい。いつか、彼と会ってやってくれないかい?」
「はい」
太い腕が、わたくしの頭を乗せている。重くないのかと聞けば、軽すぎるくらいだと言われ、上から体に回された右腕で、くいっと体を引っ張られた。
ぴたっと引っ付いているのに、めり込みそうなくらいぎゅうぎゅう抱きしめられ、何度も頭にキスをされる。
「実はね、バヨータージユ公爵が、君の母君が来ていたドレスをリメイクして持って来てくれているんだ。それを着た君の花嫁姿を見たいらしい」
「おか、さま……の?」
「うん。僕が人前に出る事が出来ないし、たくさん誤解があったから、式を挙げなかっただろう? だから、義父上と義兄上は、僕の事情を理解をしてくれていても、式も挙げさせてやれなかったと、とても後悔されていてね……。それに、フレースヴェルグを封印した事は誇りに思ってくださっているが、こんな事になって、危険な場所に嫁いだ君を止めなかった事でご自身を責めておられるんだ。深酒のせいで、僕には黙っているおつもりだったのが、口を滑らせたようだ。義父上たちの気持ちもわかる。だけど、僕は、君を離したくはない……。ずっと、ここに、僕の側にいて欲しいんだ。僕ばかり自分勝手な事を言ってごめん……」
父と兄にかなり心配かけたようだ。今回の事がなくても、遠くに嫁いだわたくしを、ずっと気にかけていてくれたのだろう。
わたくしを慈しんで育ててくれたふたりには、これからも気苦労をかける。
わたくしはの気持ちは彼と一緒だから、ふたりの元には帰る事はないだろう。
「そばに、います」
「キャロル……、ありがとう。おやすみ」
「おやすみ、……い」
彼が、体全体を背後から守るように包み込んでくれる。わたくしは、世界一安心できる腕の中、幸せな夢の中に向かうのだった。
「ん……ほんと……?」
「嘘は、言わない。キャロル、好きだよ」
弾力のある縦に筋の入った唇が、わたくしのそれを食べ尽くしてしまいそうなほど激しくぶつけられる。わたくしは、息が出来ないほど苦しいのに、もっともっとと強請るように啄んだ。
彼の腕は、わたくしを押しつぶさないように体を浮かせて、挟むように肘をついて左右に置かれている。右手は、わたくしの顔の上半分、両眼をしっかり隠すように当てられており、目を開けて彼の顔を見たいのにできなかった。
「はぁ……。いきなり、ごめん。ずっとこうして抱きしめたかったし、触れたいのを我慢していたから。君が、僕に厚意を示してくれていたのはわかった。だけど、男女のそれではなかったって思っていたんだ」
「厚意、じゃな……」
「時々、そうかなって思いもした。だけど、こんな僕が女性に好かれるはずがないから、うぬぼれていただけだといいきかせていたんだ」
言葉の合間に、互いの唇が触れ合う。吐息が熱くて頭がくらくらした。初めてのキスは、強いお酒の仄かな味と香りがして、キスとアルコールで酔いしれそう。
「とーら、手……」
「手はどけられない。まだ、顔を見られる勇気が持てないんだ。ダメかい?」
「ざんね……ど、ダメ、じゃ……です」
「ありがとう」
「手……、つなぎ……」
「キャロル、なんてかわいい事を言うんだ。でも、参ったな……」
腕を動かせないわたくしと手を繋ごうとすると、彼の大きな体がどっしりと乗っかって来る。そうなると、ベッドのスプリングがあるとはいえ、物理的に押しつぶされる。
それに、右手はわたくしの顔の上。結局、彼がかなり体をずらして、わたくしの右手と彼の左手が絡み合った。
「……キャロル、これだと、手で君に触れられないね」
「ふ、ふふ、あ……ひゃぁ」
手で触れられないからと、彼が耳のすぐ下の首を軽く食んだ。痛くもなんともないそれは、首がすぼまるほどくすぐったくい。
笑うわたくしを見て、彼も楽しそうに、小さく笑い声をあげた。
”楽しい”を共有しあうように笑いあったことで、すっかり、色づいた雰囲気が吹き飛んだ。
ゆっくり、わたくしの体を横に向かせると、彼が背後から抱え込むように寝そべる。
やっと顔から彼の手が離れ、腕枕をしてくれた。
