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イエスorはいor喜んで~!?

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 もともと寂しがり屋で、ひとりぼっちは嫌だ。

  いつだって、誰かと一緒にいて撫でてもらいたいし抱っこしてもふもふしてもらわないとストレスでハゲたり胃に潰瘍が出来ちゃう。

  これは、ウォンバット獣人の基本的な気質だが、わたくしはそれが特に酷い。情けないけど、こればかりは頑張ろうにも本能みたいなものだから、人とふれあえないと寂しくて仕方がなくなるのだ。

 そんなわたくしを放っておけないゴリラ獣人のファーンは、恋人がいるのに家から遠い学園に来てくれた。
  といっても、恋人のファーンを追いかけてオランウータン獣人であるユエスビ君は、食堂のアルバイトとして学園に入って来たのだけど。
  彼はスキップ入学できるくらい頭がいい。けれど、学園には有名なコックさんが揃っているから、一流の料理人を目指している彼はこれ幸いと修業しに入り込んだのだ。

 いつもは、寮でホームシックになったり、悲しい気持になると、ファーンが撫でてよしよしもふもふなでなでしてくれたり、ユエスビ君がおやつを作って持ってきてくれる。だけど、ずっと一緒というわけにはいかない。

 なぜなら、ファーンは特待生だから、王子様たちと同じトップクラスの在籍なのだ。わたくしは、残念ながら二番目のクラス。

 授業が始まると、ファーンとは離れ離れだし、ユエスビ君とデートの時は流石に邪魔できない。

  ある日、どうしようもなく、家が恋しくなって悲しくて寂しくて困っていた。

  すると、ひとつ年上だけど、ちょうど同じ時期に入学してクラスに編入された隣国のシピユ様が、ひょんなことからもふもふなでなでしてくれるようになった。ちょっと畏れ多いながらも親友と言ってくれている。

 シピユ様は、隣国の公爵令嬢という高貴なお方だ。美人で一見近寄りがたいのに、本当はとっても気さくでかわいい。抱っこされていると、とても気持ちのよい香りに包まれて安心する。大好き。

 ナマケモノ獣人のシピユ様は、本当は何もしたくないみたい。だから、学力テストで一位を取れるほどの才媛なのに手を抜いている。
  さぼりすぎると帰国させられるため、いやいや勉強などをしているそうだ。そんな彼女は、頑張りすぎてストレスがたまると、なでなでして癒されたいと言ってわたくしを思う存分撫でてくれる。

  まさにwinーwinな関係。

 どうして、今現在、侯爵家の応接室にシピユ様がいないのだろう。いないのが当たり前なんだけど、彼女がいたら、とても心強いのに。今すぐお膝に乗りたいしなでなでして貰いたい。

 ファーンやシピユ様の事を思い出しているうちに悲しくなってきた。

 ゆったりソファに座りながら、にこやかに勧められる食べた事のない高級なお菓子を口に含む。緊張しすぎて味がしない。お茶を飲みたいけど、トイレに途中で行くなんて無理だから、唾液もほとんど出ない口の中でもしゃもしゃ食べていた。
 これは、ティムタムというチョコレート菓子というものらしい。今食べているのは中にキャラメルとサクっとした食感があるから、ウエハースかビスケットが入っている気がする。よくわからないけど、たぶんそうだと思う。

 超ビッグな歓迎ムードの中、やっぱり見知らぬ人たちに囲まれて心細くて怖くってたまらない。

  これで、もしも『お前が大切な息子の石を隠し持っていたのか! 許せん。お前のせいで息子は死にかかったんだぞ。一家そろって覚悟せよ!』と、彼らが怒っていたりしたら、はしたないけれどギャン泣きしてチビってしまう自信しかない。そんな事になったら、きっとわたくしは恥ずかしくて生きていけないどころか牢屋行きだ。両親だってただではすまないだろう。


「ねぇ、あなた。フレイムがうわごとで言っていた女の子はきっとこの子ですわ。家柄はなんとでもなりますし、派閥も合いますでしょう? リフレーシュちゃんの家に、うちの嫁になっていただけるように打診してみてはどうかしら?」

「あー……、だがあいつに黙って勝手にそんな事をしたら……。いや、自分でなんとかすると言いながら、いつまで経っても、うちに連れてこなかったからな。……そのほうがいいのかもしれない」

 なにやら夫妻が真剣に話をしているようだ。この隙に、そ、そろそろ帰っていいだろうか? 

 帰るタイミングが本当にわからない。どうすればマナー違反にならないのか。シピユ様、お父様、お母様、わたくしはこのままここでソファに埋もれて同化してしまうかもしれない……。


「ところで、リフレーシュ嬢は、それでいいのだろうか?」

「は……ひゃ、……い? は、はは、はい!」

「まぁ! あなた、聞きました? ふふふ、そうと決まれば早速。なんだかんだいったって、フレイムもとっても喜ぶわ! ああ、これで我が家も安泰ね」


 帰る事しか頭にないわたくしは、侯爵夫妻の言葉に生返事をしていた。そうしたらいつの間にかとっても気に入られて、なんとフレイム様と婚約する運びになりかけていたらしい。
 目がポーンってどこかに飛んで行ってしまうほどの衝撃だ。

 大好きな人と婚約できるだなんて夢のようで、嬉しい。あまりにも身分違いだし、畏れ多いから断ったほうがいいのかも。でも、今更この状況で断れる?

  学園の女の子たちのほとんどは、手の届かないアイドル的存在の世界で最強を誇る我が国のハムスター獣人の第八王子であらせられるレイトー殿下のことをうっとり見つめる。出来れば、シンデレラストーリーのように片想いを実らせる夢を見ながら。でも、そんなのは夢のまた夢。
 わたくしの好きな人は、レイトー殿下と一緒にいる事が多いから、彼女たちに混ざって、王子様を見るふりをして遠くからフレイム様を見つめていた。

 大きなあの手で、もう一度撫でて欲しいなぁなんて大それた考えもむなしく、アレ以来、彼の視界の角にも入っていないと思う。それで当たり前だったはずなのに。視界に入るどころか、色々すっとばして婚約者だなんて。

 嬉しいよりも、どうしてこうなったのかというパニックでわたくしの心はおかしくなった。

 呆然としたまま、豪華な応接室で意識も魂もどこかに行っていたわたくし。いつの間にか豪華な手土産を持たされて寮に帰っていたみたい。気が付くとファーンになでなでして貰っていた。

 そういえば、フレイム様には寝込んでいるからと言われて、生憎会っていない。

 そうだ、お父様とお母様ならなんとかお断りしてくださるかも!

 そんな風に考えていたら、なんだかなー。そりゃそうか。流石、わたくしの両親。わたくしと同じウォンバット獣人のお父様も元平民のお母様も、侯爵家からの打診を断れるわけがなく。

 わたくしは、晴れて(?)、複雑な想いを抱えつつも侯爵家後継者のフレイム様の婚約者になったのであった。


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