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7 やぶ蚊に刺されたあとは残る
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あれから、私はボウウ様に、とても大事にされた。彼とのハッピーエンドを迎えたヒロインのように、甘く熱い視線で声を掛けられ、手を差し伸べられ、どこのシンデレラストーリーだといいたいほど。
幸い、彼の奇行は周囲には聞こえなかったみたいで、お姫様だっこで彼らの前を歩いたものだから、どこからともなく拍手まで聞こえてきた。
彼の友達連中なんか、ぴゅーぴゅー指笛を鳴らして、結婚式に呼んでくれよーなんて叫ぶ始末。
ナニコレ。なんのバツゲームなの?
私は、前世で一時流行したサプライズの、いきなり踊ったりして、最後は皆の前でプロポーズするとかいうフラッシュモブが理解できなかったタイプだ。
たしかに、当事者の私以外が見るその姿だけなら、ほうっとため息を吐くほど素敵だ。しかし、設定のほかに、ストーカーみたいなことをされていたなんて知った今、素直に彼の好意を受け入れがたい。
伯爵家のタウンハウスに戻ると、その場にいた両親が飛び上がるほどびっくりしていた。
なんせ、これまでおじさまやおじいちゃまたち以外の男性のだの字もなかった私が、いきなり超イケメンで、今をときめく第三王子殿下と聖女さまの最側近である騎士が、私を横抱きにして帰ってきたのだから。
彼の素性を知ると、なんともまあ、据え膳上げ膳というか、両親やメイドの子たちまでウキウキしていた。
彼らと別れてうちにいる医療魔法の先生の足の治療が終わった。
「お嬢様、ご婚約者がお待ちでございますよ」
「いや、まだ婚約したわけじゃ……」
「ふふふ、正式にはまだでございましたね。でも秒読み段階ですわねぇ。うちのお嬢様に、あんな素敵な方が……出会いなど、あとで教えてくださいませね!」
皆の期待に満ち満ちた笑顔を背中に、彼と両親がいる応接室に入ると、まるで親子のように話が弾んでいた。
「キヨク、大丈夫か? 治療は無事に終わったのか?」
私の姿を見るやいなや、彼は両親に頭を下げてよってきた。そして、そっと手を取られ、先程彼が座っていたソファの隣に、ナチュラルに座らせられる。
「はい。あっという間に治りました。たいした傷ではないので、ご心配なさらず」
「いや、やぶ蚊を舐めてはいけない。あれに刺されて悪化すれば、足が腫れ上がって一生痕が残るんだ。義父上、義母上、大事な娘さんを傷物にしてしまいました。誠に申し訳ございません。もともと求婚した身ではありますが、責任は果たす所存です」
ともすれば、治療後の踝の上や腕の刺された場所を確認しそうなほど、彼は心底心配していた。
しかし、「傷物」って。
たしかに傷だけど、そんな言い方だと、あらぬ誤解を招いちゃうじゃない。
「まあ、キヨクったら。いつの間にこんな素敵な恋人がいたの。水臭いわねぇ。私は、てっきりイヨウくんと良い仲だと思っていたのに、彼はあなたが言ってたように、本当にお友達だったわけね。ふふふ、そのうちお相手を見つけてあげないとって思っていたんだけど、心配なさそうねえ」
「はっはっはっ。相手がボウウ君なら、我々も安心だ。すぐに各方面に手配しよう」
あー……。やられた。
唯一残された希望の光が潰えた。外堀はとっくに埋められていて、しかも表面には、鉄筋を入れた分厚いコンクリートがはられてしまっている。
やぶ蚊の治療は、魔法で完治するけれど、早ければ早いほうが良い。前世で、会社の雑草取りをした時にできたやぶ蚊の刺された痕は、2年経っても消えていなかったから。
だから、私も先に治療しようと彼らを三人にしたわけだが、まさか、20分足らずの時間で、完全に婿扱いになっているだなんて、誰が思うだろうか。