すぐ後ろにいる彼の顔を、今なら見れそうだ。けれど、彼が望まないのなら強引に見ようとは思わなかった。
(いつか、彼の方から、わたくしにそのありのままの姿を見せてくれる日が来るまで待とう……)
「ああ、夢みたいだ。こんなにも可愛くて愛しい女性が、僕の妻になってくれるなんて。僕はね、君が噂のような人でもいいと思っていたんだ。だって、王都や公爵領で過ごさず、わざわざ、こんな辺鄙で不便な閉ざされた田舎に来てくれたのだから」
「トーラに、会いた……、来……」
「僕も会いたかった。でも、嫌われたらと思うと怖くてね……。僕が君に会わずにいたせいで、小さい離れなんかに閉じ込めてしまった。一生、謝っても許されないと思ってる。でも、君って人は、小さな離れでも楽しそうにしていて、あっという間に、誤解したまま反感を持つ人々を魅了した。キャロルは、本当に素晴らしい人だね」
「そん……なこ……、ただ、ばーべ、キューを」
「他の女性だったら、離れそのものに文句をいい、使用人たちと一緒に料理を楽しむ事なんてなかったはずだよ。逆境すら前に進むためのステップにした君だからこそ、皆が受け入れて慕うようになったんだ。それにね、頭がかたいマシユムールが考えを改めて王都に行き再調査を申し出たんだのも、君のそんな姿を見たからだよ」
「え? 彼は、罰で……」
人の信用や好意は、たとえトーラが命令したとしても得る事が出来ない。前評判の悪いわたくしなら尚更。
多少計算ずくで、昼食会を開き、一緒の窯の飯を食うという経験が思いの外、効果があったようだった。
それにしても、決別の宣言をしてからの、あのマシユムールの心の変化まであったとは、正直びっくりだ。てっきり、責任を取る形で王都に行かされたとばかり思っていた。
「いや、自ら再調査をするために王都に行きたいと志願したんだ。僕としては、マシユムールがいなければ不便な事が多いから、他人に任せようと思っていたんだけれど決意も固くてね。表向きには、君を不当に傷つけた罰として王都に行ったんだ。マシユムールが直接行く事で、事前の君の調査は、王子と側近に買収された調査員による虚偽の報告だった事がわかったんだよ」
「……」
「マシユムールがね、改めて謝罪したいそうだよ。キャロルが落ち着いて気が向いたらでいい。いつか、彼と会ってやってくれないかい?」
「はい」
太い腕が、わたくしの頭を乗せている。重くないのかと聞けば、軽すぎるくらいだと言われ、上から体に回された右腕で、くいっと体を引っ張られた。
ぴたっと引っ付いているのに、めり込みそうなくらいぎゅうぎゅう抱きしめられ、何度も頭にキスをされる。
「実はね、バヨータージユ公爵が、君の母君が来ていたドレスをリメイクして持って来てくれているんだ。それを着た君の花嫁姿を見たいらしい」
「おか、さま……の?」
「うん。僕が人前に出る事が出来ないし、たくさん誤解があったから、式を挙げなかっただろう? だから、義父上と義兄上は、僕の事情を理解をしてくれていても、式も挙げさせてやれなかったと、とても後悔されていてね……。それに、フレースヴェルグを封印した事は誇りに思ってくださっているが、こんな事になって、危険な場所に嫁いだ君を止めなかった事でご自身を責めておられるんだ。深酒のせいで、僕には黙っているおつもりだったのが、口を滑らせたようだ。義父上たちの気持ちもわかる。だけど、僕は、君を離したくはない……。ずっと、ここに、僕の側にいて欲しいんだ。僕ばかり自分勝手な事を言ってごめん……」
父と兄にかなり心配かけたようだ。今回の事がなくても、遠くに嫁いだわたくしを、ずっと気にかけていてくれたのだろう。
わたくしを慈しんで育ててくれたふたりには、これからも気苦労をかける。
わたくしはの気持ちは彼と一緒だから、ふたりの元には帰る事はないだろう。
「そばに、います」
「キャロル……、ありがとう。おやすみ」
「おやすみ、……い」
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