「うちの両親には、キヨクに求婚することは、もう許可は得ているんです。受け入れてもらえるとは、思っていませんでしたが。あ、婿入りの件は、先程キヨクから聞いたばかりだったので、まだ話していませんが、5男の俺の資産や男爵位など、全てこちらにお任せすると言っても反対はないかと。両親としても、どこかに婿入りをと最初は考えていましたし。なので、いつでもこの家に入って、女伯爵となるキヨクを支えていく所存です」
ただ、学生をやっと卒業したばかりで、これから騎士として本格的に働くから、少しは職場での地位をもう少し固めたいって、至極真っ当な、超真面目な物件の彼の言葉に、両親は満面の笑みでうんうん頷いている。
「あの、お母さま、さっき婿を探すとかなんとか言っていたけれど、そういう予定の方がおられたんですか?」
「そこそこの男性を何人かピックアップしていただけよ。打診はまだだから、安心なさい」
「イヨウくんとどうこうっていうのは?」
「やだ、学園に行く前に、あなたが、彼を友達としか見ていないって言ったじゃない。あの時に、実はあなたと彼をって先方と話もでていたのよ? でも、あなたの気持ちが友達なら、もう少し様子を見て、ふたりが恋人になったらその時に結婚させようってことになったのよね」
「彼も、婿候補の筆頭だったからなあ。イヨウくんの気持ちはわからないが、うちの今の娘の気持ちが一番だから、過去の話は自然と消える」
「今の私の気持ち……」
私の今の気持ちは、No一択。実は、返事はまだしていないし、いきなりのことで戸惑っていて、
今は、イヨウくんのほうがきになります!
って言ってみようかしら。巻き込んじゃうイヨウくんがびっくりするかもだけど、そう言っても大丈夫だと思う。イヨウくんには、事情を説明すれば、しばらく恋人のふりとかしてくれそう。
両親だって、ボウウ様自身だって、彼の先走った感情による誤解だとわかり、この話だって、まだ先方と話しを詰めていないから撤回できる。
というか、撤回するのなら、今しかない。
私は、ボウウ様に取られた自分の腕と、彼の大きな手に向けていた視線を、両親に移動させた。
「あの、」
「キヨク、イヨウとは誰だ?」
私がその話をしようとしたタイミングで、とても低い声で、見なくても怒っているのがわかる彼の質問が投げかけられたのだった。
幸い、彼の奇行は周囲には聞こえなかったみたいで、お姫様だっこで彼らの前を歩いたものだから、どこからともなく拍手まで聞こえてきた。
彼の友達連中なんか、ぴゅーぴゅー指笛を鳴らして、結婚式に呼んでくれよーなんて叫ぶ始末。
ナニコレ。なんのバツゲームなの?
私は、前世で一時流行したサプライズの、いきなり踊ったりして、最後は皆の前でプロポーズするとかいうフラッシュモブが理解できなかったタイプだ。
たしかに、当事者の私以外が見るその姿だけなら、ほうっとため息を吐くほど素敵だ。しかし、設定のほかに、ストーカーみたいなことをされていたなんて知った今、素直に彼の好意を受け入れがたい。
伯爵家のタウンハウスに戻ると、その場にいた両親が飛び上がるほどびっくりしていた。
なんせ、これまでおじさまやおじいちゃまたち以外の男性のだの字もなかった私が、いきなり超イケメンで、今をときめく第三王子殿下と聖女さまの最側近である騎士が、私を横抱きにして帰ってきたのだから。
彼の素性を知ると、なんともまあ、据え膳上げ膳というか、両親やメイドの子たちまでウキウキしていた。
彼らと別れてうちにいる医療魔法の先生の足の治療が終わった。
「お嬢様、ご婚約者がお待ちでございますよ」
「いや、まだ婚約したわけじゃ……」
「ふふふ、正式にはまだでございましたね。でも秒読み段階ですわねぇ。うちのお嬢様に、あんな素敵な方が……出会いなど、あとで教えてくださいませね!」
皆の期待に満ち満ちた笑顔を背中に、彼と両親がいる応接室に入ると、まるで親子のように話が弾んでいた。
「キヨク、大丈夫か? 治療は無事に終わったのか?」
私の姿を見るやいなや、彼は両親に頭を下げてよってきた。そして、そっと手を取られ、先程彼が座っていたソファの隣に、ナチュラルに座らせられる。
「はい。あっという間に治りました。たいした傷ではないので、ご心配なさらず」
「いや、やぶ蚊を舐めてはいけない。あれに刺されて悪化すれば、足が腫れ上がって一生痕が残るんだ。義父上、義母上、大事な娘さんを傷物にしてしまいました。誠に申し訳ございません。もともと求婚した身ではありますが、責任は果たす所存です」
ともすれば、治療後の踝の上や腕の刺された場所を確認しそうなほど、彼は心底心配していた。
しかし、「傷物」って。
たしかに傷だけど、そんな言い方だと、あらぬ誤解を招いちゃうじゃない。
「まあ、キヨクったら。いつの間にこんな素敵な恋人がいたの。水臭いわねぇ。私は、てっきりイヨウくんと良い仲だと思っていたのに、彼はあなたが言ってたように、本当にお友達だったわけね。ふふふ、そのうちお相手を見つけてあげないとって思っていたんだけど、心配なさそうねえ」
「はっはっはっ。相手がボウウ君なら、我々も安心だ。すぐに各方面に手配しよう」
あー……。やられた。
唯一残された希望の光が潰えた。外堀はとっくに埋められていて、しかも表面には、鉄筋を入れた分厚いコンクリートがはられてしまっている。
やぶ蚊の治療は、魔法で完治するけれど、早ければ早いほうが良い。前世で、会社の雑草取りをした時にできたやぶ蚊の刺された痕は、2年経っても消えていなかったから。
だから、私も先に治療しようと彼らを三人にしたわけだが、まさか、20分足らずの時間で、完全に婿扱いになっているだなんて、誰が思うだろうか。
「うちの両親には、キヨクに求婚することは、もう許可は得ているんです。受け入れてもらえるとは、思っていませんでしたが。あ、婿入りの件は、先程キヨクから聞いたばかりだったので、まだ話していませんが、5男の俺の資産や男爵位など、全てこちらにお任せすると言っても反対はないかと。両親としても、どこかに婿入りをと最初は考えていましたし。なので、いつでもこの家に入って、女伯爵となるキヨクを支えていく所存です」
ただ、学生をやっと卒業したばかりで、これから騎士として本格的に働くから、少しは職場での地位をもう少し固めたいって、至極真っ当な、超真面目な物件の彼の言葉に、両親は満面の笑みでうんうん頷いている。
「あの、お母さま、さっき婿を探すとかなんとか言っていたけれど、そういう予定の方がおられたんですか?」
「そこそこの男性を何人かピックアップしていただけよ。打診はまだだから、安心なさい」
「イヨウくんとどうこうっていうのは?」
「やだ、学園に行く前に、あなたが、彼を友達としか見ていないって言ったじゃない。あの時に、実はあなたと彼をって先方と話もでていたのよ? でも、あなたの気持ちが友達なら、もう少し様子を見て、ふたりが恋人になったらその時に結婚させようってことになったのよね」
「彼も、婿候補の筆頭だったからなあ。イヨウくんの気持ちはわからないが、うちの今の娘の気持ちが一番だから、過去の話は自然と消える」
「今の私の気持ち……」
私の今の気持ちは、No一択。実は、返事はまだしていないし、いきなりのことで戸惑っていて、
今は、イヨウくんのほうがきになります!
って言ってみようかしら。巻き込んじゃうイヨウくんがびっくりするかもだけど、そう言っても大丈夫だと思う。イヨウくんには、事情を説明すれば、しばらく恋人のふりとかしてくれそう。
両親だって、ボウウ様自身だって、彼の先走った感情による誤解だとわかり、この話だって、まだ先方と話しを詰めていないから撤回できる。
というか、撤回するのなら、今しかない。
私は、ボウウ様に取られた自分の腕と、彼の大きな手に向けていた視線を、両親に移動させた。
「あの、」
「キヨク、イヨウとは誰だ?」
私がその話をしようとしたタイミングで、とても低い声で、見なくても怒っているのがわかる彼の質問が投げかけられたのだった。
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